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中国山東省で「低速EV」産業のダイナミズムを見てきた 激安 自家発電
2012/9/5 7:00
日本経済新聞 電子版
(1)多種多様、(2)低価格、(3)強気で楽観的――。中国の山東省で勃興しつつある低速電気自動車(低速EV)産業の特徴を3つの言葉で表現しろと言われればこうなる。
同省の省都・済南市で、低速EVの展示と即売に特化したイベント「中国(済南)国際新エネルギー自動車、電気自動車および部品展覧会」が2012年8月18日から3日間にわたって開催された。これを機に筆者は現地に赴き、低速EVの技術や市場動向について調査してきた。ごく一部ではあるが、そのエッセンスをご紹介したい。
■低速EVが「よりどりみどり」
低速EV産業の特徴の第1点である驚くほどの多様性は、イベントの会場に足を踏み入れた途端にすぐに理解できる。車種として乗用車や業務用車両が実に多彩な仕様で造られているのはもちろん、車両の構造(大きさや用途、車室の有無など)、素材や部品の選択といった点でも極めて幅が広い。
このようにバラエティーに富む低速EVを多少強引にでも分類するならば、一般的な自動車に近いタイプ(最高時速50km程度)と、同30〜40kmの簡易タイプの2つということになろう。
前者の一般的な自動車に近いタイプにおいては、車輪が4個で定員4人の大きさを備え、鋼製の車体にリチウム(Li)イオン電池を搭載した製品の登場が目立った。中国の低速EVが用いている電池の主流は、まだ鉛蓄電池である。安価で流通量も多いからだ。Liイオン電池を搭載する例はまだ珍しいが、電池のサイクル性能が1桁上のLiイオン電池の採用によって商品価値を高めて、競合製品と差異化を図ることが可能になる。今回のイベントでも、時風集団や宝雅集団などの大手企業を中心にLiイオン電池の搭載車を展示した企業が少なくとも数社は見られた(図1)。
図1 山東久力電子科技が展示したLiイオン電池搭載EV。ベース車両はBYD社製 (撮影:テクノアソシエーツ)
電池だけでなく、ガソリンエンジンと発電機を搭載し、航続距離を延長可能な「レンジエクステンダー型」の低速EVも登場した。例えば済南順航車業は、発電機を低速EVのオプションとして販売している(図2、図3)。低速EV本体の車両価格は2万元(日本円換算で約25万円)、発電機は1200元(同約1万5000円)である。同社代表の李振亮氏は、同社顧客の90%が発電機付きの低速EVを購入すると胸を張る。
図2 済南順航車業の低速EV (撮影:テクノアソシエーツ)
図3 済南順航車業の低速EVではオプションで発電機を選択可能。だいだい色の鉛蓄電池の左側にあるキャップの付いた部分がガソリンを燃料とする発電機 (撮影:テクノアソシエーツ)
日本の大手自動車メーカーのハイブリッド車から見れば技術的には簡便だし、発電して走行する際のエネルギー効率もそれほど高くないだろう。それでも、レンジエクステンダーは低速EVの実用性を低価格で格段に向上させることができる。その意味では、既に顧客の信任を得た優れた手段といえそうだ。
■激安価格の簡易型低速EV
2つのタイプのうち、簡易タイプの低速EVの代表例は、車輪が3個、定員3人の大きさで、繊維強化プラスチック(FRP)製の車室を備える製品だろう(図4)。このタイプの低速EVは済南市内など大都市の車道を走ることは通常できないが、農村地帯や郊外であれば運転免許も車両登録もなしで乗り回すことが黙認されている。
図4 済南世紀星の小型低速EV (撮影:テクノアソシエーツ)
記事の冒頭で挙げた低速EV産業の2番目のポイントである「低価格」も、この簡易タイプの低速EVで顕著だ。屋根や車室のない3輪低速EVなら、なんと3000元(約3万6000円)程度で買える。上述のようなFRP製の車室付きでも、たかだか1万元(同約13万円)と安い(図5)。一般車に近いタイプの低速EV(鉛蓄電池を使用した一般的なモデルで最多価格帯が3〜4万元程度)より段違いに低い価格で、所得があまり高くない世帯でも購入可能なレベルである。
図5 商河県の集落で売られていた3輪の小型低速EV (撮影:テクノアソシエーツ)
このような低価格が可能になるのは、まず人件費が安いからである。沿海部などでは高騰したとは言え、山東省の郊外などでは賃金水準もまだ先進国の半分以下だ。二輪車や農作業車などの製造で力を付けた部品メーカーが、低速EV向けの部品やモジュールを製造し、低速EVメーカーに低コストで供給する体制も整っているからだろう。実際、今回のイベントでは完成車のメーカーに混じって、モーターや電池、制御装置、車軸、車体などの部品や部材、サブシステムの製造企業も数多く出展、それぞれ製品を展示していた(図6)。
図6 済南市の低速EV展覧会に出展していた部品業者 (撮影:テクノアソシエーツ)
■先行きを楽観視する強気な経営者
低速EV産業の第3のポイントである「強気で楽観的」は、今回の低速EV調査で特に印象的だった点である。取材で出会った低速EVメーカーの経営陣は総じて低速EVの将来を楽観的に見ており、自社の販売台数や市場シェア拡大に関して強気な予測をしていた。筆者が話を聞いただけでも、一般車タイプか簡易タイプかにかかわらず、この1〜2年程度で低速EVの生産規模は倍増すると考えていた。
例えば、済南世紀星車業の代表である李家緒氏は、「電動車の市場成長率は年30%だ。現在約5000台の当社の生産規模は3年くらいで2倍の年産1万台になる」と鼻息が荒い。低速EV大手の一社である宝雅集団で山東宝雅新能源汽車の執行総裁・社長を務める王洪君氏は、「低速EVの燃費は1kmあたり1円以下と普通のクルマよりもずっと経済的だ。中国全土で普及するかどうかは政策次第だが、国の方針とも一致する」と低速EV産業の将来性に自信を示す。
同社は、製造能力が年産20万台の乗用車向け新工場を済南市の北約100kmの徳州市に2011年10月に完成させた。同工場では中国国内向けに鉛蓄電池の低速EVを、輸出用にLiイオン電池を搭載したEVを製造している(図7、図8)。
図7 山東省徳州市にある宝雅新能源汽車の最新鋭EV工場の製造設備 (撮影:テクノアソシエーツ)
図8 徳州工場で案内時に使用した電気自動車。右は宝雅新能源汽車の王洪君・執行総裁兼社長 (撮影:テクノアソシエーツ)
現時点では、省都の済南市内でもガソリンなどの化石燃料を燃やして走る従来型の自動車がほとんどを占める。低速EVの存在感は高まっているものの、農村や郊外で見かける程度でしかなく、産業規模としてはまだ限定的である。
しかし今後、中国政府の政策やガソリン価格の高騰によってEVが急速に普及する可能性は決して低くはない。Liイオン電池のコストが鉛蓄電池並みに下がれば、低速EVも軒並みLiイオン電池を採用し始めるのは間違いない。その場合、日本や欧米の大手自動車メーカーが製造する高速なEVと山東省の低速EVの差は曖昧になろう。やがて、低速や高速といった区別さえ意味がなくなっていく。
日本の大手自動車メーカーでは、低速EVなど現時点で比較にもならない存在と考えている経営陣が大半かもしれない。しかし将来、足をすくわれないように、快進撃を続ける低速EVの行方にも目配りしておく必要がありそうだ。
(テクノアソシエーツ 大場淳一)
http://www.nikkei.com/news/print-article/?R_FLG=0&bf=0&ng=DGXNASFK0302L_T00C12A9000000&uah=DF110520102205
#昔の日本製は、こんな感じだった
電力自由化、中小、個人に打撃
2012年9月5日(水) 石川 和男
東日本大震災を受けて電力改革に関する議論が急速に進展しつつある。将来的な完全自由化を目指す政府・経済産業省のプランには欠陥が多い。現状の計画のままでは、電力会社が得をし、中小企業、個人が損をしかねない。
関西電力大飯原子力発電所の再稼働、東京電力への公的資本注入など、電力を巡る目の前にある課題は段階的に克服されつつあるように見える。だが、実際は問題山積だ。
その1つが電力改革である。この7月、政府・経済産業省は「電力システム改革の基本方針」を公表した。この基本方針では、(1)需要サイド(小売り分野)の改革(2)供給サイド(発電分野)の改革(3)送配電分野の改革――が3本柱となっている。
年明けの次期通常国会での電気事業法改正案の提出に向けて、さらに具体的に検討中とのことだ。この改革案の検討は、震災による原発事故を踏まえたエネルギーミックスと、原子力発電をベース電源の中心とした地域割りの垂直一貫体制に関して、電力供給システムの持続可能性の観点からの疑義が生じていることが契機となっている。
基本方針から読み取れるのは政府・経産省が目指すのが、“電力全面自由化”であるということだ。だが、そこには大きな問題がある。
自由化で得するのは電力会社
まず、政府は「すべての国民に電力選択の自由を保証する」と標榜するが、そうならば、すべての国民の電力選択の自由を保証するほどの新電力の候補は誰か、具体的な市場参入予定者を確定させていなければならない。
これまで1995年(卸電力自由化)、99年(大口電力小売り自由化)など、電気事業法改正による自由化は順次実施されてきた。ところが、新しく自前の発電所を造った新電力は数社だけ。今回は卸電力市場の活性化策も併せて進めるとのことだが、電気料金の大半を占めるのは電源費用、つまり発電所の建設・運転費用である。同じ電源を使って供給者を代えても、電気料金が抜本的に低下する理由は見当たらない。
電源建設が進まなかった原因は既存電力にあるとされているが、実質的には投資リスク(資金調達)と環境規制が大きな壁だ。グローバルなマネーゲームの中で高い投資リスクに応じた高いリターンがなければ適切な投資は呼び込めないことは当然だろう。環境政策が新電力の大規模な石炭電源計画を葬り去った経緯もある。市場参入を招くために政府が本気ならば、環境規制の大幅な合理化の必要もある。
いずれにせよ、今後当面は、選択可能な電力供給者は各供給区域で既存電力会社しかいないことは明らかだ。新規参入者がいないのに自由化法制を敷けば、既存電力の独占力が強くなるだけだ。新規参入予定者がいるならば、改正法の提出時までに実名を挙げておくべきだろう。そうでないならば、小売り全面自由化は、既存電力会社の独占力を強めるだけに終わってしまう。
電気料金の認可制撤廃も、この流れから考えれば、相当なリスクを伴う。日本の電気料金が石油ショック以降40年近く漸減傾向なのは、総括原価方式の料金認可制によるところが大きい。日本の半分の電気料金と言われる韓国もまた認可制であり、政策的に電気料金を低く抑えているのは周知の通りだ。
また、世界一短い停電時間に代表される安定供給の基本は供給義務による。これらルールを「競争の進展に応じて」との前提ではあるが最終的に全廃することは、料金値上げ自由化、料金積み上げ根拠の説明の困難化、電力会社側が供給したくない需要家への供給回避などを認めることにつながる。
つまりどういうことか。独占体制が維持されたまま料金の自由化が実施されれば、電気料金引き上げにつながる恐れが強いということだ。大口需要家で割引料金が適用されたり、あるいはIPP(独立系発電事業者)から電気を買ったり、自家発電を備えているような大企業はまだいい。大変なのは中小・零細企業であり、個人である。特に中小・零細企業の場合、ただでさえ健康保険料負担額の引き上げなどで経営コストが上がっている。加えて電気料金までもとなれば、経営が立ち行かなくなる可能性は容易に想像できる。
こうした規制緩和による需要家不利益を回避するため、政府は最終保障サービス措置を実施するようだ。だがこれは、現行の供給義務の実質的継続以外の何物でもない。最終保障サービス提供者は、(1)地域の支配的事業者(2)一定規模以上のシェアを有する小売事業者(3)地域の送配電事業者のいずれかとされているが、これは即ち既存電力のことだ。供給義務を課すとすれば、料金もまた合理的に説明できるものでなければならない。それを担保する方法としては、総括原価方式以外見当たらないのが実情だ。
再生可能エネルギーにも大打撃
“何でもかんでも自由化”を金科玉条の如く掲げている現在の政府案は、こうしたありがたくない環境をもたらしてしまう可能性が非常に高い。これでは日本経済社会を支える中小・零細企業はますますコスト増を強いられ、一般家庭の家計も圧迫される。これでは改革とは言えないだろう。
供給サイドの改革については、発電全面自由化と卸規制撤廃による発電市場活性化が掲げられている。既存電力が長期買い取りを保証するようなIPP事業であれば、新規参入者は相当数出現する可能性は高まる。特に原子力に代わる現実的な候補と見込まれている火力に関しては、新規参入者が増える可能性がある。
問題は再生可能エネルギーの方だ。発電全面自由化となれば、7月に始まった再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)との関係は最悪なものとなる。発電市場自由化と買い取り義務化は、どう考えても整合性がない。発電市場自由化によって少しでも安価な電気が売買される市場で、世界的にも高水準の買い取り価格を標榜する日本のFITが維持可能だとは考えにくい。発電市場自由化によって、再生可能エネルギーによる発電市場参入者は絶滅の危機に瀕することになりかねない。
繰り返すが、全面自由化は同程度の供給能力を持つ者が複数出現しない限り成功しない。競争が起こらないからだ。既存電力の発送電分離をしても、競争者が出現するわけではない。
既存電力であれ新電力であれ、建設費と燃料費の両面で低コストの電源が造られ、それが高コスト電源を淘汰することにより、結果として全体の電力コストの低減が達成されるはずだ。
政府としては、拳を振り上げた以上、何らかの形での全面自由化や発送電分離を政治的に断行しなければならないのだろう。だが現時点では、完全自由化論者が、既存電力の政治力分断という野心の達成に邁進しているようにしか思えない。“電力行政 vs. 電力業界”の戦いは、しばらくの間、封印すべきだ。それは、我々一般需要家の利益増に何の関係もない。最重要課題である原子力について、安全な稼働と廃炉の準備を進めていくための環境整備こそが、今最も求められている電力改革であるに違いない。
石川 和男(いしかわ・かずお)
東京財団 上席研究員。1989年東京大学工学部卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省。資源エネルギー庁時代には電力改革に取り組む。2009年4月から現職。
時事深層
“ここさえ読めば毎週のニュースの本質がわかる”―ニュース連動の解説記事。日経ビジネス編集部が、景気、業界再編の動きから最新マーケティング動向やヒット商品まで幅広くウォッチ。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120903/236307/?ST=print
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