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経済分析の哲人が斬る!市場トピックの深層【第74回】 2012年9月5日
• 熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト],森田京平 [バークレイズ・キャピタル証券 ディレクター/チーフエコノミスト],高田 創 [みずほ総合研究所 常務執行役員調査本部長/チーフエコノミスト]
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年金赤字で減る積立金 未完の社会保障改革
――熊野英生・第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
社会保障と税の一体改革関連法案が衆参両院を通り、消費税率が引き上げられる日程が決まった。増税は誰にとっても嫌なことだが、これで社会保障制度に対する安心が得られれば、我慢するほかはない。
しかし、本当にこれで安心と言えるのか。1つだけ問うとすれば、肝心要の年金制度の見直し案がどこに行ったのかという点に、大きな疑問がある。
7月に民主・自民・公明党の間で三党合意が結ばれ、最低保障年金制度の取り扱いは2013年度に棚上げされた。そして、政治の世界では、消費税増税の前に、衆議院を早期解散し、国民に対して「近いうちに信を問う」と言われている。
しかし、消費税を10%に引き上げると同時に、一体どんな社会保障制度が実現するのかが明確でないと、消費税増税の正当性を考える判断材料のないまま、国民は判断を求められることになりかねない。
年金が返ってこないと
疑っている国民は多い
社会保障問題の深刻さは、国民の間には、「自分たちが掛けた公的年金が、将来、返ってこなくなる」という不信感が蔓延していることではあるまいか。そう信じ込んでいる人は、特に若い人に多い。
この「年金は返ってこないかもしれない」という可能性を論証することは、そう簡単なことではない。国民年金の場合の数値例で見てみよう。
・月々の国民年金の保険料が1.5万円だとして年間で18万円。
・これを40年間掛け続けると、自分が払い込んだ金額は累計で720万円になる。
・これで老後にどのくらい戻ってくるのか。男性の平均寿命が80歳、女性が86歳だとしよう。65歳から支給が開始されるとして、男性の受給期間は15年、女性は21年となる。
次のページ>> 払い込み総額と予想受取総額を比べられない理由
・男女の年金支給額は1年間に約80万円だとして、男性は80万円×15年=受取総額1200万円。女性の場合は1680万円にも達する。
・払い込み金額の720万円に対して、男性は1.6倍、女性は2.3倍の受け取りが予定されるという計算になる。
この計算では、男女とも払い込んだ金額よりも、将来、受け取れる保険料の方が圧倒的に大きい数字になる。果たして、男性が掛け金の1.6倍、女性が2.3倍ももらえるという計算が正しいのであろうか。
単純に、払い込み総額:720万円と、予想受取総額:1200万円or1680万円を比べられないのは、大雑把に言って次の4つ理由があるからだ。
(1)年金支給条件の変更。今後、国民年金・厚生年金の保険料率は2017年にかけて段階的に引き上げられる。また、年金支給開始年齢が現状の65歳からさらに引き上げられる心配もある。男性の場合、支給開始年齢が70歳まで引き上げられると、名目額の収支で見てトントンになる。女性でも、支給開始が75歳くらいまで引き上げられると収支はゼロに近づく。
(2)年金受取額の実質価値の目減り。将来、インフレが起こると、受取金額の実質価値が低くなる心配がある。公的年金の予想受取額1200万円(1680万円)は、20年後までの名目金額であり、現在割引価値で再評価すると小さくなる。
一方、年金制度には物価スライド制があって、物価連動で支給額は実質価値を保たれる仕組みである。しかし、スライドの基準になる消費者物価は、主に耐久消費財の品質調整分を物価下落としてカウントしていて、生活実感よりも上昇しにくい過小評価の問題がある。
(3)さらに、年金が厳しい再調整を迫られる可能性がある。すでに、マクロ経済スライドという仕組みが導入されていて、一定のインフレ率になると、物価スライドのペースを遅らせて、実質的に2割くらいまで給付額を減らす見通しになっている。
次のページ>> 厚生年金収支に見られる「不安な動き」
現在は、消費者物価がマイナスのときはマクロ経済スライドが働かないルールであるが、将来の年金改革でデフレ下でもそのルールが発動されるように変われば、給付額は減らされる。
(4)最後に、公的年金として払い込まれた積立金が予想以上に早く取り崩されている問題もある。国民年金・厚生年金でも、ともに積立不足を解消するために、将来、想定外の保険料の引き上げ、給付カットが行われる可能性が心配される。
厚生年金収支に
見られる不安な動き
若者たちに、なぜ年金が返ってこないのかと問うと、若者の人口が減っていく中で、年金を受け取る高齢者が増えると指摘することが多いようだ。年金保険料と年金給付額のアンバランスが暗黙のうちに不安につながり、将来も人口減少に歯止めがかからないと考えられている。
その一方で、政府は年金収支の予測を長く長く伸ばして「100年安心」と、2004年の年金改革のときから説明してきた。前述の(4)のような心配はないという見解である。100年安心説の方も、中身を確認しないと、それがおかしいと一方的に断ずるのは、フェアではない。
半面、残念ながら、筆者は年金数理に基づくシミュレーションはできないので、将来のデータがどうなるかを厳密に検討することはできない。そこで、すでに発表されている厚生年金の収支実績を自分で確認してみることにした。
5年ごとに行なわれる政府の将来シミュレーション(2009年の財政検証<2004年は財政再計算>)が実績とどのくらい乖離しているかを知ることで、将来の見直しが行われるかどうかの手がかりになると考えられる。
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次のページ>> 一体改革の議論を、次期財政検証まで延ばすべからず
細かな数字の羅列で恐縮だが、表中の色つきの数字で実績と見通しがずれていることはわかるだろう。特に、表中の右端にある「収支差引算」をみると、2009年度実績▲4.5兆円、2010年度実績▲6.0兆円、2011年度実績▲4.6兆円となっている。これは、2009年2月の財政検証の予想と▲3〜▲4兆円も食い違っている。
もう1つ、積立金の残高が、実績では減少傾向なのに、財政検証では2014年度から増加に転じる見通しになっている。将来のシミュレーションでは、保険料収入が増えたり、運用収入が増えることによって、積立金が2020年代前半には200兆円を超えることが見込まれている(実績は厚生年金の代行運用部分を含まず、財政検証ではそれを含む違いはある)。
この実績とシミュレーションの食い違いは、グラフにすればより鮮明にわかる。
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データでは、2009年の財政検証の想定から実績が大きくずれていることは明白だ。自分で手を動かして公開されたデータを使って作った計表を見ると、筆者でさえ、将来の年金に対する不安を感じる。
自分の払い込んだ年金が返ってこないと漠然と感じている人も、データを調べてみた筆者にも、共通して将来の年金不安が存在するということは問題だ。
これらの不明確な点については、先行き2014年に予定される次期財政検証で明らかにすればよいというものではない。社会保障と税の一体改革を議論する中で、どう考えればよいのか、はっきり理解が示されるべき問題だろう。
質問1 自分が掛けた公的年金は、将来、返ってくると思う?
思う 24
思わない 65
どちらとも言えない
http://diamond.jp/articles/-/24279
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