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最低の生活保護と金持ち優遇が自殺を後押しする/社会保障の論点(後編)
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投稿者 MR 日時 2012 年 8 月 31 日 01:19:57: cT5Wxjlo3Xe3.
 

最低の生活保護と金持ち優遇が自殺を後押しする/社会保障の論点(後編)

元大蔵官僚・武田知弘氏が考える「本当の問題」

2012年8月31日(金)  金野 索一

 日本政策学校代表理事の金野索一です。
 「日本の選択:13の論点」と銘打ち、2012年の日本において国民的議論となっている13の政策テーマを抽出し、そのテーマごとに、ステレオタイプの既成常識にこだわらず、客観的なデータ・事実に基づきロジカルな持論を唱えている専門家と対談していきます。
 政策本位の議論を提起するために、1つのテーマごとに日本全体の議論が俯瞰できるよう、対談者の論以外に主要政党や主な有識者の論もマトリックス表に明示します。さらに、読者向けの政策質問シートを用意し。読者自身が持論を整理・明確化し、日本の選択を進められるものとしています。
 今回は【社会保障】をテーマに、経済ジャーナリストの武田知弘氏(元大蔵省)と対談を行いました。武田氏は、「2時間に7人、毎年3万人超が自殺する国ニッポン。この背景には、金持ち優遇政策と最低レベルの生活保護など、お寒い社会保障の実態がある。億万長者と庶民の実質税負担はほとんど変わらない。例えば年収800万円以上の社保料を一般並みに上げるだけで、年金問題はただちに解決する」と唱えます。
 この中で、そもそも社会保障とは何か?社会保障費捻出のために消費税を増税する必要はあるのか?という民主党政権に対する批判だけでなく、高額所得者等にかかる税制を20年前のものに戻すだけで税収は増えると論じ、富裕税導入の提案や保険料負担率の頭打ちをなくすなどの代替案を出しています。
 「大蔵省をやめて、俯瞰してデータを見たことにより、改めて問題意識を持った」と武田氏は語っています。元大蔵省ならではの客観的なデータに基づいた議論を出発点に、政策としての社会保障について、読者自身が日本の選択を進めて頂ければ幸いです。
(協力:筒井隆彦、渡邊健)
*  *  *
武田知弘
福岡県生まれ。大蔵省(現・財務省)に勤務。バブル経済崩壊前後の日本経済の現場をつぶさにみてきた。
大蔵省退官後、出版社勤務を経てフリーライターに。ビジネスの裏側、歴史の裏側を検証した記事、書籍を多数発表。
主な著書、『ナチスの発明』(彩図社)、『織田信長のマネー革命』(ソフトバンク新書)、『ビートルズのビジネス戦略』(祥伝社)

前編から読む

本当に生活者の痛みを知っていれば、縦割りにはならないはず

金野:自殺率の話も問題点に挙げられていましたが、個人の貧困について、社会保険の話も含めて、御見解を。

武田:自殺率も、急増しているのはリストラが増えた、95年以降で、それまでは先進国としては普通のレベルだったのです。これだけ高くなったのはリストラが増えてからなので、確実に経済問題とリンクしているはずです。それはセーフティネットがしっかりしていないからというのも1つはあると思います。

金野:セーフティネットも、最初に言われた生活保護の捕捉率(表1)にも関係しますね。この辺はベーシックインカムなど、今いろいろ新しい政策も出てきていますが、どういう制度設計がいいのでしょうか。

表1 先進国の人口に対する生活保護者の割合
イギリス フランス ドイツ 日本
9.3% 5.7% 9.7% 1.6%
生活保護問題対策全国会議の資料より
(『東京新聞』2011年11月24日付記事より)
武田:基本的に、日本の場合は年金、生活保護、雇用保険などが全然機能的な働きをしていません。どれも1個ずつで申請して、1個ずつでもらえるか、もらえないかという話になっています。だから、雇用保険が止まってしまって、それで路頭に迷ってしまったという人が出てくるようになっています。雇用保険が切れて、仕事が見つからなかった。そうしたら、その人は路頭に迷うとわかっているわけですから、それをちゃんとリンクさせて、足りない分を払うなり、生活保護に移行するなり、そういう全体の、ちゃんと救ってあげるものができていません。生活保護も敷居が高過ぎますし、いろいろなことで手続きが面倒ですし、きちんと機能していないと思います。

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 それと、雇用保険も、例えば、20代、30代前半ぐらいの人は、あまり要りません。次に仕事はやろうと思えば見つかりますから。病気だったら、せいぜい3カ月ぐらいあればいいと思います。でも、40代後半や50代になってリストラされたら、1年間、雇用保険があったとしても、1年間で仕事を見つけるというのはほとんどの人たちは無理です。体力的に無理な仕事ぐらいしかない状態です。だから、そういう人たちにもっと厚くして、そういう人たちがちゃんと年金までつながるようなシステムになっていないと、中高年は家のローンや教育費などで苦しいですから、自殺とか、そういうのはふえると思います。

 結局、そういうことをきちんとしていないことが、生活保護の増大にもつながります。

金野:ベーシックインカムという制度がいいのかどうかは別にしても、いずれにしてもとにかく日本の省庁の縦割りの延長みたいにセーフティネット全体がタコつぼ状態というか、横ぐしでうまく機能し合っていないという話でしょうね。

武田:そうですね。だから、やろうと思えばできないことはありません。しかし役所というのはそういうものです。

金野:幼稚園と保育園が文科省と厚労省に分かれている話がありますが、同じ省の中で、結局、局ごとに縦割りということですかね。

武田:そうですね。なおかつ、身分が保障されて、痛みが感じにくい方々がふだん仕事をされているので、切迫感が皮膚感覚として全然分かっていらっしゃらないですね。それと、生活保護などは自治体が窓口です。だから、国と地方が微妙に責任をどっちもなすりつけるという構造があります。

何のために年金はあるのか考えるべき

金野:老人というか、シニア層の方々の制度設計なり、そこの話も重要だと思いますが、そこについてはいかがですか。

武田:まず、これは右の方も左の方も大体思っていると思いますが、年金をもらい過ぎている人も結構います。年金というのは生活保障の延長というか、老後の保障のはずなので、その辺はもうちょっとならしていいのではないでしょうか。

 今、基礎年金だけでは生活できません。年間70万円か80万円です。だから、プラスアルファをしておかないといけないわけで、プラスアルファがない人は食べていけないわけで、生活保護を受けなくてはならなくなるわけです。その一方で、1000万円近くもらっている人もいるわけですから、その辺はきっちり、年金というのは社会保障で、掛け金に応じて全部戻ってくるわけではなくて、収入が多かった人はそれなりに減ることもあるということは、はっきり言うべきだと思います。

 週刊誌でも、掛けた分が戻ってこない、だから、年金は駄目だということを言っていますが、年金の本当の意味というのは、死ぬまで一定額を保障してもらえるということが一番大事なことなので、早く死んだり、運の悪い人は掛けた分が戻ってこないのはしょうがないと思います。

 高額所得者の方は掛けた分よりもかなり低い額しかもらえなかったというのも、税金と同じ質のものだと考えないと、国民全体で社会保障をつくっていくということは難しいと思います。社会保障というのは、みんなが掛けた分にプラスアルファして戻ってくるというのはできっこなくて、貧しい人、金持ちの人、運がいい人、運が悪い人がみんな掛け合って最低の保障をしましょうというのが社会保障の理念ですから、今のままだと確実に破綻するのは目に見えているので、その辺をきっちり、政府も国民に辛抱強く説明して、年金は貯金ではないということを、これは小泉内閣の塩じいも言っていましたが、しっかりちゃんと浸透させるべきでしょう。

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 あとは、高額所得者の社会保険料が少ない。(表2)率が頭打ちなので、ちゃんと普通の人と同じだけの率を掛けるべきだと思います。そうすれば、僕が概算で出したものを書いていたと思いますが、年金額が5兆円以上の上乗せになります。

表2 億万長者と平均所得者の税、社会保険料負担率の比較
億万長者
(年収1億円以上) 平均所得者
税(所得税、住民税) 50% 30%
社会保険料 約2% 約14%
合計負担率 約52% 約44%
今やるべき社会保障政策

金野:現実に今の政権も次の選挙でどうなる分かりませんが、今の武田さんの政策、プランを実現していくためには、全体の総論として全部パッケージでやることがもちろん一番いいわけですが、進め方としてはどの部分から各論で進めていった方がいいのか、そのプロセスのアイデアはありますか。順番でやるのか、いきなり全部やった方がいいのか。

武田:一番は、やはり高額所得者の保険料をきちんと取るということです。頭打ちをやめるということです。そうしたら、財源に余裕ができます。

金野:これが、一番先にやることが適しているということですね。それは、この政策が一番導入しやすい、進めやすいということですか。それとも単純に中身としてこれが一番効果があるということですか。

武田:効果があることだと思います。だって、5兆円ぐらいふえたら、今までもらえなかった層にも手厚くできますし、将来の備えにもできます。これをすれば、今からずっと毎年5兆円がふえるわけですから。だから、単純に10年間で50兆円、年金の財源がふえるわけです。

金野:今の賦課方式を積み立て方式にチェンジした方がいいという話がよくあります。賦課方式というのは、単純に現役世代が今の老人、シニアを支えているやり方ではなくて、その個人が自分の年金を積み立てていく。それについてはどうお考えですか。

武田:それだったら、貯金と同じで、社会保障ではないですね。社会保障というのは社会全体でいろいろな境遇の人の最低限の面倒を見るということです。だから、積み立て方式にするということは、社会保障を放棄したのと一緒だと僕は思います。基本的に仕組みとしては個人が貯金するのと同じですね。個人個人が老後の貯金をすると、すごくロスが大きい。なぜかというと、個人個人は何歳まで生きるか、わからないですね。そうしたら、例えば、金野さんが老後の年金はゼロということになったら、幾つぐらいまで暮らしていけるぐらい、お金をためますか。

金野:それは、80歳ぐらいまで… わからないですが。

武田:不安だから90歳か100歳ぐらいまで貯金するでしょう。みんなが100歳分ぐらい貯金しても、平均で80歳ぐらいで死ぬから、社会全体で20年分、多く積み立てないといけなくなるわけです。それをフラットにしてくれるのが年金です。積み立てる額が多くなるということは、世の中から眠っているお金が多くなるということですから、1人ひとりが準備するとなると金回りが悪くなります。でも、社会全体で積み立てるならば、平均寿命の分だけ用意しておけば事足りるわけです。だから、社会保障というのはそういう面で全体の無駄をなくす。1人ひとりが準備するのは大変だから、平均の分を準備しておきましょうということで、国全体、社会全体から見ても、資金的なロスがかなり少なくなるわけです。個人個人の負担も減るわけです。

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金野:積み立て方式という意味では、人口動態や社会情勢に左右されない。それと年金の関係をまず断ち切って、若者と老人の比率がどう変わろうが、そこはまず一たん断ち切ってということがその辺の根拠のようですが。

武田:ただ、それは年金を崩さないということだけを考えているということです。年金の役割を果たすかどうかというのは考えていないということです。年金を持続させることだけしか考えていない。年金の本来の役割はそこではないですので。

金野:制度的に、収支、赤字・黒字ということがまずありきではなくて、そもそも年金の思想がそういうものだというお話ですね。

武田:そうですね。それをやるなら、個人で貯金をしてくださいというのと、やっていることは同じです。

金野:お金持ちからの負担料アップというと、額としては先ほどおっしゃった5兆円。財源がかなり変わってくるという話ですが、収支だけ考えたら、これ以上老齢化社会に行ったときに、お金持ちの人の負担料アップだけで賄えるかどうかというのが、先ほど言った、断ち切る側の人の考え方ですね。

武田:だから、これをやった後に余裕ができたところで、段階的に、お金持ちのもらい過ぎている分をだんだんならしていく。生活保護レベルの支出を老人全体に支給するならば、そんなにお金は要らないわけです。

人口問題こそ国の根幹問題である

武田:実際にこれ以上少子化が進むと難しいから、それも解決しなければいけない問題です。これ以上進んだら、どんなに頑張っても、国民全部に70歳ぐらいまで働いてもらわないとやっていけません。それは根本的な問題です。人口動態の話ですから、人口のピラミッド自体を変えなくてはいけません。そうなると、もう民族の存続の問題です。少子高齢化の問題は、年金よりもはるかに大きな根本的な問題です。この問題に対して少しぐらい年金を改善しても、その流れが本当に来てしまったら無理です。

金野:制度の問題ではないですね。これが1番目だとして、その後でいうと、どういうプロセスがよろしいのでしょうか。

武田:根本的な改善方法は、少子高齢化の改善です。若者にもっとお金を渡さないと駄目ということです。だから、まずこれをやりつつも、年金の不公平というか、ばらつきの問題とか、そういうものを改善していくべきだと思います。

 まずこれを多くの国民の人に知ってほしいですね。お金持ちは社会保険料が頭打ちで、億万長者だったら1%とか、そのくらいで済んでいるという話はみんな知らないですから。その中で、サラリーマンは税金などを含めて平均で40%を負担させられているわけですから。それをもう少し知ってほしいわけです。それをみんな知っていたら、もっと世論も変わってくると思います。だから、こういうのを頑張って書いているわけです。

金野:それがなかなか表に出てこないのはなぜでしょうか。それを言っている人も少ないということでしょうか。もちろんマクロでは少子化対策を根本はやるとして、とにかく社会保険料の部分が真っ先の課題で、その先というのは、先ほど言っていた法人と個人、あとはフローと、一方、ストックという意味での資産、大きくはこの3つがあると思いますが、この辺のプロセスはどうお考えですか。フローという意味での法人と個人というのと、それと、ストックという意味での資産に関して、相続税を含めての税というのがあると思いますが。

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武田:単純に考えたら、ストックにかけるべきだと思います。ただ、結果的にストックにかかるような税金をフローにかけるということもできますので、それは方法論の問題であって。一番の問題は、日本はこれだけ金を稼いでいて、金を持っている人は持っています(表3)。それをもっとみんなに知ってほしいということです。円高で企業はよたよたということではなく、十分に資産があり、ほとんどの大企業はあと10年、20年はつぶれない。その中で給料がずっと下がり続けていて、派遣、非正規がふえています。だから、やらなければいけないことは単純だと思います。持っているやつから取るというのは当たり前ですから。

表3 近年の企業の内部留保(利益剰余金)
年 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
剰余金 190 198 204 202 252 269 280
単位:兆円
財務省企業統計調査より
億万長者は増えている

金野:日本社会の中で、持っているところ、余剰があるところはどこなのかということをある程度透明化して、その上でお金持ちの個人なのか、豊かな法人なのか、あるいはストックなのか、フローなのかを含めて可視化していく中で、基本的にどこからどういう形で納めてもらうのがいいのかということをバランスよく考えればいい。だから、まずは今の現状、日本経済がどういうところにあるのかということを、広くみんなが共有するところから始めるということですね。

武田:そうだと思います。これだけ実際の企業は金を持っているということや、億万長者がすごくふえているということを、多分ほとんどの政治家の方も知らないのではないかと思います。

金野:これを読んでもらう方々に対してのメッセージになりますが、武田さん個人がそういう数字を把握し御理解されているというのは、理解していない、これを読んでいる普通のビジネスマンと何が違うのでしょうか。こういうことに気をつけたり、こういうアンテナを持てば、別に普通の人もこういうことが理解できるというものは何かあるのでしょうか。

武田:それは、僕はたまたま官僚だったので、データの探し方ができるというだけであって、違いはそれだけです。だから、僕と同じようにこのデータを見れば、みんな大体同じ考えを持つと思います。

金野:だから、普通の人がこれを調べることはなかなか難しいでしょうから、やはり武田さんのような専門家というかそういった立場の方に、読んだり、考えてほしいということでしょうね。

武田:そうですね。だから、僕はデータを提供するから、あとはみんなで考えて欲しいというのはあります。

金野:このレベルのことが政治家はできないということですね。国会議員の立場であれば、データやいろいろなことは、やろうと思えばできますね。

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武田:そうですね。ただ、全体としてのチェックというか、それがなかなかできていません。断片的にはつかんでいる方もいらっしゃいますが。

官僚を離れて

武田:私がデータ分析に使用しているものは全部一般の人も見られるものです。ただ、視点が違うというか、今回のように国民目線、消費者目線に立って物を見たときに、オープンになっている情報を整理すると、原因が明らかになります。ということは対策が打てるはずです。それが本来の官僚の方々のミッションとしてあるべき姿と思います。僕もそうでしたが、官僚の中にいると、目先の仕事にしか目が行かないので、俯瞰することはできないですね。だから、僕が仕事をやめて、俯瞰して改めてデータを見たからこういうことが言えるわけす。官僚の人たちは目先の仕事で手いっぱいというか、目先のことしか見えていないですね。

金野:能力がないわけではないですが、そこまでやる余裕もないし、目の前の仕事が山積しているのですね。逆に言うと、そういう数字を洗ったり、俯瞰した仕事をやっていないとしても、官僚の人たちは、今の日本経済がこういうふうになっているということについての実感や認識はないんですか。

武田:その辺が不思議ですね。知っているとは思います。

金野:その感覚というか、数字を洗わなくても、格差社会のこういう問題が多い状況になっているということは感じていらっしゃるわけですね。

武田:億万長者がふえているというデータは、国税庁のデータを見ないといけない。そこまで見ている人は官僚でも、余りいないですね。国税庁の人は税金のことしか考えていないから、億万長者がふえているといっても余り関係ないことなんです。格差社会が起きているというのは諸説あって、起きていないと言う人もいますし、日本全体が貧困化していると言う人もいます。でも、それは億万長者がふえているという事実を知らないから言っているわけです。ほとんどの人はその国税庁のデータを知りません。それを見たら、確実に億万長者はふえて全体が下がっているというのが、数字でわかります。どう見てもそれは動かしようがない。ただ、ジニ係数だと、数値が粗く出てくるので、余り格差はふえていないというふうに出てしまったりするわけです。

金野:では、まさにそういうことを俯瞰してやるようなセクションがそもそも官僚の中にないということですか。

武田:そうです。だから、それは必要だと思います。

金野:官僚の場合は、ポジションが仕事をつくるというか、それを担当していない人は別に自分のドメイン以外のことはやらないということですね。

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経済学が全てではない

武田:本来は政治家がそういう俯瞰をして、することをしないといけないわけですが、政治家の場合は、逆に官僚のようなスキルがないから、データを集めることができないということです。それと、一番邪魔しているのは経済学の思想です。経済学というのは、本当はすごく危なっかしくて、あてにならないものです。経済学には、はやり廃りがあって、国ははやっている経済学の経済政策をします。僕は余り詳しくないですが、新自由主義がはやっていて、税金はフラットにしなくてはいけない、そうしないと競争力が云々と言って、結局、そういう流れになってしまっているわけです。でも、経済というのはその時々の状況を見て、どこが困っていて、どこが余裕があるのかというのは状況次第で変わってくるものなので、1つの理念で全部網羅できるような経済思想というのはないはずです。今まで歴史上、そんな経済学はないわけですから。

 そういうのをちゃんと知らないで、はやりの経済学だけをうのみにして、それをやってしまう。それが今の状態ではないかと思います。戦後の日本や高度成長期の日本は、何かの学説によって経済政策を決めたりしていません。大混乱で大変な時期だから何が必要なのかというのを現実問題として把握しようとしていたと思います。

金野:経済学はそうですね。日本は、はやり廃りに左右される。アメリカでは結構、化石みたいな、もうとっくに忘れ去られたような経済理論をずっと一生懸命やるような人も逆にいますからね。

武田:そうですね。だから、経済学というのもくせ者です。ちゃんと正しいかどうか、誰も証明できない。いろいろな複雑な要素が絡み合って経済というのはできているので、たまたま景気がよくなったときにその政策をやっている人が、「ほら、言ったじゃないか」ということになってしまったりして。

金野:だから、経済の理論や思想という前に、現実の数字に基づいてどういう政策をするかということしかないのではないかという話ですね。もちろん大蔵省御出身であれば、とにかく今の財務省は消費税を上げて、要は自分たちの領域をできるだけふやした方がいいという発想なわけでしょうね。だから、そこの中でこういうことを唱えていくというのは、大蔵・財務省の流れからいったら結構異端になるわけですね。そこは、大蔵省にいたときから、どうだったんでしょうか。

武田:いるときは全然思わないですね。

金野:その体制の中で、大蔵省の中で、普通にほかの官僚と同じように、さほど疑問もなくお仕事をされていたわけですね。やめられた後、こういうふうに唱えられて、変わられたきっかけというのは何かあるんですか。

武田:それは、俯瞰できるようになったということです。組織から離れると、いかに狭い価値観の中で生きてきたかというのがわかります。

金野:キャリアチェンジ自体が普通の官僚の方と多分違いますね。大蔵省をやめてフリーライターになろうとするのは、物すごくまれなお考えですね。だから、日本の中ではむちゃくちゃ貴重ですばらしい言論を進められていらっしゃりますね。武田さんの様な方は本当にいないですね。

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武田:ただ、発想は同じというか、同じ問題意識を持っている人はたくさんいます。森永卓郎さんも、まさに有名人としては代表格です。あの人も、見た目が迫力がないので、全然論戦にならなくて、やり込められてしまいますが、彼もちゃんとデータを持ってきて、これだけこうなっていると言っています。

金野:いわゆる保守本流的なメディアや世の中の大勢に対しては、武田さんの発言は非常にアンチテーゼなわけですが、そういうところからの反対意見やプレッシャーも余りないですか。

武田:それは全然ないです。だから、考え方ではなくて、この数字を見てどう思うかということを、むしろ聞いてみたいです。

若者にお金を回すべき

金野:とても重要なところで、少子化に社会全体がどう取り組むかという問題についてはどうでしょう。

武田:そうですね。本当に待ったなしの問題です。基本は、お金がないから結婚しないという人が何割かいますので、それをまずゼロにすることですね。

金野:結婚しても子供も余り持てないということになるし、そもそもその手前の結婚もしないというのもありますね。

武田:そうですね。若者にお金が回らな過ぎです。それが一番だと思います。今、若者でもちゃんと働いている人は、忙し過ぎて恋愛もできないという状態になっています。だから、お金を持っている人は相手がいない、相手がいる人はお金がないという状況があるように思います。僕も少し前まで社会人サークルに行っていましたが、若い人で来るのは大体フリーターか公務員です。ほかの普通の民間企業で働いている人はそんなサークルに参加するような余裕はないですね。

金野:本当にきょうはありがとうございました。

武田:ありがとうございました。


注釈:マトリックス表、論点表における有識者、政党の見解、ポジションについては、各有識者・政党の公表されている資料や著作物、発言等を参考に、著者と日本政策学校専門チームが、独自のフレームワークで分析・推察したものです。

金野 索一(こんの・さくいち)

日本政策学校 代表理事
コロンビア大学国際公共政策大学院修士課程修了。
政策・政治家養成学校、起業家養成学校等の経営、ベンチャーキャピタル会社、教育関連会社、コンサルティング会社等の取締役、公共政策シンクタンク研究員を歴任。
このほか、「公益財団法人東京コミュニティ財団」評議員など。
《主な著作物》
・『ネットビジネス勝者の条件ーNYシリコンアレーと東京ビットバレーに学ぶ』(単著:ダイヤモンド社)
・『Eコミュニティが変える日本の未来〜地域活性化とNPO』(共著:NTT出版)
・『普通の君でも起業できる』(共著:ダイヤモンド社)


13の論点

2012年の日本において国民的議論となっている13の政策テーマを抽出し、そのテーマごとに、ステレオタイプの既成常識にこだわらず、客観的なデータ・事実に基づきロジカルな持論を唱えている専門家と対談していきます。政策本位の議論を提起するために、1つのテーマごとに日本全体の議論が俯瞰できるよう、対談者の論以外に主要政党や主な有識者の論もマトリックス表に明示します。さらに、読者向けの政策質問シートを用意し、読者自身が持論を整理・明確化し、日本の選択を進められるものとしています。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20120808/235431/?ST=print  

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