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村上尚己「エコノミックレポート」 チーフ・エコノミスト 村上尚己が、ファンダメンタルズ分析を中心に内外経済・金融市場に鋭く切込みます。(@Murakami_Naoki ) 新卒ニート3万人の意味
・本日(8月28日)の日経新聞トップは、「新卒ニート3万人 働き手減少に拍車」である。大学の新卒者のニートが3万人もの規模に達し、「若い働き手」減少が深刻な問題であることを伝える記事である。
・ただ、大卒ニートの数が「3万人規模」まで急激に増え事態が深刻になっているかといえば、必ずしもそうではない。記事でも紹介されているが、文科省の調査によれば、大学新卒者の就職率は63.9%と2年連続で「改善」している。若年層の就職状況は依然厳しいが、最悪期は脱しており、実際には新卒で働く若者は僅かに増えているとみられる。
・本日の記事で、「大卒ニート」の人数がフォーカスされているのは、進学・就職せずその準備をしていない大卒者の存在(3万人以上)が、今年の調査で初めて明らかになったためである(全員がいわゆるニートではないだろうが..)。これまでも「ニート若者」は同様の規模存在していて、実際には就職率改善で今年は若干減ったとみられるが、その規模が改めて明らかになり「働き手減少に拍車」と伝えられているわけだ。
・もちろん、就職率が改善した今年は、「大卒ニート」が足元で多少減っているとしても、問題が小さいわけではない。新卒の労働市場の状況は深刻で、若年層の失業率も高止まりしたままである。記事でも伝えているが、「働く経験を得ることができない若年が増えると、長期的な経済成長停滞をもたらす」のは日本経済にとって大きな問題である。
・ところで、この記事で気になるのは、「働き手減少に拍車」という文言に込められた意味である。これは、「若者が働かずニート化しており、それ故働き手が減っている」という問題意識が反映されているように思われる。大卒ニートの人数の規模にフォーカスが当たる記事の構成にも、同様の書き手の意図が影響しているように思われる。
・ただ、7月19日レポートで、「働けない若者の危機」の記事についてとりあげた際にも述べたが、若者の雇用問題の本質は、「譲り合いの精神が足りない」とか「ニート化する若者の気質」などの感情論ではなく、デフレを伴う経済停滞を背景に、慢性的な労働需要つまり「働き口」が不足していることにある。
・新卒の労働市場は、景気変動の影響を最も受ける。このため、慢性的な労働需要不足が続き、職を持たない若年層の増加に歯止めがかからず、その結果ニートが増えているということだろう。グラフが示すように、失業率とインフレ率の関係を素直に考えれば、デフレという状況が変わらなければ、若者の「働き口」の不足という問題の解消は難しい。
・なお昨日(8月27日)の日経新聞3面には「雇用、和らぐ過剰感」という記事で、リーマンショック直後と比べて、企業の「雇用過剰感」が和らいでいることが伝えられている。日銀短観による調査をみても、企業の雇用人員に対する、「過剰感」と「不足感」はほぼ拮抗してきている(グラフ参照)。
・この調査は、多くの企業が「過剰人員」を感じていないことを示している。その上で、それでも雇用が増えない理由として、先述の記事では、「労働需給のミスマッチ」や「正社員の要件を備えた人材の不足」が挙げられている。ただ、企業が人材不足に直面しているならば、労働市場の需給改善によって賃金への上昇圧力も高まるはずである。
・実際には、日銀調査の雇用判断DI「ゼロ」の程度では、需給改善で賃金に上昇圧力がかかる状況とは言えない。前回(2003〜08年)の景気回復局面では、日銀の調査でも雇用判断DIは-12まで改善し、企業が「人材不足」に直面したようにみえたが、それでも賃金を含めたインフレ率は高まらず、結局デフレ脱却に失敗した。
・デフレとは、モノ・サービスそしてヒトの価値(賃金)が低下し続けることである。結局、こうした経済全体の需給改善が実現しなければ、冒頭の若者のニート問題も解決に向かわないのである。
http://www.monex.co.jp/Etc/00000000/guest/G903/er/economic.htm
広木隆の「投資の潮流」
2012年08月28日
第22回 ランダムウォーク
株式市場はランダムウォークだ、といわれる。この場合のランダムウォークとは、過去の情報をもって将来を予見しえないことをいう。効率的な市場では、情報は瞬時に株価に織り込まれる。「この瞬間に」マーケットでついている株価には、<既知の>情報はすべて反映されているから、「次に」株価を動かすのは<未知の>情報のみである。<未知の>情報とは、文字通り「未だ知られていない」情報であるから、それは定義によって予見できない。ゆえに株価の将来の動きは予測不可能、というわけだ。その結果、株価の動きは水面に浮かぶ花粉の微粒子のような不規則(ランダム)な変動に近くなる。イギリスの植物学者ロバート・ブラウンが発見したその動き方を彼の名にちなんで「ブラウン運動」という。
規則性がないこと(ランダムであること)、よって結果の予測がつかないことを、どこか落ち着かないように感じるのは、人は人の性(さが)として安定や秩序を求めるからに他ならないが、世の中の現象のほとんどは偶然に支配されている。偶然に依存し、ランダムであるがゆえに結果の予測がつかないことが必要な場合もある。例えばくじ引きである。サッカーではコイントスでエンドを決める。サイコロやじゃんけん、あみだくじの結果も同様に、偶然に依存しているが、サッカーの陣地決めにはふさわしくない。芝生の上ではサイコロは転がせないし、あみだくじを作るのは手間がかかる。手っ取り早いのはじゃんけんであるが、これにも問題がある。レフェリー(審判)が必要となるからだ。サッカーの試合にはレフェリーがいるではないかって?彼は「サッカーの」レフェリーであって、「じゃんけんの」レフェリーではない。サッカーのゲームはさばけても、じゃんけんの後出しを見抜く訓練は受けておらず、そのスキルはないだろう。
東大の研究室が「必ず勝つじゃんけんロボット」を開発したという。なんということはない、後出しじゃんけんをするから絶対勝てるというのだ。ロボットが人間の手の動きを見抜くスピードはミリ秒(セカンド)の速さ。その速さで後出しをするので反対に人間の目には後出しだと見抜けない。
ロボットが人間相手に後出しじゃんけんをするのはミリ秒(セカンド)の速さで十分だが、株式取引の世界では遅い。ヘッジファンドなどで主流になっている「ハイ・フリークエンシー・トレーディング(HFT)」と呼ばれる取引手法は、超高速の自動売買プログラム(アルゴリズム)による頻繁なトレードで利ざやを積み上げるものだ。これに対応するために取引所は取引システムのスピード向上に余念がない。東証のシステムはやっとミリ秒以下になったが、海外の取引所に目をやれば、シンガポール証券取引所は0.074ミリ秒、ナスダックが0.098ミリ秒、ロンドン証券取引所は0.125ミリ秒と東証の10倍も速い。
話が逸れたが、じゃんけんは状況によっては「フェア」な勝負とならないから、純粋に偶然性によるものごとの決定には向かない、と言いたかったのである。しかし、それをいうならサイコロだって、あみだくじだって同じである。「意図」が入り込む余地を完全には排除し切れない。結果が完全に「ランダム」とはならないかもしれない。そもそも「完全にランダム」であることをどうやって証明するのか、その術はない。こう考えてくると、株式市場がランダムウォークだ、というのも100%正しいかと言えば、もちろん、そうだとは言い切れないのである。(続く)
(チーフ・ストラテジスト 広木隆)
前の記事:第21回 「地の利」(2) −2012年08月14日
http://lounge.monex.co.jp/pro/hiroki/2012/08/28.html
・ただ、大卒ニートの数が「3万人規模」まで急激に増え事態が深刻になっているかといえば、必ずしもそうではない。記事でも紹介されているが、文科省の調査によれば、大学新卒者の就職率は63.9%と2年連続で「改善」している。若年層の就職状況は依然厳しいが、最悪期は脱しており、実際には新卒で働く若者は僅かに増えているとみられる。
・本日の記事で、「大卒ニート」の人数がフォーカスされているのは、進学・就職せずその準備をしていない大卒者の存在(3万人以上)が、今年の調査で初めて明らかになったためである(全員がいわゆるニートではないだろうが..)。これまでも「ニート若者」は同様の規模存在していて、実際には就職率改善で今年は若干減ったとみられるが、その規模が改めて明らかになり「働き手減少に拍車」と伝えられているわけだ。
・もちろん、就職率が改善した今年は、「大卒ニート」が足元で多少減っているとしても、問題が小さいわけではない。新卒の労働市場の状況は深刻で、若年層の失業率も高止まりしたままである。記事でも伝えているが、「働く経験を得ることができない若年が増えると、長期的な経済成長停滞をもたらす」のは日本経済にとって大きな問題である。
・ところで、この記事で気になるのは、「働き手減少に拍車」という文言に込められた意味である。これは、「若者が働かずニート化しており、それ故働き手が減っている」という問題意識が反映されているように思われる。大卒ニートの人数の規模にフォーカスが当たる記事の構成にも、同様の書き手の意図が影響しているように思われる。
・ただ、7月19日レポートで、「働けない若者の危機」の記事についてとりあげた際にも述べたが、若者の雇用問題の本質は、「譲り合いの精神が足りない」とか「ニート化する若者の気質」などの感情論ではなく、デフレを伴う経済停滞を背景に、慢性的な労働需要つまり「働き口」が不足していることにある。
・新卒の労働市場は、景気変動の影響を最も受ける。このため、慢性的な労働需要不足が続き、職を持たない若年層の増加に歯止めがかからず、その結果ニートが増えているということだろう。グラフが示すように、失業率とインフレ率の関係を素直に考えれば、デフレという状況が変わらなければ、若者の「働き口」の不足という問題の解消は難しい。
・なお昨日(8月27日)の日経新聞3面には「雇用、和らぐ過剰感」という記事で、リーマンショック直後と比べて、企業の「雇用過剰感」が和らいでいることが伝えられている。日銀短観による調査をみても、企業の雇用人員に対する、「過剰感」と「不足感」はほぼ拮抗してきている(グラフ参照)。
・この調査は、多くの企業が「過剰人員」を感じていないことを示している。その上で、それでも雇用が増えない理由として、先述の記事では、「労働需給のミスマッチ」や「正社員の要件を備えた人材の不足」が挙げられている。ただ、企業が人材不足に直面しているならば、労働市場の需給改善によって賃金への上昇圧力も高まるはずである。
・実際には、日銀調査の雇用判断DI「ゼロ」の程度では、需給改善で賃金に上昇圧力がかかる状況とは言えない。前回(2003〜08年)の景気回復局面では、日銀の調査でも雇用判断DIは-12まで改善し、企業が「人材不足」に直面したようにみえたが、それでも賃金を含めたインフレ率は高まらず、結局デフレ脱却に失敗した。
・デフレとは、モノ・サービスそしてヒトの価値(賃金)が低下し続けることである。結局、こうした経済全体の需給改善が実現しなければ、冒頭の若者のニート問題も解決に向かわないのである。
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