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【コラム】
致死製品売り込みに屈するアジアの危険
−ペセック
8月21日(ブルームバーグ):オーストラリアの連邦最高裁が世界で最も厳しいたばこ包装をめぐる規制を支持したことで、同国は世界各国のたばこ会社から批判を浴びている。
これまでは、知的財産権、英ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)やJTなどによる訴訟の可能性、投資家への被害といった事柄が焦点となってきた。他の諸国がオーストラリアに追随すれば、どれだけの命が救われ、どれだけの経済生産が無駄にならなくて済むかということに、もっと目を向けるべきではないだろうか。
豪政府はたばこ製品の包装に会社のロゴを表示することを禁じ、包装の背面の9割、前面の7割に画像による健康被害の警告を義務付ける。この方針に対し、大手たばこメーカーがあれほど猛烈な戦いを挑んだのには理由がある。これが前例として広がれば、たばこ業界がこれまで享受してきた成長や利益に終止符が打たれる日の到来が早まることになるからだ。
アジア各国政府がオーストラリアを見習うべきだという主張の根拠となる1930億ドル(約15兆3000億円)という数字がある。米疾病対策センター(CDC)によると、この金額は喫煙関連の病気や生産性喪失により米経済が毎年被るコストで、カザフスタンやペルー、ルーマニアなどの年間の国内総生産(GDP)を上回る。
あるいは、中国の喫煙による死亡者見通しについて考えてみるといい。2030年までに年間350万人という数字だ。これは中国の著名な医療専門家が昨年の報告で明らかにした。専門家は喫煙者の増加は経済の生産性や成長の足かせにしかならないと指摘している。
アジアシフト
中国で喫煙者が増えれば、たばこメーカーにとっては願ったりかなったりだ。先進国が増税や広告の制限、公共の場での禁煙などを進めているのに対して、手招きしているのはアジアだ。
だが、たばこメーカーのこうしたシフトによる経済的影響のつけを払わなければならないのは、アジアの政府だ。医療費の増加を賄い、禁煙キャンペーンを始めるため、たばこ税を増税する必要がある。現在の政策に潜む財政の罠についても考え直さなければならない。
その格好の例となっているのが日本だ。日本政府がJT株50%を保有していることは、悪質な利益相反を生み出している。政治家はたばこ会社の利益や順調なたばこ税収の流れを損なうようなことはあまりしたくない。何度か増税されても、東京のたばこ価格はニューヨークの半分未満にとどまっている。
財政的打撃
日本の国会議員のジレンマもどうにか理解できる。日本の債務は対GDP比で先進国で最大であり、どんな収入であれ政府にとっては必要だ。中国も同じ状況にある。ほかのアジア諸国で、たばこ業者の利害を国民の健康より優先する傾向にあるのも、同じ理由で説明がつく。
幸いなことに、英国とニュージーランドがオーストラリアに追随する公算が大きい。今後、その他の国も後に続くことが望まれる。このような禁煙措置が広がったら、先進国や途上国はメッセージを正しく理解できるだろうか。
リスクを理解して潜在的な経済的損害を最小化するのは、指導者の責任だ。中国は毎年、リトアニアの人口と同じぐらいの数の国民が喫煙関連の病気で死亡する事態に耐え得るかもしれない。だが、それは、成長の勢いが止まらないとして世界中の途上国の見本となってきた中国で、政策当局者の無謬(むびゅう)性を示すことになるだろうか。
他のアジア諸国も注意する必要がある。政府とたばこ産業の密接な関係は、アジアの脆弱(ぜいじゃく)さの象徴だ。アジア人は喫煙を減らすべきだが、政府の優先順位のため、喫煙が促進されている。
20年後
確かにオーストラリアは、GDP1兆4000億ドル、人口2200万人と小さい国だ。だが、温室効果ガスや気候変動の影響を減らすために二酸化炭素(CO2)排出権を利用するなど、他の分野では主導的な立場になっている。 今回のたばこメーカーに対する規制では、国として先見の明があることを示しており、たばこメーカーが心配になるのも無理はない。
アイルランドからドイツ、米国、オーストラリアへと、世界で禁煙がいかに速いスピードで広がっているか考えてみるとよい。実際、パリのカフェでたばこの煙に悩まされずにコーヒーを飲めることなど、誰が5年前に想像しただろうか。20年後に、公共の場所でたばこに火をつけることが社会的に爪弾きにされる行為になっていたとしたら、一体どんな感じだろうか。たばこ会社はもちろん、喫煙者は事態の急展開に不満を述べるかもしれない。エコノミストは当然何も言わないだろう。(ウィリアム・ペセック)
(ウィリアム・ペセック氏はブルームバーグ・ビューのコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)
記事に関する記者への問い合わせ先:東証 William Pesek wpesek@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:James Greiff jgreiff@bloomberg.net
更新日時: 2012/08/21 09:18 JST
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M91H3V6TTDS701.html
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