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中国の「経済ミサイル」に要注意 尖閣を巡る次の圧力は「威圧経済外交」か
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35932
2012.08.22 古森 義久:JBpress
尖閣諸島への中国の圧力が日本国内をまたまた揺さぶるようになった。中国政府がどのような作戦に出てくるか、監視の要は言をまたない。
そもそも中国政府の領有権拡大への動きは野心的であり、露骨である。無法でもある。自国の領土を拡張するためには国家の持てるすべての手段を相手や環境に応じて、投入する。外交や軍事、政治だけでなく、経済的な手段までも領有権拡張に動員するのだ。
そのうちの経済手段には特に注意する必要がある。領土紛争での経済手段というのは、日ごろ目立ちにくい。その一方、中国との経済のきずなを深める日本のような国にとっては、中国側の経済武器が領有権紛争で威力を発揮しうる土壌が急速に広まっているのである。
この点でいま米国側から指摘された中国の「威圧経済外交」というのは、有益な警告となりそうだ。
「威圧経済外交」とは簡単に言えば、経済パワーを他国に対し安全保障や政治、そして領有権拡大という非経済の目的のために威嚇的に使うことである。日本に対してもこの威圧経済外交は最近の尖閣紛争で極めて露骨な形で実施された。中国のそうした戦略は今後の国際関係でも新たな震源となりそうである。
■ASEAN外相会議での共同声明つぶし
米国側の識者がこの「中国の威圧経済外交」の最近の最大例として指摘するのは、つい先月の東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議での事態である。議長国カンボジアが中国からの激しい圧力で同会議の共同声明を葬ってしまったのだ。
この会議が声明を出さないというのはASEAN創設以来、初めてである。この声明には南シナ海での領有権紛争での中国の強硬な行動を非難する内容が盛られるはずになっていたのだ。
ワシントンの大手研究機関「戦略国際問題研究所(CSIS)」の上級研究員で中国の戦略や外交の専門家、ボニー・グレーサー氏が「中国の威圧的な経済外交=懸念すべき新傾向」と題する最新論文で警告を発した。グレーサー氏は1990年代以来、米国歴代政権の国防総省や国務省の対中政策の顧問を務めたベテランの女性研究者である。
グレーサー氏はこの論文で中国威圧経済外交の第1の例として前述のASEANの共同声明つぶしを挙げていた。
同論文は、中国がこの10年間、総額100億ドル以上の経済援助をカンボジアに与えてきたことを強調していた。2011年度だけでも米国からのカンボジア援助の10倍を超える額が中国から供された。今回のASEAN外相会議の舞台となったプノンペンの「平和宮殿」の建設資金も中国からの援助だったというのだ。
そして同論文は述べていた。「中国はカンボジアのこの対中経済依存を利用して、ASEAN外相会議では共同声明に南シナ海に触れる記述を一切含めないようにすることを強く要請し、カンボジアはそれを実行した。その結果、同会議は発足以来45年間、初の共同声明なしとなった」
カンボジアと言えば、かつてあの自国民大虐殺のポル・ポト政権時代には中国からの支援を特に大規模に受けていた。だがその後、同政権が倒れ、ベトナム寄りの新政権となったため、中国とのきずなはそれほどは太くないように見られていた。しかし10年間で100億ドルという巨額の経済援助は、カンボジアを少なくとも外交面で中国のコントロール下に置いてしまったということである。
中国はつまり領有権紛争に関して、経済手段を使って自国の立場を守り、紛争相手の諸国への痛撃を加えたというわけだった。
■フィリピン、日本、ノルウェーへの経済圧力
グレーサー論文は中国の威圧経済外交の第2の実例としてフィリピンへの圧力を挙げていた。
フィリピンは2012年4月、南シナ海の中沙諸島スカボロー礁の領有権を巡り中国と激しく対立した。フィリピン、中国ともに同礁海域に艦艇を送りこんだ。両国間の対決が米国をも巻き込む国際的な折衝を背景に展開された。やがて6月にはフィリピン政府はスカボロー礁近くから自国の艦艇をすべて引き揚げた。だが対照的に、中国は数隻を残し、領有権紛争は中国が有利のままに一段落を迎えたのだった。
同論文によると、こうした中国有利の展開の背景には、中国政府がフィリピンからのバナナの輸入の検疫措置を異常に厳しくするという措置が取られていた。中国は「ペストに汚染されている疑いが強い」と主張した。その結果、フィリピンバナナの中国輸出が大幅に減ってしまった。フィリピンはこれまで外貨稼ぎ主要産品のバナナの全輸出のうち30%をも中国一国に出してきたから、その大幅減少は国内経済にも痛打となった。
中国政府はフィリピン産のマンゴ、パパイヤ、ココナツ、パイナップルなど他の果物の輸入手続きをも意図的に遅らせるようになったという。中国当局はそのうえに中国人観光客のフィリピン訪問を禁止してしまった。その結果、フィリピン経済全体が大きな打撃を受け、フィリピン経済界は自国政府に領有権問題での中国への譲歩を訴える経緯があったのだという。
グレーサー氏の論文は同様の事例の第3として2010年9月の中国政府の対日レアアース(希土類)輸出停止をも指摘した。
日本側でも当時、広く報道されたように、中国政府は日本へのレアアース輸出の停止を即時、発表した。日本側が領海侵犯の中国漁船の船長を拘束したことへの報復であることが明白だった。中国当局は自国の船舶に日本にレアアースを運ぶことを禁じたのだった。その一方、他の諸国へのレアアース輸出はそのまま放置した。明らかに標的は日本だったのだ。
同論文は中国側のこの措置が「日本側を警戒させ、日本政府に中国漁船の船長の釈放を決定させる際の主要な要因となった」と述べている。レアアース禁輸が日本政府の政策を変えさせる効果を発揮したというのである。
さらに同論文は「レアアース禁輸は中国が国際紛争の自国に有利な解決を求める際に経済的手段を使うことをためらわない証拠だ」とも強調していた。中国は尖閣問題でもこうした威圧経済外交をすでに実行したというのである。
グレーサー論文は「中国の威圧経済外交の標的はアジア諸国に限らない」と述べて、第4の実例としてノルウェーを挙げていた。中国政府がノーベル平和賞を巡ってノルウェーに露骨な経済圧力を威圧的にかけたというのだった。
2010年10月、ノルウェーのノーベル賞委員会はノーベル平和賞を中国の民主活動家の劉暁波氏に与えることを発表した。中国政府はこれに対しノーベル賞委員会がノルウェー政府とは別個であるにもかかわらず、ノルウェー政府に同平和賞を劉氏に与えないことを求め続けた。
同論文によると、その要求が容れられないとみた中国はノルウェー産サケの自国への輸入を新規制の発動で大幅に削減した。その結果、2011年のノルウェーの対中サケ輸出は前年分の60%も減ってしまった。しかも中国政府はノルウェー政府からの輸入手続きについての協議の要請をも拒み続けたというのである。明らかな報復であり、威圧だった。
■中国との経済取引はいつも慎重に
グレーサー論文が挙げた以上の4事例のうち3例はいずれも領有権紛争での経済手段の利用だった。中国政府は、政治や安保面、特に領有権問題で他国の政策や態度を自国の主張を利する方向へ変えさせるために経済手段を威嚇的に使うことを恒常的に実行しているのである。つまり「威圧経済外交」なのだ。
中国は貿易でも援助でも投資でも、経済面でのグローバルな活動を急速に広めている。その種の活動を本来、経済とはまったく無関係の領有権や政治的な紛争での相手国攻撃の手段として平然と使うというわけだ。となると、中国との経済取引はいつも慎重に、ということとなる。尖閣諸島の領有権を中国側から不当にされた日本は、特にその中国側の経済ミサイルに注意しなければならないのである。
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