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日韓スワップ打ち切りで韓国に報復できるか
韓国は中国に外貨支援を依頼して対抗?
2012年8月21日(火) 鈴置 高史
日本政府が一部打ち切りを検討する「日韓通貨スワップ」。韓国経済への打撃の有無や日本への跳ね返り、韓国の対抗策を「早読み・深読み」する。
2012年10月末が期限
日韓の2国間の通貨スワップ(注1)は2011年10月、30億ドル相当から一気に600億ドル相当に引き上げられた。期間は1年間で2012年10月末まで。
外貨不足に陥った韓国を救済するのが目的で、両国の首脳会談で合意された。「相当」というのは円・ウォンのスワップを一部含むからだ。両国間ではこれ以外にチェンマイ・イニシアティブ(CMI)という多国間の枠組みを通じ、100億ドルのスワップが結ばれている。
李明博大統領の竹島訪問(8月10日)と天皇陛下への謝罪要求(14日)に対し日本が検討している報復措置は、昨年10月に増やした570億ドル相当分を延長せず、総額130億ドル相当に戻す案だ。
(1)なぜ、「打ち切り論」が急浮上?
李明博大統領の「日王(天皇陛下)への謝罪要求」を期に、日本ではスワップ打ち切り論が一気に表面化した。それまで、竹島訪問の後も、日本の財務省はスワップを韓国への報復に使うことに消極的だった。
1997年のアジア通貨危機以来、自らが主導してこの地域で作り上げてきた「通貨の安全保障の仕組み」にヒビを入れたくない、との思いからだ。しかし、謝罪要求により日本の世論がさらに硬化すると財務省も国民からの批判を恐れ最後は折れた、と関係者は明かす。
自民党の閣僚経験者も15日夜「選挙の時期にもよるが、韓国とスワップに関し話し合うことになるだろう」と日本経済新聞記者に語った。弱腰の民主党はいざ知らず、10月にも予想される総選挙で自民党が与党に復帰すればスワップを報復の武器に活用する、という意味だ。
この大物代議士は自他共に認めるアジア派だ。しかし今年2月、すでに「(スワップを結んだら即座に手のひらを返し、決着済みの従軍慰安婦の保障を再び要求してきた)韓国に対し、スワップは半分に減らすべきだ」と公開の席で語っていた。民主党への攻撃材料として“底の浅い融和外交”をも理由にし始めていたのだ(「韓国が脅える『政権末期の経済危機』」を参照)。
8月17日に安住淳財務相が会見で初めて「韓国とのスワップは見直しを考慮している」と発言したのも、強硬論が高まる一方の世論に加え、野党からの厳しい批判を意識したためだろう。
(注1)通貨スワップ協定とは、外貨がなくなって困る場合を想定し、いざという時は貸してくれるよう他の国と結んでおく約束。外貨がなくなるとモノを輸入できなくなるほか、借金も返せなくなり、国際的に信用が失墜して実体経済が大混乱に陥る。
(2)韓国はなぜ強がりを言うのか?
韓国政府は「過去と同様に、日本は今回も政治的争いに経済を絡めてくることはない」と楽観していたフシがある。16日夜まで韓国記者に対してもそう説明していた、という。
日本とのスワップがなくなっても困らない
その一方で韓国政府は「日本とのスワップがなくなっても困らない」と宣伝し、対日牽制に乗り出していた。同日の韓国メディアのネット版の記事の見出しは「日本が通貨スワップを中断しても衝撃は微々たるもの」(朝鮮日報)、「韓日関係行き詰り 資本市場への影響は微々」(聯合ニュース)。
この報道を知った日本政府幹部は喜んだ。「誠に結構」。影響がないと韓国が言うのならスワップ打ち切りに文句を言わせない。もし、延長に関し韓国から不要と言ってくるのなら手間も省ける。それに韓国が自滅しても、後で「日本のために危機に陥った」と文句を言われない――というわけだ。
韓国の「日本のスワップ不要論」は強がりばかりではない。本気でそう考えている人も多い。2011年10月19日に日韓スワップの増額が決まった時、青瓦台(大統領府)は面子を保つために「韓国は外貨に困っていないのだが、日本がスワップを結んでくれと頭を下げてきたので結んでやった」とレクチャーし、ほとんどのメディアがそのまま報じたからだ。
最大手紙、朝鮮日報の宋熙永・論説主幹は自身のコラム(10月22日付)で「これで通貨危機に陥る可能性は20%以下に減った」と率直にスワップの効果を評価した。しかし、こうした冷静な記事は少数だった。
ちなみに世界の市場関係者の見方は「米韓首脳会談で李明博大統領がオバマ大統領にスワップを頼んだものの断られ、急きょ1週間後の日韓首脳会談で日本からスワップの約束を取り付けた」である。
(3)「韓国とのスワップは日本にとっても得」なのか?
日本がスワップを打ち切らない理由として、韓国各紙は「日本の得にもなっている」こともあげている。「当時、円高に悩んだ日本が何とか円安に持っていこうと、韓国に積極的にスワップを求めた」(朝鮮日報8月17日付)。
もし、韓国がスワップを行使し円を借りて対外支払いに充てる際にはドルに替えるので、円安・ドル高要因になる、という理屈だ。
日本でも、外務省など経済に明るくない組織に「スワップによりウォンの急落に歯止めがかかった。円高に悩む日本の利益になった」と胸を張る人が多い。
確かに2011年10月初めに1ドル=1200ウォンまで急落したウォンは、スワップ後に同1150ウォン前後に戻り、今もその付近で動いている。
しかし、2011年の通貨危機直前の9月には同=1060ウォン台で、現在と比べ10%前後もウォン高だった。ウォンは「米ドルに対し弱含んでいる、アジアでは珍しい通貨」だ。
韓国政府がウォン安方向に誘導し過ぎると、オーバーシュートして急落につながる可能性があった。それが、スワップにより外貨繰りに不安がなくなったため、思うままにウォン安を維持できている――。最近1年間のウォン相場をこう分析する市場関係者もいる。
8人で戦う羽目に陥ったサッカーのチームはディフェンスラインを後ろに下げざるを得ない。もし、3人の応援を得れば前に出せるのと似ている。「韓国とのスワップは日本の得になる」とは言い切れないのだ。
(4)本当に「韓国にとってスワップは不要」か?
韓国における「日本のスワップ不要論」の最大の根拠は「韓国には莫大な外貨準備があるから」だ。17日付の韓国各紙の主張はほぼ同じだった。
「我が国は7月末現在、世界第7位の3143億ドルの外貨準備を誇る。これに加え、中国との間に560億ドル相当のスワップ枠がある。CMIからも384億ドル引き出す権利を持つ。日本とのスワップ以外に事実上、4087億ドルの外貨準備がある。だから日本からの570億ドルの枠がなくなってもたいしたことはない」(朝鮮日報)。
ホットマネーに支えられた外貨準備
もっとも市場はそうは見ていない。だからこそ“韓国売り”がしょっちゅう起こるのだ。外貨準備の3100億ドルは経済規模に比べ多いかもしれない。しかし、韓国の場合、外から大量にホットマネーが入り込んでおり、危機の際にはそれが一斉に逃げ出す。他国以上に多くの外貨準備が必要で、ホットマネーの量を考えた場合、必ずしも十分とはいえない。
韓国銀行は「2009年第2四半期から2010年末までに、途上国平均と比べGDP(国内総生産)対比で2倍のホットマネーが入り込んでいた」(金融安定報告書・第18号=2011年10月発行)と分析している。
もう1つは外貨準備が本当に使えるのか、という疑問だ。外貨準備の相当部分が米住宅金融公社の社債など「すぐに現金化しにくい」債券で運用されていると市場は見ている。
実際、韓国の金融当局は「外貨準備の多くを高金利の債券で運用し国富を増やしている」と2006年の国政監査で国会議員に誇り、新聞もそれを称賛していた。
(5)市場はなぜ、これほどに韓国を疑うのか?
「CMIに384億ドル分、引き出す権利を持つ」という韓国の説明にも市場は首をかしげる。なぜなら、そのうち70%はIMF(国際通貨基金)の救済条件を受け入れて初めて引き出せるからだ。
1997年の経済危機で韓国はIMFの指令により、倒産が多発し失業者が街にあふれた。韓国人にとってIMFへの救済申請はタブーである。そもそもIMFに頼るつもりがあるなら米国や日本、中国、あるいはCMIのスワップには期待しない。
一方、世界の投機家も韓国人のトラウマを知っていて、IMFに駆け込まないと考えているからこそ、安心して韓国に通貨攻撃をかけるのだ。
市場の懸念はさらにある。「韓国全体で外貨が足りても、特定の金融機関がオーバーナイトの資金ショートに陥って、韓国全体の信用が毀損するケース」という想定だ。
国内でドルを貸し借りし合っている
韓銀の金融安定報告書・第18号の31、32ページに驚くべき記述がある。2011年7月末現在、韓国の金融機関が保有する外貨建て債券のうち、危機時に現金化が容易な先進国の国公債は全体の0.5%に過ぎず、50.3%が韓国のほかの金融機関が発行した債券だった。国の内側でドルを貸し借りし合っているわけで、報告書は「危機時には信用リスクが一斉に拡大する構造だ」と警鐘を鳴らした。
報告書のこのくだりは図付きだ。仮名ながら9つの銀行がドル建て債券をどれだけ引き受け合っているか線で示してある。その線はまさに網の目のように交わっている。
(6)日本に「融和」を呼びかける社説があるのはなぜか?
青瓦台など政府のレクチャーを受けて書いたと思われる記事は、ひとことで言えば「スワップを止めたいなら止めてみろ」との日本への挑発だ。
一方で、社説の中には「日本との融和を呼びかける」ものもある。韓国の経済専門家はさすがに自身の金融システムの弱点を知っているからだろう。
8月17日付朝鮮日報の社説の見出しは「韓日、報復と再報復の悪循環を変えられるか」であった。韓国の地方紙・毎日新聞の16日付社説は「通貨スワップ再検討、日本は理性を持て」だ。
後者の見出しは韓国紙らしく“上から目線”だが、本文では「韓国には通貨危機トラウマがあるので(スワップの中断により)金融・外為分野で相当な心理的萎縮が予想される」と韓国の金融システムの弱点も素直に明かしている。
経済専門家の弱気の理由は韓国の構造的弱点だけではない。まさに今、韓国が再び通貨危機に陥る可能性が高まっているからだ。(「少子高齢化の韓国、ついに日本型デフレ突入か」を参照)。
7月の輸出は前年同月比で8.8%も急減した。欧州や中国の景気悪化が響いて来たのだ。韓国の通貨危機は貿易赤字が引き金となることが多い。同月は黒字を出しているが、黒字幅は小さくなり続けており、資本逃避→通貨危機への不安が増している。
また、同月には小売販売額が減少するなど、内需の低迷もはっきりしてきた。これを受け不動産バブル崩壊の可能性も語られ始めた。外からの通貨攻撃と、国内の金融システムの毀損という内外2つの要因が重なって経済危機に陥った1997年の状況とだんだん似て来たのだ。
内需低迷は単なる景気循環ではなく、少子高齢化の前駆現象とも見られている。それだけに通常の金融・財政政策での解決は難しい。
こんな不安を抱える時に、日本からのスワップが打ち切られると、ちょっとしたことで市場が揺らぎ、一気に本当の危機につながるかもしれない。
欧州の金融の動揺はまだ続きそうだし、中近東で戦争が始まる可能性も高まっている。
(7)韓国はどうしのぐ?
ただ、日本が通貨スワップ打ち切りを検討し始めたことが明らかになった後も、韓国ウォンは動揺していない。理由は2つ。日本は「おとなしい国」と思われており、本当にスワップを打ち切るのか市場が疑っていること。2つ目は「韓国危機」がまだ、懸念の段階にあることだ。
貿易はまだ黒字だし、不良債権問題も表面化していない。外資は「韓国がきな臭くなってきたな」とは考えているものの、逃避の引き金となる信号弾は上がっていないのだ。
こうした状況から見て、日本は韓国経済の地合いが悪くなっていくのをにらみながら、時々スワップ打ち切りを匂わせ、韓国政府に孤独なウォン防衛戦争を強いる作戦に出るのではないか。
輸出額の積み増しや中国からの支援でしのぐか
もちろん、韓国も必死で対抗策を打つだろう。注目を集める貿易統計に関しては輸出額を“粉飾”して黒字を維持する手口がある。例えば、自動車メーカーや製鉄会社に増産させ、それを海外子会社の在庫として持たせれば、統計上は輸出と黒字が増加する。
外貨繰りに関しては、信用力の高い製造業に円建て債を発行させ、日本で外貨の確保に乗り出せばいい。2011年秋にも韓国はこの手を使った。
それで足りなければ中国にスワップの増額を頼みこむ、あるいは米国に新たにスワップを結んでくれるよう哀願すればいい。中国は人民元の影響圏拡大につながるため、恩着せがましい態度を見せつつも最後は応じる可能性が高い。
李明博大統領は、竹島上陸や「日王への謝罪要求」で、日本の凋落と韓国の躍進を世界に示し、国民の喝采を得る作戦に出た。もし、スワップ打ち切りと言う日本の報復に対し上手に反撃できれば、錦上花を添えることになる。
逆に、韓国を困らせることに失敗したら、日本はさらに面子を失う。570億ドルのスワップ期限の10月末まで、両国は国の威信をかけて相手を傷付け合うことになろう。
・このコラムは隔週木曜日掲載ですが、今回は繰り上げて載せました。
・筆者の鈴置高史氏はシュミレーション小説『朝鮮半島201Z年』で「韓国が通貨危機に陥るものの竹島問題などで日本にスワップを結んで貰えず、結局は中国に救済される。これが引き金となって韓国は米国との同盟を解消し、中国の影響圏下に戻って行く」という不気味な近未来を描いています。
鈴置 高史(すずおき・たかぶみ)
日本経済新聞社編集委員。
1954年、愛知県生まれ。早稲田大学政経学部卒。
77年、日本経済新聞社に入社、産業部に配属。大阪経済部、東大阪分室を経てソウル特派員(87〜92年)、香港特派員(99〜03年と06〜08年)。04年から05年まで経済解説部長。
95〜96年にハーバード大学日米関係プログラム研究員、06年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)ジェファーソン・プログラム・フェロー。
論文・著書は「From Flying Geese to Round Robin: The Emergence of Powerful Asian Companies and the Collapse of Japan’s Keiretsu (Harvard University, 1996) 」、「韓国経済何が問題か」(韓国生産性本部、92年、韓国語)、小説「朝鮮半島201Z年」(日本経済新聞出版社、2010年)。
「中国の工場現場を歩き中国経済のぼっ興を描いた」として02年度ボーン・上田記念国際記者賞を受賞。
早読み 深読み 朝鮮半島
朝鮮半島情勢を軸に、アジアのこれからを読み解いていくコラム。著者は日本経済新聞の編集委員。朝鮮半島の将来を予測したシナリオ的小説『朝鮮半島201Z年』を刊行している。その中で登場人物に「しかし今、韓国研究は面白いでしょう。中国が軸となってモノゴトが動くようになったので、皆、中国をカバーしたがる。だけど、日本の風上にある韓国を観察することで“中国台風”の進路や強さ、被害をいち早く予想できる」と語らせている。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120820/235788/?ST=print
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