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長期失業が景気回復を阻害
2012年8月21日(火) J.ブラッドフォード・デロング
1930年代の大恐慌後、欧米では失業が長期化し、景気の回復を阻んだ。職を失った人はモノを買えない、モノが売れない企業は人を雇えない悪循環――。欧米は再び同じ道を歩みつつある。今こそ積極策を打つべきだ。
世界経済の現況がいかに厳しいものに映るにせよ、それは景気循環という1つのレンズを通して見た世界にすぎない。世界の平均寿命、世界の富、技術の全体的な水準、新興国の成長見通し、世界の所得配分など、別のレンズを通して見れば、世界を取り巻く環境は明るいものにさえ思える。
だが、さらに異なる角度――例えば、地球温暖化、国内の所得格差、それが社会の連帯感に与える影響など――から捉えれば、状況は予断を許さないように見える。
現状は恐慌の時よりはるかにまし
景気循環という視点から見ても、現在の状況は過去に比べれば、はるかにましだ。例えば、大恐慌の頃の惨状を考えてみてほしい。当時、経済は長期にわたる失業という重荷を背負わされて、自律的な回復を遂げることができなかった。
我々は、まだ、そこまでの段階には至っていない。しかし、だからといって大恐慌と無縁なわけではない。今後2年の間に、大恐慌の時と同じように、長期失業が景気回復の阻害要因となる公算が高まっているからだ。
1933年冬のどん底の時代、大恐慌に苦しむ経済は、堂々巡りに陥っていた。労働者は仕事がなく時間を持て余していた。企業が彼らを雇おうとしなかったからだ。企業が彼らを雇おうとしなかったのは、製品を作っても売れなかったから。そして、製品が売れなかったのは、労働者に所得がなく、消費することができないからだった。
その頃までに、失業者のかなりの部分が長期失業者となっていた。これは2つの事態をもたらした。1つは、不況は、職を失った人や失業状態から抜け出せなかった人たちにより深刻な影響を与えた。賃金の下落ペースよりも消費者物価の下落ペースの方が速かったため、仕事に就いていた労働者の生活の質は、大恐慌時にはむしろ向上した。不況は、人々の肩に平等にのしかかったわけではなかったのだ。
仕事への復帰難しい長期失業者
もう1つは、失業者が再び職を得ることが容易ではなかったことだ。何年も職に就いていなかった労働者の方が、新たに労働市場に参入した労働者よりも良い、と思う雇用主はほとんどいない。大量の失業者が最近発生した事実は、成長や雇用を通常の水準まで回復させることがいかに困難であるかを示している。
大恐慌に直面し、各国政府は様々な不況対策を取った。為替相場の切り下げ、財政再建、様子見など。だが、いずれも十分な処方箋とはならなかった。
オーストラリアのような高度に中央集権的に組織化された労働市場も、米国のように分散化した自由な労働市場も、長期失業問題を解決することはできなかった。イタリアが実施したファシスト的解決法も同様だった。
ただし、ファシスト的解決法とともに、急速な再軍備を進めたドイツだけは例外だった。
ワシントンで、“雇用切り捨て”に対応するよう議会に求める米国の市民たち
(写真:Xinhua/Landov/アフロ)
大恐慌後、戦争だけが雇用を拡大
米国において民間企業が受け入れ可能な賃金で長期失業者を雇うようになったのは、第2次世界大戦が近づき、軍事物資に対する需要が増加したからだった。
33年から本格的な戦時体制に入るまでの10年間に、なぜ長期失業問題を解決することができなかったのか。エコノミストたちは今日に至るまで、この理由を明確に説明することができずにいる。
労働市場の構造や制度の異なる国が、いずれも長期失業問題を抱えた。そして、どの国においても失業率は一向に低下しなかった。このことは、ある1つの事柄をもって長期失業の理由とする説は疑ってかかるべきだ、ということを示唆している。
大恐慌当時、長期失業者たちは、最初は熱心かつ勤勉に働き口を探した。だが、6カ月ほど経つと、仕事を見つけられなかった大方の人は意気消沈し、取り乱した。失業が12カ月に及ぶと、失業者の多くは、引き続き求職活動を続けたものの、諦め気分に陥った。そして失業期間が2年に達すると、自分が求職者の最後尾に並んでいることを自覚するようになり、すっかり希望を失って、事実上労働市場を去っていったのである。
これが大恐慌時の長期失業のパターンだった。80年代末に西欧を襲った長期失業のパターンもこれと同様だった。もう1〜2年すると、北大西洋を挟んだ欧米で、同じパターンが繰り返されることになるだろう。
失業、2年後では解決困難に
筆者は過去4年の間、現在の景気循環問題に対処するには、より積極的な金融・財政拡大策を取る必要がある、と訴えてきた。
これを実行すれば、我々が抱える最大の問題、すなわち長期失業は短期間で解決できるだろう。状況は今も変わっていない。だが2年後には、事態はより悪化しているに違いない。現在のトレンドに対して、急激かつ予想外の介入を行わない限り解決できない事態に陥る。
今の状況から判断すると、北大西洋を挟んだ欧米の労働市場が2年後に直面する問題が、需要サイドの問題である公算は小さい。需要サイドの問題ならば、景気・雇用に対して積極的にてこ入れすることで、容易に解決できるかもしれない。しかし、その可能性は低い。
2年後に直面する問題は、むしろ、市場が抱える構造的な課題であるに違いない。そうであれば、容易に採用できる直接的な政策で解決することは難しい。
国内独占掲載:J. Bradford DeLong © Project Syndicate
J.ブラッドフォード・デロング
米カリフォルニア大学(UC)バークレー校で経済学教授を務める。専門は経済史、マクロ経済学、経済成長。1987年、米ハーバード大学で経済学博士を取得。93〜95年、米財務省で政策担当の副次官補として活躍。ビル・クリントン政権における93年の予算編成のほか、ウルグアイラウンド、北米自由貿易協定などに携わった。
Project syndicate
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