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日本経済は神聖にして侵すべからず−「本土決算」というもう1つの戦後日本史
http://www.asyura2.com/12/hasan77/msg/350.html
投稿者 墨染 日時 2012 年 8 月 16 日 08:59:48: EVQc6rJP..8E.
 

http://blogos.com/article/44964/?axis=g:3

8月15日の終戦記念日。終戦から30年以上も経ってから生まれた自分にとってはもはや歴史の一部で、戦争や終戦は実感を持って語る事は出来ず、かといって研究や勉強の成果を発表出来るほど詳しくも無い。

そこで、1つの本を紹介したい。
「本土決算・よみがえる日本」という漫画だ。ベストセラーになったわけでも無いので、おそらく誰一人として知らない作品だと思う。フィクションではあるが、各章で歴代総理が主人公のような形で登場し、戦後日本のある一面を鮮やかに切り取っていて、自分の歴史観に大きな影響与えた作品でもある。

この本は戦争末期、ポツダム宣言を受け入れて敗戦を迎える所から始まる。本日紹介する本としては適当かと思う。

終戦直前の流れはまさに怒涛といっても差支えが無いほどに日々状況が変わっていた。ざっと調べても以下のよう流れだ。

7月26日 連合国軍がポツダム宣言を発表、日本に無条件降伏を迫る
8月6日 広島へ原爆投下
8月8日 ソ連が参戦 満州へ侵攻
8月9日 長崎へ原爆投下

このような中で日本は、ポツダム宣言を受託後も国体の維持(天皇陛下を中心とした国家の維持)がなされるのか、連合国軍側に確認をするが明確な返答を得られないまま、ポツダム宣言を受け入れる。

漫画ではこのくだりが第一章となっている。当時の「空気」を考えるとよく受け入れる事が出来たなとは思うが、敗戦時の総理、鈴木貫太郎は天皇陛下のご意向を受け、ポツダム宣言の受け入れに当たって軍部の説得に当たる。

徹底抗戦、一億総玉砕を覚悟して「本土決戦」を主張する陸軍大臣・阿南惟畿(あなみこれちか)に対し、総理は次のように説得する。

「阿南君、死ぬるばかりがご奉公ではありませんぞ。本土決戦は絶対にいけません。一億枕を並べて陛下の安泰がはかれましょうか? それこそ忠に似て大不忠ではありませぬか」
「一度負けたからといって負けっぱなしとは限りません。歴史上負けて尚国が興ったと言う事は多々あります」
「本土決算。本土決算をいたしませう」
「働くのです。一人でも多く生き残って働きぬくのです。生きて生きぬいて働きぬくのです。残された本土で一億一心勤勉なるアリのごとく、10年、20年、いや50年でも働きぬきましょう。そして米国を圧倒するのです。いつか日本の経済力を総決算し、米国を連合国を圧倒するのです 阿南くん、これが敗けて勝つということです」 
〜本土決算(詳伝社刊) P16〜P18より引用〜

これに対し、阿南惟畿は本土決戦の覚悟で突き進めば孫の時代には本土決算も成しうる日も来るかもしれない、強兵ではなく富国で国威を宣揚する、これも1つのやり方か……と納得して軍部の説得に当たる(※注・あくまでフィクションです)。

第二章では敗戦した日本がGHQの出した日本国憲法の草案を受け入れるかどうかで上に下にの大騒ぎとなる。本来の歴史ではこの草案を受け入れ、戦後の日本の方向性を決定付ける事になるのだが、フィクションであるこの作品では草案を拒否し、タイトルにもした憲法をワンマン宰相と呼ばれた吉田茂氏が発案する。大日本帝国憲法の「天皇陛下」の部分を「日本経済」と入れ替えたものだ。

日本国憲法 第1章 日本経済
 第1条 日本国は日本経済之を統治す
 第2条 日本経済は神聖にして侵すべからず
 第3条 日本経済は国の根幹にして統治権を総攬し此の憲法の条規により之を行う
 第4条 日本経済は国会の協賛を以て立法権を行う
 第9条 日本経済は陸海軍を統率す
 第10条 日本経済は陸海軍の編成及常備兵額を定む

マッカーサーはここまで徹底的な経済中心主義を取れば、戦争放棄、民主化が成し遂げられるだろうとこの提案を受けいれる。

これはある意味でパロディであり、皮肉でもあるのだが、このような経済中心主義を取ってきたおかげで日本は奇跡的な復興を遂げてハッピーになりました、というほど単純なストーリーではない。

「本土決算」は「本土決戦」の代わり、つまり敗戦と同時に始まった経済戦争でもあり、光が強ければ影も大きい、という側面を作者は繰り返し描写する。

朝鮮戦争による特需、再軍備の拒否、一過性で終わった60年安保、所得倍増計画を成し遂げた池田勇人氏の死去、公害への対応の遅れetc・・・。

正式に日本史や日本経済史を研究したわけでもない自分には筆者の見解・切り口がどこまで正しいのかは分からないが、新たな視点を得られた事は間違いない。

本書が刊行されたのは1999年末頃で、バブルが崩壊し、世紀末に向かって先行きが不透明な時期に書かれた作品だ。

日本は世界第二位の経済大国となったが、それにも関わらず人々は果たして幸せになったのか? 超長時間労とそれによる過労死、地価高騰で家も買うことが出来ず、経済発展の結果としてやってくる豊かさは実感出来ないまま、息切れしたところでバブルが崩壊した・・・と筆者は締めくくる。個人的には映画「バブルへGO」のようなバブルの時は皆元気で底抜けに明るかった、というお気楽なバブル観も好きなのだが、こういった見解も十分ありうると思う。

作品はバブルとその崩壊によって本土決算が終わり、次世代の子供たちはどのような日本を創っていくのだろうか・・・と答えは出さないまま終わりを迎える。

このように説明すると、何かクソまじめな勉強のための漫画のように思われてしまうかもしれないが、アマゾンで次のように紹介されている通り、泣いて笑えるエンターテイメント作品として仕上がっている。個人的にはドラマ化や映画化をして欲しい位の作品だ。

「ポツダム宣言受諾から憲法改正、講和独立、安保闘争、高度成長、学園紛争を経て現代に至るまでを、マンガで描く。笑いとペーソスで綴る戦後日本史の新解釈」(中嶋よしふみ)

 

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