http://www.asyura2.com/12/hasan77/msg/333.html
Tweet |
[FT]世界中で富裕層に逆風 格差は縮小に転じるか :日本経済新聞
(1/3ページ)(2/3ページ)(3/3ページ)
2012/8/8 7:00
(2012年8月7日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
政治家が納税者の愛国心に訴え始めるのが、良い兆候だったためしはない。フランスのピエール・モスコビシ経済相は、所得税の最高税率を75%に引き上げることを決めたフランス政府の決定を擁護して、ルモンド紙にこう語った。「これは懲罰的な措置ではなく、愛国的な措置だ」。同氏いわく、金持ちはフランスの財政問題の解決に「特別な貢献」を果たすチャンスを与えられたのだ。富裕層はさぞ感謝しているに違いない。
■欧米から中国まで広がるトレンドに
フランスは税率を近隣国よりはるかに高い水準に引き上げることで、明らかに大きな危険を冒している。しかし、オランド政権を時代遅れの社会主義者として描くのは間違いだ。フランスの新政府は、新しい世界的なトレンドの極端な事例なのだ。富裕層に対する国際的な逆風が、欧州や米国、中国で政治を変えつつある。
英国のデビッド・キャメロン首相は税金を逃れて移住してくるフランス人を、赤じゅうたんを敷いて歓迎すると語った。だが、最高税率が45%の英国ですら、富裕層への敵意が広がりつつある。保守系の政治家でさえ、銀行幹部の報酬を擁護しようとはしない。
一方、米国では、バラク・オバマ大統領が「百万長者や億万長者」に対する増税を掲げて選挙運動を繰り広げている。確かにオバマ大統領が望む増税は、フランスの標準からすると笑えるほど小幅だ。大統領は現在35%の最高税率を39.6%にすると同時に、キャピタルゲインと配当金にかかる税率の引き上げを求めている。
だが、オバマ大統領の発言には、オランド大統領がフランスで成功を収めた選挙運動と紛れもなく同じ響きがある。フランス社会党は、ニコラ・サルコジ氏の「きらびやかな」ライフスタイルと、大富豪との友達づきあいをことさら強調した。同じようにオバマ陣営は、税金を逃れる「1%」の代表者としてミット・ロムニー氏を攻撃し、ロムニー夫人が競技馬を所有していることをからかった。
■格差に敏感になる世論
米国人は伝統的に、金持ちを妬む代わりに称賛すると言われており、こうした作戦は危険に見える。だが、オバマ陣営は世論調査の数字を読んでいる。64%対33%の割合で、米国人の大半が年収25万ドル以上の層への増税を支持している。
富裕層とそれ以外の格差という政治的に敏感な問題は欧米に限った話ではない。お金と権力を持つ人々のライフスタイルは、今や中国の政治で最もデリケートかつ危険な話題だ。最近、ブルームバーグニュースのウェブサイトが中国で遮断されたのは、近く中国の国家主席になる習近平氏の一族の財産について記事を掲載したことに対する処罰と言われる。
数週間前にあった啓東市の汚染を巡る暴動では、地元の共産党幹部が着ている洋服のブランドを教えろと抗議者が要求して事態が悪化した。英国放送協会(BBC)は「高価なイタリアブランドだと知ると、彼らは幹部の服をはぎ取り、上半身を裸にさせたと言われる」と報じた。
なぜ、こんなことが起きるのか?エコノミスト誌のザニー・ミントン・ベドーズ氏が最近書いたように、「世界の市民の大多数は今、金持ちとその他の格差が1世代前より格段に大きくなった国々に暮らしている」からだ。そのトレンドが最も極端だったのが欧米だ。同氏が指摘するように、米国では「富裕層の上位1%に流れ込む国民所得の割合が、1970年代の8%から2007年の24%へ3倍に拡大した」。
■格差拡大の時代が終わりに
最終的に、こうした変化は政治的な反発を招かずにはいられない。その引き金になったのは、一般市民の生活を圧迫する一方でトップ層の不正を暴いた「グレート・リセッション(大不況)」だ。オバマ大統領からオランド大統領まで、欧米の政治家はこの新たなムードをうまく捉え、導こうとしている。大不況の打撃がそれほど大きくなかったアジアでは、ほかの要素が働いているかもしれない。インターネットとマイクロブログの台頭で情報を広めやすくなり、追い詰められた労働者と大金持ちの格差に対して怒りをかき立てるのが容易になった。
新たなムードが一層強まれば、70年代終盤に欧米ではマーガレット・サッチャーとロナルド・レーガンの両氏、中国ではトウ小平氏の政権獲得で始まった、減税と規制緩和、格差拡大の時代が終わりを告げるかもしれない。サッチャー氏が79年に首相に就いた時、英国の最高税率は83%だった。彼女はこれをまず60%、さらには40%へ引き下げた。この水準は金融危機まで続いた。前政権から70%の最高税率を引き継いだレーガン氏は、それを50%に引き下げ、最終的には28%にした。中国では、「金持ちになることは素晴らしい」と語ったトウ小平氏の言葉が時代の精神をうまく捉えていた。
■30年ぶりに訪れた激変期
今や世界中に新たなムードが広がった。中国では、政治指導者が富を素直に称賛するのを控えている。欧米では、財政運営に苦しむ政治家が嫌われ者になった富裕層に熱心に増税を課そうとしている。大きな疑問は、グローバル化した世界でこれがまだ可能かどうかだ。キャメロン首相の軽率な赤じゅうたん発言が浮き彫りにしたように、税率をいきなり大幅に引き上げる政府は、資本と企業の逃避を引き起こす恐れがある。大金持ちは移動をいとわず賢明だ。
だが、そこそこ裕福なだけの人は欧米各地の新たな増税措置を避けるのが難しいことに気づきそうだ。サッチャー氏が79年に破った当時の首相、ジェームズ・キャラハン氏は示唆に富んだ発言をしている。「恐らく30年に1度ほど、政治が激変する時がある」。サッチャー・レーガン時代の始まりからほぼ30年たった今、新たな激変期がやってきた。
By Gideon Rachman
(翻訳協力 JBpress)
(c) The Financial Times Limited 2012. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。