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小島明のGlobal Watch
8月9日 “OECD不況”とデレバレッジ
国際通貨基金(IMF)は7月の「世界経済見通し」で、先進国の2012年の実質経済成長率を1.4%、2013年のそれを1.9%と予測した。2011年実績は1.6%成長だったから、3年続きの1%台成長となる。2014年以降も先進国は高い成長が期待できそうもない。
とりわけ政府債務危機が銀行危機にまで発展しているユーロ圏の実質経済成長率は2010年1.9%、2011年1.5%、2012年マイナス0.3%。2013年0.7%で、目下マイナス成長である。日本は東日本大震災の影響で2011年はマイナス0.7%だが、2012年は復興需要もあり2.4%と予測されている。2013年は1.5%の見通しとなっている。
米国も2011年1.7%、2012年2.0%、2013年2.3%と低い成長が続く見通しである。金融政策はどの先進国も超緩和の基調だが、経済はなかなか加速しない。
世界経済全体をみると、新興経済は減速こそしているが相対的に高い成長率を維持し低成長の先進国と高い成長率の新興経済という形での“ツースピードの世界経済”が続いている。
このツースピード経済をデカップリング現象だという人もいるが、重要なのはそうした成長率格差の基本的な背景である。
債務経済の長期にわたる調整
ユーロ圏の現在のマイナス成長も、単なる景気下降という循環的な側面としてみてはならない。また、欧州の政府債務危機、金融機関の不良債権問題とデレバレッジ現象は、ユーロ圏だけの問題ではない。ユーロ圏に入っていない英国も同様だし、さらにリーマン・ブラザーズの経営破綻で金融危機が表面化した米国もそうである。1990年代以降の日本も同様である。
共通するのは「債務」の過剰と、その調整であり、現象面でのデレバレッジ、金融機関の貸し渋りである。
もちろん、債務過剰の現れ方は国によって違う。日本は企業部門が借金で不動産関連投資をやりすぎて過剰債務が企業部門中心に発生した。米国ではサブプライム・モーゲージ(信用度の低い借り手への住宅融資)の膨張を中心として家計部門に多く発生した。ユーロ圏のうち、債務危機が深刻な南欧諸国では政府が借金し過ぎた。過剰債務の現われた部門は、こうして事業会社、家計、政府と違いはあっても、債務が膨らむ過程で民間金融機関の融資(政府債務の場合は国債の購入)が膨張したから、その調整過程は金融機関のバランスシート調整に直結し、貸し渋りが発生する点で共通する。
日本の場合は、円がローカル通貨であるためと、日本の金融機関のデリバティブ・ビジネスも、証券化も進んでおらず、金融機関による不動産担保融資が中心だったから、日本の金融危機はほとんど日本国内にとどまった。ホームメードの金融危機であり、グローバルな影響はあまりなかった。
「ドルの特権」と、金融資本主義の暴走
現在の債務危機は先進国中心の債務危機である。その調整もまず先進国で始まった。G7を含む先進国クラブである経済協力開発機構(OECD )中心の債務危機とバランスシート調整、デレバレッジの進行である。
この過程では中央銀行の金融緩和政策が効きにくくなる。金融機関が積極的に融資しないからだ。日本銀行は金融の「目詰まり」についてよく議論したが、金融の目詰まり現象は過剰債務を抱えたOECD経済共通の現象となっている。
貸し渋りを反映して銀行の預金に対する貸し出しの比率(預貸率)が米国でも欧州でも日本でも顕著に低下している。欧州の銀行の場合、伝統的に預金より貸し出しが多く、預貸率が120〜130%もあった。それが最近では100%程度にまで低下している。
日本の場合は預貸率が最近では70%程度しかない。米国でも貸し渋りが表面化し、連邦準備理事会(FRB)は銀行融資の目詰まりを解消するための政策を考えざるを得なくなっている。
近年、グローバル・インバランスをめぐる議論が活発である。これは世界の国際収支構造において米国が圧倒的に大幅な経常収支赤字国であり、その他の国の多くが黒字、という格好で両極化している現象を指す。米国の赤字はもう何十年も続いている。その結果、世界の国際収支構造の分極化が限度を越えて進み、持続可能性への懸念が増大し、しばしば、それがドル急落を伴った通貨不安に発展してきた。
実は、グローバル・インバランスの拡大過程は米国の対外的な債務の膨張過程であり、ドルという国際通貨が大量の世界にばら撒かれる過程にほかならない。
1971年にドルは金との交換性を停止した。第二次大戦後の国際通貨制度はブレトンウッズ体制と呼ばれるが、それはもともと固定相場制であり、金融は自由でなく管理された。米国もドルは金との交換性を持つ、つまりドル債権を持つ外国から金への交換を求められたらそれに応じなければならないという義務が課されていた。
その義務が1971年をもって消滅した。理屈の上ではドルも他の通貨と同格のペーパーマネーとなった。だが、いまだにドルは金交換性を有していた時からの特別の地位、特権を持っている。その特権を世界も認め続けたから米国は経常収支赤字を放置し、固定制の時代には義務付けられていたマクロ経済政策調整から解放され、結果として赤字垂れ流しを続けるモラルハザードを生んだ。
そうしたモラルハザードに金融自由化、さまざまな金融派生商品を生む金融工学が重なってサブプライムローン問題を生み、その歪みがドル特権に乗って世界、特に先進国に波及した。
ソロスの診断
1997年のアジア通貨危機直後の1998年1月にスイスのダボス会議に参加した際、朝食会でジョージ・ソロス氏と隣あわせになった。ソロス氏は「この危機はアジアの危機ではない。金融が肥大化したグローバル金融資本主義の危機だ」と言い、直後に出版した著作のエッセンスをこう語ってくれた。「金融の世界では実体経済とは異なり、新古典派経済学的な均衡論が適用できない。お金の価格である、金利や為替レートは理論的な均衡点からいくらでも乖離し、しかもその水準が瞬時に大きく変動し、実体経済に打撃を与える」。彼は、それへの対応は「金融の取引を規制するしかない」と言っていた。
しかし、先進国(それはOECD経済と呼んでもいい)では、金融がアジア危機後むしろいっそう自由になっていった。OECD経済では金融のレバレッジが極端に大きくなり、気がついてみると過剰な債務経済が生まれていた。
世界経済の調整はOECD諸国のバランスシート調整として進行している。この間、デレバレッジが続く。金融政策における「目詰まり」はOECD経済に共通した現象であり、しかも日本の経験が示唆する通り、調整は長期にわたる。
米国経済について月々の雇用統計などを市場エコノミストは克明に分析しようとするが、債務経済の調整という視点でみると調整期はなお数年単位で続くと考えざるを得ない。欧州の債務経済の調整も同様に、長期に及ぶだろう。
高成長の新興経済もOECD不況の影響を間接的に受ける。それは中国をはじめ、新興経済が過剰消費(過剰輸入)、過剰債務のOECD市場への輸出に依存した経済成長を続けているためだ。新興経済はOECD経済のモラルハザードの受益者だった、
(2012年8月9日)
(日本経済研究センター参与)
※2011年7月に本サイトのコラム名が(旧)「小島明のWEBコラム」から(新)「小島明のGlobal Watch」に変わりました。
本サイト右上のバックナンバーの内、11年5月18日までは、掲載当時に「小島明のWEBコラム」としてご紹介した内容です(WEBコラムは11年5月18日で終了しました)。
(新)「Global Watch」のバックナンバーはこちらのページをご覧ください。
http://www.jcer.or.jp/column/kojima/index389.html
3.今月のトピック:なぜ非製造業の収益力が高まっているのか
〜背景には大企業非製造業のグローバル化〜
輸出の伸び悩みなどによって製造業では業績改善が遅れている一方で、非製造業ではこ
のところ業績が順調に改善してきている。6 月調査の日銀短観においても、大企業製造業
の業況判断DIが−1 と依然としてマイナス圏内にあるのに対し、大企業非製造業では+8
とすでにプラスに転じている。こうした両者の違いは、足元の景気が内需主導で回復して
いる結果によるものと考えていいのだろうか。それとも、さらに別の原因があるのだろう
か。今月は、非製造業の収益力が向上している原因、および今後さらの高まることが可能
なのか検討してみた。
(1)高まる非製造業の収益力
@非製造業の利益は高水準を維持〜背景には利益率の上昇
法人企業統計(季報)で製造業、非製造業の経常利益(年度)の水準をみると、リーマ
ンショックの影響などで2008〜2009 年度に両者とも大きく落ち込んだ後、2010 年度には
両者とも急速に改善した。しかし、製造業では2007 年度の水準を回復していないのに対し、
非製造業では2007 年度の水準をすでに上回っている(図表1)。さらに、2011 年度には東
日本大震災の影響もあって両者とも減益となったが、非製造業の落ち込みは軽微にとどま
り、引き続き高い水準を維持している。両者のこうした違いは、何に起因するものなので
あろうか。
非製造業の売上高の推移をみると、2006 年度に過去最高額に達した後は水準が切り下が
っており、経常利益が回復した2010〜2011 年度においても低迷が続いている(図表2)。1
社あたりの売上高でみると、過去20 年間においては最低水準の状態にある。決して売上高
の増加が利益の押し上げに貢献しているわけではなさそうだ。
図表2.非製造業の売上高と1社あたり売上高
売上高が伸びない中で経常利益が増加していれば、当然のことながら収益力(売上高経
常利益率)が高まっているということになる。非製造業の売上高経常利益率の動向をみる
と確かに上昇傾向にあり、製造業がリーマンショックの後に経常赤字に陥り、その後も水
準が戻ってきていないこととは対照的である(図表3)。なお、2012 年1〜3 月期の非製造
業の売上高経常利益率は、法人企業統計(季報、季節調整値)ベースでは過去最高水準に
上昇している。
図表3.売上高経常利益率〜非製造業では過去最高水準
A企業規模別の利益率〜2000 年頃から格差が拡大
もっとも、非製造業の収益力が高まっているとはいっても、企業規模別にみると状況は
変わってくる。法人企業統計(年報)で製造業、非製造業の企業規模別の売上高経常利益
率をみると、2010 年度時点において最も高いのが大企業非製造業(資本金10 億円以上)
である(図表4)。2 番目の水準が大企業製造業であり、中堅企業製造業(資本金1 億円以
上、10 億円未満)がそれに続く。社数において最大シェアを占める中小企業非製造業(資
本金1,0000 万円以上、1 億円未満)では、最も低い水準にとどまっている。非製造業で収
益力が高まっているのは、実は大企業だけに当てはまる傾向に過ぎない。その半面、日本
の企業の多くのシェアを占める中小企業非製造業においては、収益力は1990 年代後半の最
悪期から小幅改善するにとどまっている。
こうした企業規模間の収益力の格差は、非製造業においては2000 年度ころから拡大して
きている。1990 年代後半までは、大企業と中小企業の格差はおおむね同程度での推移が続
き、中堅企業と中小企業ではほとんど格差がない状態にあった。
図表4.業種別・規模別の売上高経常利益率
非製造業における企業規模間の収益力の格差の拡大は、なぜ発生したのだろうか。格差
の拡大し始めた2000 年度から2010 年度までの期間において、企業規模別の売上高経常利
益率の変動要因をみたのが図表5である。
まず、どの企業規模においても共通しているのが、限界利益率の改善が進んでいる点で
ある。限界利益とは、売上高から変動費(非製造業の場合、主として商品の仕入原価、原
料費、外注費などが相当する)を差し引いたものである。2000 年度から2010 年度にかけ
て、こうした売上高に占める変動費の割合が低下したことが、非製造業の収益力の向上に
つながっている。また、非製造業においては、企業規模が小さくなるほど売上高に占める
変動費の割合が高いという特徴があるため、限界利益率の改善は中小企業により大きなメ
リットをもたらせたようだ。
なお、2000 年度から2010 年度にかけて、限界利益率は非製造業で改善した半面、製造
業では悪化している。図表6は、製造業における企業規模別の売上高経常利益率の変動要
因をみたものである。非製造業とは対照的に、限界利益率の悪化が収益力を押し下げる要
因となっており、特に大企業で押し下げ幅が大きい。こうした製造業の限界利益率の悪化
分が逆に非製造業の限界利益率の改善につながった可能性がある。たとえば、製造業から
より安く仕入れた商品を、小売店などで販売する際に、仕入れ価格の低下ほどは販売価格
を下げない場合などが想定される。さらに、2000 年代は円高や海外からの安い輸入品の流
入によって、非製造業の仕入原価が圧縮されたという要因もあると考えられる。
図表5.売上高経常利益率の変動要因〜非製造業(1999 年度→2010 年度
次に、売上高に占める人件費の割合が上昇し、収益力を押し下げる要因となっているこ
とも共通点である。しかし、労働集約的な企業が多い中小企業においては売上高人件費比
率の上昇幅が大きく、収益力へのマイナス効果がより大きい。
状況が大きく異なるのは、営業外収益の動向である。大企業では収益力向上にとってプ
ラス要因だが、中堅企業、中小企業では逆にマイナス要因となっている。金利低下によっ
て受取利息が減少していることは同様であるが、後で説明するように、大企業では投資活
動が活発化し、2000 年度頃から投資資産の残高が大きく伸びており、そのリターンが営業
外利益を押し上げているのである。
なお、大企業、中堅企業で減価償却費が減少しているが、これは財務体質の強化を図る
ために有形固定資産を圧縮する動きが続いており、売上高に対する比率では2000 年度頃を
ピークに低下基調にあるためである(図表7)。一方、中小企業では足元では2000 年度頃
と同水準にとどまっており、このため償却負担は軽減されていない。
図表7.売上高有形固定資産比率
以上みてきたような収益力の格差は、結果的に経常利益やキャッシュフローの格差につ
ながっている。図表8のように、大企業では2000 年度以降に、キャッシュフローの水準が
高まっているが、中堅企業、中小企業では概ね横ばいにとどまっている。
(2)進む非製造業のグローバル化
@収益力の向上がもたらしたもの〜投資の活発化が進む
これまで見てきたように、大企業非製造業は、売上高が伸びない中にあっても収益力を
向上させることによって利益水準を高め、より多くのキャッシュフローを獲得するように
なってきた。それでは、大企業非製造業はこうしたキャッシュフローを何に使っているの
だろうか。
バブル崩壊後は、財務体質を強化するために余剰資金は積極的に債務の圧縮に利用され
てきた。しかし、最近ではそうした動きは緩やかになり、代わって、投資活動に振り向け
られるようになっている。図表9は、売上高に占める固定資産のうち、株式や公社債など
のその他の投資(固定資産=有形固定資産+無形固定資産+その他の投資)の割合を示し
ている。非製造業では固定資産として公社債を保有することはあまりないので、大部分が
株式、すなわち国内外の子会社や関連会社や資本提携先への投資金額を示している。中堅
企業、中小企業ではほとんど変化がないが、大企業では2000 年度頃から上昇ペースが高ま
り、2008 年度以降は売上高が落ち込んだこともあって急上昇している。
この結果、すでに指摘したとおり、大企業非製造業では子会社、関連会社からの配当金
を含む営業外収益が増加し、収益力を高める要因になっている。
図表9.売上高に占める固定資産のその他投資の割合〜非製造業
固定資産の「その他投資」の投資先であるが、その多くの部分が対外直接投資に回って
いる可能性がある。図表10 は海外に進出している企業数の推移をみたものであるが、2008
年度以降、世界的な景気の低迷の影響によって製造業ではほぼ横ばい推移にとどまってい
るのに対し、非製造業では従来と同じ順調なペースで増加している。
図表10.海外進出企業数〜非製造業では増加が続く
また、非製造業の海外進出企業の業種別内訳をみると、卸売業(主として商社)が活発
であるほか、このところサービス業、情報通信業、その他非製造業が増加するなど業種の
多様化の動きがみられる(図表11)。
図表11.海外進出企業の業種別内訳〜非製造業
このように、大企業非製造業では海外進出の動きが強まっているが、少子高齢化の進展
によって国内需要の伸びに限界が見込まれる中で、新たな収益機会を得ることが、その主
な理由である。こうした目的の実行を収益力の拡大が後押ししているのだ。
A高い海外の投資収益率〜グローバル化が収益の柱になる可能性
大企業非製造業の海外進出の動きが強まっているとはいえ、グローバル化が本国企業の
利益を押し上げる効果は依然として小さい。売上高に占める営業外利益(営業外収益−営
業外費用)の割合は製造業と比べて低水準にとどまっており、海外による本国企業利益へ
の貢献度は低い状態にある(図表12)。
図表12.売上高営業外利益率〜非製造業では低水準
もっとも、これは非製造業では中小企業の占める割合が高いためである。企業規模別に
見ると、大企業では緩やかに高まってきている(図表13)。図表5で見たとおり、グロー
バル化を進めている大企業においては、海外現地法人の稼いだ利益は、本国企業の収益力
の向上に貢献してきているといえる。
図表13.非製造業の売上高営業外利益率〜企業規模別の動向
さらに、非製造業の海外現地法人の売上高経常利益率は製造業を上回る水準にあり、そ
の収益力も高い。図表14 は、製造業、非製造業の海外現地法人の売上高経常利益率をみた
ものである。両者の売上高経常利益率はほぼ同水準であるが、収益力の極めて低い卸売業
(商社など)と収益が急変動しやすい鉱業(資源・エネルギー開発関連)を除いたベース
でみると、非製造業の収益力が極めて高いことがわかる。
図表14.海外現地法人の売上高経常利益率〜製造業を上回る高さ
以上みてきたように、非製造業全体でみると、グローバル化の企業収益への貢献度は依
然として小さいものにとどまっている。しかし、グローバル化を進めている大企業に限っ
てみれば、貢献度は徐々に高まっており、本国企業の収益力の向上に寄与している。少子
高齢化で国内需要の伸びに限界がある中で、今後も手厚い手元資金を使って海外進出を続
けていくことができれば、海外現地法人の収益の貢献度合いが一段と高まり、非製造業で
はさらに収益力が高まることが期待される。
(小林 真一郎)
http://www.murc.jp/report/research/detail.php?i=1518
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