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変額個人年金保険ではお金を殖やせない
保険コンサルタント 後田亨
2012/8/10 7:00日本経済新聞 電子版
「検討に値しないことがすぐにわかる。そういう意味では素晴らしい」。銀行の窓口で、ある外資系保険会社の「変額個人年金保険」のパンフレットを手にした感想です。
特定の保険会社に限ったことではありません。「変額個人年金保険」のパンフレットや提案書を見た時には、いつも同じ感想を持ちます。私が知る限り、貯蓄目的で案内される保険の中で、契約にかかる「コスト」が明らかにされている珍しい商品だからです。
今回入手したパンフレットでも、裏表紙を1枚めくって「諸費用」という項目を見るだけでわかります。
そこには
(1)契約時に「契約初期費」として、一時払い保険料の5%
(2)積立期間中および年金支払期間中に「保険関係費」として、積立金額に対して年率2.95%
(3)積立期間中および年金支払期間中に「運用関係費」として投資信託の純資産総額に対して、年率0.22%程度の費用が保険料から差し引かれる
――ことが明記されています。
運用関係のお仕事をなさっている方に、これらの費用についてお話したところ「すごいね、どうやってお金を殖やすつもりなのかな?」と笑われました。普通に考えると難しいだろう、というわけです。
たしかに、契約時に1000万円の保険料を一括払いした時点で、950万円まで元本が小さくなり、その後、毎年3%の運用実績があげられたとしても、「保険関係費」と「運用関係費」が計3.17%引かれて、マイナス0.17%になってしまう仕組みです。
パンフレットには、あくまで「イメージ図」であることを断ったうえで、積立期間中に一時払い保険料の120%が年金受取総額として保証されるケースが記載されていたりしますが、現実的とは言い難いイメージであって、子細に見るまでもないと思えます。
同時に、こうした即断が可能になる情報が明らかにされていることは「とても助かる」と感じます。商品を理解するために費やす時間も大きなコストだからです。
今のところ、「変額個人年金」のように、契約に要するコストが明示されている保険商品は、ほとんどありません。資産運用目的で案内される保険のみならず、コストの多寡は、商品価値を判断する上で重要なポイントになるはずですから、不可解かつ不親切なことだと思います。
では消費者はどうしたらいいのでしょうか? 私なりに「怪しい商品」を見分ける際、念頭に置いていることは一つだけです。「仕組みがわかりづらい商品は、基本的にダメ」ということです。
今回、取り上げた保険にも「基準保証金額」「ロールアップ保証金額」「ラチェット保証金額」など、一見しただけでは理解不能な用語が目立ちます。その時点で、「用語の理解に努める必要はなさそうだ。諸費用から確認しよう」と思ったものです。
たとえば、「基準保証金額」については、先の「イメージ図」に、積立期間1年の場合、一時払い保険料の最低101.5%保障とあります。「1年で1.5%の利息が付くのならば預金より断然有利では?」と反応する向きもあるかもしれません。
ところが、積立期間と年金受取期間の合計期間は25年という決まりがあるので、1年で1.5%お金が殖えたとしても、24年間にわたって分割でしか受け取ることができません。25年かけて100万円が101万5千円になるようなものです。喜ぶべき話でしょうか?
他の用語の説明は省きますが、「こんなものだ」と言い切っていい気がします。
総じて、仕組みがわかりにくい商品は、消費者にとって「割に合わない買い物」であることを隠すために、余計な手間暇がかかっているのだと思います。
もちろん、余計にかかる手間暇は、価格に反映されているはずです。近寄らないのが一番に違いありません。
後田亨(うしろだ・とおる) 1959年生まれ。1995年に日本生命に転職。2012年より保険相談室代表・(株)メディカル保険サービス非常勤顧問。2007年に上梓した「生命保険の『罠』」(講談社+α新書)で保険のカラクリを告白、業界に波紋を広げる。以後、主に執筆・セミナー講師・個人向け有料相談を手掛ける。近著に『がん保険を疑え!』(ダイヤモンド社)。このほか「“おすすめ”生命保険には入るな!」(ダイヤモンド社)、「生命保険のウラ側」(朝日新書)。メディア掲載多数。公式サイトhttp://www.seihosoudan.com/
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