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少子高齢化の韓国、ついに日本型デフレ突入か 成長率も14年ぶりに日本を下回る?
2012年8月9日(木) 鈴置 高史
ロンドン五輪の金メダルラッシュとは裏腹に、韓国経済がきしみ始めた。輸出に次いで内需も怪しくなってきたのだ。日本型デフレの兆候も現れている。ひょっとすると今年の実質経済成長率は14年ぶりに日本を下回るかもしれない。
輸出急減、景気失速の恐怖
韓国各紙の1面は毎日、自己賛美の記事で埋まる。韓国選手が金メダルを“量産”、その数は現地時間8月7日現在、中国、米国、英国に次いで4位だからだ。それとは対照的に、経済面では景気失速への恐怖が語られている。
まず、赤信号が灯ったのは輸出だ。7月の通関ベースの輸出(暫定値)は446億2200万ドルで、前年同月比8.8%減だった。年初からの輸出累計額も前年同期比でマイナスに転じた。船舶、鉄鋼製品、石油化学製品、携帯電話など主力製品の輸出が急速に落ち込んだためだ。これまで韓国の輸出をけん引してきた自動車の輸出も頭打ちになった。
韓国の成長の原動力は輸出だ。輸出額はGDP(国内総生産)対比で50%を超える。日本の10%台半ばと比べ、その輸出依存度の高さが際立つ。主エンジンの不調は、韓国では景気失速に直結する。
輸出不振は資本逃避→通貨危機への懸念もかき立てる。海外から外貨を借りて経済を回している韓国には常にこのリスクがつきまとう。昨年秋も、日本と中国にいざという時には外貨を貸してもらえるスワップ協定を結び、何とか危機を食い止めた。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120808/235430/zu01.jpg
赤字は通貨危機の引き金
1997年、2008年ともに、韓国の通貨危機は貿易赤字が引き金となった。今、韓国政府は貿易収支悪化に警戒を強める。しかし、7月1〜20日の速報値が、欧州に続いて中国、中南米への輸出も前年同期比でマイナスに転じるなど悪材料が噴出する。
7月の輸入は同5.5%減の418億7600万ドルで、27億4600万ドルの黒字を確保した。しかし、6月の49億900万ドルから急減した。6月までは輸出以上に輸入が減ることで貿易黒字が増える傾向にあった。しかし、7月に入って輸出入の減り方が逆転し、黒字が減り始めたのだ。
貿易黒字を確保するためには通貨、ウォンをさらに安めに誘導し輸出ドライブをかける手がある。しかし、韓国は外貨不足という“持病”を持つだけに、下手すれば資本逃避の引き金となりかねない。
12年ぶりの低い物価上昇率
輸出不振に続き、急浮上した懸念材料が内需不振だ。これも7月に入って症状がはっきりと現れた。7月の消費者物価上昇率は前年同月比1.5%にとどまった。韓国としては12年2カ月ぶりの低水準だ。7月の自動車の国内販売が同4.5%減少したほか、小売売上高も6、7月と前月比でマイナスに転じるなど、消費の萎縮を反映した。
韓国の消費者物価上昇率(前年同月比)
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出所:韓国統計庁
現代経済研究院は8月2日「下半期の内需不況に備えよ」との報告書を発表。「輸出不振の影響で住宅建設、設備投資が急減し、消費も鈍化し始めた」と分析した。
6月の製造業の生産、出荷はそれぞれ0.3%、0.8%減じた。在庫も2.1%減少した。不況の到来に備え、企業が一斉に身を縮めているのだ。
経済規模の縮小は、韓国人に不良債権問題という“時限爆弾”の存在を思い出させた。2008年をピークに韓国の不動産価格はじりじりと下げている。
米サブプライムにも似る
1997年の通貨危機から韓国経済が立ち直った2000年代。韓国人は「地価は上がり続ける」という神話を信じ、借金してマンションを買った。多くが投機目的と言われる。韓国の住宅ローンのほとんどが初めの一定期間は金利だけを払う仕組みだ。不動産の値上がりを見込んだ、米国のサブプライムローンにも似た仕組みだ。
元本の返済が始まる前に値上がりしたマンションを売り抜ければサヤを稼げる。しかし、返済期を迎えた際に地価が大きく下がっていれば個人は借金を返済できず、金融機関が不良債権を抱えることになる。
金メダルラッシュで沸く8月3日、朝鮮日報はそれに冷や水をかける衝撃的な分析記事を載せた。
「住宅価格が昨年末に比べ7%下落すると、19万4000世帯が『限界世帯』(潜在的不良債務者)に陥る。所得の40%以上をローン返済に充てる『限界世帯』が借金を返せなくなれば、金融機関は新たに4兆ウォン(約2800億円)の不良債権を抱える。これは昨年の金融機関の純利益の半分に相当する」
「住宅価格が今後5年間に25%下落した場合『限界世帯』は43万7000世帯、不良債権は31兆ウォン(約2兆1000億円)それぞれ増える。そうなれば1997年の経済危機以上の打撃となる」
韓国でも不動産神話が崩壊
同紙によれば住宅バブルが激しかった首都圏の人気地域では、ピーク時と比べ30〜40%値下がりした物件が相次ぐ。新築マンションのうち売れ残り物件は全国に6万2200戸もあり、当初の分譲価格の30%下回る価格で投げ売りされるケースもある。
返済不能に陥った個人のマンションが競売に付された件数は、昨年、首都圏だけで3万戸弱に達した。世界同時不況の起きた2008年と比べても2倍に達する。
住宅取引も低迷する。今年上半期の取引件数は、過去最多だった2008年上半期の68%の水準にとどまる。「今、住宅を買っても値下がりするだけ」と皆が思い始めたのだ。韓国でもついに不動産神話が崩壊した。
政府系研究所の韓国開発研究院(KDI)も8月3日「家計部門の負債償還余力の評価と示唆点」という「懸案分析報告書」を発表した。
報告書は「今後の景気低迷や欧州危機の深化などを考慮し、最悪のシナリオに備える必要がある」としたうえで「返済不能の可能性が高い世帯の数が多いことに注目すべきだ」と警告した。
「韓国の世帯数は1757万世帯。この報告書から計算すれば、借金があり、かつ赤字の世帯は(21%弱の)365万世帯に達する」(朝鮮日報8月5日付)。
「今は1997年と同程度の危機」
韓国の家計の不良債権問題は以前から不安材料として語られてきた。例えば、経済危機のたびに“リリーフ投手”として起用され、火消しに成功してきた李憲宰・元副首相は以下のように語っている。
「(1997年の)通貨危機は企業発の危機で解決法が比較的簡単だった。しかし、現在の危機は家計の負債が原因であるため解決は容易ではない。当時並みに深刻な状況だ。今からでも短期中心の住宅貸し出しを中長期に替えるなど対策に力を入れるべきだ」(中央日報・4月19日付)
李憲宰・元副首相は「李明博政権は、外貨部門での危機再発を防ぐべきだという考えにとらわれて政策の優先順位を誤った」とも厳しく批判した。
不良債権の増加は徐々に進行するので危機感が起きにくい。また、解決には国民の負担を求めざるを得ない。政権も手を付けにくかった、ということだろう。それが今、経済の縮みが現実のものとなって、ようやく「“時限爆弾”が破裂するかもしれない」と皆が騒ぎ始めた構図だ。
ただ、李明博政権の任期は来年2月まで。任期末であるうえ実兄の収賄容疑も立件されるなどレームダック状態に陥っている。果たして政府がこの問題に本腰を入れて取り組むか、疑問視する向きが韓国では多い。
「日本型衰退の兆し」
「韓国経済に日本型デフレの兆候」――。朝鮮日報8月2日付の記事の見出しだ。7月の消費者物価上昇率が1.5%、というニュースの解説記事で「日本の後を追い、20年近いデフレの泥沼にはまるのではないか」と率直に懸念を表明した。
「不動産バブルが崩壊し、その後は少子高齢化により経済規模が縮小し続けた日本になってはいけない」が韓国人のコンセンサス。また、韓国のエコノミストには「少子高齢化こそが日本のバブル崩壊の原因だった」と見る人もいる。
その韓国も今、日本の1990年代と同様に少子高齢化時代を迎えた。生産年齢人口(15―64歳)は2016年ごろピークアウトする。そして、高齢化の速度は日本よりもはるかに速い(「『7番目の強国』と胸を張る韓国のアキレス腱」参照)。
そもそも、短期的な景気後退で不動産神話は崩壊しない。住宅価格が下がり取引が減っていることこそ、住宅を購入する年齢層の減少という少子高齢化の典型的な症状だ。
ことに韓国の場合、年金制度が未成熟のため、不動産の賃貸や転売で生活費を確保する退職者が多かった。今後、彼らが不動産を売りに出し、相場がますます下がると危惧する人も多い。
消費の低迷も景気要因だけではなく、少子高齢化が影を落とし始めたのかもしれない。
日本の成長率を下回る日
韓国銀行は7月13日、2012年の経済見通しを下方修正した。今年4月段階で、3.5%としていた実質経済成長率を3.0%に引き下げた。
内訳は、上半期の実績見込みが前年同期比2.7%、下半期は3.2%の予想だ。上半期だけ見ると、地震からの復興需要によって3.1%となった日本を下回った。しかし、日本の下半期は1.9%、通年でも2.4%にとどまるため、韓国は日本より高い成長率を維持する、という予想だ。
日本と韓国のGDP伸び率の推移
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120808/235430/zu03.jpg
出所:韓国銀行
注:2012年は前年同期比で予測
もっとも、世界の金融機関の中には韓国の今年の成長率を1%台と予想するところもある。肝心の韓国人自身が7月の数値を見て弱気になっており、韓銀も今後もう一段、見通しを下方修正するかもしれない(「『韓国も低成長期に』韓銀総裁が直言、2012年が転換点」参照)。
通貨危機が起きた翌年の1998年、韓国の成長率は日本を下回った。しかし、99年からは一貫して日本を上回る成長率を達成してきた。もし、今年、成長率で日本を下回れば14年ぶりだ。その時、韓国人は初めて「少子高齢化による衰退」を実感するのかもしれない。
鈴置 高史(すずおき・たかぶみ)
日本経済新聞社編集委員。
1954年、愛知県生まれ。早稲田大学政経学部卒。
77年、日本経済新聞社に入社、産業部に配属。大阪経済部、東大阪分室を経てソウル特派員(87〜92年)、香港特派員(99〜03年と06〜08年)。04年から05年まで経済解説部長。
95〜96年にハーバード大学日米関係プログラム研究員、06年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)ジェファーソン・プログラム・フェロー。
論文・著書は「From Flying Geese to Round Robin: The Emergence of Powerful Asian Companies and the Collapse of Japan’s Keiretsu (Harvard University, 1996) 」、「韓国経済何が問題か」(韓国生産性本部、92年、韓国語)、小説「朝鮮半島201Z年」(日本経済新聞出版社、2010年)。
「中国の工場現場を歩き中国経済のぼっ興を描いた」として02年度ボーン・上田記念国際記者賞を受賞。
早読み 深読み 朝鮮半島
朝鮮半島情勢を軸に、アジアのこれからを読み解いていくコラム。著者は日本経済新聞の編集委員。朝鮮半島の将来を予測したシナリオ的小説『朝鮮半島201Z年』を刊行している。その中で登場人物に「しかし今、韓国研究は面白いでしょう。中国が軸となってモノゴトが動くようになったので、皆、中国をカバーしたがる。だけど、日本の風上にある韓国を観察することで“中国台風”の進路や強さ、被害をいち早く予想できる」と語らせている。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120808/235430/?ST=print
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