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経済分析の哲人が斬る!市場トピックの深層
【第72回】 2012年8月8日森田京平 [バークレイズ・キャピタル証券 ディレクター/チーフエコノミスト],熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト],島本幸治 [BNPパリバ証券東京支店投資調査本部長/チーフストラテジスト],高田 創 [みずほ総合研究所 常務執行役員調査本部長/チーフエコノミスト]
穀物先物価格の急騰と消費者物価への影響 国際市況と政府売渡価格の「時差」に注意!
――森田京平・バークレイズ・キャピタル証券チーフエコノミスト
急騰する穀物の先物価格
米国での56年ぶりの大干ばつや黒海沿岸の穀物産地(ロシア、ウクライナ、カザフスタン)での高温・乾燥などから、大豆、トウモロコシ、小麦の先物価格が急上昇している(図表1参照)。中でも大豆とトウモロコシの先物価格は史上最高値を更新している。
「エンゲル係数」が重要に
穀物価格(食料価格)は主に家計の交易条件、すなわち購買力を左右する。家計の購買力が穀物価格の上昇に対してどの程度脆弱かを測る際、「エンゲル係数」が重要となる。
エンゲル係数は家計の消費支出に占める食料費支出の割合と定義される。したがって、同係数が高いほど、穀物価格ひいては食料価格の上昇によって家計の購買力は毀損しやすい。
食料のウェイトが高い日本のCPI(消費者物価指数)
一般にエンゲル係数は、所得水準が低い国ほど高くなるといわれる。しかし所得水準が高い先進国の中に、この係数が目立って高い国がある。他でもない日本だ。
エンゲル係数の代理変数としてCPI(消費者物価指数)における食料のウェイトを見てみよう(図表2参照)。米国やユーロ圏17ヵ国はいずれもこのウェイトが14%程度と低い。ところが日本は25%と米国やユーロ圏の2倍近くの高さであり、インド(24%)、インドネシア(24%)、メキシコ(23%)などの途上国よりも高い。
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次のページ>> 小麦の価格決定の特徴は、政府による売渡制度
もちろん、日本の家計が米国やユーロ圏の家計の2倍近くの量の食料を消費しているとは想像できない。むしろ日本では、食料価格が他の消費財・サービス価格と比べてかなり割高になっていることが示唆される。
平時であれば、食料のウェイトが高いという意味での日本と途上国との類似性は問題にならない。ところが足下で見られる穀物価格の急騰を考慮すると、今後の景気や物価を展望する上ではこの類似性は無視できない。
直接的に影響する小麦
大豆、トウモロコシ、小麦のうち、国際市況が日本のCPIに直接的に影響しやすいのが小麦。第1に、小麦はトウモロコシほどではないものの輸入依存度が高く、国内需要の91%が外国産小麦によって賄われている(食用大豆は78%、トウモロコシは98%(いずれも2010年度))。これは、国際市況が国内物価に波及する間口が広いことを意味する。
第2に、CPIにおける小麦製品のウェイトが高い。小麦粉、パン、めん類、カステラ、ケーキ、ビスケット、調理パスタ、一般外食(うどん、中華そば、スパゲティ)を小麦製品とすると、CPIにおけるウェイトは256(万分比)となる。これは、大豆製品(豆腐、油揚げ、納豆、しょう油、みそ)の53、トウモロコシ製品(スイートコーン缶詰、生鮮肉、鶏卵)の182より高い。
小麦の価格決定の特徴
政府による売渡制度
小麦固有の価格決定制度も無視できない。日本では小麦の輸入は政府によって一元的に行なわれる。このようにして輸入された小麦を、政府は自らが決めた売渡価格で、製粉業者などの国内メーカに売り渡す。
その際の売渡価格の決定は、2007年4月以降、相場連動性に移行している。この制度では、政府は当面4月と10月の年2回、売渡価格を改定する。その際、価格改定月の3ヵ月前から遡って8ヵ月間の買付価格に、港湾諸経費や一定のマークアップを上乗せして売渡価格が決められる。
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「時差」に注意!
この制度によって、小麦の政府売渡価格は国際市況に遅行して連動することになる(図表3参照)。しかも、6月半ばから始まった小麦先物価格の急騰は、タイミングの問題から10月の売渡価格の改定では十分反映されない可能性もある。その場合、2013年4月の改定で反映されることとなる。
また、政府売渡価格と小麦製品価格(CPIベース)は相場連動性が採用された2007年以降、比較的連動性が高い(図表4参照)。小麦の国際市況がCPIにどのように影響するかを見る上では、国際市況と政府売渡価格の間にある「時差」に注意する必要がある。
影響限られる大豆
前述したように、小麦と比べると大豆製品やトウモロコシ製品のCPIにおけるウェイト(万分比)はそれぞれ53、182と比較的小さく、CPIに対する直接的な影響は限られる。その上で、大豆の先物価格と大豆製品価格(CPIベース)の動きを見ると、両者の連動性が小さいことがわかる(図表5参照)。
2000年代に入ってから先物価格は上昇傾向にあるが、大豆製品価格(CPIベース)はじりじりと下がってきた。こうした状況を踏まえると、足下で見られる大豆先物価格の史上最高値更新のCPIへの影響は限られると見ておいてよさそうだ。
飼料価格を通じて
影響するトウモロコシ
一方、トウモロコシについては先物価格と製品価格(CPIベース)に比較的安定した連動性を見出すことができる(図表6参照)。ただし、これは先物価格が直接的にCPIに影響しているというよりも、飼料価格を通じた影響が大きいことによる。
次のページ>> 穀物先物価格の影響は、サプライズを起こしやすい
日本が輸入している飼料用穀物は、主にトウモロコシ(2011年度輸入量1059万トン)、こうりゃん(129万トン)、大麦(114万トン)、小麦(45万トン)などであり、特にトウモロコシの位置づけが高い。
実際、配合飼料の原料としてトウモロコシは50%を占めており、大豆油かすの15%を大きく引き離している。そのため配合飼料価格は、トウモロコシ先物価格の影響を受けやすい(図表7参照)。
CPIにおいて、この配合飼料価格に左右されやすいのが生鮮肉と鶏卵。特に生鮮肉価格は、配合飼料価格と強い相関を有する(図表8参照)。結果的に、トウモロコシ先物価格は飼料価格を通じて、生鮮肉や鶏卵の価格形成に影響力を持つ。
輸出規制を導入する
国が現れるか?
以上のように、足下で急騰する穀物先物価格のCPIへの影響を探ると、直接的な影響の大きさという点で小麦、飼料を通じた間接的な影響という点でトウモロコシが注目される。
しかも、今後は単なる価格上昇だけでなく、穀物の輸出規制を導入する国が出てくる可能性にも警戒しなくてはならない。現時点で輸出規制を導入した国はないが、仮に輸出規制が始まった場合には2008年同様の国内CPIの上振れリスクが頭をよぎる。
穀物先物価格の影響は
サプライズを起こしやすい
また、政府の小麦売渡価格や飼料価格の変化を通じて影響が現れることから、穀物先物価格がCPIに影響するには1年程度の時差が生じる。原油価格と比べると、穀物価格のCPIへの影響は控えめだが、この時差により、忘れた頃にCPIへの影響が表れやすい。サプライズを起こしやすいという点では、穀物価格の影響は無視できない。
質問1 穀物価格の高騰は、日本に深刻な物価上昇圧力を招くと思う?
思う
思わない
どちらとも言えない
http://diamond.jp/articles/-/22763
選挙前の日米に見る危うい国庫の資金繰り
米国では昨夏に与野党の対立で政府の債務上限引き上げが難航、歳入不足による政府機関閉鎖の恐れが一時高まり、金融市場は動揺した。今年の秋もそのリスクは存在したが、7月31日に、議会の共和党、民主党幹部が来年3月まで政府支出を継続することで合意した。政府機関の閉鎖はひとまず回避される見通しだ。
11月の大統領選挙前に去年のような混乱は避けなければならないという判断が米議会に働いた。世論調査を見ると、米国民の議会に対する評価は非常に厳しい。ギャラップ調査では、議会の仕事を評価する人は、1974〜2004年の平均は40%超だったが、今年7月はわずか16%である。
与野党の対立で政府支出に支障が出るリスクは日本にも存在している。赤字国債を今年度発行するために必要な特例公債法案がまだ成立していないからである。
今年度の一般会計の歳入は90.3兆円だが、租税・印紙税収入見込みは42.3兆円しかない。約41兆円が赤字国債発行による歳入となる。それが発行できない状態が続くと、10月中に政府の手元資金は底を突き、11月以降は予算執行に問題が出る模様である。
短期的なつなぎとして財務省証券(国庫短期証券の一種類)を発行して資金調達すれば、国庫からの支払いは11月以降も継続できるはず、という見方が金融市場ではよく聞かれる。しかし、政府は、そのための財務省証券の発行は行わないつもりのようだ。
次のページ>> 財務省証券を発行するには、筋論として「当該年度の歳入」の当てが必要
財政法第7条は、「国は、国庫金の出納上必要があるときは、財務省証券を発行して又は日本銀行から一時借入金をなすことができる」としている。しかし、同条第2項で、「前項に規定する財務省証券及び一時借入金は、当該年度の歳入を以て、これを償還しなければならない」と定めている。
つまり、財務省証券を発行するには、筋論として「当該年度の歳入」の当てが必要である。「国会で特例公債法案は承認されていないが、いずれ承認されるはずだから、財務省証券を発行してしまおう」と政府が考えるなら、それは国会の意思を超越することになる。
仮に9月8日の延長国会の期日までに同法案が成立しないと、状況はかなり厳しくなってくる。影響度が大きい法案だけに、野党がそれを解散の駆け引きに使いたくなる気持ちも理解できるが、政府の支払い能力に疑問符が付けば、それをきっかけに国債市場が動揺するリスクも考えられる。特例公債法案をめぐる与野党間の攻防は近年は「年中行事化」しつつあるが、それは壮大な「度胸試し(チキンレース)」の面がある。
(東短リサーチ取締役 加藤 出)
http://diamond.jp/articles/-/22755
#日本の国内食糧価格は、流通・生産コストや、農業補助金などで、かなり割高いから、
CPIへの寄与が高いとしても、
穀物価格高騰が、即影響するわけではないし、円高でも相殺されるが、今後、特に低所得層では決して無視はできない
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