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若年層の生活意識と消費実態
〜厳しい経済状況の中、生活満足度の高い若者たち、その背景は?
生活研究部門 研究員 久我 尚子
(03)3512-1846 kuga@nli-research.co.jp
1――若年層をとりまく厳しい環境?
日本経済の低迷による雇用情勢の悪化、高齢化
の進行による社会保障制度の世代間格差。現在の
日本では若者たちの将来に対して明るい見通しを持
つことは難しい。
若年層の非正規雇用率は、1990 年代後半から大
きく上昇している(図表1)。2011年時点で15〜24歳
の半数は非正規雇用者として不安定な立場で働い
ており、従来は大半が正規雇用者であった25〜34
歳の男性でも非正規雇用率は15.7%にのぼる。大
学・短大卒業者の就職内定率は金融危機以降、低
下し(図表2)、就職浪人をする学生も出ている。
一方、高齢化はさらに進行する見込みであり、現
在は1人の高齢者を3人の現役世代で支える構造だ
が、2030 年には2人で1人、2055 年にはほぼ1人で
1人を支えるようになっていく。
このような中では若者たちを取り巻く経済状況は厳
しくなるばかりだ。
以前、拙稿「若年層の経済的余裕感」1にて、若年
層の暮らし向きの実感を分析したところ、経済的余裕
感は正規雇用者と非正規雇用者の間で二極化していた。余裕を感じているのは正規雇用者の共働き夫婦や独身男性のほか、正規雇用者で比較的高収入の
夫をもつ専業主婦であり、非正規雇用者では全般的に余裕のなさを感じていた。また、かつては優雅な印象
もあったパラサイト・シングルも、現在では経済的不安を抱えるために結婚に至らない非正規雇用者の、特に
未婚男性が多くなっていた。
世代間格差に加え、雇用状態による同世代間の格差。中高年の常識からすれば不憫な状況でしかない。
若者たちは買いたいものも買えず、やりたいこともできず、明るい将来も見通せない不満の多い生活を送って
いるに違いないなどと想像するかもしれない。
しかし、内閣府「平成22 年度国民生活に
関する世論調査」によると、現在の20 歳代の
73.5%は今の生活に満足しており、その満足
度は中高年よりも高くなっている(図表3の「満
足」「まあ満足」の合計)。また、現在の20 歳
代の満足度は過去の20 歳代と比較しても高
く、1960 年代後半は60%程度、1970 年代に
は50%程度に低下した年もあるが、1990 年
代後半から70%前後にのぼっている2。
厳しい経済状況の中、実は生活満足度の
高い現在の日本の若者たち。彼らは現在の
生活をどのように捉え、どのような消費活動を行っているのだろうか。本稿では内閣府をはじめとした公的調
査をもとに、20 歳代を中心とした若年層の生活意識や消費行動について報告していく。
2――若年層の生活意識
1|生活各面で満足度の高い20 歳代
現在の生活全体の満足度は前述の通りだ
が、所得や余暇生活などの生活各面での満
足度についても、20 歳代では総じて30〜50
歳代より高くなっている(図表4)。特に「食
生活」「自己啓発・能力向上」「レジャー・
余暇生活」では60 歳代以上の高年齢層をも
おさえて最も高い満足度を示している。「レ
ジャー・余暇生活」では他年代とのひらき
が大きく、いずれの年代にも10%pt 以上の
差をつけており、満足度の低い40〜50 歳代
とは20%pt 以上の差となっている。また、冒頭述べた通り、20 歳代は厳しい経済状況にあるが、「所得・収入」「資産・貯蓄」の満足度は、正規雇用率が高く所得も多いはずの30〜50 歳代より高い。
これらの背景には何があるのだろうか。
2|独身者が多く、ライフスタイルの自由度を気にする若年層
20 歳代のうち学生については、時間に
余裕があり、経済的に親がかりである者
も多いことから生活満足度の高さは容易
に想像がつく。しかし、20 歳代のうち学
生は2割程度3でしかなく、大半は就業者
等である。就業者等でも生活満足度が高
い背景には、多くが独身であり、時間や
所得を自由に費やせることがあるだろう。
20 歳代の未婚率は、2010 年時点で、20
〜24 歳の男性は94.0%、女性は89.6%、
25〜29 歳の男性は71.8%、女性は60.3%
にのぼる4。また、国立社会保障・人口問
題研究所「第14 回出生動向基本調査〜結婚と出産に関する全国調査」によると、未婚者が結婚を考え
たときに気になることには「自分の生活リズムや生活スタイルを保てるか」「余暇や遊びの時間を自由
に取れるか」「お金を自由に使えるか」が上位にあがり、いずれも選択割合は半数近くを占める(図表
5)。また、いずれの項目も男性より女性の選択割合の方が高く、女性は結婚にともなう様々な制約に
対してより強く懸念している様子がうかがえる。
時間や所得の使途などライフスタイルに関わる意思決定の自由度を重視する若年層だが、その実態
はどうなっているのだろうか。時間、所得の順にみていきたい。
3――若年層の時間の使い方
1|時間にゆとりのある20 歳代
現在の生活における時間のゆとりをみる
と、20 歳代の65.9%が時間のゆとりを感じ
ている(図表6の「かなりゆとりがある」
「ある程度ゆとりがある」の合計)。リタイ
ア生活者の多い60 歳代以上では20 歳代よ
りさらに時間のゆとりを感じる割合が多く、
「かなりゆとりがある」も目立って多くなっている。一方、30〜50 歳代では、20 歳代や高年齢層と比較してゆとりのある割合が少ない。
NHK放送文化研究所「2010 年国民生活
時間調査」により平日1日の時間配分をみ
ると、仕事や学業などの拘束行動が占める
割合は男女とも30〜50 歳代で高くなって
いる(図表7)。一方、睡眠や食事などの必
需行動やレジャー等の自由行動は20 歳代
や高年齢層で高い傾向があり、時間のゆと
りと似た傾向を示している。
前掲の図表4の生活各面での満足度のう
ち、特に「自己啓発・能力向上」「レジャー・
余暇生活」の満足度は費やせる時間量と関
係が深いと考えられる。次に、これらに関
わる行動時間の状況を詳しくみていきたい。
2|レジャーや交際に時間を費やす20 歳代
NHK放送文化研究所「2010 年国民生活
時間調査」のデータを用いて、「自己啓発・
能力向上」「レジャー・余暇生活」などが含
まれる自由行動について、その内訳を構成
する各生活行動の1週間の平均行為時間量
を算出すると、レジャーや交際等について
は、男女とも20 歳代と高年齢層で多くなっ
ている(図表8(a))。性別にみると、男
性では高年齢層が20 歳代を上回るが、女性
では20 歳代が最も多くなっている。
一方、メディア視聴については、男女と
も30 歳代で若干減少するものの、年齢とと
もに増加している(図表8(b))。レジャ
ーや交際等とメディア視聴をあわせた合計
値では、男女とも20 歳代と高年齢層が多く、
30〜40 歳代で少なくなっている。
また、それぞれの内訳をみると、20 歳代
では「趣味・娯楽・教養」「会話・交際」「雑
誌・マンガ・本」「インターネット」が他年
代より多く、「行楽・散策」「テレビ」「新聞」は高年齢層ほど多くなっている。
生活満足度の高さの背景として、性年代別に時間のゆとりと自由行動の量および内容をみてきた。
満足度の高い20 歳代や高年齢層では時間にゆとりがあり、睡眠や食事などの必需行動やレジャーやメ
ディア視聴などの自由行動に費やす時間が長かった。一方、満足度の低い30〜40 歳代では時間にゆと
りがなく、必需行動や自由行動に費やす時間も少なくなっていることから、生活満足度と拘束されな
い時間の関係は深い様子がうかがえる。また、20 歳代と高年齢層を比較すると、20 歳代の方が高年齢
層より生活満足度は高いが自由行動等に費やす時間総量は少ない。自由行動のうち、メディア視聴は
他の行動と並行して行う「ながら」視聴も多いと想定すると、レジャーや交際の方がより満足度に対
して直接的な効果をもたらすと考えられる。しかし、レジャーや交際に注目して20 歳代と高年齢層を
比較しても男性では満足度と時間量の関係は逆転したままである。よって、満足度は、ある程度は費
やす時間量に比例するが一定の時間量を超えると、その他の要因の効果もあらわれると考えられる。
それは、無尽蔵な時間の中ではなく、ある程度の制約がある中でのレジャーや交際の方が満足度を感
じやすい可能性のほか、レジャーや娯楽に関する選択肢の量の違いなどがあげられる。
4――若年層の所得と消費
1|一人あたり可処分所得の多い若年単身者
前掲の図表4の通り、20 歳代の「所得・収
入」「資産・貯蓄」の満足度は30〜50 歳代を
超えて高くなっているが、生活満足度の背景
として、次に所得の状況をみていく。
世帯主の年齢別に勤労世帯の18 歳以上の
世帯人員一人あたりの可処分所得をみると、
30 歳未満の単身勤労世帯男女はすべての二
人以上勤労世帯の金額を超える(図表9)。同
年代の二人以上勤労世帯と比べると、世帯主
年齢が25 歳未満の2倍程度、25〜29 歳の1.5
倍程度となっている。さらに、二人以上勤労世帯で18 歳以上の世帯人員一人あたりの可処分所得が最
も多い40〜44 歳と比べても、3万円近く多くなっている。
一方、貯蓄現在高は年齢とともに上がり、圧倒的に高齢者層で多くなっている。30 歳未満の単身勤
労世帯と同年代の二人以上勤労世帯と比べると、男女とも20〜24 歳より多く、男性では25〜29 歳よ
りやや少ないものの、女性では30 万円近くの差をつけて高くなっている。
なお、二人以上の世帯では家計の合理化がはかられるため、必ずしも一人あたりに割り戻した額が
そのまま経済的な余裕をあらわすわけではない。しかし、図表9では18 歳未満の世帯人員数をのぞい
た人数で割り戻しているため、高校生以下の子どもに関わる支出の影響がのぞかれている。よって、
二人以上勤労世帯において18 歳以上の世帯人員一人あたりが自己裁量で動かせる額は、図表9の結果より、むしろより少なくなるのではないだろうか。なお、日本政策金融公庫「平成23 年度教育費負担
の実態調査結果」によると、就学中の子どもがいる世帯で、小学校以上に在学中の子どもにかかる学
校教育費と家庭教育費の合計が年収に占める割合は平均37.7%であり、家計における教育費の負担の
大きさがうかがえる。
2|景気悪化の影響が小さな若年単身者
金融危機以降、経済環境は悪化している。
各勤労世帯の可処分所得の10 年前との変
化率をみると、30 歳未満の女性単身勤労世
帯を除く、すべての世帯で減少している(図
表10)。それぞれの減少幅をみると、30 歳
未満の男性単身勤労世帯では減少している
もののその減少幅は4.6%に過ぎないが、
二人以上勤労世帯ではいずれも5%以上減
少している。減少幅は世帯主の年齢ととも
に大きくなる傾向があり、40 歳代では1割
程度、50 歳代では15%程度、60 歳以上で
は2割以上となっている。
貯蓄現在高については、30 歳未満の女性単身勤労世帯と25 歳未満の二人以上勤労世帯で増加して
いるものの、そのほかのすべての世帯で減少している。減少幅にはばらつきがあるが、30 歳未満の男
性単身勤労世帯では3%程度と二人以上勤労世帯と比べて小さくなっている。
生活満足度の高さの背景として、若年単身世帯と家族世帯の可処分所得やその変化率をみてきたが、
若年単身者の方が中高年の家族世帯者より個人の裁量で自由になる月々の金額が大きく、また、金融
危機による景気悪化の影響も小さい様子がうかがえた。むしろ若年女性単身者については景気悪化を
ものともせず、所得や貯蓄の増加がみられる。この背景には女性の学歴上昇にともなう雇用条件の向
上のほか、女性の雇用割合が比較的多い医療・介護分野における高齢化を背景にした労働需要の高ま
りや処遇の改善などがあるだろう5。冒頭で若年層が厳しい経済状況にあることやその経済的余裕感は
正規雇用者と非正規雇用者で二極化していることを述べたが、実は中高年の家族世帯者の方が暮らし
向きの実感は厳しい可能性がある。
一方、先の拙稿1 の分析にて経済的不安を抱える非正規雇用者の男性では親元同居率が高いことが
わかっている。親元に同居している場合、多くは親が世帯主を務める二人以上世帯に含まれるため、
当然、単身勤労世帯の状況にはあらわれない。若年単身者の多くは正規雇用者が占めるとも考えられ、
単身勤労世帯の実態からは、より所得の少ない非正規雇用者の実態は把握しきれていない可能性もある。
3|結果としての非正規志向
ここで、近年の非正規雇用者の意識につい
てみていきたい。非正規雇用者の中には就職
活動時が不況で正規雇用の求人が減少したた
めに、正規雇用を希望していたにも関わらず、
やむをえず非正規雇用者として働きはじめた
者も多い。しかし、非正規雇用という雇用形
態をあえて選択する者もいるようだ。
厚生労働省「就業形態の多様化に関する総
合実態調査」では、非正社員に現在の就業形
態を選択した理由をたずねているが、そのう
ち「自分の都合のよい時間に働けるから」の選択割合は20 歳代で増えており、特に20〜24 歳では15%
pt も増えている(図表11)。さらに、20〜24 歳では「簡単な仕事で責任も少ないから」も増加してい
る。また、「正社員として働ける会社がなかったから」は1割近くも減少している。
この現象について、獨協大学の阿部教授6は若年層で積極的に非正規雇用を選択する者が増えている
とし、その背景には昨今の就職活動は若者たちに非常な労力を要する割に正規雇用のベネフィットが
小さいことをあげている。正規雇用では長時間労働が強いられる割に給与は少ない。中高年になると
正規雇用者と非正規雇用者の所得格差は大きくひらくが若年層ではその差は小さい。若年層では非正
規雇用でも一人で暮らしていけるために積極的に非正規雇用を選択する若者が増えているという。
しかし、「正社員として働ける会社がなかったから」の減少には、昨今の厳しい雇用情勢により、そ
もそも正規雇用職をあきらめている層の増加も一端を担っている可能性があるのではないだろうか。
4|中高年家族世帯より自由になるお金の多い若年非正規雇用者
若年層の非正規雇用者の所得をとらえるために、厚生労働省「平成23 年賃金構造基本統計調査」よ
り、20 歳代の非正規雇用者の月当たりの収入を算出したところ、20〜24 歳では男性は19.3 万円、女
性は19.1 万円、25〜29 歳では男性は23.8 万円、女性は22.4 万円となる7。これらから社会保険料や
税を除く可処分所得を想定すると、図表9で示した二人以上勤労世帯における18 歳以上の世帯人員一
人あたりの可処分所得の多くを超える。なお、正規雇用者を含む30 歳未満の単身勤労世帯の社会保険
料や税等の非消費支出額(実収入と可処分所得の差分)は男性が4.4 万円、女性が3.6 万円である8。
非正規雇用者ではこれらの金額がより低くなるが、分かりやすさのため、算出した非正規雇用者の月
当たりの収入から、これらの金額を差し引くと、非正規雇用者の25〜29 歳男女では全ての二人以上世
帯の金額を超える。非正規雇用者の20〜24 歳男女では同年代のほか、高齢層を超えるにとどまるが、
より差し引き額が小さくなること、また、非正規雇用者全般として親元同居率が高く、食事や住居に
関わる支出が少ない可能性もかんがみると、若年非正規雇用者では総じて中高年の家族世帯者よりも
個人の裁量で自由になる月々の金額が多いことが推察される。
以上、みてきたように、若年単身者や若年非正規雇用者では中高年の家族世帯者よりも自己裁量で
扱える月々の金額が多い様子がうかがえる。これらが20 歳代で「所得・収入」「資産・貯蓄」の満足
度が30〜50 歳代より高いことにつながっているのだろう。中高年層における大幅な所得減や、非正規
雇用という就業形態から将来的に年収増をのぞむことに厳しさはあるはずだが、今現在の所得には特
段不自由していないことが満足度の高さにつながっているのだろう。
次に、若年層が具体的にどのような消費活動を行っているのかをみていきたい。
5――若年層の消費実態
1|デフレや技術革新の恩恵を受けた消費生活
若年層の全てが含まれるわけではないが、個
別家計の把握のしやすさから、30 歳未満の単身
勤労世帯の消費支出をみることにする。また、
現在の若年層の志向を詳しく捉えるために過去
の状況と対比して分析していく。
総務省「全国消費実態調査」より、30 歳未満
の単身勤労世帯の消費支出をみると、可処分所
得の増減の影響か、男性では若干減少し、女性
では5千円増加している(図表12)。
消費支出の内訳をみると、いずれも「食料」
「住居」「交通・通信」「教養・娯楽」が占める
額が多い。10 年前と比べると、男女とも「食料」
「交通・通信」「教養・娯楽」「交際費」が減少
し、女性では「被服及び履物」も減少している。
なお、このうち「交通・通信」「教養・娯楽」「被
服及び履物」では消費者物価指数(CPI)も
低下している(図表13)。CPI低下の影響を
かんがみると、特に「教養・娯楽」や「交通・通信」では消費控えというよりも、価格下落の恩恵を
受けている可能性が高い。例えば、「教養・娯楽」のうち、旅行については格安航空券などを利用した
低額な旅行商品の増加、「交通・通信」についてはブロードバンド回線や携帯電話のパケット通信の普
及による通信料の定額化および低廉化などがあげられる。
また、男女とも「食料」が減少しているが、より詳しい内訳をみると外食費の減少による影響が大
きい。これは、ハンバーガーチェーンや牛丼チェーンなどのファストフードにおける価格競争激化の
恩恵を受けていることのほか、内食志向のあらわれもあるだろう。金融危機以降、家ナカ消費、巣ご
もり消費といった言葉を耳にするようになり、内食に向けた様々な商品やサービスが提供されている。
一方、「住居」はCPIが若干低下しているにも関わらず、男女とも消費支出額が増加している。これは、景気低迷により社宅を廃止したり9、住宅補助制度を縮小する企業が増加した影響とみられる。
2|耐久消費財の普及率上昇の一方、ネットの普及によるテレビ離れも
ところで、図表4の生活各面の満足度におい
て20 歳代では「耐久消費財」の満足度も30〜
50 歳代より高くなっていた。
現在の若年層における耐久消費財の普及率を
みると、男女とも「電子レンジ」などの調理器
具や「電気冷蔵庫」や「電気洗濯機」といった
生活に関わる基本的な電化製品の普及率が上昇
している(図表14)。家庭用耐久消費財のCP
Iは大きく減少しており(1999 年を100 とする
と2009 年は52.5)、ここでも価格下落の恩恵を
受けている様子がうかがえる。なお、家電製品
のコモディティ化による価格競争で企業が疲弊
する問題については多数の報告がある10。
一方、「カラーテレビ」の普及率は若干低下し
ているが、「パソコン」「携帯電話」は上昇して
いることから、テレビの視聴がインターネット
の動画サイトや携帯電話のワンセグにとってか
わられている様子が伺える。NHK放送文化研
究所「2010 年国民生活時間調査」をみても、20
歳代のテレビの視聴時間は減少する一方、イン
ターネットの利用時間は大きく増加している11。
また、昨今、若者のクルマ離れなどと言われ
るが、確かに男性では普及率の減少がみられる。しかし、女性では若干増加している。一方、「ゴルフ
用具」は男女とも減少しており、クルマ離れよりも、むしろ若者のゴルフ離れがうかがえる。
3|商品購入はディスカウントストア、価格感度の高い購買行動
若年層の消費行動について、最後に商品購入先をみていく。30 歳未満の単身世帯の商品購入先を10 年
前と比べると、男性では「一般小売店」「コンビニエンスストア」「百貨店」の割合が減る一方、「スー
パー」「ディスカウントストア」「通信販売」が増え、値引き率が高い店舗での購入が増加しており、
価格感度の高さがうかがえる。なお、「通信販売」はインターネット通販の増加によるものである。
一方、女性では、男性ほど減少幅は大きく
ないが、同様に「一般小売店」「コンビニエン
スストア」「百貨店」が減っている。さらに「ス
ーパー」も減っており、「ディスカウントスト
ア」は男性以上に増えている。1999 年の男女
を比べると、女性では、もともと男性より価
格感度が高い様子がうかがえるが、より一層
その感覚は増しているようだ。
以上より、現在の若年層は、住居費では景
気低迷の影響はあるものの、日常生活上のモ
ノやサービスの購入については価格下落や技術革新の恩恵を受けた消費生活を送っているようだ。ま
た、価格感度が高く、不要な支出は避けるような消費態度もうかがえる。
6――まとめ
〜若年層の生活満足度の高さは目先の時間・所得の不自由のなさ、しかし、その将来は?
雇用情勢の悪化や社会保障制度の世代間格差で厳しい経済状況にあるはずの現在の若年層が、実は高
い生活満足度を示す背景として、時間や所得、消費の状況をみてきた。その結果、若年層の多くは独身者で
あるため、時間のゆとりがあり、レジャーや交際などに多くの時間を費やしている様子がうかがえた。また、非
正規雇用者が増加しているものの、若年単身世帯では家族世帯者より、個人の裁量で自由になる額が比較
的多く、景気低迷の影響もさほど受けていなかった。また、その消費生活は、デフレや情報通信をはじめとし
た技術革新の恩恵を受け、案外、充実した様子がうかがえた。つまり、若者たちの現在の生活満足度が高い
理由は、目先の時間と所得に不自由していないことによるのだろう。
では、これらの状況から現在の若者たちは幸せなのかというと、そう単純な話ではない。20 歳代の7割が現
在の生活に満足度している一方で、悩みや不安を感じている割合も6割にのぼり、将来の収入や資産に対し
ての不安も強い12。景気好転の兆しは見えず、社会保障の制度改革は遅々として進まない。将来に期待がし
にくいために相対的に現在の満足度が上がっている可能性もあるのではないだろうか。また、不透明な将来
に対して何らかの手ごたえがほしいという不安感や焦燥感からか、現在の若年層は社会貢献意識も高い13。
中高年層は、若年層の結婚や恋愛への消極的な態度や消費支出をおさえ高額消費を好まない節約志向、
海外留学や海外赴任を望まない内向き志向などについて、上昇志向の低さ、物足りなさを感じ、日本の将来
を憂える声も多い。しかし、若者たちの価値観や行動様式は社会変化により形成されたものだ。
日本経済の低成長が続き、労働市場の改革も進まない場合、20 年後の就業者数は現在より約850 万人も
減少する14。若年層の活用は急務であり、若年層が将来に期待を持ち積極的に未来をきりひらいていけるよ
うな社会とするためには、中高年層は若年層の価値観形成の背景をよく理解するとともに、若年層も他世代
に歩み寄り、すべての世代で日本社会における課題を共有することが肝要だ。
1 久我尚子「若年層の経済的余裕感<消費離れ・厳しい雇用情勢の今どきの若者たち、暮らし向きの実感は?>」, ニッセイ基礎研
REPORT2012 年4月号, pp.28-33.
2 古市憲寿(2011)「絶望の国の幸福な若者たち」, 講談社、ほか
3 文部科学省「平成23 年度学校基本調査」より、過年度高卒者等を含む大学進学率は51.0%、短大進学率は5.7%、大学卒業者の大学院等
への進学率は12.8%
4 国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集(2012)
5 久我尚子「若者は女性の方がお金持ち?その差、2,641 円!」, 日本生命 23 歳からの経済学, 第17 回(2011 年7 月1 日).
6 阿部正浩「非正規雇用増加の背景とその政策対応」, 内閣府経済社会総合研究所「バブル/デフレ期の日本経済と経済政策 第6巻『労働市
場と所得分配』(2010)」, pp.439-468.
7 正社員・正職員以外の所定内給与額と年間賞与その他特別給与額を年収を推計し、月当たりの額に割り戻し、月あたりの収入とした
8 総務省「平成21 年全国消費実態調査」
9 財団法人労務行政研究所「社宅・独身寮の最新動向(2008 年4 月15 日)」より、2000 年以降,社宅保有企業の6割は社宅を統合あるい
は廃止しており、今後もさらに縮小が進行する見込みであることによる。
10 延岡健太郎ほか「コモディティ化による価値獲得の失敗:デジタル家電の事例」,内閣府経済社会総合研究所 ディスカッションペーパー
2005 年度, 06-J-017.
11 2005 年から2010 年にかけて、20 歳代の1週間のテレビ視聴時間は男性では78 分、女性では44 分減少している一方、趣味・娯楽・教養
のインターネット利用時間は男性では251 分、女性では192 分増加している。
12 内閣府「国民生活に関する世論調査」にて、20 歳代が日常生活で悩みや不安を感じている割合は63.4%、また、日常生活における悩みや
不安のうち、「今後の収入や資産の見通しについて」の選択割合は46.8%
13 内閣府「社会意識に関する世論調査」にて、20 歳代が何か社会のために役立ちたいと思っている割合は70.1%で、近年上昇傾向にある
14 厚生労働省 雇用政策研究会「第9回雇用政策研究会資料」(2012/7/23 公表)
http://www.nli-research.co.jp/report/nlri_report/2012/report120725.html
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