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再生可能エネルギーの飛躍的導入に向けた課題
株式会社日本総合研究所 副理事長 湯元 健治
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政府の「エネルギー・環境会議」は、6月29日、「エネルギー・環境に関する選択肢」を提示し
た。これは、2030年までの望ましいエネルギー・ミックスに関して、原発比率が0%、15%、20
〜25%の3つの選択肢を示したものだが、いずれの選択肢においても、太陽光、風力など再生可
能エネルギーの導入比率を、2010年時点の10%(水力を除くと2%)から2030年には25〜35%へ
と大幅に引き上げるという非常に高い数値が設定されている。原発を再生可能エネルギーで代
替するのだから、ここまで引き上げる必要があるのは当然ではあるが、本当に、これを実現可
能とするためには、様々なハードルをクリアする必要がある。
最大の課題は、7月1日より導入された再生可能エネルギーの固定価格全量買取制度における買
取価格の必要に応じた柔軟な見直しである。政府の「コスト等検証委員会」において、風力、
太陽光などエネルギー別に買取価格が決定されているが、太陽光発電は42円/kWと事前の予想
を大きく上回る高い価格が設定された。一般的に、メガソーラーは35円/kWで利益が出ると言
われており、新規参入事業者にとって極めて魅力的な価格が設定された。今年度の経済財政白
書の分析結果では、これまでの家庭用太陽光発電の余剰買取制度の実績として、平均8.6%、補
助金効果を織り込むと12%という高い投資収益率になっている。この結果、ソフトバンクをは
じめ、京セラ、三井化学、近畿日本鉄道、ローソンなど様々な異業種からメガソーラー建設表
明が相次いでいる。このことは、民間企業の国内投資拡大を通じて、経済成長や雇用に大きく
貢献することが期待できる半面で、将来のバブルを誘発し、国民負担を大幅に引き上げてしま
うリスクがあることに留意する必要があろう。
わが国に先駆けて固定価格全量買取制度を導入したスペインやドイツでは、導入コストの低下
に応じた柔軟かつ機動的な買取価格の引き下げに失敗した結果、バブルの発生と崩壊(スペイ
ン)、国民負担の急増(ドイツ)が生じ、制度見直しを余儀なくされている。すなわち、スペイ
ンでは2008年に当初目標の7倍以上に上るバブル的投資が生じ、翌2009年にバブルが崩壊した。
ドイツでは、2000年に全量買取制度を導入し、2004年に買取価格を大幅に引き上げた結果、
2011年までの8年間で累積設備容量が2500万kWと25倍に拡大した。2020年までに再生可能エネル
ギー比率を35%まで引き上げるとの目標の下、2010年には、17%まで引き上げに成功した。し
かし、2009年に、設備導入コストの低下スピードに買取価格の引き下げが追いつかず、急速に
投資が拡大、補助金額が大幅に膨らみ、家計向けのサーチャージが急上昇した。2004年から
2012年までの家計負担は6倍に膨らみ、2012年には、@買取価格の20〜29%引き下げや、A大規
模太陽光発電(1万kW)の買取対象からの除外、B全量買取から部分買取制度への移行(85〜
90%)、などを柱とする改正法案が可決されている。
ドイツの場合、スペインとは違って2009年まではバブルを招くことなく安定的に投資を拡大さ
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せ、着実に再生可能エネルギー比率を引き上げたという意味では学ぶべき点は多いが、それで
も、タイミング良く、導入コストの低下に合わせて買取価格をうまく調整しなければ、国民負
担の増大につながるという教訓を学ぶべきである。わが国の場合、太陽光の買取価格が事業者
にとって魅力的過ぎることは、バブル誘発のリスクがあるだけではない。太陽光に過度に偏っ
た民間投資を誘発する一方で、より導入ポテンシャルの大きい風力発電に対する投資インセン
ティブが相対的に小さくなり、結果的に30%を超えるような高い再生可能エネルギー導入目標
を達成出来ないリスクが高いといえよう。とくに、最近注目されている洋上風力発電は、その
導入ポテンシャルが16億kW(環境省)と太陽光(1億5000万kW)の10倍以上、全国電力設備量
(2億397kW)の8倍に上っている。日本の場合、水深が深く、「着床式」の洋上風力発電は難し
いと言われているが、発電機を浮かべる「浮体式」洋上風力発電の潜在的可能性には期待でき
る。ただし、風力発電導入の最大のネックは、送電網の整備の必要性であり、政府はこれを次
世代インフラ投資と位置づけ、成長戦略の一環として具体的な導入の道筋を描く必要があろう。
さて、再生可能エネルギーを飛躍的に導入することは、原発依存度を引き下げるために不可欠
の条件と考えられるが、その導入コストは、相当な国民負担になることを認識する必要がある。
経済産業省「調達価格等算定委員会」の試算(2012年4月27日公表)によれば、2012年度の再生
可能エネルギーに関わるサーチャージ額は、0.2〜0.4円/kWhで、月額電気料金7000円(月
300kWh)の標準家庭で1カ月当たり70〜100円程度とされた。その後、7月に経産省資源エネルギ
ー庁は、より詳細な試算を公表したが、それによれば、全量買取制度によるサーチャージ額を
0.22円/kWh、従来の余剰電力買取制度に基づくサーチャージ額を0.07円/kWhとして、標準家
庭で全国平均が月87円と算定している。しかし、これらの試算はあくまで導入初年度の場合で
あり、最終的に、例えば2030年時点でどの程度のサーチャージになるのかは、@再生可能エネ
ルギーの最終的導入量、A導入のスピード、B再生可能エネルギーの買取価格の低下スピード、
C太陽光、風力、地熱など導入される再生可能エネルギーの内訳いかんにかかっており、前提
次第で大きく変わり得る。ちなみに、日本総研では、政府が想定する導入ペースを前提に、
2030年のサーチャージ額を1.2円〜2.4円/kWhと試算、これは標準家庭ベースでは、360〜720円
の負担となり、無視できない大きさだ。ちなみに、ドイツの例では全量買取制度導入後4年目の
2004年に165円だったサーチャージは、11年目の2011年に1018円に上昇している。原発から再生
可能エネルギーへの代替に伴う国民負担がいかに大きなものになるかについて、政府は単年度
に止まらない見通しを示し、国民の理解と納得を得るさらなる努力をしなければならない。
「エネルギー・環境に関する選択肢」の中では、2030年時点で、原発比率がいずれのシナリオ
においても、最終エネルギー消費ベースで▲19%の省エネルギー、電力消費ベースで▲1割の節
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電が前提条件として盛り込まれている。しかし、再生可能エネルギー導入に伴い大きな国民負
担が生じることを考えれば、本来、原発比率の低いシナリオほど、より大幅な省エネルギーや
節電を実現する必要がある。昨年の東京電力管内では、▲15%を超える節電が実現し、今年も
原発依存度の高い関西電力管内で▲10%の節電が要請されている点を勘案すれば、こうした省
エネ・節電は十分可能に見えるかも知れない。しかし、昨年は大震災の影響で経済・エネルギ
ー需要が大きく落ち込んだことを勘案する必要がある。また、政府試算の前提では2030年まで
経済は成長を続け、2030年のGDPは2010年比20%増加することとなるため、19%の省エネを実現
するには、トータルで4割近いエネルギー効率の向上が必要となる。しかし、これは相当に至難
の業と言える。1990年度から2010年度までの過去20年間で実質GDPは、1.22倍に拡大したが、こ
の間の最終エネルギー消費は、業務部門、家計部門の伸びを中心に1.08倍となっており、エネ
ルギー効率(最終エネルギー消費/実質GDP)は12%改善しているが、これでは追いつかない。
そこで、家計や企業の省エネ・節電行動を促すメカニズムとして最近注目されているのが、「ネ
ガワット取引」である。「ネガワット取引」とは、米国ロッキー・マウンテン研究所理事長のエ
モリー・ロビンズ氏が提唱した考え方で、企業や家計が電力使用量の多いピーク時間帯に省エ
ネや節電を行った場合、電力会社が手数料を支払うことによって、さらなる節電インセンティ
ブを与える仕組みで、入札方式によって行う。ちなみに、米国では「ネガワット取引」で最大
電力需要を1割削減できるとの試算がある。
具体的には、すでに関西電力が導入を表明している仕組みは、97%超の電力使用率(供給力に
対する最大需要の割合)が見込まれる場合、節電が必要な量と時間帯を電力会社が提示、希望
手数料の単価が安い順に落札者を決定するというものである。企業にとっては、節電によるコ
スト削減に加えて手数料収入が見込め、他方で電力会社にとっては停電のリスクを最小化した
り、他社からの高い電力融通を回避できたりするメリットがある。ただし、現時点では、対象
が大企業の工場やオフィスなど大口需要家に限定されており、その効果も限定的と予想される。
したがって、「ネガワット取引」の導入を加速する必要があるが、そのためには、@すべての電
力会社に「ネガワット取引」を義務付ける、A小口需要家や家庭にも対象を拡大する、Bエネ
ルギー・マネジメントを手がけるBEMSアグリゲーターやHEMSアグリゲーターなどを活用する形
で、エリア外でも「ネガワット取引」を行う、Cスマートメーターの設置を促進する、などの
施策が必要である。ただし、「ネガワット取引」は電力需要のピークカットやピークシフトには
有効な政策といえるが、エネルギー・電力消費そのものを抑える効果はどこまで見込めるのか
未知数だ。省エネ型産業構造への転換や省エネビル、省エネ住宅の普及、電気製品を大量に使
う家計のライフスタイルの見直しも含めて、新しい省エネ社会の構築を見据えた制度設計が切
に望まれる。
(2012.7.31)
http://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/yumoto/pdf/6229.pdf
〜大前研一ニュースの視点〜
┃1┃ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
┗━┛ 『 政府事故調査委員会とエネルギー政策 〜原因の発見方法を考える 』
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原子力事故調査
最終報告書で危機対策の練り直し促し
エネルギー政策
再生可能エネルギー拡大目標に経済界が反発
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▼ 福島第一原発事故の本当の原因を分かっていない
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東京電力福島第1原子力発電所事故の原因などを調べてきた政府の事故調査・
検証委員会は23日、最終報告書をまとめ、野田首相に提出しました。
被害が拡大した根源的な問題として「東電も国も安全神話にとらわれていた」
と指摘。危機対策の練り直しを促したとのことです。
一方、事故の直接原因は地震ではなく津波だったとの見方を示し、
国会の事故調査委員会と判断が分かれました。
私は政府と国会の双方のレポートに目を通しましたが、
率直に言ってどちらも役に立たない報告書だと感じています。
黒川氏がまとめた国会の事故調査委員会のレポートに関しては
以前私の見解を発表しました。
http://vil.forcast.jp/c/ap8la839asr9fFab
今回の政府・事故調査委員会がまとめたレポートの問題点は、
原因が山のようにたくさん記述されていることです。
事故の物理的な「原因は1つ」であって、それが時間経過と共に組織的に
弱い部分などに広がっていくだけです。
まず、「原因の原因は何か?」という点を突き詰めて、
1つに絞られていなければ意味が無いでしょう。
敢えてこのレポートから「原因の原因」を読み解くと、
「津波」ということになるのでしょうが、これも大きな間違いだと思います。
福島第一原発と同じように津波に襲われた、福島第二原発も東海第二原発も
生き残っているからです。
生き残れなかった福島第一原発との違いはどこにあったのか?と言うと、
「外部電源」が残っていたかどうかです。
福島第一原発は、地震によって外部電源が全て落ちてしまったところに
津波が襲ってきて非常用電源装置も破壊したために、手に負えない
事態になってしまったのです。
福島第二原発や東海第二原発のように外部電源が生きていれば、
津波によって非常用電源装置が破壊されても、
何とか持ちこたえることができたはずです。
このような基本的な事実関係をおさえられていないのは非常に残念です。
政府と国会のどちらのレポートも、結局のところ原発再稼働問題に
対して何ら役に立つ内容にはなっていないと思います。
また原発再稼働・建設への懸念として、「活断層」がある地域に原発を
置くのは危険が高いという議論がありますが、
私は少し違う見解を持っています。
もちろん、活断層があっても何も心配する必要はないとは言いませんが、
基本的に活断層があっても原発建設を中止する理由にはならないと思います。
なぜなら、活断層が原因で大地震が起きて「外部電源」が破壊されたとしても、
「原子炉そのもの」は緊急停止しているからです。
直下で新潟中越地震が発生しても緊急停止した柏崎刈羽原発は
その代表的な事例です。
東日本大地震の反省を活かせば、地震によって外部電源が
破壊されないようにしつつ、発電所内に風力でも太陽光でも何でも良いので、
原理の異なる原子炉以外の発電所があればバックアップになるでしょう。
活断層があるから危険というロジックで言えば、日本はどこでも危険です。
もう少し事実関係を明確にして議論すべきだと思います。
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▼ 再生可能エネルギーへの依存度20%〜30%は、現実的に無理
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政府は、2030年の原発依存度を「0%」「15%」「20〜25%」とする三つの案を
元に再生可能エネルギーへの依存度を、現在の10%から35%へ引き上げる
目標を示しました。
これについて経団連は、「いずれも問題が多い」との意見書を発表。
日本商工会議所とともに再生可能エネルギーの目標を容認しない
構えを示しました。
かつて旧通産省はこの類の問題に非常に強みを持っていました。
当時は「国民に意見を聞く」などということはあり得ませんでした。
10年〜20年後の日本における産業界の姿を見据え、
見事に5カ年計画などを策定し、実行していました。
エネルギー危機の後、原子力行政を推進し、ブルネイやインドネシアの開発に
乗り出し、石油調達の目処もつけつつ、同時に社会の省エネ化も図りました。
今の政府には青写真を描く力がないために、取り敢えず原発依存度を
「0%〜25%」と言っておけば国民が飛びついてくれると思っているのでしょう。
そして、原子力を削ると温室効果ガスの排出量が削減できないため、
無理やり再生可能エネルギーの割合を高く見積もっている印象があります。
今回の政府の提案には大きく2つの問題があると私は思っています。
1つには、将来原子炉がどのくらい残っているかは現時点で予測不能であり、
情報不足の中で今決断するのは無謀だということです。
東芝・米ウエスチングハウス連合の新型炉である「AP1000」は、
仮に福島第一原発と同じ状況になっても最後まで自力で冷却できるという
設計です。
このようなものが実証されてくると、20年後には再び原子炉の安全性が
確保される可能性もあるでしょう。
もう1つには、再生可能エネルギーの割合を20%〜35%にするということは、
現実的に運用不可能だということです。
風力発電、太陽光発電の平均稼働率は約20%ですから、
その割合を全体の20%にするということは「能力的には100%」の
設備が必要になります。
ということは、もし「ものすごく風が強く吹き、太陽が照りつける状態」
になったら、「風力発電と太陽光発電だけで100%の電気を作ってしまう」
ということになります。
この時、電気をどう処理するつもりでしょうか?
電気が余るからと言って、急に原子炉を止めることはできませんし、
火力発電にしても停止するのに1日くらいはかかります。
また火力発電を停止しても、すぐに風がやみ太陽が顔を出さなくなったら、
やっぱりもう1度稼働させろ、ということになってしまいます。
稼働率に80%も振れ幅があると、そのバッファーをどう処理するのか?
という点は大きな問題になるのです。
電池や揚水発電所を利用してもキャパシティオーバーです。
再生可能エネルギーは3%〜5%程度であれば扱いやすいものですが、
現実として20%〜35%依存するというのはあり得ません。
政府も役所も、この程度の単純なことが理解できていないのだとすると、
相当問題だと思います。もう1度、頭を冷やして考えて欲しいところです。
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この大前研一のメッセージは7月29日にBBT757chで放映された
大前研一ライブの内容を抜粋・編集し、本メールマガジン向けに
再構成しております。
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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか。
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ご自身のビジネスにおいて、例えば「売り上げが上がらない」という
問題を皆さん考えたことがあるかと思います。
そのとき、どのような原因が結論として導き出されましたか?
商品力、営業力、販売促進など、いくつかの要素が浮かび上がってきます。
しかし、更にその原因を深掘ることはしていますか?
表面的な原因を結論にするのではなく、より本質に近い原因を発見していく
ことが問題解決において大切なことです。
『原因の原因を読み解く力をつける』
問題解決力トレーニングプログラム
⇒ http://vil.forcast.jp/c/ap8la839asr9fFac
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