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住宅最前線 こだわリポート
限りなく限界集落に近い首都圏の郊外団地 人口4割減 55歳以上の人口比率48.7%
平屋の隣に3階建てが建っている団地
首都圏のある町の住宅地を見学した。都心から約50キロ圏、人口は約36,000人。その団地は都心ターミナルから約1時間の駅前にある。昭和37年から同44年にかけて東京の開発業者によって開発された2団地合計の開発面積が約170,000uで、総戸数1,740戸の規模だ。1区画あたりの平均面積は約20坪から約27坪。
見学するのは約30年ぶりだ。最初に見学したのは昭和50年代の後半だった。建坪約15坪の平屋の住宅がびっしり軒を連ねていたのだが、すでに廃屋になっているものと建替えられたものとが混在し、さながら歯が抜けた櫛状になっていた。道路幅も約4メートルしかなく、側溝にはゴミがたまっていた。その光景に愕然とし、ミニ開発の恐ろしさを目の当たりにした。
当時の光景はその後もずっとまぶたの奥におりのように沈殿していた。「もう一度見よう」と決断させたのは、その町に住む人から最近「ひどいことになっている」と聞かされたからだ。
◇ ◆ ◇
町役場の資料によると、平成24年4月現在のふたつの団地の一方の団地の世帯数は703世帯、人口は1,639人、もう一つのほうは761世帯、1,663人。昭和44年4月のデータと比較すると前者は世帯数で17.3%、人口で41.3%それぞれ減少、後者は世帯数が10.9%増、人口は22.6%減少している。昭和44年の世帯数が分譲戸数より204戸少ないのはまだ入居者が入っていなかったためのようだ。
興味深いのは人口動態だ。平成22年3月末現在の年齢が65歳以上の「高齢化人口」は前者が33.3%、後者が29.0%となっている。町全体の高齢化率は22.0%だから、この団地が突出していることが分かる。さらに高齢者予備軍の55歳以上の人口を加えると、前者は48.7%、後者も46.5%に達する。つまりこの団地は限りなく「限界集落」に近いということだ。0歳から15歳未満の「年少人口」は双方で9.5%にしかすぎない。
廃屋
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居住者に声をかけた。建物と道路の間の数十センチ幅の“ネコの額”ほどの庭に植わっているシダ類に水遣りをしていたタクシーの運転手のAさん(69)は、うだるような暑さの中、スーツにネクタイ姿の記者を胡散臭そうに眺めながら離した。「40年前からここに住んでいる。大卒のサラリーマンの給与が2万円もしねぇ頃だ。買ったのは50万円。当時はタクシーの運転手は儲かっていて、7、8万円は稼げた。街の再生? 俺には分かんねぇ。子ども3人いるがみんないねぇ。家を売っても300万円にもならねぇ」
表通りで食器屋を経営していたというBさん(78)。「40年住んでいるが、この通り。5区画をまとめて買ったが、大型スーパーができちゃったからやめた。店舗? もう誰も買う人などいない。価格は10分の1ぐらいに下がっちゃった。店を継ぐ者もいない。隣のここの家? もう20年前からそのまんま。更地にすると税金が高くなるのでそのまま物置きにしているそうだ。更地にする人は駐車場にしている。賃料は3,000円から5,000円ぐらい」
若い人もいた。子どもの声が聞こえたので声をかけた。3人の子どもを持つ30代の女性Cさんは「8年前に引っ越してきて…。主人はここが地元。私は東京。最初はエッと思った。道が狭く、風通しも悪いし…。家賃は55,000円、建物は15坪。子ども? 歩いて30分ぐらいのところに通っています。何とか家を買いたいんですが…」
空家が取り壊された後はほとんどが駐車場か空き地になっている
◇ ◆ ◇
駅前の不動産業の社長(37)にも聞いた。「団地再生なんてきれいごとなど言えない。そりゃあ資金があれば買い取って何とかしたいけど、自分の食いぶちを稼ぐのが精一杯。不動産業は父の代から24年間やっているが、その父が今年5月に亡くなって私が跡を継いだ。スタッフは身内ばかり6人。町(行政)が主導して整備してくれればいいが、代替地などないしそんな財政的余裕もないだろうし…。空家率? 駐車場になっているところも含めると半分ぐらい」と話すにとどめた。
◇ ◆ ◇
開発から40数年、団地は醜悪な姿をさらけ出していた。廃屋あり、空き地あり、継ぎ足しの2階建てがあり3階建てもあった。廃屋のオニユリが西陽を受けて毒々しい瘴気を放っていた。
もともとが都市計画法が制定される以前の建物だからやむを得ないのだろうが、ここには都市計画など全くない。すでに開発業者はない。怒りよりもむなしさがこみ上げてきた。
デベロッパーは土地の価値を上げることにも下げることにも、人の心を富ませることにも貧しくさせることにも深く関わっている。子の団地のように取り返しのつかない事態を招くこともある。良好な住宅地をつくることを祈るのみだ。消費者もまた、価格の安さに目を奪われないでしっかり将来の資産性を考えて物件を選択して欲しい。
[2012/7/27 提供:RBAタイムズWeb版]
RBAタイムズ 牧田司
第三企画(東京・新宿)が発行する住宅・不動産業界情報紙「RBAタイムズ」編集長。記事の大半を自身で取材・執筆している。月1〜2回の紙面発行に加え、「RBAタイムズWeb版」で随時ニュースを配信中。紙面は住宅・不動産業界の親睦と発展を目的に業界関係者に無料配布しているが、広告を一切掲載せず、(第三企画も含めた)特定企業の利害にとらわれない編集方針をとっている。
牧田編集長から住宅サーチ読者へのメッセージはこちら
• 限りなく限界集落に近い首都圏の郊外団地 人口4割減(2012年7月27日)
• 「首都圏優秀マンション表彰」 いま一つ分からない物件基礎点の評価(2012年7月22日)
• 「Rio+20 記念シンポジウム」に300人 産官学で森林・林業再生を(2012年7月3日)
• 深刻な国産材市況、スギもヒノキも価格暴落 林野庁(2012年6月28日)
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http://sumai.nikkei.co.jp/edit/rba/etc/detail/MMSUa8000031072012/
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