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米経済失速で悪化する世界経済
2012年7月31日(火) ノリエリ・ルービニ
米経済の早期回復を予期した者は多いが、現実は逆で、今年後半から来年に失速する。「財政の崖」による影響に加え、与野党の対立、新興国の成長鈍化など要因は山積みだ。量的緩和ももはや効果は期待できず、抵抗力の落ちた世界経済への影響は深刻だ。
ユーロ圏が秩序なき危機へと向かうリスクについてはよく認識されているが、米国に対してはもっと明るい見方をしている人が多い。この3年間、「米国経済はすぐに力強い自律的回復基調に乗り、潜在成長率を上回る成長を始める」というのが、いわばコンセンサスだった。
だが、そんな見通しは実現しなかった。米国は、民間部門の過剰な債務が公的部門に波及し、今も官民ともにバランスシート調整を迫られるという苦渋の過程にある。このことが示唆しているのは、今後何年にもわたり、米国の成長は良くてトレンドを下回り続けるだろうということだ。
米経済はゼロ成長に失速する
コンセンサスは今年の経済成長すら正しく予想できなかった。2012年のGDP(国内総生産)成長率はトレンドを上回り、3%を超える回復を記録すると見ていたが、現実には上期の成長率はせいぜい1.5%止まりで、2011年の1.7%という低調なペースすら下回る可能性が濃厚となっている。
このように2012年上期の景気動向を見誤ったこの期に及んでもなお、多くの人々が性懲りもなく、おとぎ話のような楽観的ストーリーを繰り返している。
原油価格の下落や自動車販売の好調、住宅価格の回復、米国製造業の復活といった要因が相まって、今年下期には成長が加速し、2013年には潜在成長率を上回る成長が実現すると期待しているのである。
だが、真実はこれとは逆だ。2012年下期に成長はさらに減速し、2013年にはなお一層鈍化して、ほぼゼロ成長に失速するだろう。そのように考える理由はいくつもある。
第1に、第2四半期の経済成長率は、雇用が月間平均7万人と急減したのに伴い、第1四半期の1.8%成長という遅々たるペースから一段と減速した。
第2に、「財政の崖」が立ちはだかっている。つまり今年の年末で「ブッシュ減税」という大型所得減税などが期限切れを迎える一方、年明けには大幅な歳出削減が実施される予定となっており、このことが2012年下期を通じて支出と成長の足かせになる恐れが大きい。
加えて、様々な不確定要因も成長にネガティブな影響を及ぼすだろう。具体的には、2013年に大統領になるのは誰か、税率や歳出はどの程度の水準になるのか、債務上限を巡って再び連邦政府の窓口が閉鎖される恐れはないか、あるいは中期的な財政再建策を巡る与野党の対立によって、政治の行き詰まりが米国債の格付けをさらに引き下げるリスクがあり、不透明感は強い。
こうした状況の下では、多くの企業や消費者が支出に慎重になっても不思議はなく(判断先送りのオプション価値)、経済は一段と冷え込むと考えるべきだろう。
「財政の崖」、GDPを4.5%下げる
第3に財政の崖、つまり、すべての減税措置、そして失業給付の延長といった社会保障関連の支援策が打ち切られ、厳しい歳出削減措置が導入された場合、その影響は2013年のGDPを4.5%押し下げると見られる。
むろん、減税打ち切りによる増税と歳出削減がそこまで厳しいものとならなければ、成長への影響はもっと小さくなる。だが、財政の崖が成長に与えるマイナスの影響が小幅にとどまり、例えばGDPを0.5%押し下げる程度だと想定しても、今年末に経済成長率がわずか1.5%まで下がっていれば、来年の経済成長率は1%となる。
要するに、財政政策の効果が剥落して国民経済が需要不足に陥る(フィスカル・ドラッグ)のに伴い、ほぼゼロに近い水準にまで経済成長が失速すると予想されるということだ。
第4に、過去数四半期の個人消費の伸びは、実質賃金の伸びを反映したものではない。事実、実質賃金は減少している。昨年以降の可処分所得の伸び、及びそれに伴う消費の伸びは、約1.4兆ドルに上る減税と失業給付の延長などの社会保障費に支えられたものであるにすぎない。このことは、公的債務がさらに1.4兆ドル膨らんだことを意味する。
ユーロ圏と英国では緊縮財政を前倒しで進めている影響で、既に景気が二番底に陥っている。一方米国は、公的部門の負債拡大を通じて、家計部門の負債圧縮をある程度食い止めているのが現状で、これは将来の成長を一部先食いしているに等しい。
2013年に失業給付の延長などが徐々にせよ打ち切られ、一部の減税措置が終了すれば、可処分所得の伸びと消費の伸びは減速するだろう。その時、米国は財政措置終了の直接的な影響だけでなく、個人消費者の間接的な影響も被ることになるだろう。
のしかかる4つの外的阻害要因
第5に、4つの外的要因が米国の成長をさらに阻害すると考えられる。すなわち、(1)ユーロ圏危機の深刻化 (2)中国が次第にハードランディングの様相を見せつつあること (3)循環的要因(先進国の景気低迷)と構造的要因(国家資本主義モデルが潜在成長率を押し下げている)によって新興国全般が景気減速しつつあること (4)そして2013年に原油価格高騰が再燃するリスク──だ。
イランとの交渉によっても、同国への制裁によっても核開発を断念させられなければ、原油価格が再び上昇に転じることは避けられそうもない。
ゼロ成長に向けて減速する米経済を浮揚させるべく政策対応をしても、その効果は極めて限られるだろう。財政措置終了が成長に緩やかな悪影響しか与えないとしても、ドル高という要因が浮上するからだ。ユーロ圏危機を背景にユーロ安が進み、世界的にリスク回避志向が再燃する中で、ドルは上昇する公算が大きい。
今年、米連邦準備理事会(FRB)が一段の量的緩和に踏み出す公算は大きいが、多くは期待できない。長期金利は既に極めて低く、長期金利をこれ以上引き下げても、支出押し上げ効果は望めまい。事実、銀行が超過準備の形でベースマネーを積み上げるに伴い、与信活動はほぼストップし、通貨流通速度は極度に低下している。しかも、ほかの国も量的緩和を実施しているため、ドルが下落する公算は小さい。
同様に、追加的量的緩和が株価を押し上げる影響よりも、景気低迷の影響の方が大きいと見られる。現在の株価の割安感が、2009年や2010年ほどではないことを考えればなおさらだろう。事実、需要減退を受けて売上高が伸び悩み、利益率や収益性が圧迫されるにつれ、企業収益の伸びには息切れ感が出始めている。
実際、2013年には株価の大幅調整を引き金に、米国経済が景気後退に陥る恐れがある。欧州危機や新興国の景気減速で、世界経済は既に抵抗力を落としている。こうした状況において、今なお世界最大の経済国である米国の風邪がぶり返せば、世界は肺炎になるに相違ない。
国内独占掲載:Nouriel Roubini © Project Syndicate
ノリエリ・ルービニ
ニューヨーク大学スターンビジネススクール教授。経済分析を専門とするRGEモニターの会長も務める。米住宅バブルの崩壊や金融危機の到来を数年前から的確に予測したことで知られる。
Project syndicate
世界の新聞に論評を配信しているProject Syndicationの翻訳記事をお送りする。Project Syndicationは、ジョージ・ソロス、バリー・アイケングリーン、ノリエリ・ルービニ、ブラッドフォード・デロング、ロバート・スキデルスキーなど、著名な研究者、コラムニストによる論評を、加盟社に配信している。日経ビジネス編集部が、これらのコラムの中から価値あるものを厳選し、翻訳する。
Project Syndicationは90年代に、中欧・東欧圏のメディアを支援するプロジェクトとして始まった。これらの国々の民主化を支援する最上の方法の1つは、周辺の国々で進歩がどのように進んできたか、に関する情報を提供することだと考えた。そし て、鉄のカーテンの両側の国のメディアが互いに交流することが重要だと結論づけた。
Project Syndicationは最初に配信したコラムで、当時最もホットだった「ロシアと西欧の関係」を取り上げた。そして、ロシアとNATO加盟国が対話の場 を持つことを提案した。
その後、Project Syndicationは西欧、アフリカ、アジアに展開。現在、論評を配信するシンジケートとしては世界最大規模になっている。
先進国の加盟社からの財政援助により、途上国の加盟社には無料もしくは低い料金で論評を配信している。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120725/234891/?ST=print
米企業、増益傾向に終止符か 世界景気低迷で
2012年 7月 30日 9:27 JST
米国から中国に至るまでの景気鈍化、消費者の警戒感の高まり、多くの欧州諸国でのリセッション、それにドル高を背景に、米大手企業の収益では少なくとも10四半期連続での増益傾向に終止符が打たれる可能性がある。
記者: Kate Linebaugh
【コラム】FRB、非伝統的緩和策を再度実施の可能性 (7/30)
米連邦準備制度理事会(FRB)はどうやら追加の金融刺激策を実施する構えのようだ... 続きを読む
2012年の米経済成長、下半期も期待を裏切る展開か (15:23)
2012年は希望に満ちた形で始まったが、その大半は打ち砕かれてしまった。
中国、海外機関投資家に対する規制緩和策を施行―要件緩和など (16:45)
ECBとEFSFはユーロ救済のため近く行動する=ユーログループ議長 (10:38)
米企業、増益傾向に終止符か 世界景気低迷で (09:27)
目減りする米企業の利益 最近のドル急騰が主因 (20:07)
米国へのサウジ人留学生、同時テロ前の4倍に (18:10)
LIBOR操作めぐりNY州で集団訴訟 “今世紀版アスベスト訴訟”の様相 (18:26)
http://jp.wsj.com/Business-Companies/node_485554?mod=WSJWhatsNews
The Economist
米大統領選:政府の役割巡るドタバタ喜劇
2012.07.31(火)
米国の最大の国内問題について有益な議論が始まったが、その内容はコミカルなほど底が浅い。
次のホワイトハウスの主がどちらになっても、直面する課題は同じだが・・・〔AFPBB News〕
米国大統領選挙の中傷合戦の中で、重大なテーマが姿を現し始めた。政府はどのような役割を演じるべきか、というテーマだ。
現大統領のバラク・オバマ氏は7月に入り、起業家は自身の力のみで成功するのではなく、道路や橋など、社会が建設し、商業を可能にするインフラの世話にもなっていると発言し、物議を醸した。「誰かが企業を興したとしても・・・その人がすべてを築いたわけではない」と述べたのだ。
一方、対抗馬のミット・ロムニー氏は、国による施しを期待するならオバマ氏に投票すればいいと訴えている。
両者の立ち位置は、互いの中傷広告により歪められている。だが、2人の候補者に象徴される左派と右派の分裂は、現実に存在する。人生の大半を公的部門や学術界、コミュニティの活動に費やしてきたオバマ氏が、国がより大きな役割を担っていると考えているのは明らかだ。(2008年のように)需要が急落した場合の景気の刺激や格差の解消での役割だ。
それに対し、プライベートエクイティの世界で2億ドルほど稼いだロムニー氏は、政府にできる最良のことは、邪魔をしないことだと信じている。そのための方法となるのが、減税と規制緩和を実施し、国民が自由に起業できるようにすることだ。
いいだろう。米国は確かに、政府の規模と活動範囲、そしてその財源について、真剣な議論を必要としている。11月の大統領選の勝者は、すぐに「財政の崖」の問題に向き合うことになる。各種減税の期限切れという形で訪れることが決まっている4000億ドルの増税と、年間1000億ドルの歳出削減から成る「財政の崖」は、米国経済を再び景気後退に追い込む恐れがある。
その上に影を落としているのが、大きく口を開けた赤字だ。さらにその上には、米国の統合失調がある。すなわち、小さな政府の国のような税制度でありながら、大きな政府の国のように支出しているという問題だ。
良かれ悪しかれ選択は自由
米国以外の世界の国々は、そうした議論から得るものがあるだろう。米国は過去50年間、1970年代の規制緩和からニューヨークの「割れ窓」理論による治安対策まで、国家の役割を巡る興味深い意見のほとんどを生み出してきた。
7月31日は、ミルトン・フリードマン氏の生誕100周年にあたる。シカゴ学派の経済学者であるフリードマン氏は、大きな政府との闘いの最大の立役者だ。電話会社や航空会社から役人を追い出し、親が子供の通う学校を選べる教育バウチャー制度を提唱し、国家の干渉から生じる意図せぬ結果を激しく非難した(例えば、賃貸利用できる不動産を減少させる「家賃統制」法など)。
フリードマン氏はロナルド・レーガン氏とマーガレット・サッチャー氏の師だったが、そのアイデアは左派の創造性をも刺激した。ビル・クリントン氏の「新民主党」路線も、チャータースクールと福祉改革を採り入れ、「政府をつくり替え」た。
だからこそ、今の米国での政府を巡る議論が精彩を欠いていると伝えなければならないのは、残念なことだ。明らかな衰えが見えるのは右派だ。フリードマン氏が『選択の自由』を発表した1980年には国内総生産(GDP)の34%だった財政支出が、現在の40%以上にまで増加したことについては、本誌(英エコノミスト)も到底喜べない。
だが、米国の保守派は、あまりにも怒りを募らせすぎ、かつての自身のパロディのようになってしまった。
減税はどんな時でも正しい(たとえ赤字が膨らむことになっても)。政府の積極的介入はどんな時でも間違っている(たとえ景気後退の回避に刺激策が役立つとしても)。そして、こと保守的な取り組み(刑務所、軍、大企業への助成金)に対する支出にかけては、右派の偽善的態度は目を見張るほどだ。前大統領のジョージ・W・ブッシュ氏は、政府を大きく膨らませた。
共和党が思考不在の右派に移行しているとしたら、民主党は改革不在の左派に移行していると言える。
オバマ氏には、クリントン氏のような政府の現代化に対する熱意がほとんど見られない。それどころか、労働条件の緩和により、社会福祉改革を後退させている。
法規制を大幅に拡充しており、その大半は、850ページという長大なドッド・フランク法のように、起草に問題があるものだ。困ったことに、公的部門の労働組合に借りがあるオバマ氏は、公的部門が本質的に民間部門よりも高潔だと考えているようだ。オバマ氏にとって、企業とは、良くて乳を搾るための牛、悪ければ狩るべき獲物なのだ。
自由を、そして常識を追求する極端主義
各地方では賢明な実験が続いているとはいえ、連邦政府は手詰まり状態に陥っている。超党派のボウルズ・シンプソン委員会は、理にかなった改革案をまとめた。短期的な刺激策で経済を活性化させ、長期的な社会保障制度改革により赤字を削減し、米国の常軌を逸した税法を単純化するという案だ。
だが、それを下院の共和党議員は拒絶し、オバマ氏は無視した。折しも米国で、ベビーブーム世代が退職し始め、医療費が増加しつつある時のことだ。遅かれ早かれ、高齢者医療の配給制や年金の改革を検討しなければならなくなる。だが、どちらの党も、相手の提案をはねつけている。
そうした背景を考えると、どちらの党にも、考えられないことを進んで考えてもらう必要がある。本誌は政府のスリム化を堅く支持している。だが、共和党は、アダム・スミスやエイブラハム・リンカーンなど聡明な先達と同じように、資本主義経済では、政府には、公益とセーフティネット(安全網)を提供するという重要な役割があることを理解すべきだ。
セオドア・ルーズベルトは、強大な力を持つ企業に税の優遇措置を与えず、そうした企業を解体した。一体なぜ、小さな政府を主張する人たちが、薬物との戦いに関して、薬物の供給を削減せずに、刑務所の収容者を限界にまで膨れ上がらせるという費用のかさむやり方を支持するのだろうか?
だが、共和党の最大の問題は税金にある。赤字削減計画を成功させるには、少なくとも赤字の一部――恐らくは4分の1程度――は、新たな歳入で埋める必要がある。共和党が税制度の抜け穴を塞げば、主要な税率をすべて引き下げながら、税収を増やすこともできるはずだ。
民主党の問題は、むしろ支出の側にある。民間部門の生産性が2倍に伸びた期間に、公的部門の生産性はずっと横ばいだった。オバマ氏は、納税者の側に立つのか、それとも公務員(連邦政府の公務員は、民間部門以上の賃金と手当を得ている)の側に立つのかを決めなければならない。
政府のあるべき姿と財源を示せ
また、規制の強化ではなく、緩和に真剣に取り組む必要もある。そして、成功を収めている企業経営者に向かって、万事問題なしと主張するのではなく、彼らの声に耳を傾ける時間をもっと増やすべきだ。
米国に必要なのは、現代の政府のあるべき姿を明確に示し、そのための財源をどう確保するかを説明できる人物だ。うまくいけば、議論がオバマ氏かロムニー氏の背中を押すかもしれない。だが現時点では、どちらの候補も、次期大統領が向き合う主要な国内問題を理解しているようには見受けられない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35768
FRB重視の債券指標でデフレ懸念後退、QE3の障害か
7月30日(ブルームバーグ):米景気減速をめぐる懸念にもかかわらず、米連邦準備制度理事会(FRB)によるこれまで2回の大規模債券購入プログラムの前よりも今の方がデフレリスクが低いことが債券市場で示唆されている。
現在の5年後から5年間のインフレ期待を反映するブレーク・イーブン・インフレ率(フォワードBEI)の現在の水準は、日本のような慢性的なデフレを回避できるとのバーナンキFRB議長の説明に投資家が納得していることを示している。これは同時に、4−6月(第2四半期)に1年ぶりの低い伸びとなった米経済の押し上げに向け、追加の量的緩和策(QE)に踏み切るFRBの決断を複雑にしている。2008年と10年のQE1とQE2の実施中は商品価格は大幅上昇したからだ。
フランクリン・テンプルトン・インベストメンツの債券運用委員会の共同委員長、マイケル・マテラッソ氏は今月24日のインタビューで、「インフレ率上昇は消費者にとって重荷となり、景気減速を招く」と指摘。「商品価格の急上昇という結果となれば、有害無益ではないか」と付け加えた。
FRBが重視する市場のインフレ期待を示すフォワードBEIは先週、2.39%で終了。FRBが米国債や住宅ローン担保証券(MBS)の購入を通じて計2兆3000億ドルの資金を米経済に注入した08年と10年の2%を上回る水準にある。
商品相場の指標であるスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)・GSCIトータル・リターン指数は過去2回の量的緩和策実施時に最大85%上昇していた。
障害
FRBが1月に個人消費支出(PCE)価格指数に基づく2%のインフレ目標を導入して以来、債券トレーダーの将来のインフレ見通しを示す指標は重要な鍵となっている。PCE価格指数は食品とエネルギーを除いたベースで5月は前年同月比1.8%上昇。10年末は0.9%上昇で、1990年代以降の平均は1.9%上昇だった。
ビアンコ・リサーチは27日付の顧客向けリポートで、FRBはインフレ目標を無視できるかもしれないが、トレーダーの物価見通しは「追加緩和に障害となる可能性がある」と指摘。「これらの指標は差し当たり、過度のインフレを示している」と分析した。
利回り上昇
先週の米国債相場は下落。欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁がユーロを守るために必要なあらゆる措置を講ずると発言したことからユーロと株式相場が上昇。安全資産とされる米国債を保有する必要性が低下したと受け止められた。ブルームバーグ・ボンド・トレーダーによると、10年物米国債利回りは9ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇し1.55%。
27日に米商務省が発表した第2四半期の米国内総生産(GDP、季節調整済み、年率)速報値は前期比1.5%増となった。1−3月(第1四半期)の2%増(上方修正後)から減速したものの、債券相場は下落した。8月3日には7月の米雇用統計が発表される。ブルームバーグのエコノミスト調査の予想中央値によれば、失業率は42カ月連続で8%を超える水準となったと見込まれている。
クレディ・スイス・グループの金利ストラテジスト、スコット・シャーマン氏は25日の電話インタビューで、「インフレ率を押し上げる必要はない。注目されているのは経済成長を支援したいという当局の姿勢だ」と指摘した。
プライマリーディーラー(政府証券公認ディーラー)21社の1つであるクレディ・スイスは、今月31日と8月1日の2日間の日程で行われる連邦公開市場委員会(FOMC)がQE3を発表する確率を30%と予想。景気減速が続けば9月13日のFOMC終了後にQE3を発表する確率は60%に上がるとみている。
原題:Deflation Dismissed by Bond Measure as QE3 AnticipationAbounds(抜粋)
記事に関する記者への問い合わせ先:ニューヨーク Daniel Kruger dkruger1@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:Robert Burgess bburgess@bloomberg.net
更新日時: 2012/07/30 12:51 JST
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M7YCAH6K50XZ01.html
「取りつけ騒ぎ」なくすために誕生した中央銀行
第1回 米連邦準備理事会(FRB)の起源と使命 その1
2012年7月31日(火) ベン・バーナンキ
今年3月下旬、米連邦準備理事会(FRB)のベン・バーナンキ議長が米ジョージワシントン大学ビジネススクール(同大学のビジネススクールは学部)の大学生を対象に「米連邦準備理事会(FRB)と金融危機」と題して、4回にわたり講義を行った。その学生との質疑応答も含めた講義の全文を本日より連載でお届けする。
中央銀行が誕生した歴史的背景から、その使命、1930年代に恐慌が起きた際のFRBの対応、その後金融政策が発展した経緯、そして米住宅バブルがなぜ発生し、その崩壊によってなぜ2008年秋の金融危機が発生したのか、何が問題だったのか、危機に対して当時、FRBがいかに対応したのか――。バーナンキ議長が大学生に分かりやすく語った金融危機の全容と深層とは――。
ご紹介ありがとうございました。このような機会をいただき光栄です。私は今の職務に就くまで23年間、大学で教えていました。大学では、学生と過ごす時間をいつも楽しんでいました。今日は出席してくれて、ありがとう。
ご存知のように、本講義は正式な履修科目になります。私の講義終了後、みなさんはレポートを提出しなければなりません。私もその一部を読ませてもらう予定なので楽しみにしています。
では、始めます。4回の講義では「米連邦準備理事会(FRB)と金融危機」について話をします。私が話すことは、経済史学者としての私自身の経験を基にしています。この講義では、この数年間に起きた出来事、つまり、2008年に発生した金融危機とその危機に対するFRBの対応が焦点となります。
しかし、これらの問題について議論するには、一度現在から目を離し、そもそも中央銀行が発展してきた歴史、つまり、過去に遡って大きな文脈の中で考えることが必要だと考えています。
金融危機は大きな文脈の中で捉えることが大事
したがって、FRBについて具体的な話をする前にまず、中央銀行全般の「起源と使命」について説明します。その後、1930年代の大恐慌を中心とする過去の金融危機を取り上げ、それが直近の危機におけるFRBの行動と判断にどのような示唆を与えたのかを話します。
講義は全部で4回ですが、第1回の今日は、2008年に発生した金融危機には触れません。まず、中央銀行とは何か、どんな役割を担っているのか、米国で中央銀行がどのようにして誕生したのかを紹介します。過去の歴史をひもとき、FRBが初めての過酷な試練、つまり、1930年代の大恐慌にどのように対処したのかを話します。
第2回の講義でも歴史を遡ります。中央銀行の制度、そして第2次大戦後、FRBがどのように発展してきたのか――。具体的には1970年代のインフレをいかに克服し、その後の「グレート・モデレーション*」と呼ばれた時期のFRB、そして様々な過剰が積み上がって2008〜2009年の危機へとつながっていった状況について、かなり時間を割く予定です。
*世界的な実質GDP(国内総生産)や失業率などの変動幅が縮小し、インフレ率が安定基調を示した時期を指す言葉で、「超安定化」とも呼ばれる
第3回と第4回の講義では、最近の動向を取り上げます。第3回では、金融危機のまっただ中の状況と危機の原因、それが意味するもの、そして特にFRBやほかの政策当局の危機対応について話します。
最後の第4回では、危機の余波について論じる予定です。危機に続いて訪れた景気後退と、金融政策を含むFRBの政策対応、金融規制の変更という幅広い対応について説明した後、この経験がFRBや各国の中央銀行の今後の政策運営にどのような変化をもたらすのかについても簡単に触れます。
中央銀行が担っている重要な2つの役割
さて本日は、「FRBの起源とFRBの使命」がテーマです。まず「中央銀行とは何か」という一般的なテーマから始めましょう。経済分野の知識が多少あれば、中央銀行が通常の銀行とは違うこと、政府機関であること、そして一国の通貨・金融システムの根幹を成すものであることは知っているでしょう。
中央銀行は重要な機関で、近代の金融システムと近代の通貨システムの発展を支え、経済政策の主要な役割を担ってきました。過去、様々な制度がありましたが、米国のFRB、日本の「日本銀行(日銀)」、カナダの「カナダ銀行」など、今ではほぼすべての国が中央銀行を抱えています。
例外は、数カ国が共同で1つの中央銀行を有するいわゆる「通貨同盟」と呼ばれる制度です。その最も重要な例が「欧州中央銀行(ECB)」です。ECBは共通通貨「ユーロ」を使用する欧州17カ国の中央銀行です。
しかし、ユーロ圏においても、加盟国はそれぞれ自国の中央銀行を抱えており、各中央銀行はユーロ全体のシステムの一部を構成しています。つまり、中央銀行は今やどこにでも、どんな小さな国にも存在する普遍的な機関と言えます。
このため、中央銀行とは何で、その使命は何か、というのは重要なテーマです。今日は、中央銀行の持つ使命を大きく2つに分けて論じます。
第1の使命は、「マクロ経済の安定を達成すること」です。「マクロ経済の安定」とは、通常、景気後退といった経済の大幅な変動を避け、インフレを低いレベルで安定させて、経済の安定的な成長を達成することを意味します。これが中央銀行の経済面で果たす機能です。
中央銀行の2つの使命
中央銀行のもう1つの使命は、「金融情勢を安定させること」です。この使命が本講義の重要な焦点となることは言うまでもありません。中央銀行は、金融システムが正常に機能し続けるよう支え、特に「金融パニック」や「金融危機」の発生を防ぐ。それができない場合はその影響を和らげるよう努めます。
FRBが使命を果たすための2つの手段
この2つの大きな目的を達成するため、中央銀行はどんな手段(tool)を用いるのか。簡単に言うと、大きく分けて2つの手段がある。
経済を安定させる最大の手段は、周知の通り「金融政策」です。FRBは、例えば、「フェデラルファンド・レート(政策金利、以下FFレート)」として知られる短期の金利、つまり翌日物金利を引き上げたり引き下げたりできます。具体的には、公開市場で証券(securities)を売買することによってFFレートを一定の水準に誘導します。経済成長のペースが遅すぎたり、物価が下落しすぎたりした場合には、FRBは利下げを行い、景気を浮揚させることができます。
政策金利の引き下げは、様々な金利に波及し、支出や住宅の購入、建設、企業による設備投資や借り入れを促します。金利の低下に伴って需要が増加し、支出が拡大し、投資が喚起され、成長が一段と押し上げられるというわけです。したがって、景気を刺激するには金利を下げればよい。
一方、景気が過熱してインフレが問題になり始めた場合には、中央銀行は通常、政策金利を上げる。すると利上げの効果が金融システム全体に波及し、借り入れコストや住宅やクルマを購入するコスト、設備投資のコストが上昇し、それによって成長が減速し、景気が過熱する圧力が低下するわけです。このように金融政策は、中央銀行が経済やインフレを安定させ、バランスの取れた経済成長を達成するために昔から用いてきた基本的なツールです。
中央銀行が政策を実行するための2つの手段
経済を安定させるためのもう1つのツールが、「流動性の供給」です。「金融パニック」や「金融危機」が発生した際に対処するために使う手段です。
金融を安定させる必要性が生じた場合に、中央銀行ができるのが金融機関に対して「短期の資金を融資すること」です。金融機関がパニックや危機に見舞われた時、それらの金融機関に短期的に「信用」を提供することで、市場を落ち着かせ、金融機関の動揺を鎮め、金融危機を和らげたり終息させたりするわけです。
中央銀行によるこうした取り組みは、昔から行われており、「最後の貸し手」という機能として知られています。金融市場が動揺すると、金融機関は金融市場から資金を調達ができなくなります。そこで中央銀行が「最後の貸し手」として流動性を金融システムに提供し、金融システムを安定させるわけです。
このほかに、世界の多くの中央銀行と同様、FRBには設立当初から「第3の手段」というのがあります。「金融規制と監督」です。中央銀行は通常、銀行システムを監督し、銀行が抱える資産ポートフォリオのリスクの度合いを評価して、銀行の業務が健全に行われているかどうかを確認する役割も担っています。
つまり、金融システムの健全性を維持する責務も担っているわけです。金融システムの健全性が維持され、合理的な範囲内でリスク・テーキングが行われている限り、金融危機が発生する危険性は低い。ただ、この役割は中央銀行に限定されているわけではありません。米国には、連邦預金保険公社(FDIC)や通貨監督局(OCC)など、様々な機関があり、FRBとともに金融システムを監督しています。なので、「金融規制と監督」は中央銀行固有の役割ではありません。
ですから、ここではこの役割には触れず、まず「金融政策」と「最後の貸し手」という2つの主要なツールに注目したいと思います。
世界初の中央銀行は1668年、スウェーデンに設立
では、そもそも中央銀行はどのようにして誕生したのか、というところからスタートしたいと思います。
中央銀行というのは、それほど新しいものではありません。あまり知られていないかもしれませんが、世界で中央銀行が最初に設立されたのは1668年、今から3世紀半ほど前のことで、スウェーデンで創立されました。1694年には英国で「イングランド銀行」が設立され、イングランド銀行はその後、何十年にもわたり世界で最も重要かつ影響力の大きい中央銀行となりました。1800年にはフランスにも中央銀行が誕生。このように中央銀行は決して新しいものではなく、古くからありました。
イングランド銀行の設立は1694年と言いましたが、その時にゼロから設立されたわけではありません。最初から本格的な中央銀行だったのではなく、イングランド銀行は当初は民間の機関で、紙幣の発行や「最後の貸し手」など中央銀行としての機能を少しずつ備えていって、事実上、政府の機関となり、現在のような形態になったのです。
今の形に発展するまでの大半の期間において中央銀行の重要な責務の1つが、金地金に裏づけられた、つまり、銀行に持ち込めば金と交換してもらえる紙幣の発行を行う「金本位制」の運営でした。これについて少し説明しましょう。
「取りつけ騒ぎ」はなぜ起きるのか
中央銀行の「最後の貸し手」としての重要性が高まったのは19世紀です。19世紀初め、イングランド銀行はこうした役割を積極的に果たし、それに伴ってその手腕を上げてきました。
そのため、19世紀後半に米国では何度か銀行パニックが発生しましたが、英国では稀でした。ですから、イングランド銀行は中央銀行の模範でした。イングランド銀行は当時、最も重要な中央銀行で、私たちが今も利用している手法やアプローチを確立していくうえで大きな役割を果たしました。
ここで、あまり馴染みのない「金融パニック」とは何かについて少し話します。「金融パニック」は、一部の金融機関に対する信頼がなくなることにより引き起こされます。よく知られた例を使って、説明しましょう。
「素晴らしき哉、人生」という映画を見た人はいますか。誰もいない? もう、クリスマス映画なんてあまり見ないんですね。この「素晴らしき哉、人生」で男優ジミー・スチュアートが扮する銀行マンは、自分の銀行の「取りつけ騒ぎ」に巻き込まれてしまうのですが、「取りつけ」とは何でしょうか。
*原題は「It’s a Wonderful Life」で、1946年の米国の映画
預金保険も、連邦預金保険公社(FDIC)*もない時代にジミー・スチュワートが置かれた状況を想像してみてください。
*米国政府の公社で、FDICに加盟した銀行については、日本の預金保険機構と同様、預金者の一定額までの預金を保護する
みなさんが街角でごく普通の商業銀行を経営しているとします。一般の人からの預金を原資にして事業などに融資を行っています。預金は、預金者がいつでも好きな時に引き出せるタイプの預金です。買い物など日常生活で預金を使うため、これは重要なポイントです。
すべての預金に見合う「現金」を保有している銀行などない
何かの理由で、この銀行の融資の一部が不良債権となり「大損害を被った」という噂が広がったとします。すると何が起きるか。
みなさんが預金者ならこう考えるでしょう。「噂が本当かどうかは分からないが、何もしないでいるうちにみんなが自分のお金を引き出してしまい、自分が行った時には何も残っていないという事態になるかもしれない」――。そしたらどんな行動を取るでしょうか。
「噂が真実かどうかはともかく、銀行に預金者が殺到しているのだから自分も預金を引き出そう」と考え、とにかく銀行に出向くでしょう。かくして預金者は列を成して自分の預金を引き出そうとします。しかし、すべての預金に見合う「現金」を保有している銀行などありません。
銀行は預金者から預かったお金を、「貸し出し(ローン)」に向けているからです。僅かばかり準備している現金を払い出してしまった後、銀行が預金者に払い戻しをするには、「(商業)貸出債権」を売却、譲渡するしかありません。しかし、貸出債権を売却することは極めて困難で、時間がかかります。
このため、銀行は割安な価格で貸出債権を売却せざるを得なくなる。こんなことをしているうちにも預金者は銀行に押し寄せ「自分のお金を返せ!」と叫ぶようになり、最終的にはパニックが発生して、銀行は閉鎖されることになるわけです。みんなが「あの銀行が危ない」と思い始めること自体が、まさに銀行の破綻へとつながっていく事態を引き起こすわけです。
破綻すれば、銀行は安い価格で資産の売却を余儀なくされ、最終的には多くの預金者がお金を失うことになるかもしれません。米国で1929年に大恐慌が発生した時、実際こうしたことが起きました。
米国で1929年、大恐慌が発生した際には、自分の預金を引き出そうと預金者が銀行に殺到する取りつけ騒ぎが多発した
銀行危機は、短期の預金や短期の借り入れによって調達した資金で貸し出しを行う銀行や、その他の流動性の低い資産を抱える金融機関なら、どこでも直面し得る問題なのです。
銀行パニックが経済の崩壊をも引き起こすことも
こうしたパニックは、さらに深刻な事態に発展する可能性があります。1つの銀行で問題が発生すると、別の銀行にお金を預けている人々も当然、「自分の銀行でも問題が起きるのではないか」と心配し始める。かくして取りつけ騒ぎは沢山の銀行を巻き込み、広範な銀行パニックへと発展することもあるわけです。
連邦預金保険公社(FDIC)という機関が存在していなかった時代には、預金の払い戻しを拒否することでパニックや取りつけ騒ぎに対処しようとした銀行もありました。「お金がなくなったので窓口を閉める」というわけです。しかし、預金をしている人が自分の預金を引き出せなくなると、別の深刻な問題が生じます。経営者なら給与を支払えなくなるし、消費者なら食料品や雑貨を買えなくなる。銀行パニックは、沢山の銀行が倒産するだけでなく、ほかの市場にまで影響が広がることも少なくありません。
過去においては、株式市場の暴落を引き起こすことも稀ではなく、これらすべてが重なって経済に大きな打撃を与えました。つまり、銀行パニックは経済の崩壊をも引き起こしかねないわけです。
「預金を引き出そうと預金者が銀行の前に列を作っているような状況」――。これが、目にするまでもなく、「取りつけ騒ぎ」の正式な定義です。金融パニックは流動性の低い資産を抱える金融機関なら、いかなる時にも起こり得ます。
銀行が流動性の低い、つまり、貸出債権を売却するのに時間と労力がかかるような長期の融資を行っていて、資金調達は預金やその他の短期債務で賄っているとします。こうした場合に預金者や貸し手が、「待てよ。この銀行にはお金を置いておきたくないから、資金を引き揚げよう」と考え始めると、銀行は深刻な事態に陥る。
「最後の貸し手」として資金を供給し、パニックを終息させる
さて、話を先の映画の話しに戻しましょう。FRBは「素晴らしき哉、人生」に出てくる銀行マン、ジミー・スチュアートを助けることができるでしょうか。
FRBの基本的な解決手段は、「最後の貸し手」としての機能です。ジミー・スチュアートが預金者に預金を払い戻すとしましょう。彼は優良な貸出債権を大量に保有しているものの、貸出債権をすぐに現金化することはできません。しかし、窓口には払い戻しを求める預金者が詰めかけている。FRBがあれば、ジミー・スチュアートは地元のFRBの事務所を訪れ、こう言うでしょう。
「私は沢山の優良な貸出債権を保有しています。それを担保として差し出すので現金を融資してください」
こうして中央銀行が「最後の貸し手」として機能することになる。ジミー・スチュアートは中央銀行から融資を受けて、その資金で預金者に預金を払い戻す。彼の銀行が健全ならば、つまり、債権が健全である限り、取りつけ騒ぎはやがて収まり、パニックは終息することになるわけです。
要するに中央銀行は、銀行が抱える流動性の低い資産を担保に短期資金を融資することで、金融システムに資金を供給し、銀行は預金の払い戻しを行い、短期債務を返済して、状況を落ち着かせ、パニックを終息させることができるわけです。
早くから取り組んだイングランド銀行
こうしたシステムを、イングランド銀行は早くから考案していました。当時、その理論的な発展という意味で大きな役割を果たしたのが、ウォルター・バジョットというジャーナリストでした。銀行業や中央銀行の政策について深く考えていたバジョットは、パニックが発生した際には、中央銀行は担保を有している限り無制限に希望する全金融機関に資金を貸し出すべきだ、という確固たる信念を持っていました。
英国の中央銀行設立に大きく貢献したジャーナリスト、ウォルター・バジョット氏。19世紀、ロンドンの金融街を何度も襲う銀行危機、恐慌の実態を克明に書き、イングランド銀行の「最後の貸し手」としての働きを分析した「ロンバード街」(日経BP社)の著者としても有名だ
バジョットの主張とはこうです。
「銀行危機が発生したら、良好な資産を保有している銀行には、担保を取ることで確実に返済がなされるようにしたうえで貸し付けを行う。担保は優良でなければならない。だが、担保がそうでない場合には減額(例えば担保価値の半額)して懲罰的な金利を課せばよい。そうすれば、状況に便乗して安易に借りようとする借り手を排除できる。こうすれば、金利が多少高くてもどうしても借り入れを必要とする借り手を選別することができる」
かくして、バジョットのルールに従って、中央銀行が「最後の貸し手」としての機能を発揮すれば金融パニックは終息するというわけです。
中央銀行が担保を取って資金を貸し出すといった資金の出し手がなければ、すなわち「最後の貸し手」が存在しなければ、たくさんの金融機関が業務の閉鎖に追い込まれ、破綻するリスクが存在し続けることになります。また、金融機関が資産の投げ売りを迫られるようなことになれば、これも問題となる。ほかの銀行までもが資産価値の下落にさらされる恐れが出てくるからです。
こうした不安や噂、資産価値の下落を通じてパニックが銀行システム全体に広がらないように中央銀行が積極的に介入することは重要です。中央銀行は、「短期の流動性を提供し、システムの崩壊を食い止める」、あるいは少なくとも、「システムの深刻なストレスを取り除く」責任を負っているということです。
では、米国ではどのようにして中央銀行が設立に至ったのか。それを次に話します
ベン・バーナンキ(Benjamin Shalom Bernanke)
薬剤師の父と学校教員の母の長男として、1953年12月13日に米ジョージア州オーガスタで誕生、サウスカロライナ州ディロンで育つ。高校時代、大学進学適性試験SATで1600満点注1590点というその年の州で一番の成績を収め、1972年ハーバード大学に進学、経済学を学ぶ。1979年、年米マサチューセッツ工科大学(MIT)で経済学博士号を取得し、同年以降、米スタンフォード経営大学院で教える一方、ニューヨーク大学で客員教授も務める。1985年プリンストン大学経済学部教授に就任、この時、日銀の政策がいかに間違っていたかを研究。デフレ史の研究でも知られ、友人でノーベル経済学賞受賞のポール・クルーグマン氏とともにインフレターゲットの研究者としても名声を高める。2002年にブッシュ政権下でFRBの理事に就任、2005年同ブッシュ政権下で、米大統領経済諮問委員会(CEA)の委員長を経て、翌2006年2月1日にFRB議長に就任、2010年1月解任される。
さあ、バーナンキ議長の講義を聞こう!
この連載は、米連邦準備理事会(FRB)のベン・バーナンキ議長が今年3月下旬に、米ジョージワシントン大学ビジネススクール(同大学は学部としてビジネススクールを持つ)の大学生を対象に「米連邦準備理事会(FRB)と金融危機」と題して、4回にわたって行った講演の全文である。中央銀行が誕生した歴史的背景から、その使命、1930年代に恐慌が起きた際のFRBの対応、その後金融政策が発展した経緯、なぜ米住宅バブルが発生し、なぜその崩壊によって2008年秋の金融危機が発生したのか、何が問題だったのか、そして危機に対してバーナンキ議長を筆頭にFRBがいかに対応したのか――その全容を大学生を対象に分かりやすく説明している点がポイントで、金融危機の深層を明らかにしてくれる。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120725/234880/?ST=print
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