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The Economist
ユーロ危機:スペインからの逃避
2012.07.30(月)(英エコノミスト誌 2012年7月28日号)
スペインをしばらく支えることは可能だ。だが、スペインの苦境には、ユーロ圏全体に対する憂慮すべき教訓が含まれている。
スペインの悪夢はまだ続いている〔AFPBB News〕
最もひどい悪夢とは、目覚めることができないものだ。スペインに聞いてみるといい。
1年前、ユーロ危機がギリシャ、アイルランド、ポルトガルから伝染する中で、スペイン政府の借り入れコストは急上昇した。中央銀行の介入と改革派の新政権への期待により、パニックは収束したかに見えた。
それ以来、スペインは概ね約束を守っており、マリアノ・ラホイ首相率いる政府は予算を削減し、労働市場を自由化し、ブリュッセルで開かれる幾多の「運命を左右する」首脳会議で一定の役割を担い、銀行の救済資金として最大1000億ユーロの支援を取り付けた。
しかし、このような努力と痛みのかいもなく、スペインはいまだ破滅の予感を振り払うことができずにいる。7月25日には、10年物国債の利回りがユーロ導入後で最も高い7.75%を記録した。2年物国債の利回りも7%を超えた。近い将来、スペインは救済を要請するか、さもなくばデフォルト(債務不履行)を迫られると、投資家たちは危惧している。
スペインの悪夢はユーロ圏全体が抱える問題がもたらす症状にすぎない。無為に月日が流れる中、危機は深刻化している。欧州の首脳陣は世界に向け、自分たちにはユーロを救うために必要なことなら何でもする覚悟があり、これを信頼してほしいと訴えかけてきた。首脳陣はまた、混乱を収拾するためのさらなる猶予も求めている。
確かに彼らに課せられた任務は非常に大きいが、首脳たちがシャトーや海辺の別荘に姿を消す中で信頼は失われつつあり、時間は彼らの味方ではない。
雄牛と角
スペインが650億ユーロ規模の増税と歳出削減を発表し、銀行救済の資金を勝ち取ってからまだ1カ月も経っていないだけに、同国の現状はより一層ショッキングに映る。
この支援策はユーロ圏が一丸となってスペインを守り続ける覚悟があることを投資家に納得してもらうことが目的だった。
ところが、このメッセージは新たな知らせによってかき消されてしまった。スペイン政府が景気後退は2013年まで続くとの見方を示したうえ、さらに悪いことに、同国の地方政府が破綻状態にあることを突如として明らかにし、中央政府はこれを救済するための資金の工面を迫られている。
スペインの今後の見通しは思わしくない。景気は後退局面にあり、公共部門は支出を削減中で、民間部門は投資に消極的だ。このように内需が不足している状況では、ラホイ政権はほぼ確実に赤字削減の目標を達成できない。
目標が達成できなければ、スペインはさらなる緊縮政策を科すよう要請されるだろう。これは就任直後から急低下してきた支持率を一段と下降させるはずだ。
予算削減を巡る中央政府と各地方の政治家のいさかいによって、スペインの決意はさらに揺らぐだろう。地方の政治家は公的支出の40%を掌握しており、たとえ与党に所属していても、自分たちが持つ自律性を守ることに抜かりない。
政治不安が経済にも影響を及ぼし、景気はさらに後退するだろう。こうして悪循環は続いていくのだ。
スペイン救済は時間稼ぎ
スペインはこの罠から自力で抜け出すことはできない。政府は資金に余裕がないことを認めており、貸し手側は同国の支払い能力を疑い始めている。
欧州中央銀行(ECB)と各種の救済基金を何らかの形で組み合わせ、国債利回りを下げるという方法で、何らかの救済策をまとめることはできるだろう(たとえ主要な救済基金が、裁定にあきれるほど時間がかかるドイツの憲法裁判所による判断を待っている最中だとしても)。
ただし、それも時間稼ぎにすぎない。しかも、この手で稼げる時間はそう多くはないだろう。スペインを救済するや否や、投資家は当然ながらイタリアについて懸念し、救済基金が足りるかどうかを心配するはずだ。
また、債務の扱いを巡る技術的な問題もある。新たに救済基金から提供される資金は優先的な債務と見なされ、ほかの債権者が不利益を被る恐れがあるのだ。加えて、政治的な問題もある。最大の資金拠出国であるドイツが反対した場合、ECBは大規模な介入を続けることができない。
ユーロ圏が本当の意味で一致団結し、経済的に十分かつ政治的に実行可能な計画をまとめない限り、スペインの救済は短期的な処置の域を出ないだろう。
団結か、死か
結局は、本誌(英エコノミスト)がこれまでも主張してきたように、問題解決のためには債務の一部を相互負担し、域内の大手銀行を支援するという形でユーロ圏加盟国の力を結集することが必須だ。ただし、連邦主義の推進と並行して、成長に向けた対策も講じる必要がある。
緊縮政策(これがいかに自滅的なものになり得るかはスペインが証明している)の緩和は優先事項だが、起業家に自由を与えるための構造改革も同時に推し進めるべきだ。1975年以降に現在のユーロ圏を構成する国々で誕生した企業で、現時点で世界のトップ500に入っている大企業は1社しかない(皮肉にも、それはスペインのインディテックスだ)。
対照的に、米国はカリフォルニア州だけで26社のトップ500企業を生み出した。企業を弱体化させている多くの理不尽な規制を取り払ってしまえば、欧州は皆を驚かせるような力を秘めているはずだ。
連邦主義の推進、救済や成長に向けた政策という青写真は確かに機能するが、それには時間がかかる。たとえ各国政府が今すぐ合意できたとしても、詳細の詰めや国民投票の実施、各国憲法の修正には優に3年はかかる。このプロセスの開始でさえ遅れている現状では、ただでさえ困難な任務がさらに難しくなるばかりだ。
問題は、この新しい欧州を生み出すために誰が何を犠牲にすべきかについて、ユーロ圏に住む3億3300万の市民は言うまでもなく、17カ国が合意できていないということだ。
23日に国債格下げの可能性を警告されたばかりのドイツは、現時点で求められている負担ですら既に過剰なのではないかと戦々恐々としている。オランダとフィンランドは不快感を募らせている。フランスは欧州連合(EU)の運営方法にどのような変更が必要かという点で、ドイツと意見が異なる。
一方、債務国に目を向けると、ギリシャの有権者は中道から両極端の政党へと流れつつある。イタリアでは、マリオ・モンティ首相はここ数十年で最高の首相だが、選挙で選ばれた指導者ではなく、支持率は下降の一途をたどり、イタリアが必要とする改革をやり遂げられない恐れがある。
代わってシルビオ・ベルルスコーニ氏が復活の機をうかがっており、さらに同氏以上に光り輝いているのが、世論調査で5分の1の票を獲得している(本物の)コメディアンだ。
現在、ユーロ圏は停滞している(そして英国の足も引っ張っている)。この危機により、公共部門の緊縮政策と民間部門の不確実性という二重苦が生まれている。投資家は大きな損失を被るリスクを感じ、行動を差し控えている。消費者は次の不測の事態に備えて蓄えを増やしている。
行動が遅れるほどユーロ圏存続の確率は低くなる
ユーロ圏の破滅的な崩壊が現実的な可能性であり続ける限り、こうした状況が変わることは期待できない。
もしかしたら政治家は、銀行の取り付け騒ぎ、ギリシャの無秩序なユーロ圏離脱、あるいはイタリア国債からの資金流出といったショックによって行動を起こすことになるかもしれない。だが、自国の国民を引っ張っていくのはより一層難しくなるだろう。
行動が遅れれば、ユーロ圏の存続の可能性は低くなる――。これこそが、スペインの悪夢のさらに重い教訓なのだ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35771
伊藤元重の日本経済「創造的破壊」論
【第5回】 2012年7月30日
伊藤元重 [東京大学大学院経済学研究科教授、総合研究開発機構(NIRA)理事長]
ユーロ危機の深層 「最適通貨圏」を形成できない欧州のジレンマ
甘かった
財政基準のチェック
大いなる安定の終焉──グローバル経済の大きな流れから見れば、米国におけるリーマンショックも欧州危機も似た面がある。バブルが崩壊したのだ。これについては前回触れた。
ただ、欧州危機についてより深く見るためには、共通通貨ユーロを軸にした欧州統合のプロセスの根本的な欠陥に触れる必要がある。
1999年に欧州諸国が共通通貨ユーロの導入に踏み切ったとき、経済学者のなかには、この大実験はうまくいかないのではないかという見方をする人が少なからずいた。多くの国が参加した共通通貨をつくるためには、それなりの周到な準備が必要である。残念ながら、必要な条件を満たさないまま、欧州はユーロ導入に走ってしまった。
いま起きているユーロ危機が財政問題に端を発していることからもわかるように、財政政策の運営の健全性が共通通貨制度の維持には必須である。欧州諸国もそれをわかっているので、ユーロ参加国に財政運営の厳しい条件をつけている。
財政赤字はGDPの3%以内でなければいけないし、政府債務もGDPの60%を超えてはいけない。これがユーロ参加のための条件である。ちなみに、今の日本はこの条件を到底クリアできる状況にはない。
もし、ユーロ参加国がこの財政条件をしっかりクリアするような財政運営を行っていれば、今のような深刻な財政危機は起きなかったかもしれない。しかし、欧州諸国はユーロ導入を急ぐあまり、参加国の財政状況のチェックが非常に甘かった。
イタリアやベルギーは、ユーロ参加時でも政府債務がGDPの100%前後もあった。しかし、欧州連合(EU)の本部があるベルギーや、ユーロ参加国のなかで第3の規模であるイタリアを抜きにしたユーロの導入は考えられなかったのだろう。財政運営の問題に目をつぶって見切り発車してしまったのだ。
次のページ>> 必要な財政規律の確立を怠った
ベルリンの壁の崩壊とユーロ
欧州諸国は、第2次世界大戦直後から、欧州の政治経済的な統合に向かって多大な努力を続けてきた。過去の歴史において、何度もドイツの膨張によって欧州大陸が戦乱に巻き込まれてきた。そうしたことを繰り返さないため、欧州全体で政治経済社会の統一を目指したのだ。
1989年のベルリンの壁の崩壊は、こうした動きに大きな影響を及ぼすものであった。東西ドイツが統一されて大ドイツができることで、欧州がふたたびドイツの膨張に直面するという懸念が持たれたのだ。そうした懸念を払拭するためには、欧州の統合を急いで、ドイツを欧州連合のなかに取り込むことが必要だと欧州諸国は考えた。
そこで統合のプロセスが急がれることになる。欧州統合のなかで特に重要な位置を占めるのが、共通通貨ユーロの導入である。通貨を統一するということは、各国の独自の金融政策の運用を放棄するということである。欧州中央銀行が金融政策のすべての責任を負うことになり、各国は金融政策の自律性を失う。
そうした大胆な制度変更をするためには、それなりの準備が必要である。ユーロ参加国が財政政策の規律を守るということは重要な前提条件である。だが、導入を急ぐあまり、必要な財政規律の確立を怠ったと言わざるをえない。
今回のユーロ危機がギリシャの財政危機から始まったのは、欧州の通貨統合の弱点である財政制度の欠陥をついたものであった。
進行中の欧州危機には二つの側面がある。
一つは当面の市場混乱をどのように沈静化させるのかという緊急の問題である。市場で売り浴びせられるスペインやイタリアの国債。この国債市場の暴落をどう防ぐのか。困難に陥ったギリシャやスペインの財政運営をどう支援していくのか。こうした問題については次回に取り上げたい。
次のページ>> 自国の財政政策の自律性を放棄できるか
もう一つの側面は、欧州の通貨統合に伴う欠陥をどう修正していくのかということだ。特に重要なのが各国の財政政策により厳しい規律を課すこと、域内の財政運営における協力のルールを強化していくことである。
仮に今回の危機を乗り切ったとしても、財政制度の欠陥を是正しないかぎり、将来また同じような危機が生じる可能性がある。
欧州内の専門家のなかには、この問題を楽観的に考えている人もいるようだ。今回の危機は大変なことだが、これを通じて欧州の通貨制度の欠陥を是正するチャンスである、と。財政制度の規律と協力のルールを強化できるというのだ。
ただ、現実には問題はそう簡単ではない。各国が自国の財政政策の自律性を放棄するとも思われないのだ。ギリシャやスペインは、外から財政運営に介入されることは好まないだろう。また、ドイツの国民は自分たちが払った税金を他国の支援に使うことに抵抗を示すだろう。財政運営は国家経営そのものなので、国のレベルを超えて仕組みをつくるのは、簡単なことではないのだ。
最適通貨圏の議論で
読み解くユーロ危機
通貨統合の是非を論じる際によく出てくる議論が「最適通貨圏」の考え方である。ノーベル経済学賞を受賞したロバート・マンデル教授が提起した議論だ。以下で簡単に説明してみたい。
為替レートを固定するということは、為替レートの調整機能を失うということである。ユーロという共通通貨を導入することは、もちろん究極の固定レート制の導入ということになる。
ギリシャやスペインとドイツやフランスでは、生産性の上昇のスピードや産業の発展のスピードが違う。為替レートを固定したままでは、この生産性の上昇のスピードの格差が、大きな問題を起こすことになる。
次のページ>> 為替レートの調整機能を放棄した欧州
ギリシャのほうがドイツよりも生産性の上昇のスピードが遅い。両国は同じユーロという通貨を利用しているので、ギリシャの産業競争力は相対的に低下し、ドイツはより強い競争力を持つようになる。為替レートを固定することで、生産性の格差が産業競争力や輸出競争力の差として出てくるのだ。
もし為替レートが変動するなら、こうした問題は起こりにくい。かつて、ドイツはマルク、ギリシャはドラクマという通貨を使っていた。両国間の生産性の上昇に格差があっても、その分ドラクマの為替レートが調整(切り下げ)すれば、両国の競争力はバランスするのだ。
国によって景気の波に違いがあるし、生産性の上昇のスピードにも格差がある。こうした違いを、為替レートの調整が吸収してくれる。これが変動レート制の特徴である。
欧州諸国は共通通貨ユーロを導入することで、こうした調整メカニズムを放棄したことになる。もちろん、ギリシャの賃金が下がっていけば共通通貨のもとでもある程度の格差調整は可能だ。ただ、現実的には賃金はそう簡単に下がるものではない。賃金が下がる以前に、大量の失業が発生するという困難が前面に出る。
為替レートの調整機能を放棄した欧州は、どこか他に地域間(国家間)の調整手段を求めざるをえない。それが、人口移動と財政調整なのだ。
もし欧州域内を人口が容易に移動できるのなら、経済不振のギリシャからドイツなどへ労働者が移動することで、景気や生産性のズレに対応することができる。こうしたメカニズムの実現はある程度は期待できるが、言語も習慣も違う国の間で、人の移動が十分に行われているとも思われない。
もう一つの調整手段が財政だ。豊かなドイツのような国から、ギリシャやスペインなどへ財政的移転を行うことができれば、地域間の格差をある程度埋めることが可能である。
次のページ>> 欧州は「最適通貨圏」を形成していない
もし地域間の労働の移動と財政調整が可能であれば、ユーロのような単一通貨の導入には大きなメリットがある。欧州どこに行っても同じ通貨でよいし、為替レートの変動が域内の貿易や投資を妨げることもないからだ。それが実現できるエリアが「最適通貨圏」ということになる。
しかし残念なことに、欧州域内では十分な労働移動がないのはもちろん、域内の財政協力の制度が整っていない。つまり欧州は「最適通貨圏」を形成していないのだ。
「円」と「イェン」
で考えてみる
最適通貨圏の議論はわかりにくいかもしれないので、日本を例に使って説明してみたい。
仮に本州と北海道が違った通貨を使っていたとしよう。本州は「円」、北海道は「イェン」という通貨を使っているとする。産業構造の違いから、北海道は本州に比べて産業の成長スピードが遅い。となれば、円とイェンの間では為替レート調整が起きるだろう。たとえば、1円=2イェンというような為替レートが成立するかもしれない。
イェン安は北海道の人の所得を下げる結果となるが、同時に北海道の産業の輸出競争力を高める。北海道の産品が本州の市場で韓国や中国の商品と競争しているとき、イェン安は北海道の輸出競争力を高める。これが為替レートの調整機能である。
現実には、本州も北海道も同じ通貨である円を使っている。だから為替レートの調整機能は北海道経済には働かない。
ただ、北海道と本州は、日本という同じ国・社会のなかにある。労働移動と財政調整という、調整メカニズムが有効に働いている。北海道での雇用機会が少なければ、首都圏に来ることは簡単だ。同じ言語と文化のなかにあるので、ギリシャの人がドイツに移住するよりは、北海道から本州へ移動するほうが簡単だろう。北海道生まれの若者が東京の大学に来て、そのまま首都圏で生活することもできる。
次のページ>> 労働移動と財政調整の活用
本州と北海道の間の財政による調整機能も重要だ。首都圏などの経済活動で生み出された税収の一部は、公共事業、補助金、交付税などの形で北海道に移転される。本州も北海道も日本という一つの国を構成する存在であり、地域間の財政資金の移動が当たり前のように行える。
つまり、北海道と本州は最適通貨圏を構成していると言える。別の通貨を導入して為替レート調整の助けを借りなくとも、労働移動と財政調整を活用できる。そして同じ通貨を利用するからこそ得られる社会の一体化、域内の貿易や投資の活性化という恩恵を得られるのだ。
欧州はこうした最適通貨圏の方向に向かうことができるのだろうか? 一般的には、財政の統合を実現するのは、大変に難しいことのように思える。完全な統合ではなくても、今より踏み込んだ財政協力が必要となる。
ギリシャやスペインの国民がそれを受け入れるのか。また、ドイツの国民がそれを受け入れるのか。支援される側もする側も、そう簡単に財政統合への道を受け入れるとも思われない。今後の展開が注目されるところだ。
質問1 欧州は、域内の労働力移動と財政調整を進め、「最適通貨圏」の実現に向かうことができると思いますか?
はい 10
いいえ 74
わからない 16
http://diamond.jp/articles/-/22234
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