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中国経済に早期底打ち論、日本の国内生産への波及力は弱まる
2012年 07月 26日 14:17 JST
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[東京 26日 ロイター] 減速感の広がりとともに先行き慎重論が浮上している中国経済だが、早期の底打ちの兆候を読み取る専門家も出てきた。住宅価格下落に歯止めがかかってきたことや下期に本格化する公共投資への期待感が背景にある。実際、4―6月期の経済指標の中には上向きに転じ始めているものもある。
一方、日本経済や企業への波及の面では、従来のように中国経済の回復が直接的に効いてくる流れは徐々に弱まっている。強気の事業計画を出す企業ほど、計画の下方修正を余儀なくされる可能性もある。
<下げ止まり指標相次ぐ、政策効果表れる>
日本の中国向け輸出が安定に向かう兆しが出てきた。25日発表の6月貿易統計では輸出の前年割れに注目が集まったが、足元の変化に目を凝らすと違った姿が現れる。シティグループ証券によると、中国向け実質輸出が前月比で2.6%増加と伸びを高めており、安定感が出始めている。4―6月期でみると小幅ながら3四半期ぶりに前期比プラスに転じた。調査機関の間では中国景気そのものが安定化し始めており、夏場には底入れするとの見方が広がっている。
中国自体の景気指標でも、最悪期を脱しつつある兆候を示唆するものがいくつか出てきた。
先週発表された6月の中国主要70都市の新築住宅価格は前月から横ばいとなり、8カ月連続の下落に歯止めがかかった。北京や上海では昨年6月以来初めて前月比上昇に転じたほか、7月の中国製造業購買担当者景気指数(PMI、HSBC発表)が5カ月ぶりの高水準となったことも、底打ち感をうかがわせる。
4─6月の中国実質GDPが前期比で7.4%に伸びを高めたこともあり、「中国経済の底入れは近づいている」(伊藤忠経済研究所・主任研究員・武田淳氏)との見方に変更する専門家も出てきた。前年に比べ経済活動の水準はまだ低いものの、足元は消費、固定資産投資、輸出ともに回復傾向となったためだ。特に、第12次5カ年計画に沿った公共投資の本格化に加え、鉄道事故で停止していた鉄道車両のほか、電力や空港など従来型の投資を中心に、景気下支えに一役買っている。
<下期回復パターン、1兆元の公共投資で9%成長も視野に>
この先も底打ちから緩やかな回復を予想する声が徐々に増えている。下期は、秋の全国人民代表大会を控え、夏場から金融面、財政面でアクセルを踏み込むことが想定される。「政府が力を入れる環境や省エネ型の投資が中心となり、5カ年計画に沿って環境やバイオ関連、それに交通渋滞緩和に必要な地下鉄投資などを中心に、上期を上回る投資が本格的に出てくる」(ニッセイ基礎研究所・上席主任研究員・三尾幸吉郎氏)と予想されている。みずほ総研中国室の鈴木貴元・上席主任研究員によると、公共投資は下期に1兆元程度にのぼる見通しで、前年比10─20%増加。GDPを半年で2%程度押し上げる試算だ。年末には成長率は9%台に届く可能性もあるという。
消費も雇用・所得環境の改善を背景に堅調を続ける見通し。物価上昇率を差し引いた実質ベースでは、2ケタの伸びを続けており、経済成長率を上回る伸びとなっている。物価上昇率の低下と所得水準の向上により実質購買力は高まっており、今後も消費は安定して拡大を続けるとの見方となっている。
<中国成長しても、日本経済連動せず>
一方で、底打ちは近いとはいえ、まだ経済活動は低い水準にある。日本企業の中国事業も回復の実感は得られていない。日立建機は25日、中国の油圧ショベル需要の落ち込みが想定より大きいことを主因に2013年3月期の業績予想を下方修正した。需要回復は来年1─3月期からとの予想だ。
ロイターの7月企業調査でも中国事業を手がける製造業の4割が下期計画について下ブレの見通しと回答している。従来の中国市場の2─3倍という拡大ペースの余韻が残り、下ブレを余儀なくされているとの指摘もある。
しかも今後、下期にかけて中国景気が底打ちから回復に転じても、従来のような高度成長期はすでに終焉したことを念頭に置く必要がありそうだ。専門家は中国の労働力人口比率は低下局面に入り、従来9%程度と見られていた潜在成長率が7%程度に減速しなければ、供給力不足によりインフレが加速、軟着陸が難しくなるとみている。今回、金融緩和を連続して実施しても回復力が従来ほどでないのは、労働力人口の減少で成長の下方屈折が始まった可能性を示唆していると指摘する声も浮上している。昨年までの9%程度の成長期には、ブルーカラー労働者の有効求人倍率が2倍を超すひっ迫状況の地域もあり、このままでは拡大する需要に労働供給が追い付かないということにもなりそうだ。今後は中成長期に入るため、経済成長のペースは鈍って当然との認識が必要だ。
加えて「中国経済動向が、パラレルに日本の国内経済や輸出に結び付くとは限らない」(みずほ総研鈴木氏)という厳しい指摘もある。企業にとっては事業拡大につながっても、国内経済の空洞化が進む可能性もあるためだ。
乗用車の海外生産は今や日本からの輸出の3.4倍にのぼる。自動車、電機では中国での現地部品比率を7─8割に引き上げ、今年も複数の部品工場が稼働予定となっている模様。25日にはトヨタ(7203.T: 株価, ニュース, レポート)が中国に無段変速機工場を立ち上げることを公表した。企業の中国事業にとっては、こうした戦略が収益拡大に結び付く一方、日本国内の生産や雇用の拡大ペースを鈍化させている一因にもなり、国内生産水準はリーマンショックから3年たっても2000年代半ばの水準に戻っていない。
中国経済の回復は期待できるとしても、日本企業は従来のような中国経済の高成長を前提にした事業計画や経済のシナリオを再検証する必要がありそうだ。(ロイターニュース 中川泉 編集 橋本浩)
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コラム:
貿易赤字基調でも円が買われる理由
=佐々木融氏
2012年 07月 26日 15:04 JST
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佐々木融 JPモルガン・チェース銀行 債券為替調査部長
[東京 26日 ロイター] 昨日発表された今年上半期の日本の貿易収支は、2.9兆円の赤字となった。赤字幅は、2011年上半期の9632億円から3倍に膨らんだことになる。第2次オイルショックで輸入が大幅に増えた1980年上半期の2.6兆円を超える過去最大の赤字である。
同時に発表された6月の貿易収支は、輸入が前年比で大きく減少したことなどにより4か月ぶりに黒字だったものの、その額は617億円と小さく、輸出は4か月ぶりに減少に転じていることから、昨年の東日本大震災以降の赤字基調が反転したとは判断し難い。
震災以降この1年4カ月余りの間に、円は名目実効レートベースで9.1%上昇、対米ドルでは5.8%ほど上昇している。なぜ、日本の貿易収支は赤字基調なのに円は上昇しているのだろうか。
<貿易収支以外の片道切符の円売りフロー>
まず、当たり前のことながら、為替相場は実際の取引の需給関係で決まる。貿易収支が赤字になれば、そこからは円売りのフローが発生するが、当然その他の取引フローも存在するため、それらも含めて一緒に考えなければならない。
特に2―3カ月間の為替相場の動きには、投機的な売買がより大きな影響を与えると考えられる。しかし、こうした投機的な売買により造成されたポジションは、利益(損失)確定のための反対売買によって手仕舞いされる。したがって、半年以上の期間の為替相場にとって、投機的な売買が与える影響は中立的とみなすこともできる。一方、貿易収支から発生するフローは手仕舞いを伴わない片道切符のフローであるため、長期的な為替相場の動きに重要な影響を与えると言えよう。
ただ、片道切符のフローは貿易収支以外にも、証券投資や直接投資など実は様々なものがある。為替ヘッジや外貨ファイナンスなどで為替相場に影響を与えないフローも存在するため、厳密な分析は困難であるが、そうした制約も踏まえた上で、大きな資金の流れを検証するのは重要である。
為替相場に影響がありそうな資金フローを見ると、2.9兆円の貿易赤字のほかに、3.8兆円の直接投資、1.6兆円の日本人投資家による対外証券投資が円売りフローとして加わる。つまり、今年上期の片道切符の円売り額は合計で8.3兆円だったと推計できる。
その一方で、所得収支(6.6兆円)、外国人投資家の日本株・債券投資(3.6兆円)から発生した片道切符の円買いは10兆円を超えると推計できるため、統計上、今年上期の片道切符のフローは円買いの方が多かったと言える。つまり、貿易収支が赤字となっていても、その他のフローを勘案すると、赤字による円売りが相殺されてしまっている可能性があるのだ。
こうした統計などを元に、「貿易赤字でも円が買われる理由は何か」との問いに対する回答を考えると、以下のような4つの点が指摘できる。
まず、所得収支や外国人投資家の日本株・債券投資による円買い(すべてが円買いを伴うとは言えないが)を考慮すると、貿易赤字などから発生する円売りをかなりの部分相殺している可能性がある。
次に、欧州周辺国の財政問題などで「リスクオフ」となっている期間が長期化する中、日本が抱える250兆円もの対外純資産の国内回帰や為替リスクヘッジのための円買いが増加している可能性がある。
第三に、海外主要国の金利が低下していることもあって、日本人投資家の対外証券投資に絡む円売りが減少している(貿易赤字で円売りが増えても、対外証券投資の円売りが減少してしまっている)。1990年以降について、米国、ドイツ、英国、カナダ、豪州の5カ国平均10年国債利回りと日本の10年国債利回りの差を見ると、リーマンショック後の短期間を除いて2%ポイント以下に縮小することはなかったが、現状は1%ポイントを割り込んでいる。
最後に、外貨の調達コストが大幅に低下しているため、対外直接投資が円売りではなく、外貨調達で行われるケースが増えている可能性がある(実際の円売り額は統計上よりも小さい可能性がある)。
前述したように、6月単月の貿易収支は小幅の黒字となった。ただ今後、大方の予想に反して黒字基調に戻ったとしても、その他の片道切符の円売りフローが増加すれば、結果として円安になることもあり得る。貿易収支は中長期の為替相場の方向性にとって重要ではあるが、その他のファクターやフローと同時に分析して初めて相場動向の有効な判断材料となることを忘れてはならない。
*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に、「弱い日本の強い円」など。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here)
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
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http://jp.reuters.com/article/kyodoMainNews/idJP2012072601001341
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