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今週、今年度の最低賃金引き上げの目安額が決まるようです。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120722-00000016-mai-bus_all
11都道府県で生活保護給付水準を下回るという「最低賃金」についてどう考えれば
いいのでしょうか。
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村上龍
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■ 水牛健太郎 :経済評論家
生活保護の給付水準は憲法の定める「健康で文化的な最低限度の生活」を保証する
額であるはずなので、最低賃金はそれを上回るのが当然でしょう。働いてなお「健康
で文化的な」生活ができないというのは問題です。引き上げられるべきだと思います。
ただ、そう書いたうえで、最低賃金というものには、実はそれほど意味がないので
はないかとも思います。
生活保護の給付水準よりも最低賃金が上回るべきだとする主張の背景には、「働い
て苦労しているのに」という感覚があります。要するに働くのは苦痛だから、その代
償があるべきだということです。働くのが楽しくて有意義なことならば、生活保護よ
り給料が安くてもなお、働く方がいいはずです。
働くのが苦痛だという感覚は、もちろんよくわかります。私もそれほど恵まれた職
業生活を送ってきたわけではないので、「こんなに苦しくてストレスも大きいのに」
と思うわけです。
だからちょっときれいごとに聞こえるかもしれないのですが、働くというのは本来、
楽しくて有意義なことのはずでは? と思うのです。苦しくて嫌だから、その我慢代
に給料をもらう。それでいいのでしょうか。実際に多くの仕事はそんなものですが、
しかしそういう仕事ほど未来がありません。事実、嫌な時間の我慢代であれば、もっ
と安いお金でいっぱい我慢してくれる人が外国にたくさんいるものですから、どんど
んそちらに仕事が流れていってしまうわけです。
要するに我慢代じゃなくて、働き手が創造性を発揮するような、そして働き手を成
長させるような、キャリアになるような仕事じゃなければ、今はもう国内に残りよう
がないのです。一部残った我慢仕事はいわゆる「最低賃金」に設定されるわけですが、
そうした会社は経営がかつかつで、将来への展望もありません。
最低賃金にあまり意味がないかもしれないと思うもう一つの理由は、いろいろ抜け
穴の手段もあるからです。最低賃金以下で人を使っている例は、世間にはたくさんあ
るのです。訴えられたり、労働基準監督署が調べに入ったりしなければ問題になるこ
ともありません。何らかの義理などがあって雇用主に逆らえなかったり、どんなに安
くても仕事がないよりはいいと思って黙っていたり、外国人などは、最低賃金という
ものの存在を知らないこともあります。
そもそも中小企業のほとんどは、事務労働に対してはいくら残業しても残業手当を
払いません(現場労働に対しては比較的ちゃんと払われています。労働者の流動性が
高く、問題化しやすいからです)。既定労働時間では最低賃金以上であっても、実際
に働いている時間で見れば最低賃金を下回っている例は多いでしょう。
日本の労働条件は、「日の当たる」大企業や公共部門と、「日の当たらない」中小
企業とでは大きく違っています。そこには、資本や人材などの資源の大きなギャップ
があり、また、有利な条件で大きなマージンを取る機会に恵まれる大企業と、大企業
からいつでも値引きを迫られ、ぎりぎりの条件で取引せざるを得ない中小企業の越え
がたい壁があります。
さらにその背景には、社会的に認知されているかどうかで金融機関や行政当局の扱
いから何から全く違ってくるという、日本の権威主義的な風土があるのです。だから
日本にはアップルもなければ、グーグルも、フェイスブックもありません。どんなに
新しいアイディアを持っていても、大企業に属しているか、有力な人物の後ろ盾でも
ない限り、「馬の骨」扱いだからです。
最低賃金は典型的に中小企業の問題です。もちろん象徴的な意味合いは大きいとは
思うのですが、これほど日本の企業社会に構造的な問題がある以上、最低賃金「だけ」
を上げたところで、どれほどの意味があるのかと思います。
こうした風土の中で働いていくのであればなおさら、ただひたすら我慢して擦り
減っていくような働き方では希望がありません。企業への貢献とは全く別の角度から、
自分の成長、自分のキャリアを考えていくことが重要です。誰しも期待されたり、褒
められたりすれば嬉しいので、つい期待通りに頑張ってしまうのですが、ひたすら頑
張ったあげく、何のスキルアップも果たせないまま、リストラや倒産で路頭に迷うの
では救いがありません。「長い目で見て自分のためになるかどうか」ということは常
に冷静に判断すべきでしょう。
そのうえで、その企業の将来と自分の将来がうまく重ならないようであれば、(誤
解を恐れずあえていいますが)あまりまじめに働かないことです。自分で期限を区
切って、何年ぐらいで辞めて次はどうするか、ということを、先手を打って考えてい
く方が賢明だと思います。
最終的な目標としては、自分の得意なことを、自分が成長できる形で実践して、な
おかつそれで生活できるように、ということを考えるべきでしょう。答えは既存の企
業の中にあるかもしれないし、あるいはフリーランスかもしれないし、NPOかもしれ
ません。もちろん紆余曲折はあるでしょうが、真剣に考えていけば達成できるはずだ
と思います。
経済評論家:水牛健太郎
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