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アジア失速という悲しい現実
日本企業、成長戦略見直しも
2012年7月25日(水) 阿部 貴浩
「中国市場の動向は、本当に読めない」と日立建機の幹部はため息を付いた。中国の油圧ショベル市場で高いシェアを持つ同社だが、2011年春に販売台数が前年同期を下回ってから、実に1年以上にわたって不振が続いている。世界の建機市場をけん引してきた国だけに影響は深刻だ。
原因は中国の金融引き締めにある。沿岸部を中心とした不動産の急激な値上がりなど、物価の上昇を抑制しようと、中国の金融当局は昨年から幾度も金融引き締めを繰り返してきた。消費者物価指数は徐々に低下し、一定の成果を挙げたが、副作用として資金が目詰まりを起こしたわけだ。
マンション建設のような民間工事から道路など社会インフラまで、経済発展が続く中国では様々な建設計画があるが、金融引き締めで資金確保が難しくなった。工事が始まらないのだから、当然ながら建設機械の需要も減少することになる。
金融引き締めのもう一つの副作用として、肝心の経済成長自体の鈍化を挙げることができる。7月13日、中国の国家統計局が発表した4〜6月期のGDP(国内総生産)は、前年同期に比べ7.6%のプラス。低成長の日本からすれば羨ましいほどの成長率ではあるが、四半期のGDP成長率が中国で8%を下回るのは、ほぼ3年ぶりの事態になる。
このままでは、長期的な政策の見直しを余儀なくされると見て、中国の金融当局は金融引き締めの方針を転換し、今では利下げなど金融緩和に舵を切っている。しかし、その成果はまだ見えていない。国内消費の伸びが鈍化しているうえ、債務危機が続く欧州向けの輸出が減っていることもマイナス要因だ。
景気減速、幅広い産業に波及
コベルコ建機で中国市場を統括する瀧口和光・専務執行役員は「金融緩和の影響が、工事の現場まで届くのに時間がかかるのだろう」と見ている。建設計画が認可されても、資金不足で着工できない現場は、今も多く残っているという。
中国の建機販売は依然として苦戦している
「金融機関の貸し出し姿勢は厳しく、今でもなかなか工事資金を確保できていない」(瀧口氏)のが実態だ。コマツの野路國夫社長は「中国で建機の需要が回復するのは早くても2013年になりそう」と慎重だ。
建機需要は景気の先行指標と言われる。建機の販売が増えるということは、公共工事や民間工事が活発に進んでいることを意味するからだ。中国で建機の需要が急減してから既に1年以上が経過しており、この法則に従って、中国経済の成長は鈍化した。
最近は建機以外の業界にも、じわりと影響が広がっている。
例えば工作機械。中国向け受注額は6月に、前年同月比で2ケタの落ち込みになった。自動車も、6月の新車販売台数こそ前年同期比で10%近い伸びになっているが、1〜6月の累計で見ると3%弱の伸びにとどまる。
経済成長の鈍化を警戒して買い控えが起きていると見たか、消費刺激策として燃費の良い小型車に対し補助金制度の導入を打ち出すなど、中国政府はてこ入れに躍起だ。それでも東芝テックの鈴木護社長は「事務機の販売が前年同期を下回るようになった。一時的なものなのか、しばらく注意する必要がある」と言う。
上がるハードル
2012年3月期、日本企業は東日本大震災やタイの洪水で深刻なダメージを受けた。円高も収益を圧迫し、上場企業の業績は3年ぶりに減益を余儀なくされた。その反動もあり、2013年3月期は22%の経常増益(金融除く)を見込んでいる。
自動車各社は円高という悪条件は変わらないが、満足に生産できなかった前期のうっ憤を晴らすように、「かつてない大増産をかける」(ホンダ)と意気込む。
ソニー、パナソニック、シャープの家電3社は薄型テレビの販売不振で前期に軒並み巨額の最終赤字を計上した。このうちソニーとパナソニックは今期に黒字転換を計画している。テレビ事業の苦戦は変わらないが、販売機種の絞り込みなど固定費圧縮を進め、白物家電などほかの製品でテレビの赤字を補う計画だ。
こうした経営戦略の大前提となるのがアジア市場の成長になる。トヨタ自動車は今期、アジア地区の新車販売台数を178万台と、前期比34%の増加を見込む。所在地別の営業利益では前期にアジアが北米を抜いて稼ぎ頭となっている。今期は北米で増産を進めると同時に、アジアでさらに利益を増やし、全体として1兆円の営業利益を稼ぎ出す計画だ。
前期の6倍近い2600億円の営業利益を目指すパナソニックは、中国とアジア地域で11%の増収(現地通貨ベース)を計画する。エアコンや冷蔵庫といった白物家電の販売をアジアで拡大していく方針。北米や日本の増収率は前期比微増と見ており、業績回復のけん引役と位置づけるのは、明らかにアジアだ。
市場の成長スピードと合わせて業績を伸ばすのは、さほど難しくない。しかし、市場のスピードが鈍化する中で、それを上回る速度で成長しようとすると、途端にハードルが上がる。
競合他社から顧客を奪うだけの競争力が必要になるからだ。実際に中国の建機市場で需要が縮小すると、地場メーカーとの競合が激化するようになった。ある建機メーカーの幹部は「地場メーカーとの際限ない価格競争には、とても付き合っていられない」とこぼす。
インドネシアも先行き不透明
成長のスピードが減速しているのは、中国だけではない。インドも成長率の鈍化が鮮明になっている。
8%程度のGDP成長を続けてきたインドだが、今年1〜3月は5%台にまで低下した。インフレ抑制のために金融引き締めをして、内需が落ち込むという構図は中国と同じだ。
東南アジアで高い成長を続けていたインドネシアにも、にわかに暗雲が垂れ込めている。2億4000万人の人口を抱え、資源も豊富なインドネシアは、日本企業にとって大きな収益源となっている国だ。
日本車はインドネシアで高いシェアを握る
自動車で市場シェアトップなのはトヨタ、2輪車はホンダになる。4輪車、2輪車とも市場の大半を日本勢が押さえている稀有な国だ。薄型テレビなど家電製品は韓国勢が強いが、日本勢も経営資源を集中投下して市場拡大に躍起になっている。建機各社にとっても資源開発が進むインドネシアは、大切な市場だ。
しかし、今年になって様々な規制が導入されて、雲行きがおかしくなった。ニッケルなど鉱物資源の輸出に20%の関税をかけ始めたほか、自動車や2輪車を購入する際のローンに一定の頭金を義務付けるようになった。この影響でホンダは2輪車の販売計画を下方修正した模様だ。
コベルコ建機の幹部は「現時点で、まだ販売に悪い影響は出ていない」としながらも、「先行きが不透明になってきた。慎重に販売動向を見ていく必要がある」と話す。建機の販売が減少するようになれば、いずれ中国のようにインドネシアの経済成長に急ブレーキがかかる事態になりかねない。
経済のグローバル化によって、世界のどこかで来した経済の変調が、日本にとっても対岸の火事ではなくなってきた。欧州の債務危機は欧州地域での売り上げ減少という直接的な影響だけでなく、アジア経済の成長鈍化という間接的な形で、じわじわとダメージを与えつつある。
様々な試練を乗り越え、今年こそ成長路線へ回帰しようとしている日本企業だが、今度はアジア経済の失速という厳しく、そして悲しい現実に直面することになった。これを克服して成長力を取り戻せるのか、企業にとって大きな課題になりそうだ。
阿部 貴浩(あべ・たかひろ)
日経ビジネス記者。日本経済新聞で中堅・ベンチャー企業部や証券部、名古屋編集部などを転々とし、2011年春から日経ビジネス編集部の片隅に席を見つける。製造業とのかかわりが長く、自動車や機械、造船など「物づくり企業」を幅広く担当。メーカーのおじ様方と飲みに繰り出しては経済実態とかけ離れた円高に憤り、震災復旧の苦労話に涙ぐむ。いつの間にやら会社近くの「六本木・麻布」より「神田・新橋」を好むようになった。
記者の眼
日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120720/234692/?ST=print
老後も働き続けないと生きていかれない
朝鮮戦争後生まれのベビーブーマーが退職して自営業へ
2012年7月25日(水) 趙 章恩
筆者が住むマンション団地は全部で1200世帯が住んでいる。韓国のマンション団地としてはそれほど大きくはない。しかし団地の周辺には24時間・年中無休でいつでも出前がとれる食堂が40店以上、個人が経営する24時間営業のスーパー――コンビ二ではない――が5店、その他にもネットカフェ、コーヒーショップ、ベーカリー、学習塾、美容院、薬局、病院が数え切れないほどある。しかし、いずれも、いつも客で賑わっているわけでない。半分ほどの店が1年ほどで入れ替わる。
OECDの2010年統計によると、韓国の経済人口に占める自営業者の割合は28.8%。2001年の36.7%よりは減ったものの、OECD平均の16%に比べて2倍以上の人が自営している。自営業者率が高い国は1位がトルコで39.1%、2位がギリシャで35.5%、3位がメキシコで34.3%。そして4位が韓国である。OECDの統計を見ると、先進国ほど自営業者率が低い。米国は7%、日本は9%だ。
「自分の店を持つのが夢だった」は夢のような話
韓国の自営業者は「自分の店を持つのが夢だった」とか、「趣味が高じてビジネスにした」という次元ではない。リストラや就職難で、食べていくために、自営業をするしかない人がほとんどだ。
リストラに遭い、失業して、退職金を元に自営業を始める。とはいえ、不景気で商売にならず、借金が増える。借金を返すために、また借金をする。増え続ける利子を返すことができず、家も店も手放して貧困層に身を落とす。
自営業者による借り入れは加速度を増しつつ拡大している。韓国銀行の統計を見ると、2012年5月末時点で、自営業者向けの貸し出しは164.8兆ウォン(約11.5兆円)、2012年1〜5月の間に6.3兆ウォン(約4400億円)増えた。前年同期(3.5兆ウォン=約2500億円)に比べると2倍近い伸びだ。2012年1〜5月の銀行の新規貸し出しは9.9兆ウォン(約6900億円)。自営業者による借り入れ6.3兆ウォンなので、全体の3分の2に近い。
自営業者における貸し出し延滞率は1.17%で、2011年末に比べ0.37ポイント増えた。自営業者の延滞率が1%を超えたのはこれが初めてである。金融監督院(訳者注:日本の金融庁に似た機能を持つ)、2012年は自営業者向けの貸出額がさらに増えると予測し、銀行側にリスク管理を強化するよう指示した。自営業が大変な状況にあることがよくわかる。
退職したベビーブーマーが自営業に走る
それでも自営業は増え続けている。朝鮮戦争の後、1955年から1963年に間に生まれたベビーブーマー世代710万人が、2010年から退職し始めたからだ。この動きは2018年にかけて続く。
社会保障制度が脆弱で退職金も少ない韓国では、老後も働き続けないといけない。。若いときは子供の教育費にすべてを注ぎ込むので、貯金する余裕はない。儒教の考えから、親の面倒は子供が見るものという意識が強いが、この不景気と雇用不安から難しくなっている。退職した50〜60代の親が自営業をして、20〜30代の子供を養う世帯が少なくない。
統計庁が発表した2012年6月雇用動向によると、20代の雇用率は前月比0.4ポイント増の58.9%なのに対し、50代の雇用率は前月比1.6ポイント増の73.2%だった。統計庁は、50代の雇用率が増えたのは、自営業に就く人が増えたからと分析している。20代と50代の雇用率は2004年まで、20代が61.1%、50代が67.8%と大きな差はなかった。
また、この5月に、従業員1〜4人の自営業で働く人が初めて1000万人を超えた。これは全就業者2512万人の40%に当たる数字である。この1年間の間に新しく就業した47万2000人の60%は、自ら自営業を営むか、自営業者が経営する店で働く、という統計庁のデータもある。雇用を増やしたのは自営業者の割合が高い飲食店、宿泊、小売で、製造業は減らしている。
統計庁と労働研究院の調査によると、2011年末時点で、自営業者の中で50代以上が占める割合は56%だった。2012年1〜5月の間、50代以上の自営業者はさらに17万5000人増えた。同じ期間中、30~40代の自営業者は3万人減った(ただし、20代の自営業者は2万人増えた)。韓国の平均退職年齢は53歳(統計庁)なので、退職後の生計を立てるため自営業を始めるベビーブーマーが増えていることがわかる。
企画財政部や労働部などの政府省庁は雇用率の数字を高めるため、失業者を自営業者にしようと低利子の融資を繰り返した。しかし、結果は芳しくない。既に紹介した韓国銀行の統計が示すように、自営業者の借金を増やし、貧困層を増やすだけに終わっている。
深刻化する高齢者の貧困
高齢者の貧困問題はますます深刻になることが目に見えている。OECDが発表した2012年韓国経済報告書によると、韓国高齢者の相対的貧困率(中間層が得る総所得の50%に満たない所得しか得られない世帯の割合)は47%で、OECD加盟国の中で最下位である。
サムスン生命保険金融研究所が発表したデータによると、韓国の65歳以上人口の労働参加率は2010年末時点で29.3%。日本の19.4%と比べると、韓国では生活のためにシニア層が働き続けていることがわかる。現代経済研究院の調査では、退職後の所得が最低生活費(保健福祉部が生活保護世帯に支払う基礎生活費、2012年の4人家族基準月143.9万ウォン=約10万円)に満たない貧困な高齢世帯が、退職世帯264.3万世帯のうち101.5万世帯、すなわち38%を占めている(2010年末時点)。
シンクタンクや経済学者、政府省庁が開催する老後準備講演会を訪れると、講師らは、退職後の対策として「他の人と違う差別化した自営業をすればいい」とアドバイスしている。そんなの誰だって知っている。差別化できる自営業は何なのか、それがわからないから困っているのではないか。
韓国は2025年、65歳以上の人口が全体の20%以上になる超高齢社会になる。高齢者の自己破産増加、自殺率向上など、悪いことばかりで世界一にならないよう、政府省庁の冷静な判断と政策が必要だ。
趙 章恩(チョウ・チャンウン)
研究者、ジャーナリスト。ソウルで生まれ小学校から高校卒業まで東京で育つ。韓国ソウルの梨花女子大学卒業。現在は東京大学社会情報学修士。ソウル在住。日本経済新聞「ネット時評」、西日本新聞、BCN、夕刊フジなどにコラムを連載。著書に「韓国インターネットの技を盗め」(アスキー)、「日本インターネットの収益モデルを脱がせ」(韓国ドナン出版)がある。
「講演などで日韓を行き交う楽しい日々を送っています。日韓両国で生活した経験を生かし、日韓の社会事情を比較解説する講師として、また韓国のさまざまな情報を分りやすく伝えるジャーナリストとしてもっともっと活躍したいです」。
「韓国はいつも活気に溢れ、競争が激しい社会。なので変化も速く、2〜3カ月もすると街の表情ががらっと変わってしまいます。こんな話をすると『なんだかきつそうな国〜』と思われがちですが、世話好きな人が多い。電車やバスでは席を譲り合い、かばんを持ってくれる人も多いのです。マンションに住んでいても、おいしいものが手に入れば『おすそ分けするのが当たり前』の人情の国です。みなさん、遊びに来てください!」。
日本と韓国の交差点
韓国人ジャーナリスト、研究者の趙章恩氏が、日本と韓国の文化・習慣の違い、日本人と韓国人の考え方・モノの見方の違い、を紹介する。同氏は東京大学に留学中。博士課程で「ITがビジネスや社会にどのような影響を及ぼすか」を研究している。
趙氏は中学・高校時代を日本で過ごした後、韓国で大学を卒業。再び日本に留学して研究を続けている。2つの国の共通性と差異を熟知する。このコラムでは、2つの国に住む人々がより良い関係を築いていくためのヒントを提供する。
中国に留学する韓国人学生の数が、日本に留学する学生の数を超えた。韓国の厳しい教育競争が背景にあることを、あなたはご存知だろうか?
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20120723/234731/?ST=print
中国にのしかかる石炭在庫
2012年7月25日(水) 経済観察報
経済観察報 記者
宋馥李
中国各地の貯炭場で、石炭在庫の山がみるみる積み上がっている。石炭業界の供給能力拡大に、景気減速による需要不足が重なった。安価な輸入炭への需要家のシフトも、供給過剰を深刻にしている。
炭鉱の坑道口、積み出し港、火力発電所――。中国各地で石炭在庫の山がみるみる積み上がっている。
「埠頭のヤードに20万トン以上、炭鉱には五十数万トンの在庫がある。何とか売りさばかなければ...」
山西省の石炭販売会社の幹部で、中国最大の石炭積み出し港である秦皇島(チンホワンタオ)*1の事務所の責任者を務める金邁(ジンマン)(仮名)は、そう言って肩をすくめた。この日は1万数千トンの石炭を売ることができたが、指標価格より1トン当たり50元も安い値段で取引せざるを得なかった。「指標価格でも売れないなんて、以前は想像もつかなかったよ」と、思わずグチがこぼれる。
今年5月以降、秦皇島港では埠頭の石炭の山がどんどん高くなる一方、接岸する石炭運搬船の数は急減している。過去数年間、石炭は引く手あまたで、金のような販売業者は秦皇島海運石炭取引所の指標価格よりも高い値段で商売できるのが常だった。
山西省や内モンゴル自治区の炭鉱で掘り出された石炭を秦皇島に運ぶ大秦(ダーチン)鉄道の輸送能力を限界まで引き上げても、旺盛な需要を満たすことはできず、港に到着した石炭はすぐ運搬船に積み替えられて華東地区や華南地区の消費地に運ばれていた。
だが、わずかの間に市場が供給不足から供給過剰へ一変し、石炭業界を狼狽させている。中国の基幹エネルギーである石炭の需給関係が急変したのは、中国経済が今まさに予測しがたい変化の渦中にある証左にほかならない。
*1=河北省の渤海沿岸にある港湾都市。市内の北戴河は中国共産党幹部の避暑地としても有名
秦皇島の貯炭量は既に限界
経済の安定成長を維持するため、中国政府が一連の対策を繰り出し始めたことは、金もニュースを見て知っている。だが、政策効果が表れて石炭販売が上向く時期については皆目見当がつかない。埠頭に山積みになっている自社の石炭を見るたび、やきもきさせられる毎日だ。
秦皇島の石炭在庫は毎週80万トンのペースで増え続けているが、かつて活気にあふれていた石炭埠頭は船影もまばらだ。6月17日の石炭在庫は947万トンに膨れ上がり、リーマンショック直後の2008年11月19日に記録した941万5000トンを更新した。
秦皇島港には世界最大の貯炭ヤードがあり、最大堆積量は1042万5000トンとされる。だが、実際には800万トンを超えると積み替え作業に支障が出てくる。港の貯炭量は既に限界を超えているのだ。
一方、大口需要家である各地の火力発電所の貯炭場にも、石炭の山が積み上がっている。石炭市場の情報をインターネットで提供している秦皇島石炭網のデータによれば、全国の重点火力発電所の石炭在庫は6月初め時点で9134万トンと、消費量換算で27日分に達していた。電力の大消費地である上海を含む華東電力網でも24日分、珠江デルタを含む広東電力網でも23日分の在庫があった。
本紙(経済観察報)記者が石炭販売業者を名乗って湖北省の電力会社に連絡すると、担当者は笑いながら次のように答えた。
「申し訳ないが、石炭の在庫は十分あり、まだ1カ月以上持ちます」「以前は我々が石炭会社に頭を下げて売ってもらっていたが、今では石炭会社が我々に頭を下げに来ますよ」
上海のある発電所の責任者も、似たような経験を話してくれた。最近、彼のところには石炭会社の経営者からひっきりなしに電話がかかってくる。
「長年のつき合いがあるので、向こうのメンツを立てて、可能な限り買うようにしているが、発電所の貯炭場にも限界がある。もうこれ以上は積み上げられません」
炭鉱や輸送業者に大打撃
過剰在庫が膨張し続ける中、石炭相場はどんどん値を下げている。秦皇島海運石炭取引所が発表する環渤海動力用石炭価格指数は、6月20日、発熱量5500キロカロリーの動力用石炭が1トン当たり729元で引けた。これは前週より23元も安く、率にして3.06%の大幅下落だ。同指数は5月初旬から7週連続で下落し、下落幅も拡大の一途をたどっている*2。
石炭相場の急落は、炭鉱の経営を直撃している。
「市況は最悪だ。5月の販売量は通常の3分の1にも満たなかった。以前は石炭ブローカーが次々にやってきて、掘る前から予約でいっぱいだった。最近は引き合いが激減しただけでなく、買い手があれこれ選り好みする」。内モンゴル自治区の古拉本(グーラーベン)炭鉱で鉱山長を務める李紅光(リーホンクワン)はそう嘆く。
李は4月頃から市況の異変を感じ始めていたが、変化がここまで速いとは想像もしなかった。減産が間に合わず、周辺の炭鉱はどこも坑道口に山のように石炭を積み上げている。現在、古拉本炭鉱では発熱量4000〜4500キロカロリーの原炭の販売価格が1トン当たり160元まで落ち込んでいる。
「この価格では1トン当たり約80元の赤字になる。でも売らないわけにはいかない。積んでおくだけではもっと損失が増えるからね」。そう話す李が取り得る対策は、今のところ減産しかない。古拉本炭鉱では生産量を既に30%減らしているという。
なぜ突然、こんな事態になってしまったのか。李は明確な理由を見いだせずにいるが、鉄鋼や非鉄など冶金業界の景気が悪化していることは肌で感じている。というのも、古拉本炭鉱が産出するのは「太西炭(タイシータン)」と呼ばれる良質な冶金用石炭だからだ。硫黄分が少なく、高熱量で、燃焼時に生じる灰が少ないなどの特徴がある。冶金業界では「黒い宝」として珍重され、ずっと売り手市場が続いていた。そんな良質炭でさえ相場が3割も下がり、それでも売り先が見つからないのだ。
石炭輸送業者の痛手も大きい。秦皇島と中国各地を結ぶ石炭運搬船の運賃は下落の一途をたどっている。秦皇島の石炭埠頭に停泊していた永隆順(ヨンロンジュン)号の副船長によれば、積み荷の注文が取れるまで沖合で12日も待機してようやく接岸できたという。
永隆順号は今回、秦皇島から江蘇省江陰(チャンイン)市まで石炭を運ぶが、運賃は年初に1トン当たり50元だったのが今は同30元に下がった。かつてのピーク時の同80元と比べれば半分以下だ。
*2=価格指数はその後も下落し続け、7月11日には652元の安値をつけた
華南の発電所は輸入炭にシフト
炭鉱から駅や港などの中継ヤードまで石炭を運ぶ大型トラックの運賃も急落した。「燃料代もドライバーの賃金も上がっているのに、運賃は下がる一方。走れば走るほど赤字が増える」。内モンゴル出身で、長年トラック輸送に従事してきた李惠東(リーフイトン)は肩を落とす。
石炭相場が下がっても買い手がつかない――。これは以前の石炭市場では考えられなかった現象だ。秦皇島海運石炭取引所のアナリストの安志遠(アンチーユエン)は、「原因は需要不足以外には説明がつかない」と指摘する。
石炭の供給能力が増加する一方、消費地の需要が伸び悩んでいることが、供給過多を深刻にしている。大口需要家の火力発電所や石炭商社の購買意欲が著しく低下し、石炭市場全体が買い控えムードに覆われているのだ。
火力発電所の石炭需要の低迷は、電力使用量の伸び悩みと表裏一体の関係にある。本紙が複数の発電所に取材すると、今年は工業向けの電力需要が明らかに減少しているという。
前出の上海の発電所は、「貯炭場は石炭でいっぱいなのに、発電機の稼働率がなかなか上がらない。2組ある発電能力600メガワット(メガは100万)の発電ユニットのうち1台を停止しているが、もう1台の稼働率も100%にならない」と打ち明けた。夏場の気温が上昇すれば稼働率は多少回復する見込みだが、工業向けの電力需要には回復の兆しが見られない。猛暑で家庭の電力使用量が大幅に増加したとしても、その恩恵は限定的だ。
とはいえ、石炭市況の悪化の原因を需要不足だけに求めるのは早計だ。中国国内の炭鉱や秦皇島の在庫がだぶついているのは、海外からの輸入炭が急増している影響も大きい。前出の金邁によると、広東省、福建省、広西チワン族自治区など華南地区の沿海部では、春節(中国の旧正月)明けから秦皇島での買い付けが明らかに減少し、海外炭へのシフトが進んだという。
「先進国の景気低迷で海外炭の相場が下落したため、物流段階でかかる各種税金や輸送コストを加味すると、国内炭の価格優位は既に失われてしまった」。内モンゴル自治区のある石炭アナリストはそう解説する。
以前は秦皇島から大量の石炭を買い付けていた福建省のある発電所では、昨年からインドネシアが最大の供給源に変わった。この発電所の調達責任者は次のように話す。
「厦門(シアメン)港での沖渡し価格は、秦皇島から運ばれてくる国内炭よりもインドネシア炭の方が安い。厦門港での荷揚げは既にインドネシア炭とオーストラリア炭が大勢を占め、うちも調達の7割を輸入炭に切り替えた」
石炭輸入量が2億トン突破も
華南地区だけでなく、上海を中心とする華東地区でも海外炭へのシフトが急速に進んでいる。「中国の5月の石炭輸入量は2617万トンと前月比62.3%増、1〜5月の累計輸入量は1億1273万トンと前年同期比67.8%増など、過去にないペースで増加している」と、前出の秦皇島海運石炭取引所の安は話す。
中国は世界最大の石炭産出国であり、2008 年の石炭輸入量はわずか4040万トンだった。ところが、2009年には一気に1億2583万トンに急増、その後も増加が続いている。専門家の中には、今年の輸入量が2億トンの大台を突破すると予想する向きもある。
=敬称略
(「経済観察報」 2012年6月25日号 ©経済観察報)
中国発 経済観察報
中国の「経済観察報」は2001年創刊の週刊経済情報紙。発行部数は約68万部。政府系の機関紙ではなく、民間資本によって創刊・運営されている新興経済メディアの草分けの1つ。経済政策から金融、産業まで幅広くカバーするとともに、「理性、建設性」という編集方針を掲げ、センセーショナリズムを排した客観的な報道や冷静な分析に定評がある。北京を中心に、若手インテリ層の支持を集めている。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20120719/234623/?ST=print
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