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百円玉の周りには細かいギザギザがついている。硬貨をそう工夫したのは17世紀後半の英国である。当時、銀貨の縁を肉眼ではわからないほどわずかに削り取る輩が横行していた。単位あたりほんのわずかな銀粉でも扱う銀貨の量が多ければ、結構なもうけになる。英通貨当局がそこで銀貨に細かい刻みを入れたところ、不正はなくなった。
すると通貨の意味が変わった。銀貨の重量ではなく、表面に刻印された金額数値が通貨価値を代表するようになったのだ。次には数字を刷り込んだ紙幣が貴金属貨幣にとり代わった。同時に株式や国債など紙に金額を表示する証券の発行も盛んになる。以来、金融商品の多様化は現代まで止まらない。
極め付きが、市場価格の変動により想定されるあらゆるリスクを引き受けるデリバティブ(金融派生商品)と呼ばれる保険商品で、IT(情報技術)革命が始まった1980年代以降急膨張してきた。
デリバティブの規模はとにかく巨大だ。日米欧の中央銀行で構成される国際決済銀行(BIS)によると昨年末647兆ドルで、銀行貸出残高30兆ドルの20倍以上になる。このうち金利関連契約が504兆ドル、円換算すると、4京(京は兆の1万倍)円超。1万円札にして地上で積み上げると月を通り越してしまう。
金利が極めて微小、例えば0・01%変動するだけで、金融機関のデリバティブ取引は4兆円の利益または損失が発生する。金利関連を中心にデリバティブ部門収益が融資など本来の銀行業務の収益をしのぐ米欧の銀行もあるが、わずかでも金利の読みを間違うと、一夜にして巨額の損失を被り、存亡の危機に見舞われるのだ。
宇宙規模にまで膨張したデリバティブこそは、五輪前夜のロンドン、いや世界を騒然とさせている世界の標準金利、ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の金利不正操作の主舞台である。LIBORはロンドンに拠点を置く欧米大手銀行が申告する金利の平均値なのだが、虚偽と不正が発覚した。
代表的なドルのLIBORの場合、18行が申告し、このうち中間値に近い10行の値が採用される。調べると、LIBORの変動幅は月間で1%前後、大きくても数%である。LIBORメンバーの銀行が申告値を実勢値よりも0・1%ごまかすとしよう。10行平均に直すと0・01%に薄まり、通常の変動範囲内に楽々とおさまり虚偽は発覚しにくい。容疑のように大手銀行複数が談合すれば、操作は完璧だ。
冒頭で紹介した銀貨不正行為と同じく、微小単位でくすねて大きくもうける手段がLIBORなのである。が、銀貨と違ってモノではない。電子空間にギザギザを加えるわけに行かず、防止の決め手はない。金融当局の要であるイングランド銀行の幹部が英国大手銀行の金利操作に関与しているとされるくらいだから、監視強化で解決できるはずもない。
われわれにとってのLIBOR事件の意義は、「100分の1%」の操作で荒稼ぎする架空金融の虚構が浮き彫りになったことだ。勤勉な国民の貯蓄を国内融資に回さず、ひたすら英米の金融市場に供給してきた日本の大手銀行にとってよそ事では済まされない。地道でもうけは少ないが、微細加工のモノづくりにかける国内企業重視へと路線転換せよとの、警鐘なのだ。(田村秀男)
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