02. 2012年7月20日 13:55:59
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コラム:円から解く世界・株価・金利の相関ミステリー=田中泰輔氏 2012年 07月 20日 11:46 JST 為替フォーラム 焦点:米穀物急騰、消費者への影響は限定的か 焦点:欧米で広がるマイナス金利、消費より貯蓄促す逆効果も コラム:円高「日銀犯人説」は本当か=唐鎌大輔氏 焦点:証券界に巣食った「東京の帝王」、増資インサイダーの渦中に 田中泰輔 ドイツ証券 チーフ為替ストラテジスト [東京 20日 ロイター] ある国の経済成長ペースとインフレ動向のイメージがつかめれば、金利や株価についてその人なりの相場観が抱けるだろう。その場合でも、為替はよく解らないので「とりあえず横に置いて」、金利や株価だけを語る人が多い。 しかし、前回のコラム(here)でも指摘したように、為替変動には美しいロジックがある。それを理解して金利や株価、そして世界を見ると、パズルにピースがすとんとハマり、迷図の経路がつながっていくような爽快感が得られるはずだ。 <円と金利と株価の因果をつなぐ> ドル/円は、米国が金融緩和している局面を通じて、米国の2年物など中期金利の動向に沿って動く傾向がある。この間、株価は2つの局面に分けられる。景気が下降して、金利が低下し、株価が下落し、ドル/円も下落するのが前半。直近では2007年夏頃から2009年2月までがこの局面だ。 やがて金融緩和が十分進捗すると、短期金利は下がるが、先行きの景気回復を織り込んで長期金利が上がる頃合いになり、日米とも株価は「金融相場」で急反発する。しかし、ドル/円は中期金利の動向次第ながらまだしばらく低下気味であり、上昇する株価とデカップリングする。米国株価が上昇しても、ドル/円は米中期金利に沿って低下気味、これが後半であり、2009年3月から今に至る。 しかし、株価とドル/円が袂(たもと)を分かつのは表面上のことであり、奥底では結びついている。 実は日本株の相場を作る主役はもう何年も前から外国人である。その一大勢力が、世界の株式を一定比率でバランス良く保有しようと、所定のインデックスに基づいて日本株に投資する。ドル・ベースの海外投資家は、円高・ドル安になるとドル建てに換算した日本株の保有ウエイトが高まる分だけ日本株を売る。こうして円高と日本の株安は悪循環的に進み、結果として、金融問題で傷を負ったはずの米国株が金融相場で上伸しても、日本株はアンダーパフォームし続けた。 もっとも、日本株の劣勢分は円高に見合っており、日本の株価をドル建てに換算して比較すれば米国株価の実勢とおよそバランスする。為替と金利と株価のこのリンケージは、為替分析者の目には至極当然なことだ。しかし、一般には必ずしも理解されていなかった。 2007年後半、米国で深刻化するサブプライム問題を横目に、日本では「我が国は今回、金融問題での傷は浅く、大丈夫」との認識が主流であった。「円高で日本株は米国株以上に売られる。本来日銀が金融緩和で対抗すべきだが、長年のデフレ下で利下げ余地がない。日本は容易に袋小路に押し込まれる」と主張したものの、巷(ちまた)の有識者やエコノミストが「外国人が日本株を売って円高になるとは思われない」と言えば、そちらが真っ当に聞こえる。多勢に無勢、すっかり「奇をてらった見方」のように扱われたものだ。 あれから5年、皆が円高と株安のスパイラルの苦渋を嫌というほど味わった。円高と株安のリンケージを今さら説明しても、「百も承知」と言わんばかりに受け流されたりもする。しかし、相場も政策もタイミングを逸しては用を成さないことを改めて確認したい。 <韓国ウォン=「解」への新たな変数> ところで、円高の進行過程で、日本株は外国人投資家による為替リバランス売りを超えてアンダーパフォームする場面がある。円高は日本の輸出、景気にはマイナスとの評価から、外国人が日本株売りを上乗せするためだ。近年このドル/円での為替リバランスを越える日本株の劣勢部分を説明できる変数が現れた。韓国ウォンである。 2005年頃から、国際投資インデックスに仲間入りした韓国資産と日本資産の間でリバランスが働くようになった。日韓がエレクトロニクスや自動車などの輸出市場で競合度を増していることは言うまでもない。ウォン/円と日本の株価指数を並べると、同じチャートかと見紛うほど密接に連動している。今年5月、ドル/円が79円台で底固く推移した一方、日経平均株価は8500円割れへ落ち込んだ。株価と為替が乖離(かいり)したとする論調もあったが、この時の株安はウォン安と整合的だった。 日本株とウォン/円のリンケージを読むうえで必須の視座は、ウォンと円の対照性である。韓国経済は依然として外資依存の体質が強い。また韓国経済は規模が小さく、エレクトロニクスや自動車などの中核企業は海外市場を主戦場とするビジネスモデルである。債務国体質で世界景気に敏感なウォンは、リスク通貨としてリスク資産である株価と似た動きをする。一方、円は長年経常黒字を積み上げてきた対外債権国の安全通貨と認識される。 対ドルで見ると、2005―07年前半の世界景気の好調局面、リスク通貨ウォンは株価と同様に上昇した一方、円は下落した。2008年―09年2月には米金融問題の悪化を受けて、ウォンは急落し、円は上昇した。2009年3月から株式市場で金融相場が始まると、それまでの通貨安で輸出競争力を回復させたウォンが反発し、継続する米金利軟化地合いに沿って円もまた上昇。対ドルでの円高を映して日本株は米国株をアンダーパフォームしたが、ウォン/円ではウォン高・円安であった分、日本株も金融相場らしい上昇を見せた。2010年前半と2011年後半には欧州ソブリン問題が悪化し、ウォンが度々反落する一方、円は上昇し、日本株の下げ足が速められた。 <米国が円安・株高をもたらす因果の出発点> 為替と金利と株価の「因果的序列」を整理しよう。まず、円安・円高は日本株を上下動させるが、日本株が動いても円相場を動かすほどの為替フローは想定されず、因果上は円相場が先に来る。次に、円相場が動いても米金利動向にはほとんど影響しないが、米金利の動意は円相場を動かす。つまり因果上、円相場より米金利が先に来る。 円相場のベスト・シグナルである米2年物金利が先高観を持続できるのは、米国経済が巡航速度2.5%以上の成長ペースを保つ場合だろう。米景気が巡航ペースを上回るなら、韓国の輸出需要見通しが良くなり、ウォン高への下地となる。総括すると、米国で2年物金利が堅調になるほど景気がしっかりすること、それが円安とウォン高で日本株のアウトパフォームをもたらす出発点と見なされる。 米国経済の回復は、日本の景況・市況を改善するのみならず、世界の先行きにとっても鍵となる局面である。2009年半ば以降の世界経済を支えた新興国・資源国景気拡大サイクルはすでにピークアウトしつつある。欧州は今後長期にわたって債務問題の調整が足かせとなる公算だ。 斑(まだら)模様の米国経済は、3年以上にわたるバランスシート調整を経て、ようやく白く明るい部分が増えてきた。今秋から来春にかけて統計の季節調整が米指標を強めるパターンが三度繰り返され、米景況感が上向く可能性を注視している。それこそが、世界経済が持ちこたえ、ドル/円が80円付近から漸次底固さを増し、日本に薄明りが差すかどうかを見極める因果フローの出発点となろう。 *田中泰輔氏は、ドイツ証券のグローバルマクロリサーチオフィサーでチーフ為替ストラテジスト。日本長期信用銀行、クレディ・スイス、野村証券などを経て、2011年11月より現職。 *本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here) *本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。 *このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。 © Thomson Reuters 2012 All rights reserved. 関連ニュース 東京外為市場・正午=ドル78円後半、78円半ばの買いで下値リスクは限定的 2012年7月17日 〔表〕IMFの2012・13年経済成長見通し 2012年7月16日 コラム:オウンゴールが怖いユーロ危機の前途多難=佐々木融氏 2012年7月4日 コラム:不穏な情勢下の為替変動にも「美しいロジック」=田中泰輔氏 2012年6月21日 |