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海外資源開発に苦戦する中国
2012年7月19日(木) FINANCIAL TIMES
中国企業が海外で展開する開発計画に遅れと予算超過が頻発している。経済状況の変化による面もあるが、経営文化の違いがトラブルを生む例も多い。中国政府は海外事業政策を転換し、拡張戦略に消極的になり始めている。
香港に本社を置くシティック(CITIC)パシフィックの常振明(チャンチェンミン)会長は、同社が西オーストラリア州ピルバラ地区で開発を進める中澳鉄砿*1鉱山について、「中国中がこのプロジェクトに注目している」と語り、その重要性に全く疑いを抱いていない。
だが、中国がある種の不安を抱えつつこのプロジェクトでより注目しているのは、その計画の遅れとコストが拡大している点だ。常会長によると、中澳鉄砿の規模は中国内最大の鉄鉱石採掘プロジェクトの4倍に及ぶという。
中国企業は、世界中の鉱物資源を食い尽くす無敵の巨人のようによく恐れられる。だが、その見方は当たっていない。海外に資源を求める中国の拡張政策は、決して順調には進んでいない。
*1 英文名はSino Iron
資源大手の支配から脱する狙い
中国は、鉱物資源を大量に押さえることで自国経済の将来の舵取りが楽になると期待した。特に鉄鉱石の約6割を輸入に頼る中国にとって中澳鉄砿の開発計画は、豪英系BHPビリトン、ブラジルのヴァーレ、英豪系リオ・ティントなどの鉱業大手らによる価格支配から自由になる抜本的な試みだった。
中国は海外資源大手への依存から脱すべく、自ら海外の資源開発に乗り出したが、各所で苦戦しているという(写真:BHP Billiton/AP/アフロ)
ところが、中澳鉄砿プロジェクトは、中国の力を誇示するどころか、海外拡張を図る中国企業が直面する困難を体現する教訓の事例となった。
CITICパシフィックはプロジェクトを計画した2006年時点で、総予算を20億ドル(約1600億円)と見積もっていた。だが投じた金額は既に71億ドル(約5700億円)に達する。シティグループの試算では、この数字は93億ドル(約7400億円)まで膨らむ可能性がある。最終的に100億ドル(約8000億円)に近づくとの予想もあり、しかも計画は予定より2年は遅れている。
オーストラリアで大規模な委託業務を展開するアジア系貿易会社のある経営幹部は、「今や商業的な目標というより中国の誇りの問題となっている。あまりに多額の資金を投入し、引くに引けない状況だ」と指摘する。
実際には誇り以上のものがかかっている。中国の製鉄会社は、海外資源大手が原料価格を吊り上げていると非難している。これに対しHSBCのジェームズ・キャメロン氏はこう説明する。「常に少数の海外企業に縛られてきた中国は今、開発計画の成果を得るだけでは満足せず、天然資源の新規開発に参加し、その所有権を手にしたいと考えている」。
だが、中澳鉄砿の問題から見えてくるのは、それは容易ではないという事実だ。中国企業は、自国とは大きく異なる経営環境の中でも業務を進めるノウハウとスキルを持っていることを証明しようと、懸命に苦闘している。
立ちはだかる文化の相違
政府の庇護の下、長い間国内で安穏と事業を進めてきた中国企業は、海外の厳しい競争環境に対する準備ができていないことが多い。労働環境や契約の性質を巡る文化的問題がトラブルを引き起こす。
西オーストラリア州には、ほかにも頓挫している中国のプロジェクトがある。同州で開発中の14の主要な鉄鉱山の8鉱山に中国企業が出資している。銀行筋によるとその数カ所で、計画の遅れと予算の超過が出ている。
中国の鞍山鋼鉄と豪ジンダルビー・メタルズが26億ドル(約2100億円)を投じた合弁事業のカララ鉄鉱山は、インフラの設計変更と、上昇する資材費と人件費、そして為替レートの変動に圧迫され、苦しんでいる。
運が悪かった例もあるが、大半の場合、現地労働者の生産性から地元政府の環境保護の考え方に至るまで、あらゆる面で中国企業の見通しが楽観的すぎることが問題の一因だ。これらは中国国内では考える必要のない問題だ。
中国企業が海外プロジェクトで現実的なコスト予測ができないというのは、鉱業に限った問題ではない。
香港市場に上場している中国鉄建は、サウジアラビアのメッカと近隣都市を結ぶ軽量軌道鉄道の敷設を請け負った。ところが建設コストがかさみ、2010年におよそ40億元(約500億円)の損失見通しを発表した。
困ったことに、メッカの鉄道は注目プロジェクトで、契約締結式には中国の胡錦濤国家主席とサウジアラビアの国王も出席したほどだ。最終的に国営の親会社が引き継ぎ、上場している中国鉄建の損失と将来の負債に歯止めをかけた。だが、今後プロジェクトに不測の調整の必要が生じた場合や、サウジアラビア政府からの要求に変更があった場合には、中国政府が損失の一部を補償することになると思われる。
吉利が買収したスウェーデンのボルボなど、中国企業が海外企業の経営に成功している例もある。また、中国国営の石油会社は、遠くアフリカや中南米で国際的な地位を確立している。
だが北京の戦略立案者が特に関心を寄せているのは、やはり鉱業開発案件だ。この分野の企業は、これまで海外で決まった問題でつまずいてきた。
まず、鉱山労働に関する問題が、特に深刻なすれ違いを生んでいる。
中国の鉱山開発計画は、コストが安く生産性が高い中国の労働力を生かすことを前提としている。だがオーストラリアの労働法と査証の発給条件から、中国の労働力が利用できなかった。
プロジェクトはコストの高いオーストラリア人労働者に頼らざるを得なかった。トラックの運転手に支払う報酬が年20万ドル(約1600万円)に達し、しかも3部屋の住居と2週間に1度の帰宅休暇を交通費付きで与える例もある。それがバリ島までの航空券代を意味することさえある。中国人にしてみれば大盤振る舞いだが、それでも対応すべき労働争議が発生する。
日本企業と違い支配権にこだわる
中国企業はプロジェクトにおける自身の運命を自分で決めたいと考えている。中国が海外に向かったのもそのためだ。その点で、中国は日本と異なる。日本企業は、少なくとも最初はあえて比較的小さな利権を取り、現地企業に頼るやり方を学んでいる。
中国企業は支配権を求めるがゆえに、交渉が衝突を生む。特に中国企業は一般に、現地の助言者にその場で高額な報酬を支払うことに消極的だ。
法律家によると、中国企業は契約書に曖昧な表現を使いたがるという。中国国内では、そうすることに意味がある。というのも中国では条件が次々と変わり、両者がともに契約を絶対的なものではなく交渉の出発点と見なしているためだ。
中国企業にはもう1つ欠点がある。企業が内部抗争を抱え、北京の中央政府に指示された任務を全うする一枚岩の組織とは言えない場合がある。
原因の1つは、中国企業が内部に対立する利害を抱えながらも商業的組織へと進化を遂げてきたことにある。ある大手国際銀行でプロジェクトへの融資を担当する関係者は、「中国とその銀行は、『中国株式会社』という姿勢から脱却しつつある」と指摘する。
中澳鉄砿プロジェクトを見ても、株式の80%を握るCITICパシフィックと、その主要融資元である国家開発銀行、残りの20%を有する主要請負業者の中国冶金科工の3者は、角突き合いをしている。事情に詳しい関係者によると、国家開発銀行は本件から手を引きたがっている。一方で、CITICパシフィックは開発の遅れと予算超過について中国冶金科工を訴えることを検討中だという。この件に直接関わっている人物の話では、紛争は既に国務院に持ち込まれ、金融問題担当の王岐山(ワンチーシヤン)副首相が裁定を下したようだ。CITICパシフィックはコメントを拒否した。
50億ドル(約4000億円)近くを融資している国家開発銀行にとって、このプロジェクトは頭痛の種だ。国家開発銀行は融資の優先順位を政府が決定する非上場政策銀行であり、中澳鉄砿はまさに国家開発銀行が資金を提供すべき種類の案件にほかならない。
この計画が構想された6年前、自動車生産や高層マンション建築を加速させていた中国は、喉から手が出るほど鉄鉱石を欲していた。だが市場は変化した。中国の開発企業は、鉄鉱石の産出計画と需要のタイミングが合っていない厳しい現実に気づき始めている。
この5年の間に中国の鉄鋼需要の伸びは減速し、価格も下落した。2010年には10年以上ぶりに鉄鉱石の輸入が前年を下回った。昨年も金融政策の引き締めと厳しい建設制限が続けられ、鉄鋼価格への下げ圧力となった。
頭痛の種はこれだけではない。為替レートの読み間違いもコストを膨らませた。プロジェクト開始以降、オーストラリアドルは上がり続けた。CITICパシフィックの幹部がヘッジとして手を出した取引が失敗し、20億ドルの損失を出すスキャンダルもあった。この幹部は辞任した。
さらに、オーストラリア政府が7月1日に導入した「鉱物資源利用税」は、鉱業プロジェクトの収益性に一層の打撃を与える。同様に導入される炭素排出への課税による影響も出てくる*2。
*2 オーストラリアは二酸化炭素の排出に課税する炭素価格制度(炭素税)を同じ7月1日に導入した
戦略を転換し始めた中国政府
公式には国務院の指示を直接仰ぐ立場にあるCITICパシフィックは、中澳鉄砿プロジェクトで問題が続いた結果、CITICグループという立派な親会社がありながら米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)の格付けはジャンク。CLSA証券によると、CITICパシフィックの株式は、この鉱山のせいで純資産価値より45%割安で売買されているという。CITICパシフィックは電力事業、通信事業も所有している。
中国政府はこれまで国営企業に失敗の責任を問わずにきた。だが、国内外で計画通りに進まなかった開発計画の損失が重なり、姿勢は変わり始めている。実際、国務院国有資産監督管理委員会は、海外事業の経営を自らの責任で改善すると発表。中国メディアは、同委員会が国営企業による資金の浪費を非難したとの異例の報道を行った。
2011年6月には、国営企業の中鋼集団がオーストラリアで進めていた別の鉱山開発計画*3も中止した。中鋼集団は2008年にこの事業を13億6000万豪ドル(約1100億円)で買収していた。
この事業の成否は、鉄鉱石の輸送に必要なオーカジー港と鉄道の開発プロジェクトにかかっていたが、その計画も難航していた。中鋼集団自身がオーカジーのプロジェクトの半分を買い取る案もあったが、中国政府は同社の黄天文(ホワンテイエンウエン)社長を解任した。業界関係者によると、中国政府がこのような契約を認める可能性はまずないという。
これらはみな、中国政府が現在、多額の投資を伴う野心的なプロジェクトの手綱を締め始めている兆候と言える。兆候はほかにもある。
国家開発銀行は、明確に慎重な姿勢に転じている。国営の中国中鉄はインドネシアで石炭輸送のための鉄道を建設する合弁企業を設立した。以前であればこれは間違いなく国家開発銀行のプロジェクトだったが、現在この合弁企業は海外の提携先などに融資の保証を求めている。中澳鉄砿の失敗を繰り返さないためだ。
中国中鉄の合弁企業の関係者は、「良いプロジェクトだが、動きが遅れると韓国に計画を崩されてしまうかもしれない」と述べる。
中国が拡張政策に消極的になる時、そこに生じる隙間に入り込もうとするのは、韓国企業だけではなさそうだ。
*3 西オーストラリア州にある鉄鉱石の埋蔵量が豊富とされるピルバラ地区にあるウェルド・レンジの開発
Henny Sender
(©Financial Times, Ltd. 2012 Jun.25)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20120712/234392/?ST=print
世界の大手上場企業の透明度はいかほど?
真実の見極めは難しい
2012年7月19日(木) The Economist
あなたは配偶者を裏切っていませんか? 裏切っている人は、立ってそう言ってください。誰もいませんか? 本誌(The Economistを指す)の読者の皆さんは何と高潔な方ばかりなのでしょう。
企業の腐敗について調べることは、こうした不倫の調査に少し似ている。手を染めている人は、そうだとは言わない。そのため、反腐敗NGO(非政府組織)のトランスペアレンシー・インターナショナル(TI)が大企業を調査する際には、別の質問をする。
「あなたはどれくらい透明性が高いか?」と。
腐敗防止の社内規定と組織構造の透明性は向上している
TIが実施した最新の調査「企業会計報告における透明性」は、世界の大手上場企業105社を対象にしている。調査項目は3つ。第1は、汚職を防止するための社内規定及び手順について。第2は、組織構造の透明性について。3つ目は、事業を行うすべての国において詳細な財務情報を公表しているかどうかを問うものだ。具体的には、各国政府に税金及びロイヤルティーをいくら払っているかを尋ねた。
調査対象企業のほとんどが、贈収賄を禁じる厳しい規定を持っていた。この項目の平均点は69%で、2009年の同様の調査の47%から上昇している。2つ目の項目についても、多くの企業が、どの持ち株会社がどの子会社を所有しているか、などについて十分すぎるほどの詳細を公開している。さらに、105社のうち45社が、組織構造の透明性の項目でパーフェクトの100%を獲得した。
天然資源を牛耳るずる賢い政府
しかし、3つ目の項目については、ほとんどの企業が口を閉ざしたままだった。だからといって、彼らが違法行為をしているわけではない。例えば、ある鉱業会社がある国の政府に、採掘ライセンス料として1000万ドル(約7億9200万円)支払うとする。この支払いは合法だろう。けれども政府は、そのカネを使い込みやすくするために、それを秘密にしておきたいと考えるかもしれない。そのため、完璧な透明性を誇る企業は、こうしたずる賢い政府との契約は取りにくい。残念ながら、そのような政府が世界の天然資源の多くをコントロールしている。
今回の調査では、ノルウエーの国営石油及びガス開発会社スタトオイルがダントツの1位だった(図参照)。しかし、第3の項目については、わずか50%しか取れていない。3分の1以上の企業のスコアがゼロで、平均はたった4%だった。
反腐敗運動の活動家らは以前から、石油や鉱物に関連して入ってくるカネがタカリ体質の政府を支えていると訴えている。そのため、企業は何の支払いをしたのかを公表すべきだとロビー活動を行ってきた。西側の大手鉱業及び石油会社はこうした動きに敬意を払ってきた。
TIの調査における上位5社はすべて天然資源に関わる企業だ。しかし、西側のおせっかい焼きからの質問に答えたがらない企業が多いのも事実だ。例えば、ロシア国営のガス大手、ガスプロムは1つ目と3つ目の項目のスコアがどちらもゼロだった。
アマゾン、グーグル、バークシャーは下位だが
TIの調査結果は批判を受けることもある。アマゾン・ドット・コムやグーグル、バークシャー・ハザウェイは、最下位近くにランクされている。これは相応しいのだろうか? 恐らく違うだろう。これらの企業の情報公開はTIを満足させるものではないかもしれない。だが、採掘権を獲得するため閣僚に賄賂を贈るビジネスに関わっているわけではない。
TIは深刻な問題に光を当てている。だが、本誌が実施した不倫調査と同様、TIの調査結果も少し割り引いて捉える必要がある。
© 2012 The Economist Newspaper Limited.
July. 14, 2012 All rights reserved.
英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
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