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コラム:米国の対外純負債拡大、実はドル安定化要因=竹中正治氏
2012年 07月 17日 12:14 JST
米国の対外資産・負債・純負債 (対名目GDP比率)
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竹中正治 龍谷大学経済学部教授
[東京 17日 ロイター] 2011年12月末時点の米国の対外純負債(対外資産と負債の差額)が、1年前に比べて急拡大していることにお気づきだろうか。このデータを見て「ドル危機」の潜在的なリスクの上昇を強調する論者もいるが、筆者はむしろドルシステムの安定化要因が働いていると理解している。
米商務省が6月26日に公表した統計データ(International Investment Position)によれば、2011年末時点の米国の対外純負債は2010年末から1.5兆ドルも拡大し4兆ドルになった(資産は20.3兆ドルから21.1兆ドルに、負債は22.8兆ドルから25.1兆ドルに増加)。
対外純資産は、他の条件が変わらなければ、経常収支赤字の分だけ増える。米国の経常収支赤字は2006年にはGDPの6%に達したが、ここ数年は3%程度に半減し、2011年は実額では4659億ドルだった。したがって、経常収支赤字以外の要因で純負債が約1兆ドルも拡大したことになる。
では、その要因とは何か。端的に言えば、対外資産・負債の価格変動による評価損益の変化である。
まず、米国の対外資産に7020億ドルの評価損(2010年末からの価格変化)が生じている。その85%(実額で5965億ドル)は、対外株式投資と直接投資による評価損だ。一方、対外負債には海外投資家の評価益(すなわち米国サイドの負債評価額の増加)が3531億ドル生じている。その内訳で最も大きい項目は米国債の2007億ドルだ。長期米国債の価格の上昇(利回りの低下)で海外投資家の評価益が拡大したのだ。
つまり、もう一度整理すれば、米国の対外資産は株式と直接投資の評価損を主因に約7000億ドルへこみ、その一方で対外負債は海外投資家の債券評価益(米国サイドの負債評価額の増加)などが発生し拡大した。その結果、経常収支赤字分を約1兆ドルも上回る対外純負債の増加が生じたのだ。
<欧州株価下落が評価損の主因>
米国の対外資産に生じた株式評価損の原因は明らかだ。米国のS&P500は2010年末から11年末にかけてはほぼ横ばいであり、海外投資家全体としては対米株式投資、直接投資で評価損は生じていない。ところが、米国以外の株式指数を見ると、英FTはマイナス5.6%、独DAXはマイナス14.7%、仏CAC40はマイナス17.0%、日本のTOPIXはマイナス18.9%と軒並み大幅に下落している。これが主因だ。
米国の対外投資は債券よりも株式や直接投資などリスク性資産に傾斜している。一方、対外負債(海外からの対米投資)は債券投資の比重が高い。この対外資産と負債の非対称性は、長期的には米国に巨額なキャピタルゲインをもたらし、米国の対外純負債の増加を経常収支赤字の累積よりもずっと小さいものにしている。2000−11年の期間で計算すると、米国の対外資産の総合投資リターンは負債の総合コストを4.2%(年率)も上回っている。ちなみに、内訳は、インカムリターン格差がプラス1.3%で、評価損益リターン格差がプラス2.9%だ。
しかし、リーマンショックを契機に世界中の株価が同時並行で下落した2008年のような場合には、この非対称性のゆえに米国の対外資産の評価損が負債の変化に比べて大きくなり、米国の対外純負債は経常収支赤字分以上に増加する。
2011年は米国株式が横ばいであった一方、欧州金融危機の深刻化や日本の大震災で海外株式が大きく下落したことで、米国の対外資産の評価損を生み、純負債の拡大となった。米国の株式市場の相対的な好調が対外純負債の増加要因となっているのは、やや皮肉だ。
また、米国の対外資産は約50%が非ドル建てである一方、対外負債は90%以上がドル建てである。そのためドル相場の上昇(非ドル通貨の下落)は米国の対外資産に評価損をもたらし、ドル相場の下落(非ドル通貨の上昇)は逆に米国に評価益をもたらす。米国の対外資産は世界最大であり、21兆ドルに達する。そのため10%のドル相場の下落は1兆ドルもの為替益を米国にもたらす。ただし、2010年末から11年末の期間はドル相場全般がほぼ横ばいだったので、為替相場は米国の対外資産・負債の目立った変化要因にはなっていない。
<それでも「ドル危機」が起きない理由>
こうした米国の対外純負債の増加は、冒頭で述べたように、ドル危機論者の根拠となっているが、筆者の立場は異なる。むしろ、基軸通貨国としての米国の対外資産・負債の非対称な構造は、実は米国にとっても、また国際金融システム全体にとっても、安定化要因として機能していると考えるべきだ。なぜか。
上記の構図をもう一度整理すると、米国経済が海外と比べて相対的に好調で、米国株式の上昇率が他国を上回り、ドル相場が上昇する場合には米国の対外純負債が拡大する。反対に米国経済が相対的に不振で、米国株式上昇率が他国を下回り、ドル相場が下落する場合には米国サイドに莫大な評価益が発生し、米国の対外純負債は縮小する。
こうした変化のパターンが反対だったらどうなるか。仮に米国経済の相対的な不振時に対外純負債が拡大する構造だとしたら、それは海外投資家の不安を強める。その結果、米国へ流入するマネーフローは縮小、あるいは逆流し、ますます米国の資本市場とドル相場が下落するという悪循環(ポジティブ・フィードバック)が働いて、危機になりやすい構造になってしまう。
実際、この不安定構造は、対外負債がドルを主とする外貨建てである途上国に一般に見られるものだ。そのリスクが顕現したのが、たとえば1997―98年のアジア通貨危機であり、ギリシャなどが容易にユーロ圏から離脱できない理由でもある(離脱による自国通貨下落で自国通貨に換算した対外負債はますます膨張する)。
ところが、米国の現実は上記の通り反対で、悪要因(相対的経済不振、株価とドルの下落など)に対して対外純負債が縮小することでネガティブ・フィードバックが働く構造になっている。
ポジティブ・フィードバックが優勢なシステムは不安定で、累積的な変化を生む。反対にネガティブ・フィードバックが優勢なシステムは、ある変化が生み出す別の変化が反対方向に作用するので、安定性が保たれやすい。
この構図が崩れる可能性があるとすると、それは米国債に今のPIIGS諸国で起こっているようなリスク・プレミアムが生じる時であろうが、米国債はリスク回避マネーの受け皿にすらなっており、そうした危険の兆候は今のところ見られない。そうである限り、現在の円相場のように実質ベースでのドル安局面は米国株式などへの投資チャンスであろう。
*竹中正治氏は龍谷大学経済学部教授。1979年東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、為替資金部次長、調査部次長、ワシントンDC駐在員事務所長、国際通貨研究所チーフエコノミストを経て、2009年4月より現職
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#逆に、日本の場合、為替高ではドル建てでの純資産も増加するので、プロシクリカルな構造になっている(ただし経常赤字を除き、自国建では純資産は減少しているのは同じ)
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