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アングル:北朝鮮で育つ「見えない富裕層」、脱北者から影の送金
2012年 07月 13日 14:23
[ソウル 12日 ロイター] 今年5月、韓国ソウルに住む脱北者の女性(40)のもとに、見知らぬ番号からの電話がかかってきた。電話の主は、10年以上も会っていない北朝鮮で暮らす兄だった。中国との国境に近い山岳地帯から電話をかけてきたという兄は、がんに冒されているもう1人の妹を助けるための治療費を送ってほしいと頼んできた。
この男性は中国人の仲介人に連れられ、北朝鮮当局の目を避けながら5時間かけて山を登り、中国から持ち込んだ携帯電話に電波が届くポイントを探したのだという。北朝鮮では、韓国に住む人物と連絡を取るだけで死刑になる可能性があるからだ。
こういった仲介人は近年増えており、その大半が韓国系中国人だ。中国と北朝鮮の双方にパイプを持ち、外部から北朝鮮へ送金するという違法かつ極めて危険な仕事に携わっている。
電話を受けた脱北者の女性は、だまされているかもしれないと思い、電話の相手に対して本当の兄しか知らないことを尋ねてみた。2人が14年前に別れた駅の名前は──。男性は駅の名前を答え、本人だと確認が取れた。
女性は翌朝、1万5000元(約19万円)を中国国内の銀行にある仲介人の口座に振り込んだ。この金額は、北朝鮮国民の平均年収の倍に当たるという。
仲介人は送金額の最大30%を手数料として抜いていくが、仕事は早い。女性の話では、兄である男性には送金完了後わずか15分で着金したという。
韓国に住む脱北者は2万3000人と言われており、脱北者の調査を行っている韓国の調査機関によると、その約7割が栄養不足などに苦しむ家族を助けようと祖国へ資金を送っている。1年間の送金額は計1000万ドル(約8億円)と推定されている。
なお、この女性は北朝鮮では公式に死亡したことになっており、同国当局から家族への報復も考えられることから、匿名を希望している。
<中国の存在>
こうした北朝鮮へと流れる資金のほとんどは、同国最大の支援国である中国を経由している。北朝鮮と韓国は非武装地帯を隔てて分断されており、中国は事実上、北朝鮮と陸路でつながる唯一の国と言える。
ソウルに住む脱北者らによると、中国には北朝鮮との国境付近に200万人の朝鮮族がおり、韓国からの資金を北朝鮮に流すための抜け道を提供してくれるのだという。在日韓国・朝鮮人も過去には北朝鮮に資金を送っていたが、その額は年々細ってきており、韓国からの資金量増加は、これを相殺する効果もある。
平均的な北朝鮮国民の暮らしぶりはあまり知られていないが、ここは間違いなく世界最貧国の1つだ。
北朝鮮の指導部はぜいたくな生活を送っていると言われており、昨年12月に死去した金正日総書記の専属料理人だった日本人によると、金総書記は新鮮な寿司やキャビア、フランス産高級ワインやコニャックを好んでいたという。
一方、国連の報告書によれば、国民2400万人のうち720万人が「慢性的貧困」に陥っており、子ども3人に1人が栄養不足によって発育が妨げられている。
父親の金総書記に代わって三男の金正恩氏が最高指導者となった今も、事情は少しも変わっていないようにみえる。正恩氏も、全てにおいて軍事を優先する「先軍政治」を継承しており、米国務省の推計では、北朝鮮の国民総生産(GNP)の4分の1が軍事費に使われている。
また、韓国中央銀行の試算によると、北朝鮮の1人当たり国民総所得は1200ドルで、韓国のわずか5%にしか過ぎない。
<見えない富裕層>
別の女性脱北者からも話を聞くことができた。彼女はソウルの大学で中国語を学びながら、2つの仕事を掛け持ちして生計を立てている。北朝鮮に残した姉の医療費を建て替えるため、昨年は4000ドルを送金し、年に1─2回は姉の事業を支援するため1000ドルを送るのだという。
「姉は私が送ったお金で経済的な裕福さを保てている」。大学4年になる彼女の口からはこんな言葉も出た。しかし、この女性も他の脱北者と同様、北朝鮮当局から家族への迫害が考えられるため、匿名を希望している。
北朝鮮の国家経済は、80─150万人が死亡したとされる1990年代の壊滅的な飢餓や、冷戦時代に同国を軍事・経済面で支えていたソ連の崩壊から立ち直れていない。しかし、脱北者からの送金によって北朝鮮に新たな階層の人々が生まれているのも確かだ。
イムという名字だけ明かしてくれた脱北者の女性はこう語る。「脱北して韓国に住んでいる人の数は、北朝鮮の既得権層よりも多い。韓国からの送金を受ける北朝鮮国民は、見えない富裕層と言える。皆、誰が送金してもらっているかは知っているが、そのことを公の場で話す人は誰もいない」。
イムさん自身も昨年、北朝鮮の両親宛てに300万ウォン(約20万円)を送金したという。
韓国の国民が北朝鮮を訪れる際には政府からの承認が必要となるが、多くの場合認められることはない。韓国から北朝鮮に人が流れることはないが、資金の流れを止めることはできない。北朝鮮に流れた資金の一部は、同国当局者への賄賂にも使われているという。
北朝鮮人権情報センターのAn Kyeong-soo氏は、「韓国から流れてくる資金はさながらハチミツのようだ」と指摘する。「仮にこのハチミツが誰かの家から漏れれば、政府当局者は腹をすかせたアリのように群がってくる」。
北朝鮮国民の中には、今後も韓国に脱北した家族からの送金に頼っていく人たちもいそうだ。
「韓国からのお金で北朝鮮の人たちを助けられるのは良いことだと思う。私たちが送ったものが、国ではなく人の手に渡るのだから」。こう語ったイムさんは今、韓国人男性と結婚し、新たな家庭を築いている。
(原文執筆:Ju-min Park記者、翻訳:梅川崇、編集:宮井伸明)
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http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPTYE86C03A20120713?sp=true
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