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大前研一ニュースの視点〜
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┗━┛ 『 整備新幹線と大阪市政 〜経済成長の本質を考える 』
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整備新幹線
北海道、北陸、九州の整備新幹線着工を認可
大阪市政改革
市政改革最終案を発表
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▼ 新幹線網の整備は、将来への贈り物
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国土交通省は先月29日、未着工となっている北海道新幹線の新函館―札幌間
など3区間の着工を正式に認可しました。
色々と批判もあるようですが、私はこの決定は非常に良いことだと思います。
鉄道や道路というのは、国の骨格であり、中途半端なところでストップすると
全く意味がありません。
世界に誇れる日本の新幹線として、北は北海道から南の鹿児島、西の長崎まで
一気通貫で整備するべきだと思います。
新幹線網を整備する際、震災によって東海道が使えなくなる場合を想定し、
バックアップの路線も準備するべきでしょう。
具体的には、長野から敦賀、金沢へとつながる路線です。
国家のリスク管理上、バックアップ路線を整備することは非常に重要だと
思います。
ここまで整備するのに、約3兆円の費用がかかると試算されています。
3兆円が高すぎるという議論もあるようですが、私はそうは思いません。
例えば、中小企業等金融円滑化法(モラトリアム法)という悪法を
思い起こしてください。
同法により、2012年3月末現在で79兆円を超える中小企業向け融資額が
貸し付け条件の変更(返済期間の延長等)を受けていますが、
そのなかには経営健全化が難しいと指摘されている企業への貸し出しも
少なくないと指摘されています。
つまり、一時的に経営不振企業を延命させるだけの対処療法にしか
なっていないのです。
しかし鉄道網の整備は、将来に向けて子孫に残せるものですから、
有益な「投資」だと思います。
明治時代の日本人が鉄道網を整備してくれたから、いま日本は世界一の
鉄道王国と呼べる状況になっているのです。
これから100年〜200年の将来に対して、今の世代からの贈り物として
ぜひ残してあげたいと思います。
そう考えれば、3兆円など安いものでしょう。
寄付金を募るという形で募集しても良いと思います。
場当たり的にモラトリアム法などにお金を使うのではなく、
将来のためにお金を使って欲しいと思います。
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▼ 財政削減計画は見事。さらには、経済のパイを大きくする施策を
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大阪市は先月27日、今年度から3年間で取り組む市政改革プランの
最終案を発表しました。
市議会の要望などに配慮して事業リストラや補助金カットを抑えた結果、
当初案に比べ、事業の見直しに伴う財政削減の効果額は約150億円減少し、
399億円となったとのことです。
また市内で生活保護を受給する全約11万8千世帯に対し、親族など民法上の
扶養義務者の勤務先や収入を任意で聞き取り調査すると発表しました。
橋下市長が就任して、わずか半年間で、これだけの削減案をまとめたのは
見事だと思います。
大阪府知事としての経験も大いに活かした結果でしょう。
土地売却などによる歳入確保、人件費の削減、契約の見直し、事業リストラ
など、これからの3年間で約1500億円を削減できるプランになっています。
今後、これを実現するために議会で修羅場を迎えると思いますが、
何が何でも実行することです。
7月に解散することなく、ぜひやり抜いてもらいたいと思います。
財政削減計画は見事ですが、一方で橋下市長には「関電問題」という
アキレス腱があります。
大阪市は関西電力の約9%の株式を保有しています。
元々2年前には約2兆円だった関電の時価総額は、震災後に一気に
落ち込みました。
橋下市長が就任したときには、時価総額は約1兆円でしたから、
その時点で大阪市は約900億円の資産を保有していました。
その後、橋下市長による原発リスクの訴えや原発停止の提言などもあって、
関電の時価総額はさらに下がり、大阪市保有分の現時点で
資産額は827億円まで下落しています。
橋下市長が就任以来のピーク時1127億円から、約300億円減少したことに
なります。
1年間で500億円の削減プランを提示する一方では、関電の
保有資産は300億円減少させてしまっているのです。
このまま橋下市長の提言に従えば、関電の時価総額はゼロになります。
その場合、約900億円を失うことになります。
これを大阪市民にどのように説明できるのか?という点が、
橋下市長にとっては苦しいところだと思います。
また生活保護費が上昇する一方で、大阪市の市税収入は減り続けています。
まるで疫病のように生活保護は日本全国に広がっています。
日本全体が「西成区化」しつつあると感じます。
大阪市も生活保護Gメンを派遣するなど実態調査に乗り出していますが、
もっと有効な方法を講じないと根本的な解決は見込めないかも知れません。
私は以前から「日本全体が夕張市化」していると述べてきましたが、
生活保護費などが上昇する一方で税収が減少している大阪市も、
完全に「夕張化」のパターンです。
ここで大切なのは、「削減プラン」だけでなく
「経済のパイを大きくする」施策を打つことです。
わずか半年で、あれだけの財政削減計画をまとめたことは
賞賛に値しますが、さらに将来を見据えて、どれだけ経済のパイを
大きくできるのか?ということに、ぜひ橋下市長には
チャレンジしてもらいたいと思います。
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この大前研一のメッセージは7月1日にBBT757chで放映された
大前研一ライブの内容を抜粋・編集し、本メールマガジン向けに
再構成しております。
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▼ 今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか。
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実は私、高校時代はテニス部に所属しており、コートで汗を流す
日々を送っていました。今とは違い健康的な生活だったわけです。
しばらくテニスとはかけ離れた毎日でしたが、先日ふとテレビを
つけたらウィンブルドン決勝戦が中継されていました。
久しぶりに昔を思い出し、画面にくぎ付け。
時計を見ると深夜2時過ぎでした。もちろん次の日はお仕事…。
優勝したスイスのフェデラーは、かつての憧れの存在です。
テニス雑誌で彼のしなるようなストロークを研究したものでした。
フェデラーおめでとう!
というわけで、テニス熱が再燃しております。
ただ、一人では出来ません。誰かプレーできる人を探さねば…。
(編集部 ゆう)
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次号:2012年7月20日配信予定
通常号は毎週金曜日発行(+増刊号)
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生活保護のリアル みわよしこ
【第3回】 2012年7月13日
みわよしこ [フリーランス・ライター]
“自業自得”で支援を打ち切っていいのか
アルコール依存症者の日常から探る生活保護の必要性
生活保護受給世帯の約35%は、傷病者・障害者世帯である。その中には、アルコール依存症患者も含まれている。「自分が飲みたくて酒を飲んで、飲み続けた末にアルコール依存症になって、生活保護を受給して治療を受けるとは?」と思ってしまう方は少なくないだろう。今回は、1人のアルコール依存症患者を通して、生涯付き合わなくてはならない病気を抱える人々にとっての生活保護について考えてみたい。
「お母さんは2人いらない」
北島資朗さん。高校時代はラグビー部だったという。逞しい体型が印象的だ。
Photo by Yoshiko Miwa
北島資朗さん(67歳)は、小学3年生のその日のことを、今でもとても鮮明に覚えている。
親戚のおじさんが、女性を伴って長野県の実家を訪れた。そして、5人の子どもたちを居間に座らせた。おじさんとその女性は、子どもたちと向かい合って座った。おじさんは、
「今日からお前たちのお母さんだ」
と言った。
北島さんは、5人姉弟の末っ子だった。3人の姉と1人の兄は、継母がやってくることを既に知っているようだった。北島さんだけが知らされていなかった。実母は、その2年前、北島さんが小学1年生の時に病死していた。
北島さんは、何も言えなかった。ただ、心のなかで「お母さんは2人いらない」と思った。そして、高校を卒業して実家を離れるまで、継母とは一度も口をきかなかったそうだ。
父は歯科医だった。昭和19年生まれの北島さんは、終戦直後の混乱の中、経済的には比較的恵まれた環境で育った。
昭和37年、高校を卒業した北島さんは、すぐに海上自衛隊に入隊した。航空部隊の写真隊員として訓練を受け、「成田空港建設反対デモの写真をヘリコプターから撮影する」などの航空写真業務に従事するようになった。
飲酒と縁の切れなかった自衛隊時代
海上自衛隊に入隊した若い自衛隊員は、厳しい規律のもと、基地内生活を送る。もちろん、基地内での飲酒は厳禁されている。
次のページ>> 何回仕事を失っても、止められない飲酒
北島さんが住む町とその近辺には、多くのホームレスがいる。
Photo by Yoshiko Miwa
初任給は、北島さんによれば8600円であった。物価が安かったことを考慮しても、生活費がほとんど必要ない基地内生活だから暮らせる水準だったようだ。しかし、航空部隊に所属していた北島さんには、本俸の37%の航空手当が加算される。本俸と航空手当だけでも、月給は1万1782円。航空機への乗務があれば、乗務手当も加算される。
当時としてはかなりの高給だったはずだ。しかし、休日には外出して給料を「全部飲む」のが、若い自衛隊員の習慣だった。誰もが、それを当たり前だと考えていた。「飲めないのは自衛隊じゃない」とまで言われていたという。
昭和46年のある日、27歳の北島さんは、当時所属していた下総航空隊(千葉県柏市)の仲間とともに、いつものように外出した。隊の門のすぐそばには。田んぼの中に15軒のバーが立ち並んでいる。しかしその日、それらのバーは全部満員だった。
北島さんたちは、船橋の歓楽街へ繰り出し、バーに入った。別のテーブルでは、地回りのヤクザが飲んでいた。酔っていた北島さんたちは、自分たちのテーブルについているホステスに手を出そうとしたヤクザに対抗した。
乱闘の末、北島さんは負傷して入院した。当時の新聞には「自衛官 大暴れ」と報道されたという。北島さんは規律違反によって、入院中に免職となった。
何回仕事を失っても、止められない飲酒
自衛隊員でなくなっても、北島さんが職に困ることはなかった。航空写真のスキルを身に着けていたし、機上整備員として勤務するための自衛隊内資格も取得していた。なにより、元上司は
「悪いことをしたのではない、酒を覚えさせて申し訳ないな」
と、北島さんが免職されることになったいきさつに同情的だった。この元上司の紹介により、すぐに転職できた。
新しい勤務先は、東京都内の航空写真の会社だった。北島さんは、ほどなく新しい職場に慣れ、仕事ぶりを評価され、勤続年数を重ねた。
しかし、飲みっぷりは変わらず、毎晩のように泥酔する。翌朝は二日酔い。酒の臭いをさせながら出勤して仕事をする。そんな北島さんに職場の同僚たちも冷たくなり、職場に居づらくなった。
次のページ>> なぜ、アルコール依存症者は酒がやめられないのか?
北島さんが住む町の道路上には、ゴミ漁りをしている途中のホームレスの荷物が放置されていたりする。
Photo by Yoshiko Miwa
8年後、北島さんは2回目の転職をした。その会社も航空写真の会社だった。真面目な北島さんは、やはり、二日酔いでも酒の臭いをさせながら出勤した。
このころ、酒代が足りなくなったら、恵まれた結婚生活をしていた3人の姉たちの誰かに頼み込み、資金援助をしてもらっていた。他の姉たちに知られないように、姉1人ずつに資金援助を頼んだ。ローテーションを考え、「また?」と言われないように間隔に注意した。北島さんは毎回「少しくらいならいいだろう」と飲みに行き、姉たちにもらう5万円ほどのお金を、一晩で全部飲んでしまった。
翌朝、目が覚めると、心から激しい後悔を覚える。心から「酒をやめよう」と思う。しかし、どうしても止めることができない。
そのうちに、職場の視線も冷たくなる。2度目の転職から8年後、北島さんは、また居づらくなって退職した。
退職後は、とび職となった。当時は1980年台後半。バブル景気で、とび職の収入は良かったという。それは、泥酔するまで酒を飲む生活が続けられるということでもあった。しかし1990年代に入ると、仕事を見つけることは難しくなった。1990年代半ばごろには、半年ほどのホームレス生活を余儀なくされ、炊き出しに並んだこともあったという。
その後、とび職の仕事をまた得られた時期もあったが、当時の暴走族に殴られて負傷したのをきっかけとして、アルコール依存症の治療を専門としている病院に入院。11ヵ月に及ぶ治療を受けて退院した。入院と同時に生活保護が開始された。退院後は、生活保護を受給しながら単身でアパート生活を開始し、現在に至る。
なぜ、アルコール依存症者は酒がやめられないのか?
ここまでの記述を「なぜ、そこまでして飲むんだ? 姉にお金をせびるなんて、プライドはないのか?」と、イライラ感を抱えながら読まれた方は少なくないだろう。インタビューしながら、飲酒に関しては筆者自身もイライラしてしまったことを白状する。
北島さんは、自分がアルコール依存症になった背景の1つに、幼少時の幸福でなかった家庭環境があると考えている。確かに、アルコール依存症や拒食症(注1)の患者が、幼少期に原家族で虐待を受けていることは珍しくない。
東京都台東区でアルコール依存症患者のための中間施設(注2)「山谷マック」の運営に関わる水野晴夫さんは、アルコール依存症についてこう語る。
(注1)
拒食症・過食症などの摂食障害は、依存症の一種である。
(注2)
精神科病院に入院して行う治療プログラムを終えたアルコール依存症患者が、就労を含めて地域での自立生活を営めるようになるための、生活訓練の場。病院と地域生活の中間なので「中間施設」と呼ぶ。
次のページ>> アルコール依存症はアレルギー体質のようなもの
「山谷マック」スタッフ、水野晴夫さん。温厚かつ温和な紳士である。しかし、アルコール依存症による入院・逮捕・離婚などの経験を持つ。
Photo by Yoshiko Miwa
「生まれもっての、アレルギー体質のようなものです。育ちとは関係ありません。幸せな家庭に育ったアルコール依存症患者もいます」
という。
「そもそも、好んでなる病気じゃないんです。いったん酒を口にしてしまうと、体質ゆえに、遅かれ早かれ連続飲酒状態に至り、ありとあらゆる手段を講じて飲酒し、そのままでは飲酒が原因の何らかの病気で死にます。最初の一口を飲んだらおしまいなんです」
北島さんのようなアルコール依存症患者の泥酔の繰り返しや、しばしば他人にお金をせびってでも飲むことについては?
「自分の意志ではどうにもなりません。酒に、させられるんです。酒にコントロールされて、酒を飲むことと酒を入手することが人生の全部になってしまうんです」
本人に酒代を与えなければ済む話では?
断酒を続けることに成功しているアルコール依存症患者の多くは、ヘビースモーカーである。砂糖の入った飲み物とタバコを手放せない患者も多い。
Photo by Yoshiko Miwa
「アルコール依存症患者は、どんなことをしてもアルコールを手に入れるんです。お金がなければ、ヘアトニックでも飲みますよ。(エチル)アルコールが入ってますから」
正直なところ、アルコール依存症患者にとっての酒が何であるのかは、筆者の想像を絶している。
しかし、
「アルコール依存症に完治はないけれど、回復はできる」
と言われている。断酒を続けることが、回復への唯一の道である。そして日本でなら、生活保護を受給しながら治療を受けることができる。30年ほど前、アルコール依存症を専門とする精神科医らの尽力で開かれた道だ。それ以前は、病院から退院した患者はしばしば、再飲酒に陥って死に至っていた。
では、北島さんは現在、どのような生活をしているのだろうか?
次のページ>> アルコール依存症の治療を中心とした、現在の日常
アルコール依存症の治療を中心とした、現在の日常
北島さんの住まい近くには、多数の福祉物件(生活保護受給者を主な対象とした民間アパート)がある。その多くは、十分なメンテナンスをされていない。
Photo by Yoshiko Miwa
現在の北島さんは、会社員のように規則正しく、東京都内の精神科デイケアセンターに通っている。アルコール依存症に関して定評のある精神科デイケアセンターの一つだ。
朝は、午前4時から5時のあいだに起床。朝食は食べずにTVを見る。主にニュースを見る。
8時45分、住んでいるアパートを出て、デイケアセンターに向かう。
9時30分、デイケアセンターのドアが開くのと同時に中に入る。
10時から16時までは、デイケアに参加する。参加にあたって、自己負担は必要ない。
デイケアには、さまざまなプログラムがある。アルコール依存症者のためのミーティングや認知行動療法など精神科デイケアらしいプログラムもあれば、身体を動かすプログラムもある。このデイケアセンターは、プログラムの選択や参加を各自に任せ、強制は一切しない方針だ。デイケア時間帯に外出もできる。しかし北島さんは、ミーティング等に真面目に参加する。
昼食は、デイケアの一環として提供される(注3)ものを食べる。
16:00、デイケア終了とともに帰途につく。買い物などをして、17:30には帰宅する。
北島さんはご飯を炊き、買ってきた惣菜と一緒に夕食とする。一日の食費の予算は500円ということだ。テレビのバラエティ番組を見たり洗濯をしたりして、22時には寝る。
休日は、アルコール依存症者自助グループの仲間とソフトボールを楽しんだりもする。
することのない時間はない。仲間もたくさんいる。「ヒマ」と孤立はアルコール依存症患者の大敵だ。飲酒の動機になりうるからだ。しかし北島さんは、どちらとも無縁だ。
断酒生活は、もう13年も続いている。
北島さんは、現在の生活に「大満足」という。
(注3)
かつて、精神科デイケアで食事提供を行う場合には、一日480円の食事加算が診療報酬の一部として支払われていた。この制度は、2010年に廃止された。以後、多くのデイケアセンターが、持ち出しで利用者負担なしの食事提供を続けている。
次のページ>> 回復した現在から見る、生活保護への思い
回復した現在から見る、生活保護への思い
北島さんの現在の最大の楽しみの1つは、アルコール依存症患者の自助グループ仲間とのソフトボールだ。仲間に撮ってもらったという携帯電話カメラ写真。
Photo by Yoshiko Miwa
現在の生活に「大満足」している北島さんだが「働いている人に申し訳ない」という気持ちもあるという。また、生活保護を受けてのアルコール依存症治療に対して、現状を全肯定しているわけではない。
現在、北島さんの通う精神科デイケアセンターでは、奇妙な「格差」が発生している。生活保護受給者は、参加者の95%を占めている。自費負担なく、福祉事務所から課せられた義務としてデイケアに参加できる生活保護受給者たちは、自費参加の一般の患者たちより「お金持ち」なのだ。デイケアで昼食費を浮かせられるからである。自費での医療費負担(一日あたり約1000円〜約3000円)が発生する参加者には、しばしば缶コーヒー1本程度の余裕もない。
ごく一部ではあるが、その経済的な余裕を、ギャンブルや酒に使ってしまう生活保護受給者もいる。デイケアセンターの中で、そういう患者たちがパチンコや飲酒の話をしているのを聞くと、北島さんは「いいのかなあ、気を使ってほしい」と思う。ちなみに北島さん自身は、浮いた昼食費を「なんとなく貯めてしまう」そうだ。生活保護生活は、案外「物入り」だ。許される範囲の貯金で備えることは必須といえる。
また北島さんは、生活保護を受給しているアルコール依存症患者の一部が、何度もスリップ(再飲酒)しては入院して治療を受けて地域に戻り、またスリップ……というサイクルを繰り返しているのを見ていると、「福祉で治してもらえる」という甘えに怒りを覚えるそうだ。「コントロールしてほしい」と思うし、「生活保護で何度でも治療を受けられることが本人にとって良いことなのかどうか?」とも考えてしまうそうだ。
筆者自身も考えこんでしまう。繰り返されるスリップと再入院は、ゆっくりとした回復への小さな一歩なのかもしれない。しかし、本人が回復を望んでいないとしたら? 将来のいつか回復する可能性に賭けて、治療のレールに乗せつづけることは正しいのだろうか? たぶん、正解のない問題なのだろう。
次回は、若年層の生活保護受給者を紹介したい。「働かずにラクをしたい」「仕事を探そうともしない」といったイメージは、彼ら彼女らに、どの程度当てはまるのだろうか?
生活保護のリアル みわよしこ」の最新記事 バックナンバー一覧
第3回 “自業自得”で支援を打ち切っていいのか アルコール依存症者の日常から探る生活保護の必要性 (2012.07.13)
第2回 妻の浮気相手への傷害で服役、ホームレスに 高齢生活保護受給者のギリギリの暮らしと思い (2012.07.06)
第1回 【新連載】 生活保護費削減なら国民全員が貧困化する可能性も!? 急増する生活保護にまつわる「よくある誤解」 (2012.06.29)
http://diamond.jp/articles/-/21498
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