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経済成長途上にある国の成長モデルは、固定資産投資(公共投資、民間設備投資、民間住宅・不動産投資の計)主導ということで共通しており、そのパターンから抜け出られなくなる。
日本の場合、東京五輪、経済失速、列島改造投資ブーム、オイルショック、経済失速、不動産バブル投資、バブル崩壊、空白の20数年・慢性デフレ、増税・バラマキ、デフレ加速と続く。
2004年のアテネ五輪のギリシャはだれもコストを払わない高速道路や橋ばかり建設し、政府債務を膨らませ、ユーロ危機を引き起こす要因になった。
中国の場合、北京五輪、リーマン・ショック、不動産開発投資、不動産バブル崩壊、経済失速という流れである。薄煕来事件のように党集団指導体制はほころびが目立ち、暴動が頻発、他方では抑えがきかなくなった地方軍閥が領土、領海侵犯を繰り返す。
「五輪経済」は五輪後に決して平和をもたらすわけではないのだ。
■生産性向上や経済効率化への改革の重要性
五輪開催による経済効果を考えるとき、中高年世代がすぐに思いだすのは1964年の東京五輪であろう。当時、四国の片田舎で育ち盛りの筆者も自転車を走らせて町の電器屋さんの店頭に駆けつけ、黒山のひとだかりの中を分け入って、柔道や女子バレーのカラーテレビ中継に見入った記憶がある。
東京五輪はカラーテレビ・ブーム爆発のきっかけとなったほか、東京を中心に地下鉄、高速道路、東海道新幹線などのインフラ投資が盛んに行われ、日本列島は五輪景気に沸き立った。
64年の実質国内総生産(GDP)成長率は11.2%を記録した。ゼロかマイナス成長が当たり前の現在では想像もつかない時代だった。東京五輪が終わったあと経済成長はいったん減速したが、政府は高度成長熱を冷まさないよう、公共投資を上積みし、成長率を押し上げた。
高度成長期にある国にとって五輪とは、投資主導型経済モデルの枠組みに自らをはめる場であり、抜け出そうとしてもなかなか抜けられなくなる。新興国では中国が2008年北京五輪を開催したし、16年にはブラジルでリオデジャネイロ五輪が予定されている。
北京五輪当時の中国と東京五輪の日本の総固定資本形成(公共投資と民間設備・住宅投資など固定資本投資の合計)のGDP比の推移を比較した。共通するのは、五輪開催決定後、固定資本投資比率が急上昇し、成長率をぐいっと押し上げることだ。日本の場合、五輪が終わると投資が一段落して成長率も下がったのだが、中国の場合、五輪終了後投資比率が一段と上昇している。
理由は、中国政府による投資奨励策にある。北京五輪終了後の9月15日に米国でリーマン・ショックが勃発し、投資と並んで中国の高度成長を支えてきた輸出が急減した。共産党の胡錦濤総書記は急遽(きゅうきょ)、総額4兆元(日本円で50兆円弱)の財政出動を決めると同時に、国有商業銀行に対し、不動産などの建設投資用に融資額を一挙に3倍増やすよう指令した。その結果、09年以降GDPに占める固定資本投資の比率は45%以上に跳ね上がった。09年は輸出が落ち込んだ分を固定資本投資が十分以上補い、実質経済成長率は2桁台を維持したが、成長率増加分の87%が固定資本の上積みによる。
GDPとは大きく分けると、消費、投資、輸出で構成されるのだが、このうち投資は政府や中央銀行の政策、つまり財政政策や金融政策により動かせる。中でも、党中央が指令次第で資金を大きく動かせる中国の場合、政策効果は日米欧に比べて抜群といえる。北京の党中央は投資に次ぐ投資をあおり立て、リーマン・ショックによる「大津波」の災厄を免れたわけである。
だが、投資偏重型の経済成長モデルには重大なマイナスの副産物がつきまとう。効率が悪く過剰な設備投資や建設投資と、不動産バブルである。
日本の場合、東京五輪後の1970年代初め、田中角栄首相(当時)主唱の「列島改造」ブームで全国レベルでの不動産開発が起き、固定資産投資のGDP比率は東京五輪当時を上回る35%に達したが、国土の乱開発が社会問題になった。73年には石油危機が起きて高インフレに見舞われ、投資比率は急降下したが、80年代後半には超金融緩和政策の後押しを受けて不動産バブルが発生し、90年代初めにバブル崩壊した。不動産バブル融資総額は約130兆円に上り、金融機関は100兆円以上の不良債権を抱え込んだ。その処理に手間取っている間に、日本経済はゼロまたはマイナス成長局面に突入した。
不良債権処理は一段落したものの、慢性デフレが長期化し、リーマン・ショックでデフレ不況が深刻化し、現在に至る。いわば、日本は東京五輪を機に日本経済の構造に巣くってしまった固定資本投資依存体質から脱し切れないし、固定資本投資主導に代わる経済成長モデルに転換できないでいる。
中国の場合、リーマン後の不動産開発を推進したのは公有制の土地の開発権を持つ地方政府である。地方政府は国有商業銀行から2010年末時点で日本円換算約130兆円の融資を受けているが、返済繰り延べが相次いでいる。農村部のど真ん中に超高層ビルやマンションが建ったが入居者はほとんどいないケースが目立つ。上海など大都市部でもマンションの買い手がつかない状態だ。残る頼みの輸出も、ユーロ危機のあおりで伸び率が鈍化し、経済成長率を押し下げている。
それでも、中国は前述したように党主導でカネの流れを制御できるほか、党指令次第で債務返済の先送りも可能で、日本のようなバブル崩壊は起きにくいとの見方もある。しかし、中国には熱銭と呼ばれる巨額の投機資金が不動産や株式市場に流入している。その多くは、中国の党幹部や国有企業系の海外法人が国外に移した資本であり、逃げ足も速い。熱銭が国外に逃避し始めると、不動産や株式市場の崩壊が一挙に進む恐れがある。
16年にはもう一つの新興国の代表格、ブラジルでリオ五輪が開催される。ブラジルも五輪に向け、固定資本投資の対GDP比率がじわじわと上昇し始めている。同比率はリーマン前には50%にも達したあと、急落したが、固定投資主導型モデルに回帰するのは必至だ。
新興国が五輪を国造りの弾みにするのは当然なのだが、固定資本投資に偏重する経済構造にならないよう、生産性向上や経済効率化に向けた改革を心がけないと、あとで経済の大停滞に陥る恐れがある。歴史は繰り返すのだ。(田村秀男)
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