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知らないと損する!医療費の裏ワザと落とし穴
【第30回】 2012年7月12日
早川幸子 [フリーライター]
生活保護費3.7兆円の半分は医療費
医療制度の歪みが生む長期入院の見直しこそ急務
お笑い芸人の母親が生活保護を受けていたという報道をきっかけに、受給者全体に厳しい目が向けられている。
リーマンショックによる雇用の悪化、東日本大震災の影響などもあって、生活保護の受給者数はここ数年で一気に増加。今年3月の生活保護受給者は210万人を突破し、今年度の総支給額は約3.7兆円になると見込まれている。
たしかに一部には、資産を隠したり、偽装離婚で母子家庭を装ったりして、生活保護を騙し取る不正受給があるのは事実だ。また、「生活保護費でギャンブルに興じている」「まだ若くて元気なのに働こうとしない」といった無駄遣いや受給者の甘えの問題もある。
生活保護は、預貯金や持ち家などの資産、働く能力などをすべて活用しても、自力では生活できない人に対する国の支援で、その費用は全額税金で賄われる。不正受給は許されるものではないし、無駄遣いや受給者の甘えに対して納税者である国民が納得いかない感情を抱くのもわからないではない。
しかし、不正受給や無駄遣いが生活保護費を押し上げる原因というステレオタイプの決めつけは、ちょっと違うのではないかと思う。
生活保護の不正受給は全体の0.4%
もっとも大きな部分を占めるのは医療費
不正受給の金額は、2005年度に1万2535件(約72億円)だったものが、2010年度に2万5355件(約128億円)になっている。この数字だけ見れば、「倍増」という表現もあながち間違いではない。
一方で、支給総額も2005年度の147万5838人(約2.6兆円)から2010年度には195万2063人(3.3兆円)に増えている。率にしてみれば、この間の不正受給は0.3〜0.4%ほどで非常に低い水準だ。
他に比較する対象が示されず、不正受給や無駄遣いの事例ばかりを抽出して見せられれば、何も知らない人は「生活保護のほとんどが不正受給によるもの」といったイメージをもってしまうのも無理はないだろう。
だが、それよりも問題なのは「医療扶助」と呼ばれる医療費で、2010年度の生活保護費の総額3兆3296億円のうち、47%の1兆5701億円が医療費で占められているのだ。
次のページ>> メスを入れるべきは医療扶助の6割を占める入院関係費
医療扶助は、生活保護の受給者が受けられる医療サービスで、健康保険が適用されている治療なら、病院や診療所での窓口負担なしで必要な診察、検査、手術などを受けることができる。
医療扶助増加の原因としてよく言われるのが、自己負担なしで受診できる制度への批判で、「医療費がタダだから、頻繁に受診したり、薬が過剰に投与されている」というもの。昨年行われた行政刷新会議の「提言型政策仕分け」でも、生活保護の医療費を削減するために窓口での一部負担金を検討するといったことが提言されたが、これで本当に大幅な削減ができるのかは疑問だ。
そもそも生活保護を受けている人は、病気やケガをして働けなくなったり、障害があるために仕事につけず、他に頼れるものが何もない中で受給に至っている人が多い。保護世帯の33%が障害者・傷病者世帯だということを考えれば、一般的な家庭に比べて頻繁に受診して医療費がかかるのは仕方がないことのように思う。
根本的な解決を図るなら、メスを入れるべきは医療扶助の6割を占める入院に関する費用だろう。中でも多いのが精神疾患による長期入院で、入院全体の約4割となっている。背景にあるのは、生活保護受給者の特色というよりも、精神科医療の構造的な問題だ。
精神科医療の見直しが
生活保護費削減のポイント
そもそも、日本の精神科医療は、諸外国に比べて入院期間が飛び抜けて長い。
精神障害のある患者は、入院が長引くほど自分で生きようとする力を失い、地域社会で生活するのが難しくなる。諸外国では精神疾患の治療はできるだけ入院させずに、通院しながら地域の中で改善を図るのが主流となっている。
次のページ>> 医療制度の歪みが生活保護を通じて浮き彫りに
ところが、日本では長い間、精神疾患は病院に収容するという政策がとられてきた。その影響で、地域に精神障害のある患者を受け入れる社会的資源が少なく、いまだに入院中心の医療が行われている。
それは、精神科の平均的な入院日数が、OECD諸国が18.1日なのに対して、日本は298.4日という驚くほどの差があることからも明らかだ(OECD Health Data 2008「2005年診断分類別精神及び行動の障害」、厚生労働省平成17年「患者調査」より)。
精神科への入院は、認知症を患っている単身高齢者も多い。医療は必要ないけれど、地域や家に帰っても面倒を見てくれる人がいないために、病院がその受け皿となっている社会的入院だ。
医療扶助を押し上げる大きな原因は、こうした精神疾患や単身高齢者の長期入院だが、生活保護受給者に限った傾向ではなく、日本の医療制度の歪みが生活保護を通じて浮き彫りとなっていると考えるべきだろう。
本来なら地域や社会が受け入れるべき患者が入院を余儀なくされているのは、国の財源もさることながら、なにより本人の尊厳にもかかわる問題だ。
国は、医療扶助を適正化するために、医療費の請求の点検の強化、生活保護の指定医療機関への適正な指導、ジェネリック医薬品の利用促進、向精神薬の投与の適正化などを打ち出している。
だが、本気で医療扶助を削減したいのなら、日本の医療制度にまで踏み込んだ改革をしなければ、根本的な解決は図れないだろう。
とはいえ、現状では精神障害がある患者を地域で受け入れる社会的資源が足りない状態だ。受け入れ態勢を整えないままに、ただ生活保護費を削減したり、医療扶助に自己負担金を導入したりすれば、行き場を失った受給者たちが、より悲惨な目に遭わないとも限らない。
次のページ>> 生活保護を適正化をするなら 「漏給」もなくす必要がある
生活保護の「適正化」を約束するなら
「漏給」も同時になくす必要がある
今回、お笑い芸人の母親の生活保護受給問題を追及した片山さつき議員が所属する自民党は、次期選挙に向けた政策の中で、生活保護費の給付水準1割カットや医療扶助の適正化を打ち出している。これに対して、小宮山洋子厚労大臣は「自民党の提起も踏まえて、どう引き下げていくのか議論したい」と発言し、同調する姿勢を見せている。
生活保護費が年々上昇しているのは事実だ。しかし、国民全体の利用率は1.6%に過ぎず、ドイツの9.7%、イギリスの9.7%、フランスの5.7%に比べても非常に低い水準だ。
さらに、本当は生活保護を利用しなければならいほど生活が困窮しているのに、我慢をして申請していない「漏給」者は現状の2〜3倍はいると言われている。
生活保護は憲法25条の「すべて国民は、健康で文化的な最低限の生活を営む権利を有する」という条文を具現化するもので、国家が国民に果たすべき約束だ。「適正化」を謳うのであれば、これまで捕捉されていなかった困窮者も掘り起し、困っている人すべてに生活保護を届ける必要があるのではないだろうか。
http://diamond.jp/articles/-/21425
野口悠紀雄の「経済大転換論」
【第26回】 2012年7月12日
野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
アメリカの量的緩和政策(QE)も、
実体経済に影響せず
FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)が一層の金融量的緩和(QE3)を行なうべきだとの声がある。それが行なわれれば、アメリカ経済や世界経済は好転するのだろうか?
それを知るためには、これまで行なわれた量的緩和策(QE1、QE2)の効果を見ておく必要がある。
以下では、まず2007年から08年にかけてのアメリカ金融危機に対してアメリカ政策当局が行なった対策を振り返ったあと、FRBによる量的緩和策の効果を見ることにしよう。これについて理解しておくのは、現在のヨーロッパ金融危機を理解するにも重要なことである。
金融危機と公的資金の注入
高騰を続けていたアメリカの住宅価格は、2007年夏頃をピークとして、下落に転じた(【図表1】)。これを発端として金融危機が起こった。
これは、アメリカの金融業界全体に急速に広がった。借り手の返済能力を疑う金融機関が融資を行なわなくなったため、企業の資金繰りが難しくなり、金融以外の事業も含めて、経済活動がストップしてしまった。
そして08年9月にリーマン・ブラザーズが破たんし、アメリカの金融システムは危機的な状況に立たされた。
次のページ>> QE1(量的緩和第1弾)でMBSの価格崩壊を防止
9月29日、米下院は金融安定化法案を否決した。これは予想外のことだったので、同日のニューヨーク株式市場のダウ平均株価は、史上最大の下げ幅となる777.68ドル安を記録した。10月1日、米上院は下院が否決した金融安定化法案を修正して可決した。
10月14日、アメリカ連邦政府は、金融機関に対する公的資金注入計画を発表した。不良資産救済プログラム(TARP)と呼ばれたこの計画は、当時のアメリカGDPの約5%にあたる7000億ドルを金融機関につぎ込もうとするものだった。この数字は、現在のユーロ危機でどれだけの公的資金注入が可能かを判断する際にも、一つの参考になるだろう。
この主たる目的は、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の支払いが滞るのを防ぐことである。とりわけ、大量のCDSを引き受けていたAIGの倒産を防ぐことだった。
この結果、2009会計年度(08年10月−09年9月)の財政赤字は1兆7521億ドル(約171兆7000億円)と史上最大規模に拡大した。
QE1(量的緩和第1弾)で
MBSの価格崩壊を防止
リーマンショックを受けて、FRBは、大幅な金融緩和を行なった。
まず2008年の11月に、非伝統的政策の第1弾(後にQE1と呼ばれる)が行なわれた。
この特徴は2つある。
第1は、金利ではなく、量的指標を目標とする「量的緩和政策」だったこと。第2は、国債以外の資産も大量に買い取る「非伝統的金融政策」に踏み切ったことだ。具体的には、米国債を3000億ドル購入することに加え、MBS(住宅ローン担保証券)を1.25兆ドル購入した。FRBが1年半の間に購入した資産は、【図表2】に示すように、合計で1.7兆ドルを超えた。
次のページ>> 金融機関は回復しかし、雇用は改善せず
アメリカ金融危機は、住宅ローンを証券化した金融商品の急激な値下がりによるもので、MBSはその中心に位置していた。したがって、この大量購入は、MBSの価格崩壊を防ぐための直接的な措置だった。その意味で、QE1は伝統的な金融政策とは異質のものであるばかりでなく、国債購入が中心だった日本の量的緩和政策とも異質のものだった。
この措置によって、MBSの際限ない価格崩壊は回避され、アメリカ金融危機の根本的原因は取り除かれた。ただし、FRBの資産は著しく劣化したことになる。
金融機関は回復
しかし、雇用は改善せず
ゴールドマン・サックスやバンク・オブ・アメリカは、2009年度に入ってから危機以前の水準の利益を回復し、09年6月までに、ゴールドマン・サックスは100億ドルの公的資金を、バンク・オブ・アメリカは450億ドルの公的資金を完済した。総額450億ドルの注入を受けたシティグループは、09年12月までに200億ドルの資金返済を完了した。残りの250億ドルについて、政府はシティの普通株に転換することで合意した。
スペインでは、いま住宅価格が下落し、銀行の不良債権処理が問題となっている。アメリカでは、この問題はすでに09年までに解決していたわけだ。
QE1によって、FRBへの銀行の準備預金は、08年9月から3ヵ月間で100億ドルから8000億ドルに激増した。つまり、ベースマネーは急増したわけである。
では、こうした大規模な金融緩和策は、実体経済にどのような影響を与えたか?
まず失業率を見ると、【図表3】に示すように、アメリカの失業率は、07年11月まで4%台であった。12月には5%に上昇したが、08年7月まで5%台にとどまっていた。ところが、8月から急上昇を始めた。この勢いは、QE1という大規模な金融緩和政策が行なわれたにもかかわらず衰えず、09年5月には9%台になった。そして、その後も9%台に張り付いて低下しなかった。金融機関の利益は回復したものの、それが雇用を増大させるには至らなかったのである。
次のページ>> QE2(量的緩和第2弾)で国債利回り低下
住宅価格も、09年5月まで低下を続けた。その後若干の上昇に転じたが、上昇というよりは「低迷」という状態であった。
すでに述べたように、QE1は住宅ローンを証券化した金融商品の価格崩壊を抑えるためのものであったから、FRBによるMBSの購入は住宅価格の崩壊を防いだという解釈は可能かもしれない。ただし、住宅価格を本格的に回復させるには至らなかったのである。
失業率と住宅価格の以上のような状況を見れば、「QE1は実体経済を上向かせることはできなかった」と結論できる。
なお、原油価格は08年10月から下落した。
QE2(量的緩和第2弾)で
国債利回り低下
FRBは、2010年11月に、非伝統的金融政策の第2弾として、6000億ドルの米国債を買い取ることを決定した。これは、「QE2」と呼ばれる。
FRBは08年6月末から10年末までの1年半で、バランスシートを約2.5倍に拡大させた。またQE2が終了した11年6月までの3年間では、3.2倍にも膨張した。QE1、QE2で供給された資金は、合計で2.3兆ドルに上る。
QE2は国債を購入する施策であったため、当然のことながら国債価格は上昇し、利回りは低下した。
QE2の実施直後の2010年12月に3.29%であった10年国債の利回りは、実施後若干上昇した。しかし、その後顕著に低下し、11年9月には2%を割り込んだ。12年6月では1.62%である(【図表4】)。
次のページ>> QE2はアメリカ実体経済に影響を与えなかった
QE2はアメリカ実体経済に
影響を与えなかった
QE2が実体経済に与えた効果は、どうだったろうか。
まず失業率を見ると、QE2が行なわれた2010年11月の9.8%をピークとして低下に転じたのは事実である。しかし、その後ほぼ1年間にわたり、ほとんどの月において9%台だったので、「目覚ましい回復」とはいえない。その後も、最近に至るまで、失業率は8%台から下がっていない。つまり、経済危機前に比べて2倍程度の高い失業率が継続しているのである。
さらに、雇用状況は失業率だけで見ることはできない。もう一つ重要な指数は、労働参加率(生産年齢人口のうち労働市場に参入する意志を持つ人の割合)である。この推移は【図表5】に示すとおりであり、09年以降、顕著に低下している。2010年中頃と最近を比較すると、ほぼ1%ポイント低下している。したがって、上で見た失業率の低下のかなりの部分は、労働参加率の低下によるものと見ることもできるのである。
住宅価格はどうか。【図表1】に見るように、住宅価格は2010年6月にピークに達した後、再び下落に転じている。そして、QE2はこの傾向を逆転させることはできなかった。
したがって、QE2後の住宅価格は、QE2実施前よりも低くなったわけである(なお、住宅価格は、12年3月からわずかながら上昇に転じている)。
設備投資は回復しなかった。このため、経済成長は鈍化した。実質国内総生産(GDP)成長率は、2010年3.03%から、11年には1.74%に低下した。
他方、インフレ率は、QE2前の1.2%から、3.1%に上昇した。
次のページ>> 量的緩和の効果は、金融資産の価格下支え
量的緩和の効果は、
金融資産の価格下支え
以上をまとめれば、つぎのとおりだ。
(1)FRBの量的緩和は、購入資産の価格を下支えするという直接的効果はあった。すなわち、QE1は、MBSを大量に購入することにより、その価格下落を防止した。また、QE2は、国債の価格を上昇させた(利回りを低下させた)。
(2)マネーストックの増加を通じる実体経済への影響、つまり、教科書的な意味での金融緩和策の効果は、認められなかった。具体的には、失業率の改善、設備投資の増加、経済成長率の上昇、住宅価格の下げ止まり、等は生じなかった。
日本には、「日銀はFRBほどの金融緩和をしていない。FRBにならってもっと量的緩和を拡大すべきだ」という人がいるのだが、「FRBのような大規模な緩和を行なっても、実体経済には効果がなかった」という点が重要なのである。仮に日銀がFRB並みの大規模金融緩和を行なったとしても、格別の効果はなかったろう。
それに、FRBが大規模な緩和を行なったのは、金融危機の直接の原因となったMBSを購入することが最初の目的である。日本ではその必要性がなかったのだから、資産購入額がそれほど多額にならないのは当然のことだ。
QE1、QE2の効果については、今後詳細な実証分析が行なわれるだろう。しかし、その結論が上で述べたこと(購入資産の価格を下支えしただけであり、失業率減少など、実体経済への影響はなかった)から大きく違うことはないだろう。
QE1やQE2は、「歴史的大実験」と言われた政策である。その結果がこのようなものであったことは、金融政策をめぐる今後の議論に大きな影響を与えざるをえない。
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http://diamond.jp/articles/-/21428
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