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「10年後はもっと幸せになっていると思いマス!」
顔を見ながら大学生に聞いた。閉塞感なんて感じてない?
2012年7月11日(水) 山中 浩之
【はじめに――世代論はお好きですか?】
このサイトも一役を担った流行語「草食男子」でもそうでしたが、世代を語る仮説には「部分で全体を決めつけるな」、という批判が必ず行われます。
全体を語る言葉は、かならずしも個々には当てはまらない。そうはいっても個々を語っていたのでは、全体は見えない。そもそも、分析する側の主観がどうしても言葉には入り込む。主観がなければ調査分析などできないのですから当然ですが、分析される側の不満はぬぐえない。
今の若い世代が何を考えているのかを客観的に捉えることはできないかもしれない。しかし、こちらとコミュニケーションがとれる範囲で、できるだけ多くの個々の若者と接した上で、彼らが今の社会、とりわけ我々の「会社員の世界」をどう見ているのかを、自分の言葉で語ってもらえれば、そこからある程度、個別・全体に共通する「今の若者」の姿を見ることはできるんじゃないか。それは我々会社員の側にとっての外側からの目線、鏡にもなるにちがいない。
そんな問題意識からこの企画は始まりました。まずは、担当編集の私の「主観」「偏見」から、お読みください。(編集Y)
「失われた20年」「ゼロ成長」「デフレ」「人口減」、暗い未来を語る言葉は引きも切らない。そんな成長なき時代に生まれ育ったいまの若者たちは「年寄り世代の医療、介護コストを負担し」「国際競争の中、不安定な雇用に晒され」「将来への大きな夢を持てず、身の回りの小さな幸せを大事にして、草食化」していく、閉塞感に捕らわれた気の毒な世代だ−−。
と、私も思っていました。
それが変わったのは、とある私立のマンモス大学で先生のまねごとをしたのがきっかけです。
ひょんなことから生の大学生の声を聞く
この大学、偏差値で言うとある学生さん曰く「勘違いして思い上がるほど高くもなく、将来をあきらめていじけてしまうほど低くもない、ちょうどいいレベル」。そこでこの4月から週1回、30人前後の学生さんを相手に「授業」をやる機会を得た私は、「こんな時代に、彼ら彼女らは未来をどう見ているのだろう」と考え、アンケートをやってみることにしました。
Q1:いまのあなたの幸福度を、100点満点で示してください(50点が「普通」の状態です)。
Q2:10年後、就職したあなたの幸福度を、100点満点で示してください(同)。
出席してくれた31人の回答は以下の通りです。
31人中26人が「いまは幸せ」
“授業”に参加意志を示してくれた31人(4年生6人、3年生25人、男子14人、女子17人)に教室で用紙を配布、回収。以下同じ。
若者世代が現状への満足度が高いことは、昨年話題になった古市憲寿さんの『絶望の国の幸福な若者たち』でも指摘されていました。なので、それほど驚きはなかったのですが、10年後=自分が33歳前後の際の幸福度がさらに高くなると予想した学生さんは、私の予想外の多さでした。
しかも、個別の回答を見るとさらに意外な発見が続きます。
「閉塞感」って、なんのこと?
10年後「今より幸福じゃなくなる」と思う人は案外少ない
10年後、今より幸福度が下がると考えている人は31人中11人。約3分の1いました。数点から数十点まで下げ幅の大小があるので、大きく下げた人を分かりやすくするために、一工夫してみます。
上のグラフは、回答を「50点が普通」を目安として25点刻みの4区分に分け、現状と10年後で選択がどのように変化したかを分かるようにしたものです(※)。「普通よりやや幸せ」「普通よりやや不幸せ」のボリュームゾーン、現状で75点から26点までの27人のうち、今よりも不幸な区分に移動したのは3人(幸福度中間上位グループから中間下位へ)でした。
(※ グラフ内での幸福度の下降=赤い線は、区分を超えての下落のみを表示しています。点数が下がっても、同じ区分に入る場合は、並行線の数字で表しています)
現状、「最も幸せ」と感じているグループの3人が10年後の幸福度を控えめに見ているのは、「今がありえないくらい幸せ」と自覚しているためなのでしょう。ある意味、正常な認識です。彼らのように「今が幸せなほど将来に対して悲観的に構えがち」という傾向を前提とすれば、むしろここで出会った学生の皆さんは、将来をかなり明るく見ているように思えます。
バリバリ働いている自分が見えている
ではそんな中、「幸福度が下がる」と予想した学生さん11人は、なぜ下がると考えているか、個別の理由を聞いてみました。すると「30歳ともなれば忙しく働いているので、自分の時間がなくなってしまうだろうから」(コバヤシさん、女性)。「仕事は続けているか分からないが、ずっと家にいるより仕事をしていたら充実するのではなかろうか。人との新しい出会いがあるはず」(ムラカミさん、女性)。
やはり忙しさを幸福度減少の理由に挙げているヨシハラくんは「『忙しい』とはマイナスの意味ではない。プラスの意味で用いている。やりたいことを存分にやっている結果ということ」と、「バリバリ働いている」ことを前向きに捉えたうえで、「その結果、自分のための時間がなくなる」ことを、マイナスの理由としています。
「趣味の時間がなく仕事に追われる、やりがいがあるか、収入は仕事量とつりあっているかわからない」(セタくん、男性)、「この頃には子供ができていると思うので、仕事がちゃんとできているか不安」(ホソノさん、女性)という声ももちろんあります。しかし、そういう学生さんも含めて「しっかり働いている10年後の自分」が、彼ら彼女らには見えているようなのです。
次は、幸福度が上昇すると予想している学生さんの個別の声を聞きましょう。
幸福度が上がる方向にももちろん「仕事でのやりがい」が頻出しますし、「オカネを稼いで趣味を充実」(オタケくん)という一石二鳥の思いもにじみます。「働くことに対する期待が大きい分、10年後にはやりがいを感じていたい。仕事を通して、自分の成長を感じていたい。昔とは違った形で社会で学んでいたい」(アオノさん)。回答では「幸福度が学生時代より半減する」としているヒラハラくんさえも、「仕事のやりがいに期待している」という。「仕事で出会える人や経験による成長」に対する期待も数多く出てきます。
「幸せの3割は仕事から来る」と期待
会社員の世界を外から見ると、「生き甲斐、収入、成長」を、私たちが仕事を通して手に入れているように見えるのでしょうか。「働くこと」そのものへの期待の大きさに、オジサン的には驚いてしまいます。
仕事は幸せにつながると思いますか?
数字で見てみましょう。将来の幸福度の中に、仕事が占める割合の予想もしてもらいました。結果は「働くことによる成長、出会い」が、10年後の自分の幸せの3割を支えている、と考えているのです。
10年後、30歳になった自分は、「仕事も慣れてやりがいを感じ、趣味に時間を割けなくなったが、家族に安らぎを感じている」と、期待している。31人の学生さんたちから寄せられた回答からは、そんな前向きなイメージが伝わってきます(ちなみに女子の何人かは「10年後って30なんだ…」という感慨深げな回答を寄せていました)。
「自分の親についてどう思うか」についても聞いてみると、両親とも尊敬されてます。その理由に、家族仲の良さを挙げる学生さんも多い。きれい事だけを書いていない証拠に、親の独立、リストラ、転職の姿を見て心配している声もいくつもありました。おそらく仕事も家庭も誠実に支えてきたご両親に育てられたお子さんたち。将来への前向き感はそこから来ているのではないか、と思えます。「10年後は親に恩返しをしたい」という、カワゾエ君のような健気な声も出ていました。
外面の良さに騙されてる?
私は「おいおい、めちゃくちゃ前向きでいい子たちじゃないか?」と感じましたが、皆さんはいかがでしょう。
もちろん、これはたかが30人程度のアンケートです。若者すべてがこういう子たち、などとは思いませんし、調査した大学によって回答は大きく変わることは容易に予想ができます。たとえば、学生さんと個別に話してみると「最初に入った大学は『うちに来たら就職先はないから、公務員になれ』と1年生のうちから洗脳してくるんですよ。学年が上がるほど学生の顔が暗くなる。あまりの閉塞感に、受験し直してここにきました」という男子学生がいました。
「最近の若いのは外面がいいだけだよ、まんまと乗せられて…」と思う方もいるでしょう。 しかし、乗せられたって別にいいじゃないですか。こちとら大人なんだし。
日本や世界の将来はともかく、自分の将来は、仕事での充実感、交友関係の広がり、まだ見ぬ「自分の家族」への期待で盛り上がっている。我々が若い世代に対してなんとなく思い込みがちな、「無気力で無反応」「仲間内だけの世界観」「未来の見えない絶望感」は、すくなくとも教室にいる31人、それぞれの表情や言葉からは驚くほど感じられない。
「現実を正しく見て、絶望せよ!」なんて言いたいですか?
一番大事なのは、ここにそんな学生さん(まもなく就活で、我々やみなさんの会社に入る人々です)が、まとまった数存在するということです。
リアルに存在する彼ら彼女らは、まっすぐ「未来」に対して期待している――。若干の自虐を込めていえば、そういうことになるのでしょうか。だからといって学生さんに「お前らは甘い。早く現実を見て絶望しろ」などと言いたくはないですよね、ご同輩?
現実を甘く見せるのは彼ら彼女らにもかえってマイナスでしょう。だけど、お互いの色眼鏡を外す、すくなくとも「自分は色眼鏡を掛けて若者を/会社員を見ている」と自覚しあっていれば、現実が少しでも変わり出すかもしれません。
学生さんたちに「大人世代に言いたいこと」も聞いてみたところ、「若いヤツは、と思い込みで見ないでほしい」「若者、とひとまとめにしないで欲しい」という声が頻出しています。彼ら彼女らにも「誤解されている」という思いが強いのでしょうか。一方で、学生さん側にも、大人に対する誤解は間違いなくあるはずです。「ホームで暴れるヨッパライをもって大人を語らないでくれ」、と、こちらだって言いたい。
ちょっとした言葉が、思ってもいない誤解を生むことは同じ世代でもよくあること。まして「会社員」と「それ以外(学生や主婦、入ったばかりの社員)」では、常識からして違うことがよくあります。4月に発表されたライオンの調査で、新入社員が上司から言われて一番プレッシャーがかかる言葉が「言ってる意味わかる?」だったのはその一例でしょう(※)。
(※)同社が社会人2年目の男女500名にネットで調査、「言ってる意味わかる?」は35.2%がプレッシャーを感じると回答。2位は「そんなこともわからないのか」で、24%。報道された内容はこちらから
もちろんこちらは、相手の「私はあなたの言うことの意味が分かっていますよ」というリアクションが薄いから、心配になって「分からないなら説明するよ?」という気持ちで聞いているわけですが。言われた若者の側からすれば、頭ごなしに見下されたように感じられるらしい。「そんなこともわからないのか」とストレートに言われた方が、まだマシ、ってことでしょうか。
これはどちらが正しい、という話ではないと思います。会社員側の常識、慣習に従うのが当然だ、とつい考えてしまいますが、我々は自分の会社の環境に適応しすぎて、社会から離れてしまっているのでは、と疑うこともできます。
その意味で、会社に入ってきたばかりの新人さんの疑問や感覚に、我々の方がに気づかされることも多いはずなのですが、どうも「早く慣れろ!」思いがちで「そんなこともわからないのか」「言ってる意味わかる?」とプレッシャーを掛け、向こうも素直に頑張って適応してしまう。
会社員が、社会と会社(自分)のギャップに気づく機会はこうして失われていくわけです。
未来の後輩たちに、厳しく暖かいご指導を
ここで、本連載企画の趣旨がようやく出てきます。
たまたま出会った会社経験ゼロの前向きな世代に、あえて「会社員の社会をどう思いますか?」と聞いてみて、我々と彼らとのギャップを発見し、できることならそれを埋める方法を探ってみたい。そんなことを考えて、無謀にもど素人の彼ら彼女ら31人に「君たち、日経ビジネスオンラインの読者の皆さんに読ませる記事を考えなさい」と、授業の課題を与えてしまった次第です。
(ちなみに当サイトで連載中のあの企画と一見よく似ていますが、決してパクったわけではございません。別々に進んでいたので、記事が出たときは「うわ、やられた!」と驚きました)
混迷の日本経済を救うとか、クルマ業界に新しい市場を開くとか、そんな企画にはなりませんが、あなたの子供たちの世代、あるいは、隣の席の新入社員さんとそうは変わらない学生さんたちが、我々をどう見ているか、どうか暖かく時には厳しく、読んでいただければと思います。不定期連載になりますが、以下7回の掲載を予定しています。次回(7月13日金曜日予定)から、どうぞよろしくお願い申し上げます。
お読みいただく皆さんから、今時の大学3年生(まもなく就活!)に言いたいこと、聞いてみたいことも募集いたします。マーケティング的なことでもプライベートでも、どんなことでもかまいませんのでご提案ください。おもしろそうなものは実際にぶつけて、回答をもらってこようと思います。
山中 浩之(やまなか・ひろゆき)
日経ビジネス、日経クリック、日経パソコン編集を経て、2006年2月から日経ビジネスオンライン副編集長、編集委員を務めた後、2010年4月から日経ビジネスアソシエ副編集長。ツィッターはこちら
会社員の皆さん、若輩から一言
あなたの会社に再来年の4月、彼らが入ってくるかもしれない。某大手私立大学生約30人から見た、ビジネスパーソン(オヤジ)世代とのギャップと、それを埋める彼ら彼女らなりの試みを、ちょっと稚拙な文章ですがそのまま載せます(あの連載と似ていますが、偶然です。先を越されました)。どうぞお付き合いください。愛の鞭も歓迎です。いま会社にいる新人たちと近い世代からのアイデアが、社内のコミュニケーションを円滑化し、さらにはお子さんとの距離を縮めてくれる、かもしれません。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120706/234201/?ST=print
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