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日本のインサイダー取引摘発−野放し状態にようやくメス
7月10日(ブルームバーグ):インサイダー取引は株主と株式発行体とを犠牲にして、トレーダーの利益を高め、証券会社の引き受け業務を増やす悪しき慣行だ。しかし、このところの日本でのインサイダー取引摘発は、そのほんの表面にしか迫れていない。
それでも、明らかになった実態は日本株式市場への信頼をさらに揺るがせた。オリンパス、AIJ投資顧問と続く不祥事が投資家を遠ざけ、日経平均株価は1989年のピークを77%下回った状態だ。
3月以降に摘発された5件のインサイダー取引では、トレーダーらが2010年の株式公募公表前に引き受け業者から得た情報に基づいて株式を空売りした。規制当局は制裁金を勧告した。野村ホールディングスが自社のセールス担当者による守秘義務違反を認めたことを受け、少なくとも2社の顧客が取引先を変更した。
早稲田大学学大学院で証券規制などを教える佐賀卓雄・日本証券経済研究所理事(65)は、「日本では2−3年前からインサイダー取引が問題になっていた。アメリカではここまで長く野放しにはしないだろう」と述べ、金融当局の対応の遅さを指摘。さらに、「インサイダー取引は今もなお、日本の市場で起きていると考えられる」と語った。
証券取引等監視委員会と金融庁は、今回のインサイダー取引調査で実績を示したい考えだ。AIJやオリンパスの損失隠しを長年にわたり見過ごしてきたことへの反省もある。
インサイダーによる空売りは内部情報に手の届かない投資家に損失を負わせるばかりでなく、企業の資金調達を妨げることから、当局はこれを看過できないと、コンサルタントのロバート・ボックスウェル氏は指摘する。
米欧からの抗議を何年も無視
日本に住んだことのある同氏は、「この種のインサイダー取引は日本株式会社にコストを負わせる」とし、「不正を正すよう求める米欧からの抗議を何年も無視してきたが、日本の当局もやっと取り締まりに本腰を入れ始めた」と話した。
松下忠洋金融相は10日の閣議後、会見でブルームバーグ・ニュースの質問に対し、今春以降のインサイダー取引事案の摘発など当局の対応について「十分であるかと言われたら、そうとは言えない」と述べた上で、「根の深い問題もあると思うので、引き続き強い意志と強い関心を持って、しっかりと対応していく必要がある」と強調した。
金融庁は先週、日本企業の引き受け業務を手掛ける内外12の証券会社に対して法人関係情報の管理体制を自主点検するよう指示した。12社にはゴールドマン・サックス・グループやシティグループ、ドイツ銀行、UBS、バンク・オブ・アメリカ(BOA)のメリルリンチ部門などが含まれる。
課徴金13万円
松下金融相はインサイダー取引についての罰則強化を検討することも金融庁に命じた。現在の規則では、インサイダー取引で得た利益に基づいて罰金が科され、懲罰的な罰金はない。また、情報漏えい者にも罰金は科されない。
金融庁は6月に三井住友トラスト・ホールディングスに対し、傘下部門の前身が2件の公募増資の前に内部情報に基づいて取引きしたことへの課徴金として13万円の支払いを命じた。
現行の調査は世界的な金融危機後に起きた大量の株式発行がその中心。ブルームバーグのデータによれば、日本企業が2010年に発行した株式は5兆円相当。4年ぶりの規模だった。欧州ソブリン債危機など新たな懸念で投資家の株式離れが進む中で、引き受け証券会社のセールス担当者は新株を売りさばかなければならなかった。
いちよしアセットマネジメントの秋野充成執行役員は、公募増資が相次いだ2010年当時の状況を振り返り、野村の事業について、「当時は相場も悪く、営業環境も苦しい中、従業員には利益を出さなくてはというプレッシャーがあった」と述べた。
海外のヘッジファンドに接触
圧力を受けていたのはセールス担当者だけではなかった、引き受け業務を受託した投資銀行のバンカーらは、セールス担当者が空売り筋に情報を漏らすことを容認、場合によっては奨励したと、東京の企業の株式部門に勤務したことのあるバンカー2人が匿名を条件に語った。空売りしていた投資家が買い戻すことで、公募増資時に需要が生じるからだという。
株式引受部門の従業員や担当バンカーは、公募増資での引き受け業務を確保するのと同時に、公表の何か月も前に海外のヘッジファンドに直接、またはブローカーを通じて接触することがあったと、関係者の1人が述べた。
もうやめてくれとの批判
いちよしアセットマネジメントの秋野氏は「2010年には国内の投資家がリスクをとることに積極的でなかったことから、発行体はヘッジファンドなど海外の投資家に頼らざるを得なかった」と指摘した。また、「公募増資の引き受けは証券会社にとって一番儲かる業務で、当時資本増強の必要のないと思われる企業にも証券各社が増資の働きかけをしていた。投資家からはもうやめてくれとの批判があった」と当時を振り返った。
引き受け金融機関の情報漏えいによるインサイダー取引は当時、あまりにも広く行われていたので、監視委にできるのは何件かを摘発して見せしめとし再発防止を図ることだけかもしれないと、参議院議員で元JPモルガン証券副社長の中西健治氏(48)は話す。
「2010年当時、海外の投資家や外国金融機関の幹部から、日本では明らかにインサイダー取引が行われている、このままではまずいのではとのメールや電話をもらった」と同氏は述べた。また、日本の金融当局がこれまで摘発したインサイダー取引は事案の数、取引高、課徴金ともに米国と比べるとかなり小さく、「氷山の一角にすぎない」と指摘。「金融庁は一罰百戒で、一つの例でたたき、見せしめにしているという印象は拭えず、海外のヘッジファンドによる不正取引など、全てのインサイダー事案を摘発すべきだ」と語った。
公表前3カ月に株価10%下落
監視委によると、摘発された5件のインサイダー取引を行った投資家は計1億1800万円を稼いだ。ブルームバーグのデータによれば、2010年の新株発行高上位10銘柄は増資発表前の2週間に、平均で指標のTOPIXの5倍の下げを演じ、時価総額にして8000億円が失われた。公表前3カ月での下落率は平均で10%、一方TOPIXは0.2%の下げだった。
与党・民主党は2009年7月−11年7月に公募増資を発表した20銘柄について、公表前に出来高が急増したことを受けて、調査の拡大を求めている。インサイダー取引規制の強化を検討する作業部会を率いる大久保勉政調副会長は5日記者団に対し、「明らかに公表前に相場が動いているからおかしい」と語った。
公募増資は2010年以降減少し不正の機会は減ったものの、今月3日に2110億円規模の公募増資の計画を発表した全日本空輸は先週、発表前の同社株の取引について疑義を呈した。同問題について直接知る政府当局者が匿名を条件に明らかにしたところによれば、監視委はインサイダー取引があったかどうか調査する。
不自然だとの認識
増資発表前日の2日、全日空株の出来高は3カ月ぶりの高水準となり、同社広報担当の野村良成氏は6日これについて、不自然だとの認識を示した。同社は野村、JPモルガン・チェース、ゴールドマン、ドイツ銀の引き受け金融機関4社から情報漏れはないとの確言を得たため、現在のところ措置を取る考えはないという。全日空の案件は今年の日本で最大の公募増資となる。4社の広報担当者はコメントを控えた。
野村は6月29日、インサイダー取引問題での調査の結果、最上級幹部を減俸とするとともに、問題に関与した部署の担当役員2人が退任するほか、一部の営業を自粛すると発表した。同社は2010年のみずほフィナンシャルグループ、国際石油開発帝石、東京電力の公募増資に関する情報漏えいについて調査した。野村が外部調査で起用した弁護士は報告で、セールス担当者は販売目標達成のためなら手段を選ばない姿勢だったと指摘した。
不祥事の影響で、野村は政策投資銀行(DBJ)の財投機関債などの主幹事から除外された。渡部賢一最高経営責任者(CEO)は6月29日に、今回調査対象とした3件以外で情報漏えいがあったかどうかについて「今は見えていない」と述べ、これで全てかとの問いには、分からないと答えた。いったん終了した調査を再開する考えはないと明らかにした。
ムーディーズが警告
監視委は日本板硝子の増資でも幹事会社2社の社員がそれぞれに情報を漏らしていたことを突き止めている。社名は明らかにしていない。日本板硝子の案件で主幹事は大和証券グループとJPモルガン証券だった。JPモルガンは5月29日に、当局に協力していると明らかにしている。大和は6月29日、同問題を調査するとともに管理を強化すると表明した。
格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは野村や大和の信用格付けについて、債券の引き受け主幹事から除外され始めたことはマイナスだとの見解を示した。ムーディーズは7月9日付のリポートで、今回の不祥事に伴う信頼性の喪失拡大は日本市場のすべての市場参加者に持続的な影響を与えるだろうとの見方を示した。
日本の監督当局はこのところ、銀行間金利操作問題の世界的な調査でも積極的に行動している。昨年は他の当局に先駆けて2行を処分。ロンドンおよび東京銀行間取引金利と関連した取引をシティグループに2週間、UBSに1週間禁止した。
英銀バークレイズには罰金360億円
しかし日本の罰則は銀行間金利操作問題で英銀バークレイズが先月科された4億5100万ドル(約360億円)に比べれば取るに足りない。同問題で英政府は調査を開始したほか、ロバート・ダイアモンド最高経営責任者(CEO、当時)は辞任に追い込まれた。
日本ではインサイダー取引につながる情報漏えいで摘発された証券会社はこれまでにSMBC日興証券1社のみ。監視委は同社のセールス担当者23人が顧客に、ある企業の増資の計画をもらしたことを突き止めた。企業名は明らかにされていない。
情報漏えい者に対する日本の扱いは軽い。米国ではゴールドマンの取締役だったラジャット・グプタ被告がヘッジファンド運用者だったラジ・ラジャラトナム受刑者にインサイダー情報を漏らした事件で有罪判決を受けた。10月に量刑が言い渡されるが、最長で20年の禁固刑の可能性がある。
コンサルタントのボックスウェル氏は「極度に懲罰的でない限り、罰金では刑務所のような抑止効果は得られない」として、「日本の資本市場が談合の場であるというイメージを払拭するため、真剣な改革が必要だ」と指摘した。
信頼回復は難しい
変化の兆しはある。SMBC日興証券の元執行役員、吉岡宏芳容疑者は6月に逮捕されたが、国内大手金融機関の従業員が逮捕されるのは2008年以来で初めてだった。
しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹投信グループ長は、当局のインサイダー事案におけるこれまでの摘発に関し、「グレーなところにメスを入れてきている。ルールを守らないとこんなことになる」との警鐘が市場参加者のインサイダールール違反への「意識を変えることにつながる」と評価した。その一方で、日本が「一度落ちた信頼を回復するのは難しいだろう」とも指摘した。
原題:Japan Insider Trading Crackdown Seeks to Curb ‘Animals RunWild’(抜粋)
記事に関する記者への問い合わせ先:東京 日向貴彦 thyuga@bloomberg.net;東証 Russell Ward rward16@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:Chitra Somayaji csomayaji@bloomberg.net
更新日時: 2012/07/11 08:00 JST
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M6Y4RS6K510I01.html
バークレイズ前CEO、ボーナスの一部放棄―議会の圧力で
【ロンドン】銀行間金利不正操作問題で辞任した英金融大手バークレイズの前最高経営責任者(CEO)ロバート・ダイヤモンド氏は、議会からの糾弾圧力を受けて最大で2000万ポンド(約24億6000万円)のボーナスを放棄することに同意した。
http://jp.wsj.com/Finance-Markets/Finance/node_475888?mod=WSJWhatsNews
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Bloomberg News
バークレイズのロバート・ダイヤモンド前CEO
ダイヤモンド氏とともに問題の責任を取って辞職した同行のマーカス・エイジアス前会長が、10日の英議会公聴会で明らかにした。公聴会は先週のダイヤモンド氏の議会での証言などを受け、同氏の問題の対処の仕方などを改めて調査するために開催された。
このロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の不正操作スキャンダルは大西洋を越えて米国にも飛び火した。米上院銀行委員会は同日、この問題に関する公聴会をガイトナー米財務長官、バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長を招請し、月内に開催することを決定した。
ダイヤモンド氏が放棄するのは2012年分のボーナスだけで、200万ポンドに上る退職手当や年金については受け取ることになる。エイジアス前会長は、この額は本来の契約で退職時に支払うとされた額から倍増されているが、これはダイヤモンド氏が退職後に顧問として同行にとどまる期間を延長することを承諾したことへの対価だと説明した。
このLIBOR不正操作スキャンダルはバークレイズの経営首脳陣の大幅な入れ替えに発展した。ダイヤモンド、エイジアス両氏とともに、ジェリー・デルミシエ最高執行責任者(COO)も辞任に追い込まれた。エイジアス氏はこの日の証言で英中銀・イングランド銀行(BOE)のキング総裁が同氏を招き、ダイヤモンド氏が英規制当局の支持を得ることはもはや不可能と伝えられたことを明らかにした。
英議会の調査の焦点は、2008年の世界金融危機の最悪期にバークレイズがLIBORをどのように不正操作したかだ。LIBORは、主要銀行間が資金を融通し合う際に適用すると見込まれる金利を英国銀行協会に毎日報告し、それに基づき決定されるが、世界の数百兆ドルにも上る融資やデリバティブ(金融派生商品)取引の基準金利となっている。
この問題に関する調査は数行に及んでいるが、バークレイズは既に米英の規制当局に2億9000万ポンドを支払うことで合意している。
また、9日にはBOEのポール・タッカー副総裁が08年10月に行ったダイヤモンド氏との電話会談について議会で証言した。同氏の作成したメモでは同副総裁がバークレイズ側に金利を低めに申告するよう促したかに示唆されているが、副総裁は同日の証言でこれを完全に否定した。
同日の議会公聴会は、07年から会長を務めていたエイジアス氏の不正操作スキャンダルで果たした役割の究明を理由としていたが、一部議員はダイヤモンド氏の関与に依然焦点を絞った質問を行った。
ある労働党の議員は公聴会後にツイッターで、エイジアス氏の証言は、ダイヤモンド氏のこれまでの証言の矛盾点を明らかにしており、前CEOを再喚問するしかない、と述べた。
記者: Dana Cimilluca、Max Colchester、Sara Schaefer Muñoz
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