http://www.asyura2.com/12/hasan76/msg/817.html
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山崎元のマネー経済の歩き方
【第234回】 2012年7月9日
山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
アナリストの投資推奨は有効なのか
証券会社のアナリストは、調査対象企業を分析し、バイ(買い)、ホールド(保有)、セル(売り)と、その企業の株式に対して推奨する投資判断を発表する。
彼らの判断は有効なのか──。
「2011年3月末〜12年4月末」の期間、日本、米国、英国の主な上場株式についてアナリストの投資推奨の有効性を調べた結果を紹介する。調査したのは、岡三証券の栗田昌孝氏で、彼は「クオンツ(数量分析)アナリスト」として、複数の外資系証券会社で、リサーチのキャリアを持っている。
調査は、以下のようなやり方で行われた。
例えば、日本株について調査する場合、日経平均の225銘柄を、複数の証券会社のアナリストの投資推奨のコンセンサスで評価して、上位と下位に2分割し、それぞれの銘柄群を等金額で保有した場合の投資パフォーマンスを調べる。前月末の投資推奨に基づいて上位・下位に2分割して1ヵ月保有することとして、上位・下位それぞれについて、毎月の運用パフォーマンスを連結して、比較する。
この期間にあって、日経平均について、結果がどうだったかというと、「高推奨」のグループのパフォーマンスは▲5.08%、「低推奨」のグループは▲3.83%だった。
この調査期間には、オリンパスのスキャンダル発覚があったので、栗田氏は、オリンパス(さすがに低推奨のグループだった)を除外したパフォーマンスも調べた。「高推奨」は▲5.08%と変わらないが、「低推奨」のグループは▲3.51%と両者の差は開く。オリンパスがなければ、「高推奨」「低推奨」の差はもっと大きかったのだ。
同じ時期、米・英両国ではどうだったか。栗田氏は、同じ期間に関して、米国ではS&P500の銘柄について、英国ではFTSE100の銘柄について、同様に調べた。両方とも、時価総額の大きな各国市場を代表する銘柄群で構成される、有名な株価指数だ。
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では、米国の結果はどうだったか。「高推奨」銘柄の等金額ポートフォリオを、この調査期間保有すると(毎月中身は入れ替わる)、+2.75%のパフォーマンスだった。それに対して、「低推奨」のポートフォリオのパフォーマンスは+3.44%だ。
英国では、「高推奨」のグループが▲2.59%、「低推奨」が▲0.76%という結果だった。
日・米・英、いずれの国の株式市場でも、「低推奨」銘柄に投資するほうが、「高推奨」銘柄に投資するよりも結果がよかった。
証券アナリストによる投資推奨は、投資の参考データとしては、「逆指標」だったということだ。
調査期間がそう長くないので、このデータだけで「法則」を主張するには無理があるが、別々の株式市場で、別々のアナリスト群による投資推奨の結果が、同じ傾向を示したことは興味深い。何とも皮肉な結果だったが、筆者としては、「意外」というよりも、「そうだろう」という調査結果だ。
以下のように解釈できる。
証券会社のアナリストは、「できれば」、今後より収益率の高い銘柄を「高推奨」したいが、彼らは、銘柄の収益率の今後について有効な分析力を持っていない。
一方、アナリストは、自分の「高推奨」銘柄で、より多くの売買注文をもらうことが社内での高評価につながる。すると、値上がり気味の銘柄のほうが投資家の注目度が高く売買注文が出やすいので、「高推奨」は十分以上に値上がりしてきた銘柄を含みがちになる。
投資は、少しだけひねくれているほうがうまくいくようだ。
http://diamond.jp/articles/-/21229
包括的(BOP)ビジネスとは
何か特別なもの?
【第1回】 2012年7月9日 岡田正大
おかだ まさひろ/専門は企業戦略理論および包括的(BOP)ビジネス。「包括的(BOP)ビジネス企業戦略フォーラム」主宰。経産省BOPビジネス支援センター運営協議会委員、同新中間層獲得戦略研究会委員。早稲田大学政経学部を卒業し、本田技研を経て、慶應義塾大学MBA。Arthur D. Little(Japan)でIT産業における戦略コンサル後、渡米。Muse Associates社(代表:梅田望夫氏)フェロー。オハイオ州立大で経営学Ph.D.を取得。
包括的(BOP)市場には約45億人超の人口が存在する。このコラムは、企業戦略理論に立脚し、実際に企業が包括的市場と他の新興国・先進国市場を連動させながら包括的(BOP)ビジネスを成功させるには、どのような経営資源や能力が求められるのかを考察する。
本コラムでは、すでに日本では定着してしまった感のある「BOPビジネス」という言葉は極力使わない。というのも、すでに英語圏(国連や世界銀行など多くの公式文書)では、baseやbottomというややもすると差別的な響きを持つ言葉を避け、inclusive business(包括的ビジネス)という用語が好まれるからだ。ちなみに経済産業省が主催するBOPビジネス支援センターも、英語名はInclusive Business (包括的ビジネス)Support Centerである。この包括的という言葉には、これまで貧困ゆえに公式の経済社会に参加できていなかった多くの人々を包括的に考慮の対象にする、という意味がある。
上記の意味あいを込めて、本コラムではinclusive businessの直訳である「包括的ビジネス」という言葉づかいにこだわっている。
市場の魅力度が将来成果を
決めるウエイトは高くない
連載の開始にあたって、最初にお断りする必要がある。本連載は、途上国低所得層市場(包括的ビジネス・BOPビジネスの対象)がいかに魅力的か、といった類の扇動を行なうコラムではない(ちなみに包括的ビジネス・BOPビジネスとは、『地球人口70億人の内、年間の消費支出が、2002年の購買力平価ベースで3000ドル以下の人々約45億人超を対象に、貧困の解消や衛生状態の改善など、社会的課題解決を営利ビジネスのスキームで実行し、社会的効果と経済的利益を共に持続させていく意図を以て遂行されるビジネス』を言う)。
次のページ>> 包括的(BOP)ビジネスに対する4つの批判
戦略理論研究に基づけば、ビジネスの対象としての「市場の魅力度(成長性や利益の上がりやすさ)」は、確かに一定の重要度は持つものの、個々の企業が将来獲得する経済的成果の良し悪し(経済的業績の分散)を、たかだか平均的に15%程度しか決定しない(注1)。
業績の良し悪しの45%は個々の企業の経営資源によって決まる。つまり、市場がいかに魅力的(成長性云々)であるかを論じても、それは企業業績のごくわずかにしか意味を持たない。より重要なことは、いかに個々の企業が他社にない優れた経営資源を持ち、それを各市場で組み合わせて戦略を策定し、執行できるかだ。
したがって本コラムにおいては、BOPの「場としての属性」は無論考察の対象にはするものの、より重点を置くのは、どのような経営資源や能力を有する企業であればこの包括的(BOP)市場において競争力を発揮できるのか、という部分になる。
(注1)Rumelt, R. P. (1991), “How Much Does Industry Matter?” Strategic Management Journal, 12:167-185.
包括的(BOP)ビジネスに
対する4つの批判
様々な所で包括的(BOP)ビジネスに関する講演やレクチャーを行うが、特にこの領域に関心を持たない(もしくは初めて聞いた)優秀なビジネスパーソンからは、時に反感を伴って批判されることがある。この批判には、日本、海外に関わりなく遭遇した。
批判は概ね次のいずれかである。
1)「BOPだの、経済性と社会性の両立だのと尊いことをおっしゃるが、つまりは途上国での営利ビジネスのことであって、なんら特殊なものではない。純粋にこれまでのビジネス原理で対応可能だ」。
2)「確かにグラフを見れば潜在的成長性は高そうだ。今が好機だ、行け、行けと良く言われる。だが、そもそも所得や購買力の低い市場へ行って儲かるのか?不慣れでリスクも高い。BOPなどまだ早い。やはり技術力の高い日本企業は富裕層と中間層へ行くべきでしょ」。
次のページ>> 批判には深遠かつセンシティブなイシューも
3)「何でわざわざ他国の貧困解消に、日本企業が出かけて行く(来る)のか。自国の貧困を解消するのが先ではないのか?」。
4)「社会問題解決に営利企業が与するといっても、結局本音は利益であり、途上国の現地経済が搾取されるだけでは?そうではないと主張するならば、それは偽善に聞こえるよ」。
全ての批判は底流でリンクしているものの、それぞれ一理ある。
第1の批判は包括的(BOP)ビジネスの特殊性に関するものだ。この批判は、長年途上国市場で地道に事業開拓を行なってきたという自負のある人や、企業から発せられることが多い。第2の批判は現時点で途上国低所得市場が事業ターゲットになり得るなどとは全く想定せず、かつ今後も真剣にその可能性を検討(実際に出るかどうかは別として)するつもりのない人や企業からよく発せられる。
第3の批判は深遠かつセンシティブなイシューである。母国に対する名誉や自負心の問題が関わってくるからだ。第4の批判は主に長年途上国開発に携わった人々の一部(ごく一部だと思う)によるものだが、実はこの批判はそれとは真逆の新自由主義者たち(筆頭はミルトン・フリードマン)の論理にもきわめて近い。
これから計6回にわたって、包括的(BOP)ビジネスを戦略理論と実務の視点双方から考察し、上述の批判に答えていこう。そして結果として、今後個々の企業が包括的(BOP)ビジネスに参入するか否かの意思決定を下すに際し、なんらかの原理原則・評価基準として資することができれば幸いである。
まず初回は包括的(BOP)ビジネスを企業戦略理論の立場から考察し、第2回では包括的ビジネスの背後にあるより大きな文脈(経済性と社会性の問題)に論を進める。第3回ではこの種のビジネスを促進する外的環境の変化を構造化する。第4回には事業参入の意思決定モデルを示そう。第5回は様々な実務的知見から得られた「企業特殊な」成功要因を明らかにし、最終回は経済性と社会性を包含するパフォーマンス測定尺度に関して論じる。
次のページ>> 包括的(BOP)ビジネスは何が同じで何が違うのか
包括的(BOP)ビジネスは
何が同じで何が違うのか
さて、ここ数年様々なメディアが包括的(BOP)ビジネスを取り上げ、官民連携の分野でもそれを促進しようとする機運が高まってきている。JETROやJICA、USAIDなど国主導の機関や制度、国連(UNDP、UNIDO等)や世界銀行、アジア開発銀行やアフリカ開発銀行といった国際機関等、様々な公的機関が支援策を打ち出している。
だが、こうした支援の存在は、あらゆる企業がこぞってこの包括的(BOP)ビジネスへ参入することが促されていることを意味しない。個々の企業レベルでの戦略的意思決定が先に立つ。つまり個別企業ごとの判断が必要である点は、他のいかなるビジネスとも相違ない。
最初の批判にあるように、包括的(BOP)ビジネスは何もビジネスとして特殊なわけではない。考えてみれば、先進国であれ途上国であれ新興国であれ、この世に社会的意義のないビジネスなど存在しない。キャロル(注2)による企業の社会的責務の分類によれば、おしなべて全ての企業は社会ニーズに応える製品・サービスを生み出し、利益を出しながら事業を持続させ、配当を、納税を、雇用創出を果たすことが要請されている。換言すれば社会に富(wealth)を創出し資本を蓄積する役割である。これが果たされなければ、日本も戦後ここまで豊かな国にはなりえなかった。これら基本的責務が求められるのは、包括的(BOP)ビジネスでも同じである。
だが一方で、包括的(BOP)ビジネスは、「絶対的貧困」や安全な水へのアクセスの欠如、はなはだしく悪い衛生状態、エネルギーアクセスの不足など、人間としての基本的ニーズ(basic human needs)に応えようとする点で特徴的である。
次のページ>> 公的セクターと民間企業の役割
これら諸問題の解決は、これまで開発セクター・公的セクターの責務であるとされ、伝統的に私企業の活動対象とは考えられてこなかった。つまり包括的(BOP)ビジネスでは、企業が社会通念として求められる法的・倫理的最低限度の社会責任(注2の第2・第3分類)を超える水準の社会性を追求する場合が大いにあり得る。このレベルの社会性(社会問題へのコミットメント)は、あくまで注2の第4分類の「裁量的責務」に該当する。つまり、個別の企業が選択的に関与を判断するものであって、おしなべて企業に要請されるたぐいのものでは全くない。
包括的(BOP)ビジネスでは、民間企業が営利原則を発揮するがゆえに可能な規模拡大(scale)が期待できる一方、開発サイドから寄せられる「民間セクターによる開発(private sector development) 」への期待は、限定的に充足されざるを得ないかもしれない。なぜならば、先進国市場でも生じている「ユニバーサルアクセス」と「経済合理性」のコンフリクト(衝突)と類似した問題が、ここでも生じる可能性があるからだ。この問題については次回でより詳しく論じることにする。
(注2)Carroll, A. B. (1979), A three-dimensional conceptual model of corporate performance. Academy of Management Review, 4(4): 497-505.
上記論文によれば、企業の社会的責任は以下の4つに分類される。
1.経済的責務(economic responsibilities):社会のニーズに応える製品・サービスを作り出し、資本の確保と事業継続に必要な水準の利益を実現しながら供給・販売すること。その活動を通じた納税と雇用創出。企業にとって最もファンダメンタルな社会責任。
2.法的責務(legal responsibilities):社会の定めた法制度や規制の枠組みの中で経済活動を営むこと。例:労働関連法令、環境規制、知的所有権法令等の順守
3.倫理的責務(ethical responsibilities):法的水準を超える倫理的要請 例:フェアトレード、労働衛生環境のさらなる整備、適正な給与水準、カウンセリング、食事提供等
4.裁量的責務(discretionary responsibilities):個々の企業の裁量・自発的選択に委ねられ、参画しなくとも非倫理的とはみなされない。 例:さらなる雇用創出を目的とした製造現地化や販売網構築、社会的価値の高い製品サービスの選択、純粋な慈善活動
次のページ>> 経営資源・能力の違いに対する自覚
経営資源・能力の違いに
対する自覚
また包括的(BOP)ビジネスとは、あくまでビジネスとして遂行されるため、戦略理論が前提とする「個別企業の異質性」が強く意識される。企業戦略のゴールは、「競争に勝つことによって自社の企業価値を持続的に増大すること」にあるが、そのゴールへ向けての道筋は個々の企業が保有する経営資源・能力の違いにより、まさに様々である。
そして上述したように、相当に深刻な社会問題解決に資する経営資源や能力を持っている企業の数は現実にはごく限られる。だが、もしも自社がその限られた企業の中に入るという自覚があるならば、その企業にとって包括的(BOP)ビジネスはリスクを取るに値するきわめて有望な事業となる。
次回は、包括的(BOP)ビジネスが有する社会性と経済性がどのように両立可能なものなのか、どう折り合うものなのか、新自由主義の立場(フリードマン)とポーターとクレーマーによる「共有価値(shared value)」の原則(注3)を対比しながら考察し、第3の道を模索していく。
(注3)
Porter, M. E. and Kramer, M. R. (2006), Strategy & Society: The link between competitive advantage and corporate responsibility, Harvard Business Review, December 2006: 1-17.
Porter, M. E. and Kramer, M. R. (2011), Creating Shared Value, Harvard Business Review, January−February 2011:1−17.
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第1回 【新連載】 包括的(BOP)ビジネスとは 何か特別なもの? (2012.07.09)
http://diamond.jp/articles/-/21237
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