http://www.asyura2.com/12/hasan76/msg/801.html
Tweet |
『from 911/USAレポート』第581回
「国際競争力と会計制度」
■ 冷泉彰彦:作家(米国ニュージャージー州在住)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 『from 911/USAレポート』 第581回
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ここへ来てエレクトロニクス産業における日本勢の苦境が明らかになっています。
今回の2012年3月期決算で、多くの最終消費者向けメーカーが数千億円という単
位の赤字を計上した一方で、半導体におけるエルピーダの破綻とルネサスの苦境も明
らかになっています。
この落ち込みの原因に関しては、色々なことが言われています。急激な円高という
ことがまずあるわけですが、日本がガラパゴス化して世界の市場動向が見えなくなっ
てきたというのも一因でしょう。更にその背景には英語でのコミュニケーションが取
れない問題や、経営陣の高齢化という問題なども指摘されています。
ですが、それ以前の問題として会計制度の問題が根深いのではないか、今回はこの
問題を取り上げたいと思います。
国際会計基準(IFAS)に関しては、少しずつ認識が普及しているものの、まだまだ
その本質に関する理解は進んでいないようです。将来的には、対応してゆかないとグ
ローバルな資金調達はできなくなりそうだとか、その業態別の具対的な扱いの決定
(コンバージョン)の作業が大変、あるいは会計システムの変更が手間といったネガ
ティブな認識は広まっています。
ですが、経営の精度を高めるための「戦略的なツール」としての国際会計基準とい
う問題については理解はほとんど進んでいないようです。論点は多岐にわたりますが、
今回は昨今のエレクトロニクス産業のトラブルについて、この国際会計基準という観
点から見てみようと思います。
まず、この3月期におけるエレクトロニクス産業の赤字決算ですが、この1年間、
つまり2011年の4月から2012年の3月期にかけて、急に業績が悪化したので
はないのです。例えば北米市場における薄型テレビの販売に関して言えば、日本勢は
2007年から2008年にかけては相当に強気のビジネスをしていました。
ところが、2008年の9月に発生したリーマンショックによって、需要が急速に
落ち込むと同時に激しい値崩れが始まりました。更にドル安とユーロ安の結果として
円建の売上には更に逆風が襲ったわけです。ですが、この時点での経営数字としては、
たしかに売上が低下したり、例えばソニーの場合ではサーキットシティという小売チ
ェーンの破綻で売掛金が焦げ付くといった現象があったりしました。
ですが、この時点では工場や生産設備のリストラは進んではいませんでした。従っ
て、プロジェクトとしては「継続を前提として」生産設備などの資産を抱えていたの
です。
では、今期の決算になってどうして大きな損失が出たのかというと、大ざっぱに言
えば「処分損」を計上したからです。工場や生産設備を廃棄すると、それまで簿価に
乗っていた資産価値がゼロとなり、その額が処分損としてドーンと出てしまうのです。
運良く資産売却ができたとしても、簿価より相当に安く買い叩かれたとすると、そ
の差額はやはり「処分損」になります。ですが、この「損」というのは今期になって
急に発生したのではないのです。市場で負けた時点から2年とか3年を経て表面化す
るわけです。
では、この期間はどういった扱いであったのかというと、それは工場にしても生産
設備にしても実際はゾンビ化した不良資産なのですが、それは経営数字には出ないわ
けです。
国際会計基準の場合はそうではありません。生産設備などの評価について、各期に
「陳腐化」した分は償却するのです。例えば、薄型テレビの液晶パネルの製造工程に
使うロボットがあったとします。何年もかけて10億で開発したものであって、償却
が進んだ今でも7億の簿価があったとします。
ところが、同じ工程を扱う機械を韓国なり中国の機械メーカーがもっと簡易な設計
だが、性能は同等のものを2億で売っているとします。もしもそうした事実が明らか
になったのであれば、日本のメーカーも自社開発したロボットの評価額を2億以下に
下げなくてはならないのです。そこで、サッサと処分損を出しておき、後は身軽にな
った償却費用をベースに変動費を乗せて改めて利益が確保できる範囲で価格競争を戦
うのです。
特にこの価格競争というのが問題です。日本のメーカーの経理担当の人々からは、
国際会計基準ではコスト計算ができないという声を良く聞くのですが、私は逆だと思
います。
日本の原価計算というのは、かかったコストを全部積み上げて、自分たちが楽観的
に見込んだ商品寿命や販売予定数を元に計算したものです。ですが、実際は変化の激
しい市場の動向や、技術開発の動向の中では、コストの中身についても、どんどん変
えて行かねばならないのです。
そう申し上げると、我々は事業の継続を前提に仕事をしているのであって、事業の
清算価値を計算するのはナンセンスだという声が返ってきます。ですが、米欧や韓国、
中国のライバルたちは、その清算価値をリアルに計算して、そこに利益を乗せて価格
競争をしてきているのです。
例えば、車載マイコンで圧倒的なシェアを持っているルネサスが十分な利益を確保
できていないのも、市場価値から逆算した「今すぐに事業を清算した場合の価値」を
保有技術に関しても、また生産設備の償却にしても厳密に行っていないために、値決
めが甘いからではないかと思うのです。
保有技術に関して言えば、そもそも日本の会計制度というのは目に見えない「技術」
を「無形固定資産」として認識し、その評価を高めたり、陳腐化したものは捨てたり
ということを全くしていません。これも変化の激しい時代には適応できていません。
技術革新のスピードに速い現代において、陳腐化したものはドンドン見切ることで
バランスシートも償却費用も前倒しで身軽にして、生き残れるゾーンでの価格競争を
続けること、そのためには国際会計基準の考え方を導入することは必須だと思うので
す。
価格競争だけではありません。今回の苦境を乗り切るために、他国の企業の支援を
受けたり、実質的に傘下に入っている企業が多いわけですが、その際の株式の評価額
や、会社そのもの、あるいは工場や生産設備の評価額というのも適正に評価されてい
るのかどうか不安になります。
とにかく、適切な判断をタイムリーに下すためにも、瞬間瞬間の市場動向の中で適
正な利益を確保しつつ価格競争を行うためにも、積み上げ式の原価計算や取得価格の
ままで硬直した資産評価ではムリなのです。
グローバルな世界から「押し付けられた」制度としてイヤイヤ導入するのではなく、
戦略的な経営のツールとしての国際会計基準の導入が進むことが何としても必要と思
います。
----------------------------------------------------------------------------
冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家(米国ニュージャージー州在住)
1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大学大学院(修士)卒。
著書に『911 セプテンバーイレブンス』『メジャーリーグの愛され方』『「関係の空
気」「場の空気」』『アメリカは本当に「貧困大国」なのか?』。訳書に『チャター』
がある。 またNHKBS『クールジャパン』の準レギュラーを務める。
◆"from 911/USAレポート"『10周年メモリアル特別編集版』◆
「FROM911、USAレポート 10年の記録」 App Storeにて配信中
詳しくはこちら ≫ http://itunes.apple.com/jp/app/id460233679?mt=8
Q.1266
配信日:2012年07月03日
JALの再建ですが、人員削減(系列を含めて16,000人)、給与&年金カット、路線からの撤退、資産(ジャンボ機など)の売却、税の減免などに負うところが大きいと感じました。いわゆる縮小均衡です。JALに限らず、このような形での再建には、何らかのネガティブな側面があるような気もします。お考えをお聞かせください。
寄稿家: 津田 栄 の回答
経済評論家
「JAL再建に見る二つの問題」
6月20日に上場申請したJALは、2010年1月会社更生法適用申請から今年
9月に東証上場にこぎつけるまでに約2年8カ月と、スピード復活します。しかも
12年3月期決算は、連結ベースで営業利益2049億円(売上高営業利益率は
17%と航空会社のなかでトップクラス)、経常利益1976億円、純利益
1866億円と過去最高益を計上しました。JALの会長となった京セラ創業者の稲
盛和夫会長が京セラで導入した部門別採算制度を取り入れて収益構造の改善を図って
ここまできた努力は並々ならぬものであったと思います。
今回のJALがV字回復を遂げ、再建、東証上場にまでこぎつけたのは、従業員の
3割にあたる1万6千人の削減、給与や年金のカットなどの人事賃金制度の改定、不
採算路線からの撤退、ジャンボ機などの非効率な飛行機などの売却による機種数の削
減、関連会社の再編による経営資源の航空事業への集中などの抜本的なリストラを
行ったからといわれます。特に、このJAL復活の影に従業員の大きな犠牲があった
ことは忘れてはならないと思います。
もしそうしたリストラを破綻前に行っていれば、もう少しリストラの規模は小さ
かったかもしれませんが、破綻前の旧経営陣は現状の維持に固執したがために、問題
を深刻化させたといえ、同時に、破綻して初めて、稲盛会長などの新経営陣がやるべ
きリストラを分かっていて、実行してきた結果だともいえます。JALの破綻から再
生まで見ていると、経営陣が問題を把握し、早めに対応しておけば、問題がこんなひ
どいことになっていなかったのではないかと感じます。それは今回の問題を先送りし
て深刻化させてきたEUの債務問題にも通じるところがあり、いかにリーダーが重要
なのかが分かります。
さて、今回、JAL再建、上場が短期間でなされたことは見事と評価できますが、
二つの問題を抱えているといえます。一つは、今回のJAL再生は公平だったのかと
いうこと、もう一つは再生した後成長していくヴィジョンがあるのかということです。
一つ目のJAL再生が公平になされたのかという問題は、日経新聞でも、あるいは
有識者の間でも指摘していることですが、今回の業績の急回復には、大胆なまでのリ
ストラなどの自助努力のほかに、政府の支援など政府の関与が大きかったことといわ
れています。
問題は、まず、今回のJAL再生には、「日航の公共性の高さを踏まえて」という
理由で、企業再生支援機構が3500億円を出資し、その傘下のもとで再建をスター
トさせる形で、政府主導で公的資金を注入してまで救済したことです。企業の再生に
どこまで政府が関与すべきか議論のあるところですが、少なくとも他者との公平性を
考えるならば、極力民間主導による再生の道を選択すべきであったといえます。そし
て、今回の上場により再生機構の出資金3500億円以上の資金が回収できればいい
という判断は、政府主導による株式上場という点で、公平と競争を重視する市場から
見ると歪みを作ることになるといえましょう。
また今回の最高益の計上において、政府の様々な支援が見え、公平性に欠けるとい
えます。それは、政府主導がゆえに金融機関の債権放棄(5215億円)などにより
有利子負債が1兆5000億円から2000億円まで減少し、利子負担額の大幅減に
より収益押し上げ効果が大きかったこと、また航空機の資産価値などの簿価から時価
への見直しによる財産評定で減価償却費負担が大幅に減少するという会社更生法適用
に伴う制度面での支援効果(前期では連結営業利益を460億円押し上げた)が大き
いことです。
加えて経営破綻時に資産評価の大幅切り下げで評価損が膨らんで発生した多額の繰
越欠損金約1兆円において、最近の法改正で9年間利益との相殺が可能となって法人
税の免除が続く(前期は800億円の免除(推定))法人税の減免効果が大きい
(2018年度までで推定4000億円超の減免効果)ことです。このように、政府
が陰に陽に支援して破綻したJALが再建されるのを見ると、自助努力で収益を上げ
ようとしている民間航空会社との間での競争において公平性が保たれるのか疑問があ
るところです。
もう一つの問題として、大前研一氏も指摘していますが、JALが再建し、上場を
果たしたとしても、その先に成長していくヴィジョンがあるのかということです。今
年度は、好業績を背景としたボーナスの大幅アップなどによる人件費の増加、燃料費
の増加、制度面での財産評定のプラス効果の縮小などから、連結純利益は前期比3割
減の1300億円となる見通しの中で、今年は、格安航空会社LCC元年と言われて、
次々とライバルが進出してきてさらに航空業界は厳しさを増すことを考えると、JA
Lが上場後の成長戦略を描いているのか、今一つ見えないことです。
ここまでJALが復活してきたのは、不採算路線の廃止などリストラにより事業を
縮小してきたからだともいます。それは事業費は2008年度の1兆6879億円か
ら11年度には8474億円にまで減少していることから伺えます。しかし、今後L
CCの進出で競争が激化することを考えると、既存の採算路線における収益に影響す
ることが予想される一方、増便や価格引き下げではコストアップにつながるだけです
し、新たな路線を開設して収益向上を図ろうとしても、競争から上手くいかない可能
性が高いといえます。つまり、JALは、リストラと政府支援などで業績の急回復に
よる再建、上場を果たしても、その先の成長戦略やヴィジョンが描けないことに、今
後の不安を感じます。
このように見てくると、JALの2年8カ月というスピード再建、上場は、稲盛会
長などの手腕もあってのことで、経営者によって、企業は再生することが可能である
といえ、今後経営の在り方として参考にすべき点は大いにあるといえます。しかし、
JALの場合、かつてのナショナルフラッグという意識が強く、国策として政府の支
援のもと再建が図られたともいえ、アメリカのように極力民間の自助努力による再建
と異なるという点で、公平性や市場における競争性に問題を投げかけたともいえます。
そうした点で、今後企業支援にどこまで政府が関与すべきか、もう一度検討すべきで
あり、できる限り民間主導による企業支援の道を作り、公平性や競争性を確保すべき
ではないかと思います。
そして、今回のJALの再建、上場は、最終的には、政府の支援のもとリストラに
よるものであるといえます。リストラに政府の支援が入れば、これだけの急回復が可
能であるということは分かりましたが、この先成長していかなければ、またじり貧に
なってしまい、折角再建できても、再び低迷し、危機が訪れることにもなりかねませ
ん。やはり企業再生においては、再建、上場後の成長戦略を持つ必要があるのではな
いでしょうか。
寄稿家: 中空麻奈 の回答
BNPパリバ証券クレジット調査部長
「スリム化」
価値観は時と場合によって変わります。人それぞれ好みはあっても、どう考えても
スリムが勝ちというのが現代人のスタイルでしょう。メタボリック症候群は疎まれ、
ヘルシアや黒烏龍茶が売れているのはその証左だと言えます。人気の韓流スター達の
足の長いこと!どう考えても残念ながら現代女性はスリムでスラッとしたスタイルの
ほうに評価が集まっているということでしょう。スリムであること、スリムになるこ
と、はこの場合、ポジティブです。
では国や企業はどうでしょうか。ただいま、財政赤字が大きすぎることが発端とな
り欧州危機に陥っています。これは、放漫財政の結果、効率性を落とした国が、リス
トラを要請されていると見なすことができるでしょう。財政健全化のために経済効率
を上げたり、無駄をそぎ落とすことが必要です。ギリシャは第二次支援を決めてもら
うときに、財政健全化のためには国家公務員の削減(追加で1万5000人)、最低賃金
の22%引き下げ、国家資産の売却、、、などなどに合意しています。税の減免とは真
逆の更なる増税が要請されることは踏まえていいかもしれませんが、結局、JALと同
様縮小均衡を求められているのがギリシャということになります。国と言えども、リ
ストラをするときにはそれしかないということです。
企業でリストラ成功組といってまず思いつくのが日産です。日産はカルロス・ゴー
ン氏が派遣されて以来、人員削減、東村山工場など生産拠点の閉鎖や子会社の統廃合、
余剰資産の売却など大幅リストラを行いました。リストラを激しく行えば行う程、V
字回復につながることは常識とさえ言えるのではないでしょうか。実際に回復過程に
入りました。JALと同様です。国でも企業でも、効率的に成長してきたはずだったけ
れども、何らかの問題を抱えて(負債の増加や不良債権の増加、あるいは、売上高の
急減など、経営上の問題であれば、難しいが解決策はあるということになると思いま
す)行き詰まったときには、リストラをするしかないということになります。その時
のリストラが、縮小均衡中心となるのは、仕方のないこと、と言えます。
ただし、縮小均衡によるリストラは、体力を戻すまでのことと限定しておかなけれ
ば、従業員のモチベーションにつながりませんし、好循環を生み出すことができなく
なることも事実でしょう。JALがここまでに果たしてきたことは、やはりリストラに
よるV字回復過程であり、それにより、破綻以来2年5ヶ月という短期間での再上場を
果たすことが可能になったと言えます。破綻により有利子負債残高の増大に片を付け
たことと問題であった組合にある程度手を付けられたためだと考えます。
しかしながら、JALが縮小均衡を実行して体力が戻ってきただけの段階、に対して、
(最近はまた落ち目の点も見られますが)日産はあと二つのことを実行したことには
着目していいと思います。つまり、ルノーとの提携のもと、プラットフォームやエン
ジン、など部品の共通化、購買の共同化によりコスト削減を実行したこと、新車種の
投入などラインを調整しながらも新たなキャッシュフローの源泉についても考慮した
こと、です。
そうです。JALはこれから新生JALとして、スタートすると見ればよいのではないで
しょうか。JALがこれから取り組むべきは恒常的なコスト低減の仕組み作りや新たな
キャッシュフローの源泉の確保といったところのはずです。そうであれば、縮小均衡
をしてきたこれまでの展開から、価値創造というポジティブな側面に目が移るように
なるのではないでしょうか。JALにかぎらず、どの企業も、どの国も、これまでの生
産体制が不合理、不適合になってきた場合には、リストラを実行して身をかがめるし
かありません。コスト削減や資産売却、人員削減は過去のしがらみをすべて捨て去る
ことにつながり、ネガティブに決まっています。でも、そうした問題が取り除かれた
ら、そのときこそ、新たな展開をスタートできることになるのです。
同じ「スリム化」でも、単に生き残るために必死だったスリム化ではなく、新たな
展開をするための「スリム化」であれば、どうでしょう。リストラそのものが縮小均
衡によるネガティブなイメージから、現代女性がみなスリムであることを目指すよう
な価値観へと多少なりとも変化することはあり得ることではないかと思います。ネガ
ティブ色の強いリストラも、ダイエットに成功してビフォー・アフターがはっきりす
るようになれば、それ自体が正当化されることになるのは、あらゆる場面で我々が目
にしてきたことだと言えるのではないでしょうか。企業のリストラも同じだと思いま
す。
寄稿家: 北野 一 の回答
JPモルガン証券日本株ストラテジスト
日本航空の再上場は、ポジティブ・サプライズです。2年前、日本航空が再建計画を
作成していた頃、今日の姿を予想した人は、ほとんどいなかったと思います。当時の
経済誌の記事を振り返ってみましょう。まず、週刊エコノミスト(2010年3月9
日号)には、「JAL「再建計画」の視界不良」という記事があります。その記事のな
かでは、早くも2次破綻の危険性が取り沙汰されておりました。3カ年計画の最終年
度(12年度)に計画されている利益額は「驚異的といえる水準であり、低迷を続け
る航空需要を考えると、その実現性は危ぶまれる」からでした。
驚異的な利益額とは、営業利益で1157億円と、02年度のJASとの統合以降の最
高であった07年度の900億円の1.3倍でした。しかし、11年度の日本航空の
営業利益は2049億円と、驚異的と言われた利益額のさらに1.8倍でした。こう
した日本航空の先行きを悲観視していたのは、他の経済誌も同じで、週刊ダイヤモン
ド(2010年7月10日号)には、「極秘資料から読み解く迷走するJAL再建」と
いう記事があります。
「編集部が入手した資料を基に分析してみると、いかに甘い計画であるかがよくわか
る。…12年度の連結営業利益率は9.2%。海外の航空会社を見回しても9%台の
営業利益率は非常に高水準で、にわかには信じがたい数字だ」。なぜ、こんな無理な
計画を立てるかと言えば、それは支援機構の都合であると。「投じた金額以上で3年
後に売り抜けるためには、どれくらいの利益を出す企業になっていなければならない
か。十分に実現可能な手堅い収支計画ではなく、3年後の企業価値ありきで更生計画
を練ったため」との説明がありました。ちなみに、11年度の営業利益率は17%と、
「信じがたい数字」のほぼ倍でした。
週刊東洋経済(2010年8月7日号)も、同じトーンでした。「懲りないメガ志向
前途多難な再建計画」という記事でも、「更正計画案は、驚くべき内容だ。…超がつ
くV字回復のシナリオを描く」と、リストラの実効性に疑問を投げかけていました。
加えて、その経営方針についても、JALにとって不幸だったのは「景気が戻ってきた
ことで、足元の業績が半ば回復し、「メガキャリアを目指したい」(JAL幹部)との
意識が再び芽生えてしまった。…破綻時に検討されていたLCC化計画も棚上げされた」
と嘆いていました。
2010年10月に出版された「JAL再建の行方」(杉浦一機、草思社)を読むと、
出口戦略について悲観的な見通しが示されておりました。そもそも「再上場」は、メ
インシナリオではなく、「更生にめどがついた段階で、支援機構は新たな管財人とな
るスポンサーを見つけて経営を渡すことになる」とスポンサーの候補を取り沙汰して
おりました。ただ、適当な企業が見当たらないので、金融機関が中心になってファン
ドを組成するという話も検討した。しかし、これも難しい。仕方なく、支援機構は窮
余の一策として「株式の再上場案」を示したと、次のように批判的に紹介しておりま
した。
「株式を上場して投資家からの資金を集めるには、「バラ色の展望」が必要になる。
しかも今回の上場案の問題点は、株式の購入を望む投資家が見込まれるからではなく、
ファンドの中核となるスポンサーが見つからないために、「株式の再上場」策を打ち
上げて、交渉相手を特定できない案に逃げ込んでいる」(P209)と。
いま、日本航空の再上場への期待は、ライバルの全日本空輸の株価にも影響を与えて
いるようです。ANAが2期連続で過去最高の営業利益を稼いでいるにもかかわらず、
株価が冴えないのは「利益水準でANAを上回るJALが今秋に再上場を目指していること
が、市場で意識されはじめている」(6月7日の日本経済新聞)からだと。こうした
状況にANAは不満で、6月10日の日本経済新聞では篠辺全日本空輸副社長が「公平
な競争維持 大前提」との議論を展開しておられました。
「EUガイドラインは公的資金の注入を受けた企業に対して機材や資産の圧縮、事業規
模の縮小などを義務づけている。…日航に公的資金を注入する際には、政府からも
「日本にも競争環境を公平にするためのガイドラインが必要だ」と声があった。しか
し「まずは再生」ということで議論が後回しになった」と。
これに対して、6月26日の定例記者会見で日本航空の植木社長は、「ルールに基づ
いて再建を進めてきた。業績の結果だけみて不公平とする議論は受け入れられない」
(6月27日の日本経済新聞)と反論されておりました。それにしても、こうした光
景は2年前には、信じがたいものでした。いったい、何が起きたのか、何が変わった
のか。それを知りたい方は、「破綻2年で営業利益2000億円 JAL式アメーバ経
営の真髄」(週刊ダイヤモンド2012年6月2日号)や「再生完了!JAL流「アメ
ーバ経営」を解剖する」(PRESIDENT7月2号)をお読み下さい。
ところで、6月15日の日本経済新聞によると再上場時の日本航空の時価総額は
6000〜7000億円との見通しでした。これは全日本空輸の時価総額(27日終
値で5756億円)を上回ります。株式市場的には、日本航空は、必ずしも小さく
なったとは言えないように思います。
寄稿家: 水牛 健太郎 の回答
日本語学校教師・評論家
「ネガティブな側面」ということですが、リストラですから、やはり多くの人を傷
つけ、人生設計を狂わせることは間違いありません。解雇された方々をはじめとする
従業員は消費行動を引き締めざるを得ませんし、路線を廃止された地方の人は不便を
強いられ、減免措置により税収は減少します。
ただ、こうしたリストラをせずに再建をするのはなかなか難しいことは確かだと思
います。JALは人員や、ジャンボ機などの資産が過剰になっている状況でした。かん
たんに言えば、そんなに飛行機に乗る人がおらず、設備や人員が余っていたわけです。
リストラしないのであれば、なんらかの手段でそれらの設備や人員の稼働率を上げて、
利益を生み出す必要があります。
ここで難しいのは、航空会社はたとえばメーカーなどと違って、「ヒット商品」を
生み出せば売上を大きく増やせる、という業種ではないということです。人口やその
時の経済状況に応じ、飛行機に乗る人の数はだいたい決まっています。旅行ブームと
いったことによっても左右されますが、経済が大きく成長しない中で、旅行だけが大
ブームになるというのも考えにくいものがあります。利用者を増やすうえでは価格を
下げることも一つの選択肢でしょうが、価格を下げ過ぎて売上が落ち込んでしまって
は元も子もありません。
あるいは人員の活用のために新規事業に乗り出すという考え方もあります。国鉄の
分割・民営化後、JRグループが駅ビルなどの資産を利用して商業への進出を進めて
いることなどが連想されます。しかし市街地にビルをたくさん持っているわけでもな
い航空会社が同じことはできませんし、もともと極めて専門性の高い人材で構成され
ているだけに、多角化にも限りがあるでしょう。
こうして考えると航空会社は、企業として様々な手段で利用者増を目指すのは当然
のこととしても、基本的には、売上の大幅増による事業拡大を目指すというよりは、
いかに設備・人員を効率的に利用してコストを下げるか、というところに経営の核が
あるのは間違いないと思います。
破綻状態にあったJALが国策として再建されたのは、もともと国策会社であったこ
ともありますが、経済学的に言えばANAによる独占を防ぐことにも正当性の根拠があ
ると思います。独占企業は価格を引き上げて消費者から取れる限りの利益を確保しよ
うとすることが、ミクロ経済学の理論で示されています。企業は利益を最大化するこ
とを目標として行動するので、「経営者の心がけ」といったことで防げるものではな
いのです。
アメリカや中国には多くの有力航空会社がありますし、ヨーロッパも、各国のナ
ショナルフラッグが相互に乗り入れて競争をしています。日本は世界的に見てもこれ
らに匹敵する規模の市場ですので、ANAとその系列航空会社が独占的なシェアを取る
のは、好ましいことではありません。ですから、JALを再建しないのなら、新しく「J
ALのような会社」を作ることが必要になります。それぐらいならJALを再建した方が
はるかに効率的で安上がりでしょう。
JALのリストラは、人員・設備を市場に放出することで、新たな航空事業の発展を
促す面もあります。25日付の日本経済新聞朝刊に書かれていたことですが、JALを解
雇されたパイロットのうちかなりの人数が格安航空会社に雇用されたということです。
格安航空会社は世界的に大きく発展している業態ですが、日本ではパイロットの不足
が一つのネックになっていたといいます。JALで十分活用されずにいた人員・設備が
格安航空会社で活用され、新たな利潤を生みだすのであれば、航空業界全体にとって
も、ひいては日本経済にとってもプラスであることは言うまでもありません。
寄稿家: 真壁昭夫 の回答
信州大学経済学部教授
「JAL再建」
今年秋にはJALは再上場を目指しているようです。再建のプロセスはかなり順調
に進んだと言えると思います。同社の収益性を回復させるために、主に人件費の削減、
人員の整理や年金給付の減額などに加えて、航空機の部品在庫の圧縮などを行って経
費削減を徹底したようです。それに加えて、リアルタイムに近い状態で収益状況を把
握できるよう、社内の会計システムを整備したといわれています。
知り合いのアナリストにヒアリングしてみました。彼によると、経費削減などの方
策に加えて、JALの経営者となった稲盛氏の考え方を、それぞれの社員に徹底する
ことが重要だったと指摘していました。同氏の発想はかなり明確で、「企業を破たん
させた責任は、社内の経営者から一般社員全員にある」という意識を、社内全体に浸
透させることだと言われているようです。
そうした考え方を浸透させ、社員全員が会社を立て直すために経費の削減などに取
り組んだ結果が、収益性の回復、さらには再上場の計画として結実したのだと思いま
す。そのプロセスを成し遂げたことは、十分に評価に値すると考えます。
ただ冷静に考えてみると、コスト意識や収益性に対する考え方を社内に徹底させた
り、人件費やその他の経費を削減することは、本来、経営者であれば誰でも行うべき
ことです。JALが事実上破たんし、稲盛氏がJALの経営者に就任しなければでき
ないことではないはずです。つまり、かつてのJALの経営が、やるべきことを十分
に行っていなかったことになります。JALの経営者に大きな問題があったというこ
とではないでしょうか。
「経営に大きな問題がある」というケースは、JAL以外にもわが国の様々な分野で
見られます。例えば、わが国を代表する家電メーカーの内、ソニー、シャープ、パナ
ソニックは、今年3月期の決算で大幅赤字に落ちこみました。原因の一つに、薄型テ
レビのコモディティー化による価格競争の激化があります。
しかし、テレビ事業の収益性の悪化は以前から指摘されてきたことです。その証拠
に、いくつかの家電メーカーは、何年も前から当該分野で収益を上げることができて
いません。あるいは、わが国の他の電機メーカーは、既に国内でテレビの生産を止め
て、海外生産に切り替えています。
しかも、わが国の電機メーカー大手8社の内の3社は、軸足を家電系の製品群から
社会インフラに移行しています。その結果、当該3社は、今年3月期の決算でも黒字
を計上しています。そうした状況を見ると、企業業績は経営者に負うところが大きい
ことが分ります。有効な経営戦略を打ち出せる経営者がいる企業は、相応の結果を出
していますが、しっかりした経営戦略を打ち出せない企業の経営状況は悪化している
ことが分ります。
わが国企業の場合は、現場の実力が強かったこともあり、最近まであまり経営者の
力量が問われることはなかったと思います。ところが、最近、わが国企業の競争力が
低下し、ライバル企業との競争が激化したこともあり、組織の司令官役である経営者
の実力がかなり重要なファクターになってきているのだと思います。
JALの再建のプロセスでは、通常であれば以前から実施されていなければならな
い施策が実行されておらず、それを再建のために指名された新しい経営者が、企業の
カルチャーを変えながら実行したということだと思います。
http://ryumurakami.jmm.co.jp/dynamic/economy/question_answer727.html
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。