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グローバル社会シンガポールから見える未来予想図
分業が進み、所得格差が広がり、「トランスネーション化」する社会
前回のコラムでは、台頭するアジア企業に優れた技術を狙われ、欧米企業に対してはプレゼンスを失いつつある日系企業の現状を取り上げた。今回は少し視点を変え、シンガポール国内の状況について概観していこう。
中華系に始まりインド人、マレー人、欧米人、日本人……と実にさまざまな人種で構成されるシンガポール。ここはいわば「グローバル社会の縮図」だ。この国でいま起こっている現象や傾向をつぶさに観察していくと、グローバル化が世界的に進んだ先にはどのような社会が待っているのかをある程度見通すことができる。キーワードは「競争」「格差」「分業」、そして「トランスネーション」だ。
「勝ち組はさらに勝ちつづけ、負け組はすぐに退場」
というシビアな環境
杉山嘉信(すぎやま・よしのぶ) 1974年、兵庫県生まれ。34歳のとき、外資系企業での管理職ポジションを辞してシンガポールに移住。現在は、シンガポールで年間約600社にコンサルティングサービスを提供し、企業の経営者、実務担当者と毎日のように海外経営戦略について話をしている。米国公認会計士、通関士。 http://www.facebook.com/sugisg3
ご存じのようにシンガポールは多民族国家です。中華系が7割を占めるのですが、ほかにもインド人、マレー人、欧米人、日本人など実にさまざまな人種がいます。こんな国家なので、世界中の企業が「アジアの登竜門」とばかりにシンガポールに進出してきます。
そんな中で競争するのですから、当然どの産業も競争は熾烈です。
たとえば飲食店。最近、日本からの飲食店の進出が多いのですが、ほとんどの店は赤字かよくてトントンだと思われます。シンガポールには世界中のレストランが集まっており、中途半端な店はあっという間に退場させられてしまいます。
では成功したお店はどうかというと、ビルのテナントがどんどん与えられ、あっという間に郊外にも出店できます。これは、ビルのオーナーが複数の商業施設を所有しており、一度成功するとほかの商業施設にも入ることができるからです。
これはほんの一例ですが、シンガポールでは比較的勝ち負けが早く決まり、負け組はすぐに退場、勝ち組はさらに勝ちつづける傾向にあります。
これと同様の考え方は「人」についても当てはまります。
シンガポールの教育システムは日本のそれとは大きく異なり、小学校低学年でセンター試験のような統一テストがあります。その結果次第で大学へ行ける人とそれ以外の人に分けられてしまうわけです。
日本であれば、東京大学であっても試験を受けるだけなら誰でもできますが、シンガポールでは小学生の時に結果を出していないと大学受験すらできません。
ショッピングセンターに駐車される高級車。シンガポールでは、車の台数を制限するため関税などで車の価格を高くしている(カローラ1.5Lクラスで500万円もする)が、街には高級車が溢れている。グローバル社会では、こうした格差の拡大も懸念される。
その後、社会に出ても競争は続き、少しでも給料の高い会社に転職すること事が善しとされています。逆にうまくいかない場合はけっこう厳しく、会社は1ヵ月前の通知で簡単に人材を解雇をすることが法的に認められています。
シンガポールは小さな国ですが、このようにあらゆるところで競争がグローバルに行われています。良くも悪くも、勝ち組はとことん勝ち、負け組はとことん負ける社会なのです。
次のページ>> 所得格差は日本3.4倍に対し、シンガポールは9.7倍!
グローバル化が浸透する社会では、あらゆる分野で絶えずグローバルな競争にさらされます。「グローバル社会の進行」→「早期選抜、勝ち負けの明確化」→「所得格差拡大」という構図です。その証拠に、国民の所得格差を比較してみると、最上位20%と最下位20%の平均所得比率は日本が3.4倍であるのに対し、シンガポールはなんと9.7倍にもなります(出所:Richard Wilkinson, "How economic inequality harms societies")。
このような環境は、勝ち組企業にとってはこのうえなくありがたいものです。
たとえば、シンガポールでは国を挙げて将来有望な産業を誘致しようとしています。シンガポール政府はこういったプロジェクトを主導することに長けており、世界各国の「その分野でナンバーワン」の企業をくっつけて外国に売り込みをかけるわけです。もしもあなたがこうした産業に属していれば、政府の後ろ盾を得て優位にビジネスを進めることもできるでしょう。
例をひとつご紹介します。
シンガポールは淡水が少ないため、以前から海水の淡水化についての研究が進められてきました。また、この分野で優れた技術を持つ企業を誘致し、自国のために必要な技術だとして投資・育成も行ってきました。
……と、ここまではよいのですが、これで「めでたし、めでたし」と終わらないのがシンガポールのしたたかなところ。淡水化技術が自国で実現すると、今度はそれらを持って外国に売ることを企画してしまうのです。現在、シンガポールの水処理会社は日本の企業と手を組み、インドで淡水化プラントを受注したりしています。
このようなプロジェクトに参加する条件はただひとつ、「優れた技術やノウハウを持っていること」。国籍は関係ありません。これが日本なら、プロジェクトに参加する日系企業は自国である日本政府と協力することが期待されそうなものですが、このあたりはシンガポールのほうが格段に商売上手です。
http://www.ted.com/talks/richard_wilkinson.html
このことからもおわかりのように、強者にはさらに新しい機会が与えられ、ますます強くなれる仕組みをつくっているのがシンガポールという国、ひいてはグローバル社会というものです。グローバル社会では、国家も企業も関係なく強者がタッグを組み、どんどん強くなっていきます。
次のページ>> 自国では学校の先生。でもシンガポールでは街の清掃員
自国では学校の先生。でもシンガポールでは街の清掃員
シンガポールは、物事をいかに合理的に進めるかをつねに考えている国でもあります。「メイド制度」を例に考えてみましょう。
郊外のショッピングセンター内にあるメイドセンター。シンガポールではメイドの使用は当たり前。フィリピン人、インドネシア人中心で、価格は月2〜3万円ほど。
シンガポールでは共働きは当たり前で、家事はメイドを雇って彼女たちにやってもらいます。メイドを雇うなどというと日本人には抵抗感があるかもしれませんが、シンガポールでは、休日になればメイドに連れられた子供たちがデパートの中で遊んでいる光景をよく目にします。
また、シンガポールでは街の清潔さを保つため頻繁に清掃が行われています。その中心はバングラデシュ人。彼らは、自国では学校の先生など非常に優秀で勤勉な人たちなのですが、ひとたびシンガポールに移住してくれば、そこでは集合住宅に住み、街の清掃、道路工事などを低賃金で行っているのです。
このように、シンガポールは物事を合理的に考える傾向が強い社会であり、「生きていくうえでは割り切りも必要」という認識が浸透しています。グローバル化が浸透すると、こうした分業はますます進んでいきます。そうなれば、付加価値のない仕事についてしまったが最後、一生そこから這い上がれない人生を歩むことになってしまいます。
幸い、シンガポールは人口も限られ、そのような仕事を外国人に任せること事で国民の不満を散らしています。しかし、グローバル社会が進行すればするほど、付加価値のない仕事をする人とそうでない人の差は開いていきます。
次のページ>> どの国に属しているかで“色づけ”がなされてしまう
進むトランスネーションの先にあるのは
どの国に属しているかで決められてしまうある種の“色づけ”
昨今、欧米企業の間では「グローカル」に続くキーワードとして「トランスネーション」という言葉がささやかれ始めています。
グローカル(グローバル+ローカル)とは、外国にいくつかのミニ本社を設け、グローバルなよさを残しつつローカル化すること。日系企業が今日とっているのはほとんどの場合がこのグローカル化です。
これに対してトランスネーションとは、さらに国家を機能別に分けて、それぞれの得意分野に機能を分散していくことです。
たとえば「労働コストが安く、英語を話せるフィリピンには世界中の顧客対応電話を集約し、部品サプライヤーが集積するタイでは各国に輸出する製品の生産拠点を置く」、などです。
シンガポールはトランスネーションの重要性に早くから気づいており、この時代が本格的に到来したあかつきには主導国になろうとしています。そのため、グローバル企業の研究開発所やハイテク企業、環境企業の誘致に躍起になっているのです。
トランスネーション化が進むと、国によってある種の色づけがなされてしまうため、どの国に属しているかがことのほか重要になります。つまり、“頭”になるのか“手足”になるのかが明確化されてしまうわけです。
さて、そうなると気になってくるのは「分業が進み、格差が広がった競争し烈な環境でも勝てる人材像とはどのようなものか?」という点です。次回のコラムから、この点についてじっくり考えていくことにしましょう。
次回は7月12日(木)に配信予定です。
http://diamond.jp/articles/-/20779
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