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http://jp.wsj.com/US/Economy/node_469319?mod=WSJSeries
【肥田美佐子のNYリポート】ハーバード大教授に聞く(前編)
「週に1晩、スマホを切るだけで、仕事も私生活もうまくいく」
2012年 6月 29日 11:31 JST
「カロウシ」(過労死)の国、世界で名だたる働きすぎの国として知られるニッポン――。
そんな日本でも、遅ればせながら「ワークライフバランス(仕事と生活のバランス)」の必要性が唱えられ始めて久しい。だが、円高や人口減、国際競争力低下など、日本経
済の前に立ち込める暗雲を「口実」に社員を叱咤激励し、依然として長時間労働を強いる企業は後を絶たない。
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写真提供:ハーバード・ビジネス・レビュー・プレス提供
スマートフォンの便利さも、もろ刃の剣だ。上司から、文字どおり「24時間働く」ことを暗黙のうちに期待されることも少なくないが、必要もないのに、四六時中メールをチェック
するスマホ中毒に自ら陥っている人も大勢いる。
米国では、残業を極力せずに公私のメリハリをつけ、有給休暇も消化する人が、日本とは比較にならないほど多い。とはいえ、不況の影響で、エリート層だけでなく、失業を
恐れ、休みを返上したり、帰宅後も仕事をしたりする一般社員も確実に増えている。はたして長時間労働で業績は上がるのか。効率のいい働き方とは? 週に1晩、スマホ
をチェックしないとどうなる?
先月、『スマートフォンとともに寝る――24時間年中無休の習慣を打ち破り、働き方を変える方法』(ハーバード・ビジネス・レビュー・プレス)を上梓した、ハーバード大学ビジ
ネススクールのレスリー・パーロー教授(専門は、組織行動論、企業文化、ワークライフバランスなど)に米東部ボストン郊外の同大キャンパスで話を聞いた。前・後編2回にわ
たって、お届けする。
――ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の社員を対象にしたワークライフバランスの調査結果について教えてほしい。
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Evgenia Eliseeva
レスリー・パーロー・ハーバード大学教授
パーロー教授 仕事をもっと効率よく生産的に、より良くするよう働き方を変えることは可能かというのが、そもそもの疑問だった。同時に、生活を向上させ、もっとコントロールす
ることで予測可能なものにし、柔軟性を持たせることはできるか――。BCGに白羽の矢を立てたのは、エリートコンサルティング会社ゆえ、クライアントから甚大なデマンドがある
ためだ。同社のような極端ともいえるケースでチェンジが可能なら、他の企業も変われると考えた。
具体的には、東京支社も含め、14カ国に散らばる32カ所の同社オフィスで、チームごとに、シンプルで小さな、実行可能範囲のことを試みた。週に1晩だけ夜働くのをやめ、
午後6時に――東京支社では9時だったが――帰宅して、仕事以外の好きなことをしてもらうという実験だ。ただし、ワイヤレス機器はご法度である。
――不安や恐怖感を訴える人は?
パーロー教授 特に企業戦士たちが、非常に脅威に感じた様子だった。全キャリアを仕事に捧げてきたベテランの人たちだ。漠然とチェンジを求めるだけなら無理だったろうが、
具体的に、たった1つのゴール達成を求めたから実現できたと思う。あとは、毎週、チームごとに達成度を確認し、芳しくない場合はなぜか、来週はどうすればうまくいくと思うか
を話し合ってもらったのも良かった。
また、わたしが「脈拍チェック(動向確認)」と呼ぶ4つの質問――試みを行ってどう感じるか、クライアントの要求を満たしているか、実験から何かを学び、発展させているか、こ
うした働き方は持続可能だと思うか――についても、毎週、議論してもらった。
――実験と話し合いの結果、社員の仕事への満足感が上がったというが。
パーロー教授 なぜこれが必要か、本当にこのやり方をする必要があるのかなどについて大いに議論を重ねたことで、仕事の効率性が増したからだ。クライアントの名の下にや
らねばならないと思っていたことの大半が、実は自分たちが自らやっていた、必要のない仕事であることが分かり、また、チーム単位で休みの人をカバーすることで、より賢明な
働き方ができるようになった。
たとえば夜遅く、クライアントから日本での状況を聞かれたとする。翌朝までに20〜100枚のスライドを作り、クライアントに送るのが常だったが、実際のところ、クライアントは
目を通さない。そこで、「本当にこれをしなければならないのか」という、それまで誰も口にしなかった問いかけを行い、そうした不要な仕事をすべてやめたことで、満足感が増し
たのだ。
クライアントは、そうしたスライドなど必要としていないことが分かり、コミュニケーションもより良くなった。クライアントが電話してくるかもしれないから、いつもスタンバイしていると
いうが、大半の場合、電話してくるのはクライアントでないことも判明した。
その結果、価値が高いと思われる仕事を優先させることで充実感が増し、組織にとってもより良い結果が生まれ、(時短のおかげで)生活をよりコントロールできるようになっ
た。労働時間をより良く管理し、予定が立てやすくなり、柔軟性が増したことで、仕事も組織も生活も向上し、まさに一石三鳥である。小さなステップが、こうした重要で大き
なチェンジを生み出したことに心躍る気持ちだ。
――だが、日本の企業戦士たちの働き方を変えるのは容易ではないと思うが。
パーロー教授 最高経営責任者(CEO)の力も、全社を挙げたイニシアチブも必要ない。チームリーダーがその気にさえなれば、できる。社員の生活だけでなく、仕事にとって
もいい結果が出るのだから、投資するだけの理由がある。BCGでも、当初は誰も乗り気でなかったが、いったんプラスの結果が出始めると、みんなが前向きになり、今では誰も
が望んでいたかのようだ。組織の下から上へのボトムアップ変革とでも言おうか。
現在、研究している製薬会社の例を挙げよう。ある女性社員が、全米各地での会議に出るために2週間ほど出張するのが常だったため、理由を尋ねると、いつも出ている
からだと言う。だが、一緒に連れて行った娘が病気になり、途中で断念せざるをえなくなったのだが、会議に出なくても何も支障がないことが分かり、皮肉にも行く必要がないこ
とを悟った。「(わたしが行かなくても)何も起こらなかった。むしろ、わたし自身も仕事もより良くなった」という。
まず、夜9時に帰ってみて、何がどうなるわけでもないことを実感すれば、それが大きな警鐘になる。最初は、多くの人がやりたがらず、ナーバスになる。自分は必要とされてい
るのだ、と。だが、いったん試すと、「ああ、まんざらでもないな」と口にし出すのを見るのは、実に興味深い。そして、プラスの点をリストアップし始める。ほかに何もすることがない
と、「働かないこと」に違和感を感じる。まず、それに慣れることが先決だ。
――クライアントからクレームは出なかった?
パーロー教授 ネガティブな反応は皆無だった。(働きすぎは)大半の場合、クライアントのためではない。BCGのクライアントと話したが、彼らの大半は、この試みに気づいてい
なかった。気づいていたとしても、否定的な意見はなかった。「(BCGは)いつもと変わらず機敏に対応してくれるし、必要なものはすべて受け取っている」と。
お互いにカバーし合っているので、問題など発生しない。ただ、「バックアップ」というのは、誰かが常に自分の仕事をしてくれるという意味ではなく、その仕事に緊急性があるか
どうかを評価してくれるということだ。クライアントに対し、もう少し待てるか、翌日でいいか、あるいは誰かが代わりに答えることができるか、といったことを尋ねるかどうか決断する
人がいる、ということである。
共有権とでも言うべきものが増したことで、「以前よりずっと統合されたチームもある」という評価がクライアントから返ってきたほどだ。クライアントの管理法はいっさい変えてい
ないので、否定的な声は出ない。集団的なゴールにフォーカスしたことで、生活よりも、むしろ仕事へのプラスのほうが大きかったほどだ。ワークライフバランスの試みを通し、仕
事に深遠な恩恵がもたらされるというシナジー(相乗効果)を発見し、非常にワクワクしている。
――日本企業に、いったいどうやってそれを分かってもらえばいいのか。
パーロー教授 従来、(従業員の)私生活は組織の「敵」だとみなされがちだが、私生活(の改善という)問題への対処は、組織をより良くするためのカギである。それが分かっ
たのは、大きな発見だった。組織は、その事実を受け入れ、(従業員の私生活に配慮することを)コストとしてでなく、機会へと変えることができる。
だからこそ、一度やってみてほしいと、皆さんに言いたい。小さくても、実行可能な集団的ゴールを設定し、実際に体験してみる。自分の安全地帯を抜け出すのだ。そうすれ
ば、結果は後から付いてくる。試してみる価値はある。
*後編は、スマホ依存症の弊害や、働きすぎがなぜ非効率なのか、米国人の「サクセス中毒」、小さな女の子3人の母親でもあるパーロー教授自身のワークライフバランス
実現法、日本人読者へのメッセージなど、盛りだくさんです。ご期待ください。
*****************
肥田美佐子 (ひだ・みさこ) フリージャーナリスト
Ran Suzuki
東京生まれ。『ニューズウィーク日本版』の編集などを経て、1997年渡米。ニューヨークの米系広告代理店やケーブルテレビネットワーク・制作会社などにエディター、シニア
エディターとして勤務後、フリーに。2007年、国際労働機関国際研修所(ITC-ILO)の報道機関向け研修・コンペ(イタリア・トリノ)に参加。日本の過労死問題の英文報
道記事で同機関第1回メディア賞を受賞。2008年6月、ジュネーブでの授賞式、およびILO年次総会に招聘される。2009年10月、ペンシルベニア大学ウォートン校(経
営大学院)のビジネスジャーナリスト向け研修を修了。現在、『週刊エコノミスト』 『週刊東洋経済』 『プレジデント』『ニューズウィーク日本版』などに寄稿。『週刊新潮』、NH
Kなどの取材、ラジオの時事番組への出演、日本語の著書(ルポ)や英文記事の執筆、経済関連書籍の翻訳にも携わるかたわら、日米での講演も行う。翻訳書に『私た
ちは“99%”だ――ドキュメント、ウォール街を占拠せよ』、共訳書に 『プレニテュード――新しい<豊かさ>の経済学』『ワーキング・プア――アメリカの下層社会』(いずれも岩
波書店刊)など。マンハッタン在住。 http://www.misakohida.com
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