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材料出尽くし」で市場は日本国債をたたき売るリスクも! 「消費増税法案」衆院通過でむしろ行き詰まる日本の財政問題
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/32867?page=4
社会保障と税の一体改革関連法案が6月26日、衆議院を通過した。「先送りならこの国はもたない」と訴えた野田佳彦首相の強い"信念"で消費税増税に向けた大きな一歩を踏み出した。民主・自民・公明の3党協議でまとまった法案ということもあり、消費税率引き上げ法案は賛成363対反対96の圧倒的多数で可決された。
民主党からは小沢一郎・元代表ら57人が造反して反対票を投じたが、野党第一党の自民党からは不思議なほど反対の声が上がらなかった。三党が合意していることから、ねじれ状態にある参議院での可決もほぼ確実な情勢で、今国会で成立する見通しとなった。
与野党が一致して増税法案を通過させたのは、「日本の危機的な財政状態を乗り越えるには増税しかない」という認識からだろう。野田首相が言う「この国はもたない」という危機感を共有しているわけだ。
それでは、消費税率を現行の5%から2014年4月に8%、2015年10月に10%に引き上げれば、危機を回避し、この国は「もつ」のだろうか。つまり、日本が抱える財政問題はすっかり解決するのか。
■大増税でも国の債務比率は改善しない
消費税率を10%に引き上げた際の税収増は、現段階で13兆円と試算されている。2012年度予算での税収見込みは42兆3,460億円だから税収は30%増えることになる。これは国民の側からみれば全体として30%の負担増ということになるわけで、明らかに「大増税」である。
では、これだけの大増税で、国の財政は立ち直るのか、というとそうではない。2012年度の一般会計予算の歳出総額は90兆3,339億円。これまでに発行した国債の償還原資と利払い費用を差し引いても68兆3,897億円という規模である。増税後の推定税収55兆円余りでは、まだ歳入が不足するため、赤字国債を新たに発行せざるを得ない。いわゆる「プライマリー・バランス」が黒字にならないのである。
もちろん55兆円という税収はあくまで推計だから、景気が好転して法人税収が増える可能性はある。だが逆に、税率を上げても消費が冷え込めば消費税収が思ったほど増えない可能性もある。いずれにせよ、今回の増税だけでは、財政赤字の垂れ流しという出血を止めることができない見通しなのだ。ましてやこれまでに発行した公債の残高は709兆円。その償還財源に回して借金を減らすことなど絶望的だ。
今回の増税を国民に納得させるための説明が、年金や健康保険、医療など社会保障の維持・確保中心だったことも、話を厄介にしている。「社会保障と税の一体改革」という名称から、今回の増税分が増え続ける社会保障費に全額当てられる、という印象を持っている国民は多い。実際、政府も答弁でそう説明してきた。だが、放っておけば年間一兆円ペースで増え続けると見られている社会保障費に増税分を回し続けるのならば、赤字体質から抜け出し財政を再建することは永遠にできないことになる。
つまり、世界の投資家が注目する、国内総生産(GDP)に対する政府債務の割合は、このままでは改善する可能性は低いのだ。むしろ赤字を垂れ流せば、比率は悪化する懸念が強い。先進国中で最悪とされる国の債務比率を改善できなければどうなるのか。市場原理どおりならば、国債を発行する際の金利はジワジワと上昇し始めることになる。
■市場は「材料出尽くし」と捉えるか
これまでも、このままでは国債が暴落する、つまり国債金利の急上昇がおきかねない、と懸念されてきた。だからこそ財政を立て直すために増税をしなければならない、というのが増税を訴える財務省などの論理だった。野田首相の「国がもたない」という発言も、最終的に市場から見放されかねないという危機を想定していたのだろう。
現実にはこれまで日本国債は暴落しなかった。先進国中で最悪の財政状態とされながらも、国債が暴落しなかった理由はいくつか言われてきた。発行済の国債は9割以上を銀行や保険会社、個人など日本国内の投資家が保有しているため、売り浴びせようという外国人投資家の思惑を挫いてきた、というのがひとつ。だが、これも、日本の人口の高齢化で金融資産を持つ高齢者の資産取り崩しが本格化すれば、成り立たなくなる。もう1つ言われるのが、日本には増税余地がある、ということだ。外国人投資家などに聞くと、「日本の消費税率は5%とまだ低いから、税率を上げさえすれば財政再建は十分に可能だ」という声が多い。増税余地が一種の安心感につながってきたわけだ。税率が5%だったから国債が売られずに済んでいた、とも言えるわけだが、では税率が10%になることが決まったらどうなるか。
法案が参議院で可決され成立すれば、2015年10月までの増税スケジュールが確定する。税率を10%超にする選択肢は消えるわけだ。つまり、投資家からすれば、2015年までの日本の税収増の限界値が推定できるようになる。
市場の行動はしばしば「噂で買ってニュースで売る」と言われる。つまり、物事が決まるまでの期待値を先取りして買われるが、決まってしまうと「材料出尽くし」ということで売られるのだ。つまり、消費税率10%の可決成立を、市場は「材料出尽くし」と捉える可能性があるのだ。
将来の増税余力が小さいと見られた瞬間、市場では額面通りの国の財政状態から国債が評価される可能性がある。そうなるとこれまで以上に売り圧力が強くなり、市場が牙をむくことが十分に考えられるのだ。
■行政改革が今後の焦点
そんな市場の見方をかわして、国債の暴落を防ぐには方法は大きく分けて2つしかない。まだまだ増税余地があるという印象をもたせるか、この税率でも財政再建が可能になるという姿を示すか、だ。
民主党政府の幹部と話をしていると、まだまだ増税余地がある、と信じている人たちが多いことに驚く。「所得税を10%しか払っていないサラリーマンが多い」と真顔で話す大臣もいる。民主党議員には弁護士や公務員などの出身者が多く、民間でサラリーマン経験をした人が少ないということもあるのだろう。国税のほかに地方税や年金、健康保険料など負担しているという皮膚感覚が乏しいのだ。
年金保険料も健康保険料も毎年引き上げられている。財務省が試算している「国民負担率」は2011年度の実績見込みですでに40.1%。単純にこれに消費増税分を上乗せすると43.8%になる。もちろん年金保険料などが今後も段階的に増えることはすでに決まっているので、分母の国民所得が一定とすると、国民負担率は2015年度にはおそらく45%を超えるだろう。当然、高額所得者層の負担率は大きくなるため、負担率が50%を超える人たちが急増すると思われる。
20%近い税率が多い欧州諸国などに比べて消費税率はまだまだ低いという指摘もある。税率だけみればその通りだが、欧州諸国は総じて低所得者層にも高税率を課している。日本では、消費税増税が決まっている中で、さらに税率を引き上げるという議論は難しいだろう。つまり、世界の投資家に「増税余地がある」と納得させるのはもう難しいと見た方がいい。
残される手は、消費税率が10%となることで財政再建が可能になる、という姿を示すことだろう。歳出の68兆3,897億円と推定税収の55兆円の差を埋めるための「絵」を描くしかないのだ。つまり、歳出を圧縮するための行政改革が今後の大きな焦点になる。もちろん68兆3,897億円のうち26兆3,801億円を占める社会保障関係費の圧縮も不可欠になるだろう。増税したから歳出がジャブジャブに増えるという話になっては元も子もないのだ。
だが、10兆円以上の歳出を減らすのは容易ではない。結局は経済を成長させ、税収を増やす必要があるのだが、消費税率の引き上げも、歳出の削減も、経済成長にはマイナスに働く。
ともかく、日本国債売りを虎視眈々と狙う投資家にすきを突かれないためには、誰もが納得する財政再建の絵を早急に描き、国民に示すことだ。それが圧倒的な多数で増税を支持した衆議院議員の責務でもある。それができないようだと、いよいよ国債売りが現実のものになる可能性が出てくる。(磯山友幸)
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