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出口治明の提言:日本の優先順位
【第53回】 2012年6月26日
出口治明 [ライフネット生命保険椛纒\取締役社長]
自殺を減らすために、私たちは何を為すべきか
前回のコラムで、シングルペアレントの困窮対策が焦眉の急である旨を述べた。実は、わが国はもう1つ、喫緊の課題を抱えている。それは、年間で3万人を下らない自殺対策の問題である。今回は、この問題を取り上げてみたい。
http://diamond.jp/articles/-/20177
14年連続3万人超という異常事態
内閣府は、6月11日、自殺対策基本法に基づく2012年版自殺対策白書を公表し、国会に提出した。それによると、警察庁の自殺統計に基づくわが国の自殺者数は、1998年以来、14年連続して3万人を超え、2011年には3万651人となった。その内訳は、男子が2万955人、女子が9696人であり、女子はこの30年間ほど概ね横ばい傾向を示しているものの、1998年以来、男子の自殺者が急上昇したことが、自殺がこれほど大きな社会問題となった背景である。
これを年齢別に見ると、60代が5547人(自殺者全体に占める割合は18.1%)、50代が5375人(17.5%)、40代が5053人(16.5%)、30代が4455人(14.5%)、70代が3685人(12.0%)、20代が3304人(10.8%)、80代以上が2429人(7.9%)、10代以下が622人(2.0%)となっている。
ところで、2010年における年齢階級毎の死因別順位を見ると(下表1)、驚愕せずにはいられない。特に男子では、まさに働き盛りの20歳から44歳にかけて、自殺が原因の第1位を占め、女子でも15歳から34歳にかけては、自殺が原因の第1位となっているのである。
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このわが国の若い世代の自殺に係る数値の異常ぶりは、国際比較をしてみると、更に鮮明になる(下表2)。先進7ヵ国の15歳〜34歳における人口10万人あたりの死因別死亡率を見ると、自殺が第1位を占めているのはわが国だけであり、しかも自殺死亡率も18.5%と際立って高い。アメリカは11.2%であるが、英国は6.8%、イタリアに至っては5.1%でしかない。
15歳〜34歳という年齢は、まさに青年期であり、人間の最も美しい季節の一つではないだろうか。その青年期の死因第1位が自殺というのは、あまりにも痛ましいという以外に言葉が見当たらない。私たちはこういった数値が指し示す過酷な現実に正面から向き合う必要がある。
自殺の原因・動機は何か
ところで、自殺の原因・動機は何か。2011年の自殺者のうち、73.7%については、原因・動機が特定されている。遺書などの自殺を裏付ける資料により、明らかに推定できる原因・動機を自殺者1人につき、3つまで計上すると、1位は健康問題(1万4621人)が占め、2位が経済・生活問題(6406人)、3位が家庭問題(4547人)、4位が勤務問題(2689人)、5位がその他(1621人)となっている。健康問題は、60代、50代、70代の順に自殺者が多く、経済・生活問題は50代、40代、60代の順になっている。家庭問題は40代、50代、60代の順であり、勤務問題は40代と30代が同数で首位を占めている。30代や40代の若い世代では、職場のストレス等も大きいのであろう。
また、職業別に自殺死亡者を見ると、無職者が59.0%を占め、次いで被雇用者・勤め人が26.8%を占めている。自営業・家族従業者は8.8%である。無職者は60代、70代、50代の順に自殺者が多く、被雇用者・勤め人は40代、30代、50代の順に多い。
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自殺者を減らすために、何を為すべきか
内閣府の自殺対策白書によると、自殺者数の動向全般を見て行く上で、いくつか注意すべき点があるという。1つは、高齢化の影響である。高齢者の自殺死亡率は、依然として相対的には高いので、人口構成が高齢化していくだけで自殺者数の規模自体が増加していくことになる。例えば、2010年の自殺者数は人口構成が20年前と同じであったと仮定すれば、実績値より4600人程度少なくなる計算になるという。
もう一つは、自殺の原因・動機が、性別や年齢によって異なるため、自殺者数の動向に影響を与える要因もそれによって異なるということだ。例えば、原因・動機として「経済・生活問題」が多くを占める中年男性については、企業の倒産件数が自殺死亡率と近い動きを示している一方で、「勤務問題」の占める割合が高い若年男性層では、若年失業率が自殺死亡率の推移と近い動きをすることが示されている。
このような留意点を踏まえた上で、3万人を超える自殺者数を減らしていくために、私たちは何を為すべきか。まずは、前回のコラムで子どもの虐待について述べたように、みんなで「おせっかい」をやくことではないか。自殺を考えている人は、悩みを抱えながらも周囲に何らかのサインを発しているケースが大半であるようだ。そのサインに「気付いてあげる」必要があると考える。「無関心」や「見て見ぬフリ」ほど、社会を荒廃させるものはない。
また、自殺した人の7割が死ぬ前に相談機関を訪れていたという調査結果もある。憲法が定める文化的な生活が誰でも送れるようなセーフティネットの確立が必要であることは言うまでもないであろう。セーフティネットが確立されて初めて、私たちは意味のある相談に応じることができるのだ。官民あげて、生きにくさ、暮らしにくさを抱える人がいつでも、どこでも、気軽に相談できるインフラ(「寄り添いホットライン」等)を更に整備していく必要があろう。
「自殺を考えたとき、どのようにして乗り越えたか」という内閣府の調査では、「家族や友人・職場の同僚など、身近な人に悩みを聞いてもらった」が38.8%で首位を占めた。次が、「趣味や仕事など、他のことで気を紛らわせるように努めた」38.6%、「できるだけ休養を取るようにした」18.0%と続く(複数回答なので全体は146.8%)。持つべきものは相談できる友人(身近な人)である。
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しかし、同時に「自殺を考えたとき、誰かに相談したことがあるか」という問いには60.4%が「相談したことはない」と答えているのである。因みに、「相談したことがある」は32.7%で、「友人」がトップ、次は「同居の親族(家族)」である(これも複数回答なので、全体は120.5%)。この調査結果からも、まず、身近な人が手を差し伸べることの重要性が窺えるのではないか。
さらに、放置すれば自殺の温床ともなりかねない躁鬱病等の対策として、適切な精神科医療を受けられる仕組み作りも大切である。躁鬱病を含む気分(感慨)障害の総患者数が100万人を超えている現状では、尚更であろう。
最後に、「イタリアを見習え!」と言いたい。先にも見た通り、若年層の自殺死亡率が最も低い先進国はイタリアである。経済は決して好調とは言えないが、イタリア人は仕事や社会的な制約に拘泥することはなく、「人は人、自分は自分」ということで大らかに人生を謳歌しているように見える。
よく考えてみれば、私たち人間にとって、仕事に費やす時間は、人生の3分の1にも満たないのだ。食べて寝て遊んでいる時間の方が遥かに多いのだ。そうであれば、他人の目や世間体のようなものを気にかけることなく、自分の人生を自分なりに楽しむ風潮をみんなで追求していくことも、長い目で見れば、社会の閉塞感を打破し、自殺を減らす大きな力となって行くのではないだろうか。
(文中、意見に係る部分は、すべて筆者の個人的見解である)
http://diamond.jp/articles/-/20608
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