http://www.asyura2.com/12/hasan76/msg/618.html
Tweet |
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35513
日本経済の幻想と真実
ムーアの法則が「家電」を破壊する 日本企業に必要なのは「約束を破るメカニズム」
2012.06.22(金)
池田 信夫
家電メーカーの業績が急速に悪化している。パナソニックとソニーとシャープが発表した2012年3月期の業績見通しによれば、3社の赤字の合計は1兆6000億円を超える。常識的には経営破綻や企業買収・売却が起こっても不思議ではないが、今のところ出ているのは、台湾の鴻海精密工業がシャープの筆頭株主になったぐらいだ。
「引責辞任」したはずの3社の社長はそろって会長などに残留し、後継社長はその子飼いだ。これで思い切った経営の転換ができるとは思えない。
誰もが口をそろえて「選択と集中」を唱え、人員整理を発表しているが、問題は労働者ではなく経営者の整理である。
家電は今やコンピューター産業
メーカーの社員に「何でこんなひどいことになったのか?」と訊いてみると、答えはほとんど同じだ。「やるべきことは、社員はみんな知っている。経営者がやらないだけ」
特に赤字の最大の原因となっている液晶テレビは「日本で生産しても赤字が増えるだけ」と誰もが知っているが、切れない。それによって発生する大量の余剰人員の行き場がないからだ。
こうなることは、ある意味では予想できた。家電製品の主力である液晶テレビやスマートフォンなどのデジタル家電の中核部品は半導体であり、ムーアの法則と呼ばれる急速な技術進歩が起こっているからだ。これは「半導体の集積度は18カ月で2倍になる」という経験則である。
この法則は1960年代から現在まで続いており、現実に半導体の計算量あたりコストは10年で100分の1になっている。言い換えれば、いま生産に投入されている人的・物的資源の99%が10年後には過剰になるということだ。
こうした状況で効率を上げるために大事なのは、ITが常に生み出す膨大な過剰設備・過剰雇用を廃棄して、すみやかに退出することである。
ITの性能向上は、鉄道や電力と違って指数関数的であり、しかも半導体だけでなく、光ファイバーでも磁気ディスクでも急速な技術革新が続いている。今までの家電は、こうした激しい変化には直面していなかった。だが、デジタル化されると中身はコンピューターであり、意思決定のスピードの遅さが致命傷になる。
企業コントロールの市場
日本の家電メーカーがムーアの法則に対応する上で最大の障害になるのは、その組織が長期雇用や系列関係などの「共同体」的な長期的関係で成り立っていることだ。
資本主義の常識では不採算部門は売却するのが普通だが、日本では雇用を守ることが役員の最大の使命である。これが日本企業が赤字になる原因だ。
それは実は経営者も分かっているが、彼らは長期的関係の中で従業員や系列企業と多くの約束をしてきたので、それを破ることができない。約束を破れるのは、日産自動車のカルロス・ゴーン社長のように外部から来た人だけだ。日産でも「何をすべきかはみんな知っていた」とある役員は言っていた。
だから日本企業の問題は、ある意味では簡単である。みんながやるべきだと分かっていることをやればいいのだ。
そのために必要なのは、未来の利益のために過去の約束を破ることである。それが資本市場の役割だ。企業買収で会社の所有権を移転して経営者を代えれば、「そんな約束は知らない」ということができる。
特にLBO(負債による買収)は、企業の全株を買収して不採算部門を売却し、企業価値を高めて再上場する約束を破るメカニズムだ、とマイケル・ジェンセン(ハーバード・ビジネススクール教授)は言った。1980年代にウォール街で吹き荒れた企業買収の嵐は批判を浴びたが、30年経ってみると、「斜陽の老大国」と見られていたアメリカ経済が立ち直った大きな原因は、こうした企業コントロールの市場によって肥大化した「コングロマリット」が解体され、資本効率が上がったことだとされる。
グローバルな資本市場の活用が必要だ
これに対して日本の企業は、株式の持ち合いなどによって企業買収を防いできたため、参入・退出が少なく、株主資本利益率(ROE)が低い。いわば株主を犠牲にして、社員の共同体を守ってきたのだ。これは市場の漸進的な変化には対応しやすいが、ムーアの法則のようなドラスティックな変化には弱い。
こうした日本企業の特徴を直すのには、やはり資本市場を活用して企業買収・売却を進めるしかないだろう。
ところが日本の企業買収は、GDP(国内総生産)の2.5%程度しかない。2006年のライブドア・村上ファンド事件のころは、こうした傾向にも変化が起こるかと思われたが、司法が介入してつぶしてしまった。その後は金融危機などもあって、日本の資本市場は極端に沈滞し、外資系ファンドも次々に撤退している。これが日本経済の停滞する大きな原因だ。
労働市場と違って資本市場の自由化はすでに進んでいるので、規制改革の効果は大きくない。必要なのは、政府が「モラトリアム」のような衰退産業の保護政策をやめることだ。
特に今後アジア系企業による日本の家電メーカーの買収が増えると思われるが、これを妙なナショナリズムで妨害するのではなく、むしろグローバルな資本市場による企業再編を促進すべきだ。守るべきなのは企業ではなく、そこに働く個人である。
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。