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【第232回】 2012年6月19日
真壁昭夫 [信州大学教授]
スペイン、ギリシャ情勢次第では世界恐慌も?
幻想に囚われたユーロシステムの「本源的な欠陥」
正念場を迎えたスペイン情勢
支援を余儀なくされるユーロ諸国
6月初旬、スペイン政府は国内の金融機関への公的資金注入のため、EUに対して最大1000億ドルの支援を求める声明を発表した。こうした事態の発生はかなり前から予想されていたとはいえ、スペインの金融機関が厳しい状況に追い込まれていることを示すものだ。
それに対してEUは、金融機関への資本注入に使途を限定した上で1000億ユーロの支援を行なうことを表明した。
今回の措置の背景には、スペイン経済が大規模な不動産バブル崩壊後の大規模な不良債権処理に苦しんでいることに加えて、ユーロ圏の通貨や金融政策などに関わる特殊事情がある。
本来、バブル崩壊後の景気低迷期には自国通貨が弱くなり、それに伴って当該国の輸出競争力が少しずつ回復するはずなのだが、ユーロ圏では統一通貨であるユーロが使われているため、どうしても強力な経済力を持つドイツなどの事情に影響されてしまう。
また、スペインの中央銀行はユーロを増刷することができず、短期的には必要資金を外部からの借り入れに依存せざるを得ない。国の借金が増えると、信用力の低下を余儀なくされる悪循環に陥りやすい。
一方、ユーロ圏諸国から見れば、スペインの信用力が低下すると、その悪影響はイタリアにも波及することが懸念される。それが現実のものになると、世界の金融市場や実体経済に大きな痛手が及ぶことが懸念される。ユーロ諸国としても、何とかそうした事態の発生を避ける必要があった。
ただし、今回の措置で、ユーロ圏の信用不安問題は完全に片づいたわけではない。これからも様々な事態の発生が予想される。果たして、ユーロ圏がそれに耐えられるか否か。懸念される要素は多い。
ユーロ圏では、ギリシャを発端として、アイルランド、ポルトガル、そして今回のスペインと、財政状況の悪化などによって支援を決断せざるを余儀なくされた。
一方、支援を提供する側のドイツやオランダといった北欧諸国は、「そうした支援を永久に続けることはできない」と明確に意思表明している。
次のページ>> 支援国と被支援国が相容れない、ユーロの「本源的な欠陥」
相容れない支援国と被支援国
ユーロシステムの「本源的な欠陥」
その支援を受ける側と、支援を提供する側の意識のギャップは足もとでかなり拡大しており、早晩その断層は埋めることが難しいレベルまで達する可能性が高い。支援享受国は、支援なくして経済運営が困難なところまで追い込まれている一方、国民生活にまで外部から干渉されることに強い抵抗感を持つ。
注目されていた17日のギリシャ議会再選挙では、財政緊縮派の新民主主義党が第1党となり、ギリシャ危機はひとまず最悪の状態から脱したかに見える。しかし、支援提供国の関係者は、緊縮策に反発が強いギリシャの国民世論に配慮して、支援条件の緩和などを検討する傍ら、支援に反対する自国民を説得しなくてはならないという、難しい舵取りを迫られる。
支援提供国の国民から見れば、「大切な税金を使って、他の国を助けることは許せない」ということになる。特に、厳格な北欧諸国の人々と、享楽主義的な部分のある南欧系の人々では、明らかに文化が異なる。両者には、もともと相容れない心理的要素が存在していた。
問題は、そうした文化の異なる諸国をまとめる、持続可能=サスティナブルなシステムが存在しないことだ。つまり、現在のユーロのシステムには、本源的な欠陥が存在するのである。
それぞれ競争力や経済構造の異なる17ヵ国をまとめて、円滑に経済運営をするためには、財政統一や、少なくともユーロ共同債などの仕組みをつくっておく必要があった。
ところが、そうしたシステムを持たず、単に対GDPでの財政赤字の水準を維持しさえすれば、ユーロ圏の経済は上手く回るという幻想に囚われてしまったのである。ギリシャ危機の発生を機に、その幻想が崩壊した現在、ユーロ圏諸国は慌てて対症療法を講じているというのが実態だ。
米国のグリーンスパン・前FRB議長は、そうした状況を見て「欧州通貨統合に向けた崇高な試みは失敗だった」と指摘したという。
次のページ>> 信用不安問題の拡大が、世界恐慌の引き金に発展も?
ユーロ導入時より、金融専門家の一部から「異なる産業や文化を持った多くの国を、統一の通貨と金融政策で円滑に運営することは困難」との声はあった。そうした危惧が、リーマンショック以降の不動産バブル崩壊の局面で顕在化したのである。
信用不安問題の拡大が
世界恐慌の引き金に発展も?
しかし、問題はそこに留まらない。ユーロ圏第4位のスペインの牙城が崩れると、その次は第3位のイタリアという連想が浮かんでくる。仮に、ユーロ圏の信用不安問題がイタリアを襲うことになると、ユーロ圏諸国の力でその連鎖に歯止めをかけることが難しくなる。
それは、世界の金融市場にとって大きな脅威になる可能性が高い。また、実体経済にも計り知れないほどのマイナスの影響を及ぼすことが予想される。
イタリアは世界第8位の経済大国であると同時に、わが国、米国に次ぐ世界第3位の国債発行国だ。イタリア政府の債務残高は約1兆9000億ドル(邦貨換算約150兆円)に上る。もし、その債務にデフォルト=債務不履行の懸念が本格化するようなことがあると、世界の多くの金融機関や投資家に多額の損害が及ぶことは避けられない。
金融機関が重大な痛手を受けると、金融仲介機能が低下して、必要なところにお金が回らなくなることが懸念される。そうした状況は、わが国の1990年代後半の金融システム不安を振り返るまでもなく、経済の足を引っ張ることになる。そうした現象が世界的に起きることも考えられる。
イタリアに信用不安の火が燃え広がると、おそらくユーロ圏だけで対処することは難しいだろう。世界的な対応策を検討することが必要だ。その対応策を誤るようなことがあると、ユーロ圏の信用不安問題がリーマンショックの再来、さらには世界恐慌のような事態発生の引き金にもなりかねない。
イタリア政府が抱える債務は総額で約150兆円、一方、現在ユーロ圏が持っている金融安定化基金(EFSF)と、7月に創設される安定化メカニズム(ESM)を合計しても、おそらく7000億ユーロ(約70兆円)程度だろう。
次のページ>> ユーロ共同債や銀行の監督一元化を早急に検討すべき
ユーロ共同債に銀行の監督一元化
欧州に加えて世界的な協調体制が必要
その金額は必要に応じて増額されるだろうが、拠出する国で議会の承認などを必要とするケースが想定され、増額には相応の時間を要することだろう。ということは、不測の事態が発生する場合には、ユーロ圏の枠組みだけでは対処が難しいことになる。
金融市場の参加者は、そうした対応能力について「信用不安の連鎖を食い止めるのは不十分」と見るだろう。またヘッジファンドなどの投機筋から見れば、「信用不安問題をネタにして、イタリア国債などを売り込めば儲けられる」という意識が高まるかもしれない。
そうした投資家などの心理が一挙に爆発すると、金融市場は短期的に大きく混乱するだろう。金融市場が不安定化すると、それは実体経済にも伝播するはずだ。
それを防ぐためには、投資家が安心し、投機筋が「売っても勝てない」と観念するような体制をつくることが重要だ。具体的には、主要国が一致団結して、有効な対応策を迅速に実行できるようにすることだ。
そのためには、まずユーロ圏内でできることを実行すべきだ。ユーロ圏内でユーロ共同債の発行や、銀行の管理・監督を一元化する銀行同盟の実現に向けて、努力しなければならない。
特にユーロ圏の盟主であるドイツは、問題解決に向けてリーダーシップをとると同時に、「何でも反対」のスタンスを改める必要がある。ドイツが問題解決に向けて積極関与するならば、スペインやイタリアの信用不安問題はかなり改善するはずだ。
それに加えて、米国やわが国、さらには中国などの主要国が、積極的に関与する用意があることを十分に示すべきだ。そうした体制ができれば、投資家の不安心理はかなり収まるはずだ。それが実現できれば、リーマンショックや世界恐慌の再来を防ぐことが可能になるはずだ。
質問1 欧州危機は食い止められると思う?
思う
思わない
どちらとも言えない
http://diamond.jp/articles/-/20179
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