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携帯インフラ、外資が席巻
2012年6月15日 金曜日 白石 武志
日本の携帯電話インフラ市場を、海外メーカーが席巻している。グローバル調達の流れに乗り、国内勢をシェアで逆転した。日本勢は世界市場に乗り出せないばかりか、国内市場からも閉め出されようとしている。
「私がこの会社に来た5年前は、本社の外国人幹部なんて、誰も日本に来なかったんですけどね」。フィンランドに本社を置く無線通信機器大手、ノキアシーメンスネットワークスの小津泰史日本法人社長は、日本市場への注目がにわかに高まり始めたことに隔世の感を禁じ得ないという。
三菱電機出身の小津氏がノキア日本法人に入社したのは2006年のこと。翌年、独シーメンスとの事業統合でノキアシーメンスが誕生、その日本法人社長に就任した。以来、携帯電話基地局などの通信設備を営業してきた。
ただ、当時は「iモード」をはじめとする日本独自の「ケータイ文化」の全盛期。海外メーカーの存在感は薄く、親会社であるノキアは2009年に日本の携帯端末市場から撤退を決めている。無線通信機器を手がけるノキアシーメンスにとっても、日本法人はアジア・太平洋地域内の営業拠点の1つという位置づけにすぎなかった。
「ガラパゴス」の終焉
ところが1〜2年前からスマートフォンが本格的に普及し始めると、状況は一変した。データ通信量の伸びが大きいため、ノキアシーメンスは今年に入り、日本を北米・韓国と並ぶ「最重要マーケット」に指定。日本法人を本社直轄に昇格させて、ラジーブ・スーリCEO(最高経営責任者)が頻繁に日本を訪れるようになった。
5月下旬、今年3回目となる来日を果たしたスーリCEOは東京都内で開かれた携帯電話業界の見本市で基調講演し、日本の研究開発人員を2割増やすと発表。5月31日には総務省を初めて訪問し、日本の携帯電話市場により深く関わっていく方針を同省幹部に伝えている。
ノキアシーメンスだけではない。スマホの普及が進む日本に今、海外メーカーが熱い視線を投げかけている。データ通信量の増大に対応するため、携帯電話各社がインフラ投資を積極的に進めていることが最大の理由だ。
通信業界の調査を手がけるMCAによると、2012年度の国内携帯電話5社の設備投資額は計1兆5660億円に上り、前年度比で2%増加する。国内の電機・IT(情報技術)業界が円高の影響で不振にあえぐ中、数少ない成長分野となっている。
かつては、独自規格にこだわって「ガラパゴス」と揶揄された日本の携帯電話だが、近年は国際標準の通信規格に舵を切り、端末や無線通信機器のグローバル調達を加速している。このことが、海外メーカーが雪崩を打って参入する構図を作っている。
特に、国内携帯各社が導入を急ぐ次世代規格「LTE」のインフラ商戦では、NTTドコモを除く3社に海外メーカーが大きく食い込んでいる。中でもソフトバンクモバイルとイー・アクセスは主要な通信機器を欧州や中国の通信機器メーカーだけで賄う方針だ。
ソフトバンクとLTEシステムで契約を結んだスウェーデンの無線通信機器世界最大手、エリクソンは横浜市内に顧客企業向けの試験施設を新設した。日本法人のヤン・シグネル社長は「ソフトバンク以外の通信会社とも取引を拡大して、市場の伸びを上回るペースで成長を遂げたい」と意気込む。
MCAによると、国内の携帯基地局市場におけるノキアシーメンスとエリクソンのシェアは2010年度にそれぞれ30%超に達した。一方、NECのシェアは10%。「ガラパゴス」から脱却した日本に、国際標準の設備が次々と上陸し、市場を席巻している。
過熱する価格競争
日本で猛威を振るう欧州メーカーだが、海外市場では中国勢の台頭に苦戦している。特に華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)との価格競争が激しく、エリクソンの2012年1〜3月期のネットワーク機器部門の売上高営業利益率は前年同期の17%から6%まで低下した。
2007年の発足以来、不振が続くノキアシーメンスは昨年秋に全従業員の2割強に当たる1万7000人の削減策を発表。欧州など一部地域では、収益が薄い固定通信機器事業から撤退する。
雇用悪化につながりかねない激しい競争は、欧州連合(EU)内に保護主義を台頭させる危険も指摘される。5月下旬、ファーウェイとZTEの2社が中国政府の補助金を利用してEUでダンピング(不当廉売)を行い、欧州委員会が調査を進めていると報じられた。
ファーウェイは「ダンピングも中国政府からの不正な補助金もない」と否定のコメントを出し、報道内容に異議を唱えている。中国政府が欧州メーカーに報復措置を取るとの観測も出ており、政治的な緊張が高まっている。
世界市場でこのような厳しいコスト競争を繰り広げる海外メーカーにとって、研究開発費だけで年間約1000億円が携帯電話事業者からメーカーに流れている日本の無線通信機器市場は魅力的に映る。前期に1102億円の最終赤字に陥ったNECも、キャリアネットワーク部門は8.9%の営業利益率を維持しており、肥沃な大地が広がる。
もっとも、日本で潤沢な設備投資が今後も続くという保証はない。富士キメラ総研の2011年の調査によると、携帯電話基地局の国内市場は2012年度の4000億円をピークに減少に転じ、2015年度は1800億円まで減少する。同社の中原隆治研究員は「LTEの投資が一巡すれば、携帯電話事業者は設備投資を一斉に抑制し始める」と見る。
ノキアシーメンスやエリクソンは日本での実績を武器に、新興国で新たなLTEシステムの受注につなげる戦略を描いている。だが、日本市場に依存し切っている国内メーカーは、その後の道筋が見えない。高い利益水準を維持している間に、新たな成長戦略を策定しなければ、日本市場が海外メーカー飛躍の踏み台となるだけで、残された国内通信産業は衰退の瀬戸際に追い込まれかねない。
ラジーブ・スーリ ノキアシーメンスネットワークスCEO に聞く
「設備投資抑制、課題解決にならない」
問 なぜ今、日本市場に注力するのか。
(写真:山本 琢磨)
答 日本の通信市場は今なお、技術や品質面で世界の先頭にある。新技術の導入が進む日本で実績を重ねることができれば、ほかの地域での顧客獲得にもつながると期待している。
問 2013年度以降は、日本の携帯インフラ市場が縮小すると見られる。
答 次世代規格「LTE」の投資が一巡しても、設備の運用・保守や合理化などの面で、今後、新たな投資が必要な分野が必ず出てくる。日本市場の縮小を恐れていないし、そうなっても、シェアを高めることで対応するだけだ。
問 再建計画の進捗状況は。
答 1万7000人の削減を柱とする再建計画は、予定通り2013年末に完了する。対象は90カ国で、多くは欧州だ。成長が続く日本では人員削減は行わない。これで年間10億ユーロのコスト削減を見込んでいる。
再建に必要な資金を確保するため、株主に10億ユーロの増資を引き受けてもらい、銀行団からは15億ユーロの融資を受けた。足元の資金は潤沢で、今後数年間は親会社の援助が必要になることはない。
問 株式公開の計画は。
答 これは株主の決定事項だ。経営陣は早く財務面で独立した企業になれるよう収益改善に努力している。
問 日本に限らず、世界の携帯電話事業者が設備投資の抑制に走る。
答 今後、多様なニーズに対応するためには、通信容量の拡大だけでなく、契約者ごとに通信品質を制御するためのネットワークの進化も欠かせない。携帯事業者にとって、設備投資の抑制では、課題の解決にならない。技術進歩によって、世界の通信機器市場が成長を続けると楽観的に考えている。
時事深層
“ここさえ読めば毎週のニュースの本質がわかる”―ニュース連動の解説記事。日経ビジネス編集部が、景気、業界再編の動きから最新マーケティング動向やヒット商品まで幅広くウォッチ。
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白石 武志(しらいし・たけし)
日経ビジネス記者。
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