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孤住から混住へ――人口減少社会への処方箋「コレクティブハウス」のメリット
20世紀後半の「わが国の軌跡の半世紀」を実現した原動力は、人口の増加とそれを基因とした高度成長であった。これに対して、21世紀のわが国は、人口の減少と経済の低成長という歯車の逆回転に直面している。歴史上、人口が減少し続けて、なお栄えた国や地域があったことは、寡聞にして知らない。
わが国にとって、最大の政策課題は、必死に人口を増やす施策の総動員であることは、以前の当コラムで述べた通りである。しかし、人口の増加には、一定の時間を要する。それまでは、ある程度人口の減少を所与して、様々な政策を立案していしか、方法がない。
1人暮らし世帯をどうするか
最新の国勢調査(2010年)によると、1人暮らし世帯(32.4%)と、シングルペアレント世帯(8.7%)を合わせて、実に4割の世帯が大人一人で居住している事実がうかがえる。いわゆる「孤住」である。高齢者の孤独死をはじめとして、孤住に伴う様々な問題点が指摘されているが、20世紀のわが国は、ほとんどの世帯がカップルと子どもで構成されており(いわゆる核家族)、孤住は全くの少数派で、大きな社会問題となることはなかったのである。これが一転して、わが国では孤住が最大のグループとなってしまったのである。
東アフリカのサバンナで生まれたホモ・サピエンスは、数十人の群を1つの単位として、生活を営んでいたと言われている。人間は集団生活が自然な姿であって、助けを必要とする子どもや高齢者は、集団で面倒を見ることが、普通の状態であったのだ。人間の長い歴史を紐解いても、孤住が極めて特異な現象であることは、容易に見てとれよう。極論かも知れないが、孤住という不自然な生活様式は、人間を少しずつむしばんでいくのではないだろうか。
では、どうすればいいのか。1つの解は、コレクティブハウスであると考える。すなわち、共通のダイニングルームとリビングルームを持ち、寝室は個室とした共同住宅を大量に供給していくことである(公営住居をコレクティブハウスにすることについては、以前の当コラムで書いたので、参照してほしい)。
次のページ>> コレクティブハウスの3つのメリット
コレクティブハウスには、大別して3つの大きなメリットがあると考える。まず、飲食を共にすることによって、住民間に強い連帯意識が生まれることである。昔から、「同じ釜の飯を食った仲間」という言葉があるように、人間が互いを理解するためには、飲食を共にすることが一番の早道である。互いをよく理解すれば、助け合いや共助の気持ちが自ずと芽生えてくるだろう。即ち、コレクティブハウスは、新しいコミュニティである疑似家族のようなものを生み出す母体となる可能性が高いのだ。
2つ目は、多様性・ダイバーシティの視点である。様々な職業やバックグラウンドを持つ人々が集うことによって、互いが刺激を受け、啓発される効果が期待される。人間の能力を高める1つの鍵は、異質な社会に触れて、そこに身を置くことであるが、コレクティブハウスは、そういった場をも同時に提供するのである。コレクティブハウスに、例えば何人かの外国人が居住していればなおさら、そういった効果は高くなるだろう。
3つ目は、行政コストの削減である。これは、例えば過疎化した市町村で、高齢者が孤住しているケースと、コレクティブハウスに居住しているケースを想定すれば、どちらが介護等の行政コストが低くなるかは、一目瞭然であろう。最近ではアメリカでも郊外に広く拡散した街を、コンパクトシティというコンセプトで、中心部にまとめて再開発しようという気運が高まっていると聞いているが、コレクティブハウスは、コンパクトシティ建設の1つの有力な要素にもなり得るのではないか。
この他にも、コレクティブハウスは、いわゆる「婚活の場」を提供することにより、カップリングを容易にするという効用もありそうだ。そういえば、英国のウィリアム王子とキャサリン妃が愛を育んだのも、ルームシェアがそもそもの始まりだった。
次のページ>> 良質なコレクティブハウスには固定資産税の減免を
先進国では、住居の供給は主として、民間の仕事である。一般に民間のビジネスに介入するときは、上手く仕組み化、即ち、インセンティブを適切に付与することによって、政策誘導していくことが政治の基本である。そうであれば、良質なコレクティブハウスを供給していくためには、どうすればいいのか。私見では、地方自治体が町づくりの基本理念に照らして固定資産税を減免することが、一番即効性が高いと考える。
ところで、良質なコレクティブハウスとは何か。前述したコレクティブハウスの3つのメリットを勘案すると、最大の条件は、住民の多様性の確保であると考える。
例えば、東京のような大都市であれば、十分な広さを持つダイニングルームとリビングルームに加えて、「外国人5%以上、高齢者10%以上、若者(20代・30代)20%以上」のような条件を満たすコレクティブハウスに限って、固定資産税を減免すれば、民間の住宅業者は競って条件を満たすコレクティブハウスの供給に注力するのではないか。
また、高齢化が進んでいる地方であれば、「若者20%以上」のような条件だけでいいかもしれない。この他にも、コンパクトシティを推進する上で、建設地域を限定する方法も、もちろんあるだろう。
最近、東京では、主として単身の若者を対象としたコレクティブハウスが生まれつつある。孤住の象徴のようなワンルームマンション等に比べれば、もちろんはるかに好ましい流れではあるが、コレクティブハウスの魅力を最大限に発揮させるためには、何よりも多様な居住者の「混住」こそが、望ましい。
単身の若者のみならず、カップルやシングルペアレント、外国人、高齢者等が混住してこそ、私たちは互いに本当に人生の「多様な生き方」を学ぶことができるのではないか。そうであえば、固定資産税の減免等、上手く政策上のインセンティブを働かせることによって、少子高齢化社会における新しいコミュニティの母体となる可能性を秘めたコレクティブハウスを、健全に育てていくことが、わが国の都市政策上、極めて重要な課題であると考える次第である。
ここまで書いてきて、20世紀を風靡したル・コルビジュエの光り輝く都市の中核を成すゾーニング(住み分け)の概念に対して、ジェーン・ジェイコブスが「混在」を主張し、激しく対峙したことを(「アメリカ大都市の死と再生」)、想起した。
(文中、意見に係る部分は、すべて筆者の個人的見解である)
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「出口治明の提言:日本の優先順位」の最新記事 バックナンバー一覧
第51回 孤住から混住へ――人口減少社会への処方箋「コレクティブハウス」のメリット (2012.06.12)
第50回 「大きな政府、小さな政府」と 国の競争力は関係があるか (2012.06.05)
第49回 少子高齢化時代の社会保障の在り方を考える ――改革を「世代間対立」にしないために (2012.05.29)
第48回 放棄された郵政完全民営化路線 小泉改革とはいったい何だったのか (2012.05.15)
第47回 「一票の格差」は早急に是正されるべきだ (2012.05.08)
http://diamond.jp/articles/-/19886
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