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The Economist
日本の産業空洞化:どれほど深刻か
2012.06.12(火)
日本の産業空洞化は、懸念されているほど全面的でもなければダメージも大きくないかもしれない。
今や30年も続く日本経済の「空洞化」が加速しているとの認識が広まっている時だけに、日本の実業家は、自分たちに勝ち目はないと感じているに違いない。
日本のメーカーはずいぶん前から、変化の激しい世界に取り残されていると批判されてきた。リスクを嫌う経営、動きの鈍い意思決定、収益性より市場シェアを重視する姿勢のために、動きの素早い韓国や中国のライバルに追い抜かれた。
コンサルティング会社デロイトの久保島悠氏の言葉を借りれば、日本企業は事業を展開する市場でのグローバル化を受け入れたが、経営をグローバル化しなかったために10〜20年の時を失った、という。
しかし、2011年3月11日以後、日本の企業はほぼ正反対の理由から非難を浴びている。巨大地震と津波、その後の原発事故への対応が早すぎるというのだ。
震災後に高まった海外移転圧力
そのため、朝日新聞前主筆の船橋洋一氏は、ベテラン経営者たちは震災後、事業計画を論じる際に「中国」という言葉を出さないように注意していた、と書いている。自国での災害を逃れて中国に生産を移すのは不適切で愛国的でないと見なされていたからだ。
日本企業を研究するカリフォルニア大学サンディエゴ校のウルリケ・シェーデ教授によれば、日本のメーカーは既に生産の5分の1を国外で行っている。電機分野ではその割合は30%を超え、自動車では半分を超えている。
悲観論者は、この流れにより日本は脱工業化の荒廃の中に取り残されると懸念している。大手自動車メーカー、トヨタ自動車の豊田章男社長は5月に、日本の「産業と雇用は崩壊寸前だ」と嘆いた。
日本の産業の衰退ペースは、ほかの一部先進国よりもずっと緩やかだった。経済協力開発機構(OECD)のデータによれば、2000〜08年に、米国の製造業の雇用は2割、英国では4分の1減少したのに対し、日本の減少は約1割だった。それでも悲観論者は、かつては輸出大国だった日本が、今では毎月貿易赤字を出していると指摘する。
2011年の大震災は日本のメーカーを海外に移転させる圧力を高めた。ここ数年、経済の弱さに反して円高が続いている。大震災直後には、先進各国の中央銀行が協調介入しなければならなくなった。円を支えるためではなく、これ以上円が高くなるのを抑えるためだ。
エコノミストの間には、円も永遠には重力に逆らえないとの見方もある。しかし、大半の企業は、いつ終わるか分からない綱渡りを考えながら計画を立てなければならない。
日本自動車部品工業会(JAPIA)の橋武秀氏は、円安の希望は捨てたと語る。大手電機メーカーのソニーは、生産のグローバル化に長年取り組んできた。ドル建てのコストの割合を増やしてきた結果、円とドルの為替変動から受ける影響は「ほぼゼロになった」という。しかし、コストをユーロ圏に移すのはもっと難しく、対ユーロで円が1円上昇するごとに、営業利益は600億円失われる。
新たな懸念材料は電力だ。福島の原発事故の前まで、原子力発電は日本の総電力需要の30%近くを賄っており、政府は2030年までにこれを50%にまで引き上げる計画だった。2012年5月には、数十年ぶりに全原発が停止し、以後その状態が続いている。比較的安い電力が安定して供給されることは、もはや当たり前ではなくなった。
円高と電力供給以外にも懸念材料は数多く存在する。今後も地震のリスクは消えない。特に、東京の「大震災」はずっと以前から懸念されている。人口減は国内市場の縮小を意味する。法人税は高く、労働市場は硬直化している。また、他国が競うように2国間や地域の自由貿易協定を結んでいる時に、日本はほとんど傍観者となっている。
国外脱出を減速させる要素
しかし、国外脱出を減速させる要素も多くある。第1に、影響を受けやすい産業では既に生産の大部分が国外に移っている。
加えて、どこに移すかという難問もある。中国は急成長する巨大な経済が吸引力となり候補地の筆頭に挙げられるが、人件費の高騰、法制度、知的財産権についての懸念、最近の景気減速などが懸念される。さらには、権力闘争の兆候もあり、政治的安定性も不安材料だ。
日本が好んで海外投資してきたほかの国々も問題を抱える。移転先として人気のあるタイも、安定という点では模範的とは言い難い。日本で津波の被害を受けた同じ年、多くの日本企業がタイでも洪水でサプライチェーンを寸断されるという事態に見舞われた。「50年に1度」の災害と言われるが、すぐにまた洪水が起こるのではないかと心配する声も多い。
そのため、一部の企業にとっては、生産を日本に残しておくことも依然として魅力的な選択肢だ。トヨタの豊田社長は5月に、日本に大規模な生産施設を残すと約束した。トヨタの広報担当者の土井正巳氏は、2012年は960万台を生産する計画だが、そのうち340万台は日本で製造し、その半分近くを輸出するという。
エコノミストの間には、円も永遠には重力に逆らえないとの見方もある。しかし、大半の企業は、いつ終わるか分からない綱渡りを考えながら計画を立てなければならない。
日本自動車部品工業会(JAPIA)の橋武秀氏は、円安の希望は捨てたと語る。大手電機メーカーのソニーは、生産のグローバル化に長年取り組んできた。ドル建てのコストの割合を増やしてきた結果、円とドルの為替変動から受ける影響は「ほぼゼロになった」という。しかし、コストをユーロ圏に移すのはもっと難しく、対ユーロで円が1円上昇するごとに、営業利益は600億円失われる。
新たな懸念材料は電力だ。福島の原発事故の前まで、原子力発電は日本の総電力需要の30%近くを賄っており、政府は2030年までにこれを50%にまで引き上げる計画だった。2012年5月には、数十年ぶりに全原発が停止し、以後その状態が続いている。比較的安い電力が安定して供給されることは、もはや当たり前ではなくなった。
円高と電力供給以外にも懸念材料は数多く存在する。今後も地震のリスクは消えない。特に、東京の「大震災」はずっと以前から懸念されている。人口減は国内市場の縮小を意味する。法人税は高く、労働市場は硬直化している。また、他国が競うように2国間や地域の自由貿易協定を結んでいる時に、日本はほとんど傍観者となっている。
国外脱出を減速させる要素
しかし、国外脱出を減速させる要素も多くある。第1に、影響を受けやすい産業では既に生産の大部分が国外に移っている。
加えて、どこに移すかという難問もある。中国は急成長する巨大な経済が吸引力となり候補地の筆頭に挙げられるが、人件費の高騰、法制度、知的財産権についての懸念、最近の景気減速などが懸念される。さらには、権力闘争の兆候もあり、政治的安定性も不安材料だ。
日本が好んで海外投資してきたほかの国々も問題を抱える。移転先として人気のあるタイも、安定という点では模範的とは言い難い。日本で津波の被害を受けた同じ年、多くの日本企業がタイでも洪水でサプライチェーンを寸断されるという事態に見舞われた。「50年に1度」の災害と言われるが、すぐにまた洪水が起こるのではないかと心配する声も多い。
そのため、一部の企業にとっては、生産を日本に残しておくことも依然として魅力的な選択肢だ。トヨタの豊田社長は5月に、日本に大規模な生産施設を残すと約束した。トヨタの広報担当者の土井正巳氏は、2012年は960万台を生産する計画だが、そのうち340万台は日本で製造し、その半分近くを輸出するという。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35424?page=3
真壁昭夫 [信州大学教授]
崖っぷち日本の産業は中国や韓国にまだ勝てる!
“軽薄短小”への原点回帰こそが、復活への道
中国、台湾、韓国に追い上げられても
インフラ投資関連では比較優位性を維持
わが国の産業界を取り巻く経済環境は、一段と厳しさを増している。自動車や高級デジタルカメラなど、一部組み立て型産業や素材などの分野で善戦しているものの、IT関連製品は次々にヒット商品を生み続けるアップルの後ろ姿が見えなくなっている。
それに加えて、ライバルである韓国や中国、台湾企業の台頭は目を見張るものがある。すでに、有機EL技術などでは韓国などの後塵を拝する状況に追い込まれている。
こうした状況を打開するため、わが国企業は何をすればよいのだろうか。それには、2つの選択肢がある。
1つは、現在でも優位性を維持している分野でさらに競争力を付けることだ。素材産業やインフラ関連の分野では、今でもわが国企業が比較優位性を維持している分野がある。それらをさらに磨いて、ライバル企業の追随が難しいほどの競争力を付けるのである。
特に、わが国が相応の優位性を持つインフラ投資関連の建設、土木、水関連、運輸、通信などは、今後、アジアの新興国にとってどうしても必要な分野だ。その需要を取り込めばよい。
もう1つは、微細なモノ作り、“軽薄短小”と呼ばれる分野への回帰だ。もともと、わが国はそうした分野の技術を得意としている。振り返ると、1970年代以降の2回にわたるオイルショックを経験した後でも、わが国の産業界は“軽薄短小”の技術力で世界の工場としての地位を確固たるものにした。
その原点に回帰する発想によって、もう一度、わが国産業の優位性を復活するのである。企業の現場の技術者と話していると、“軽薄短小”の発想は、わが国経済再生の重要なヒントになると感じる。
1980年代、わが国は“世界の工場”と称された。わが国でつくる自動車や電気製品の多くは、高いシェアを占め、世界市場を席巻する勢いがあった。
次のページ>> 自動車や一眼レフデジカメなど、精密技術には比較優位性あり
現在、“世界の工場”の地位は、残念ながらすでに中国に移ってしまった。特に、部品を組み立て製品をつくる、いわゆるアッセンブリー部門では、中国企業が安価な労働力を武器に圧倒的な地位を占めている。
一方わが国は、高度な技術を必要とする部品や素材などの分野で、今でもしっかりしたポジションを占めている。自動車用のマイコンやICチップの基盤などの分野では、わが国企業は高いシェアを維持している。その他にも、つくるのに特殊な技術を必要とする炭素繊維などの素材部門でも、わが国企業は優位性を維持している。
また、組み立て型の産業分野の中でも、自動車や高級デジタルカメラなどの分野では、依然として高いシェアを維持している。何故、自動車や高級デジタルカメラで優位性を保っていられるのだろうか。
自動車や一眼レフデジカメの優位性
精密技術にはまだ一日の長がある
その要因は1つではないだろうが、最も重要なファクターは、自動車や一部のデジタルカメラでは、日本の高い技術力を生かせる余地が多いことがある。1台の自動車には、およそ3万点以上の部品が使われているという。多くの細かい部品を、精密に組み立てる技術にわが国企業の業を生かすことができる。
また、一眼レフなどの高級デジタルカメラでも、小さなスペースに微小な部品を精緻に詰め込む組み立て工程には、わが国が得意とする“モノ作りのカルチャー”を十分に発揮することができる。
こうして見ると、わが国企業が持つ競争力も決して捨てたものではない。ユニット型の部品を単純に組み立てる産業では、人件費の安い中国企業にはかなわないかもしれないが、精密な技術を生かす分野であれば、今でも十分競争力を発揮することができる。
“軽薄短小”とは、製品を“より軽く”、“より薄く”、“より短く”、そして“より小さく”することだ。反対の概念に、“重厚長大”という言葉がある。たとえば“重厚長大”型産業とは、鉄鋼や金属、造船や化学工業など、扱う製品が重くて、厚くて、長くて、大きい産業分野を言う。
次のページ>> 2度のオイルショックで“軽薄短小”へと産業構造が変化
オイルショックで産業構造が変化
“軽薄短小”への回帰が復活への道
わが国は、戦後の経済復興期には、社会のインフラ投資の必要性などから“重厚長大”型の産業分野の発展に注力した。しかし、1970年代前半からの2度にわたるオイルショックによって、次第に産業構造は変化していった。
その流れの1つの特徴が、“重厚長大”から“軽薄短小”への発想の転換だったと言えるだろう。
もともと国土の狭いわが国の人々は、狭いスペースを上手く使う知恵を持っていた。たとえば、今は家庭でもベッドが普及したが、以前は夜、畳の部屋に布団を敷いて休み、朝になるとその布団を畳んで居間に替えることを工夫した。そうすることで、狭い家を広く使うことが可能になった。
そうした発想を生かして、わが国企業は、製品を軽く、薄く、短く、そして小さくすることが得意と言われてきた。そうした発想は、一時“縮み”の文化と表現されることもあった。
海外で生活した経験を振り返っても、日本人の手先の器用さは特筆ものだったことを鮮明に覚えている。小さな皿に食材を繊細に盛り付ける和食や、本来大きくなる植物を小さな鉢の中に凝縮する盆栽、さらには、限られたスペースの中に壮大な世界観を表現する庭園などから、日本人の特質を感じ取ることができる。
産業分野でも、製品を“軽薄短小”にすることで、持ち運びを便利にしたり、生産・運送のコストを下げることに成功してきた。それは、わが国経済の成功に大きく寄与した特質の1つと言える。
バブルが崩壊した後の失われた20年間、わが国企業の発展を抑制した要因の1つに、わが国企業が自分の持っている技術を有効に使えなかったことがある。せっかく高い技術を持っているにもかかわらず、その技術を収益力に結びつけることができなかったのである。
次のページ>> 中国や韓国に追い抜かれた理由を考察し、「原点回帰」を
なぜ中国や韓国に追い抜かれたのか?
世界の消費者が欲しがる“モノ作り”を
その背景に、主に2つの要因があると思う。1つは、自分の持っている精緻な技術力に酔ってしまったことだ。「自分たちが持っている技術で、これもできる、あれもできる」という感覚を持ってしまい、本当に消費者が欲しがる製品を作ることができなかったのかもしれない。
友人の1人は、日本製の携帯電話機について、「めったに使わない機能までついているため、電池の消費量が多くて困る」と指摘していた。彼の感想が、消費者全体を代表しているか否かは定かではないが、少なくともそうした意見があることは間違いない。そして彼は、「日本製よりも、韓国製の方が使いやすい」とも言っていた。
もう1つのファクターは、わが国の場合、国内のかなり大きな規模の市場があるため、メーカーとしても国内消費者を念頭に置いて製品開発を行なうケースが多いことだ。
わが国には1億2000万人を超える人口がある。それだけの購買力が国内市場に存在する。海外市場で通用しない製品が生み出されるケースもあった。いわゆる“ガラパゴス現象”だ。
一方、韓国の人口は約5000万人。国内に5000万人の消費者しかいない。それ以上に販売実績を伸ばそうとすると、世界市場を念頭に置く必要がある。韓国企業は製品開発を行なうとき、世界の消費者を想定して開発を行なわざるを得ないのである。
しかし、わが国企業が成長のチャンスを失ったわけではない。むしろ、わが国が得意とする“軽薄短小”のカルチャーを思いだして、その技術を使えばよい。その技術で、世界の消費者が欲しいと思う製品群を生み出すのである。
私が話を聞いた現場の技術者の多くは、「それはできる」と自信を持って答えていた。その言葉を信じたい。
質問1 日本には、中国や韓国に勝てる技術がまだたくさんあると思う?
http://diamond.jp/articles/-/19889
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