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国債バブルが破綻するとき   超円高に直面する日本、1995年の再来か−リスク回避で円買い圧力
http://www.asyura2.com/12/hasan76/msg/476.html
投稿者 MR 日時 2012 年 6 月 07 日 12:31:26: cT5Wxjlo3Xe3.
 


http://diamond.jp/articles/-/19677
野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問] 

国債バブルが破綻するとき

 日本の10年国債の利回りが、ついに0.8%台を割り込んだ。欧州金融危機を逃れた資金がアメリカ、日本、ドイツの国債に流入していると言われる。これらの国の長期金利は、歴史的な低金利水準だ。
 日本銀行による国債購入は、札割れの事態に陥った。日銀が国債を買おうとしても、銀行が売らないのだ。このため、マネタリーベースを計画通りに増やせない状況に陥っている。

流動性トラップでなく国債バブル

 国債への需要が強いのは、今後も国債価格が上がる可能性があると考えられているから。つまり、将来、金利はまだ下がると予測されているのである。
 これは、流動性トラップとは逆の状況である。
 流動性トラップとは、貨幣(流動性)に対する需要が無限大になっているため、貨幣供給をいくら増やしてもトラップに吸い込まれてしまい、金利が低下しない状態だ。こうなるのは、金利が非常に低い水準に落ち込んでいるため、将来の予想としては金利の上昇(国債価格の下落)しか考えられないからである。したがって、国債に対する需要が発生しないのである。
 ところが、現在の日本では、国債に対する需要がきわめて大きくなっている。これは「日本国債バブル」と呼びうる状況である。
 後に述べるように、日本の財政状況はきわめて悪い。それにもかかわらず国債に対する需要がこのように大きいのは、不自然である。これはヨーロッパの金融危機がもたらした異常な事態であるが、日銀による国債購入がバブルをあおっている面も否定できない。
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次のページ>> 日銀が金融政策を発動したくともそれができない

 金融緩和政策が効果を発揮するには、つぎの3つの段階を経る必要がある。
 1.国債買い入れ等によって、マネタリーベースを拡大する。
 2.それが「信用乗数(貨幣乗数)過程」を通じてマネーストックを増大させることを期待する。
 3.それによってLM曲線(注1)が右にシフトし、金利が下落することを期待する。 
「流動性トラップ」は、1、2が働いても3が働かない状態である。
 これまでの量的緩和でわかったのは、「1が働いても2が働かないことがありうる」ということだ。
 国債札割れが示唆しているのは、「1が機能しないこともありうる」ということである。つまり、「日銀が金融政策を発動したくともそれができない」ということだ。
 こうした状況下においても、より長期の国債を購入したり、買い入れ条件を緩和する、日銀当座預金の利子率を引き上げる、等の方策によって緩和策を強行することはできる。
 しかし、それらの措置は、効果がないだけでなく、国債バブルをあおるだろう。そして、以下に述べるような将来のリスクを増大させるだろう。

(注1)LM曲線は、資産市場の均衡を表している。名目貨幣供給量と物価水準を所与としたとき、所得が増加した場合に均衡が達成されるためには、金利が上昇しなければならない。なぜなら、所得が上昇すると貨幣に対する取引需要が増加するため、一定の名目貨幣供給量の下では、金利が上昇して貨幣に対する資産的需要を抑える必要があるからだ。したがって、縦軸に金利、横軸に産出量(所得)をとった図において、LM曲線は右上がりの曲線になる。

金利上昇による
財政破綻はあるか?

 現在の日本では、資金が日本に流入することに伴う円高が問題とされている。しかし、真に恐ろしいのは、国債バブルが崩壊した場合の金利上昇がもたらす諸問題である。
 民間金融機関が保有する国債の損失については、前々回述べた。
 問題は、それにとどまらない。
 まず、日銀の資産が劣化する。国債の高値買いをしていることになるからだ。購入国債の残存期間を現在より長期化していけば、前々回述べたデュレーションの計算から、損失額が増加する。

次のページ>> 国の国債費負担が増加する

いま1つの問題は、国の国債費負担が増加することである。これについて以下に述べよう。
(1)長期的効果
 2012年度末における普通国債残高は709兆円程度と見込まれている。以下では、この数字を用いよう。金利水準が1%ポイント上昇した場合の国債費の変化はどうなるだろうか?
 長期的には、残高のすべてについて、利払い費が
  残高×1%=709兆円×1%=7兆円
 だけ増加する。
 これは、かなり大きい。消費税を増税してこれに対処しようとすれば、どの程度の税率引き上げが必要だろうか?
 現在の日本の制度では、消費税の税率を1%引き上げると2.5兆円程度の税収が上がる。しかし、そのうち半分程度は地方に回されることになるので、国が使えるのは1.25兆円程度だ。したがって、7兆円を賄うには、税率を5.6%ポイント引き上げることが必要だ。
 現在の日本の諸事情を考えると、これはきわめて困難だ。つまり、金利が1%高まるだけで、日本の財政は長期的には維持できない状態に陥るのである。
(増税で処理できなければ、上記の額を賄うために国債発行が必要になり、それによって国債費がさらに増加し、……といった問題があるので、増加額はさらに膨らむ。これは、「乗数的増加分」と呼びうるものだ。ただし、その効果はそれほど大きくないので、ここでは無視した)。

 これまで日本の財政は、金利の低下によるメリットを享受してきた。今後はそれが期待できなくなるだけでなく、以上で検討したように、金利上昇によって財政負担が増加するリスクを負うことになるわけだ。

(2)即時効果
 ただし、上の効果はすぐには発生しない。金利上昇によって影響を受けるのは、上昇時点以降の新規発行分と借換え債に限定されるからである。借換え期限が到来しない既発債については、発行時点のクーポンレートを支払い続ければよいので、国の利払い額が増加するわけではない。
 いま、毎年度の新規国債発行額は50兆円であるものとしよう(2012年度当初予算における国債発行額は約44兆円であるが、これはいくつかの「粉飾」によるものであり、実態は50兆円を超える)。
 すると、新規債についての1%ポイントの金利上昇による利払い増加額は、
   50兆円×1%=0.5兆円
である。また、借換え債は残高の60分の1程度なので、これに関する利払い増加額は、
   700兆円×(1/60)×1%=11.7兆円×1%=0.117兆円である(ここでも、乗数的増加分は無視した)。
 以上を合計すると、利子支払いの増加額は
   0.5+0.117=0.617兆円
となる。これは、上で見た長期効果の10分の1以下にすぎない。

次のページ>> 重要なのは単年度収支でなく債務残高

 しかし、日本の財政状況を考えると、決して無視できる額ではない。
 さらに、利払い費が2年目以降増えていくことが問題だ。
 2年目には、1年目の支出に加え、新たに借換えになる分についての利払いが増加する。したがって、金利が変化しなかった場合に比べての利払い増加額は、
 0.617+0.117=0.734兆円
となる。そして、これ以降も毎年度0.1兆円強ずつ増えていくわけである。

重要なのは
単年度収支でなく債務残高

 上の議論からわかるように、重要なのは債務残高の大きさである。それが大きければ、金利の上昇から受ける影響が大きくなる。イタリアで問題が起きたのは、そのためである。
 イタリアの政府債務残高の対GDP比は、他のユーロ加盟国に比べて高い。だから、国債の利回りが高まると利払いが膨らみ、それがさらに国債発行額を増加させるという悪循環に陥ったのである。

 日本でもこの問題は無視できない。
 現在の状況がバブルであるなら、いずれ金利は上昇する。

「そうした事態がいずれ起こる」という予想が一般化すれば、人々は日本国債を売却し、金利が実際に上がる。そうなれば、上のメカニズムが実現してしまう。つまり、予想が自己実現するわけだ。
 イタリアの政府債務残高の対GDP比は日本と同じだ。だから、日本の金利がイタリア並みの6%程度になれば、日本もイタリアと同じことになる。
【図表2】に見るように、イタリア10年国債の利回りは、2010年には4%程度だった。それが2011年に5%となり、さらに6%となり、一時は7%になった。この間、イタリア財政のファンダメンタルズが変化したわけではない。予想が変化したためにこうした変化が生じたのである。

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 財政再建の目標として通常言われるのは、単年度の収支である。日本の場合も、長期的な財政再建の指標として言われる「プライマリーバランス(基礎的財政収支)」は、単年度の収支にかかわるものだ。しかし、いかに単年度の収支が改善したところで、債務残高が大きければ、金利上昇によって財政は危機的状況に陥るのである。
 それにもかかわらず、円高で株価も下落していることから、金融緩和の圧力が強まるだろう。「為替介入を(財務省だけでなく)日銀がやるべきだ」との意見もある。
 今後の金融政策のかじ取りは、きわめて難しい。

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自動車や電機など製造業の輸出が落ち込み、日本を支えてきた輸出主導型の経済成長モデルが崩れはじめている。日本は円安・輸出頼みを捨て、新たな成長モデルを確立しなければならない。円高こそが日本経済に利益をもたらす、新興国と価格競争してはならない、TPPは中国との関係を悪化させる、「人材開国」と「金持ちモデル」を目指せ…など、貿易赤字時代を生き抜くための処方箋を示す。

http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M582H36KLVR501.html
超円高に直面する日本、1995年の再来か−リスク回避で円買い圧力

  6月7日(ブルームバーグ):円は債務危機の混乱からの逃避先として、選好され、円の対ドル相場が戦後最高値を更新、低迷する日本経済を一段と悪化させた。これは1995年のことである。
17年前、過去最大の為替介入で円高に歯止めを掛けようとした政策当局者にとって、既視感(デジャブ)を覚えることだろう。当時は円相場は5カ月以内で約30%押し下げられた。当時と同様に、現在も円相場は戦後最高値近辺で推移している。欧州債務危機でリスク回避の買いを集めているためで、円高は東日本大震災からの復興の足を引っ張っている。
唯一の違いは、今回は介入の効果がなさそうなことだ。95年当時は米国と欧州が円売り介入に同調してくれた結果、効果を上げたが、今回は米国が反対している。さらに、介入を難しくしているのは、世界最大の純債権国としての日本の地位だ。ギリシャのユーロ圏離脱懸念が浮上する中、円への投資は増している。
HSBCホールディングスのシニア通貨アナリスト、ポール・マケル氏(香港在勤)は、「逃避先通貨の価値を下げるのは、日本の当局者にとって、非常に困難だ」と指摘。「『衝撃と畏怖』をもたらす断続的な動きは、ごく一時的にしか効果がない」と話した。
単独介入
昨年行われた単独介入は、持続的な効果がなかった。6日の東京市場の円相場は1ドル=79円11銭程度で、3月の今年最安値(84円18銭)を上回った。戦後最高値の75円35銭を付けた昨年10月31日、政府・日本銀行は、過去最大の約8兆円規模の円売り介入を実施。昨年1年間では、介入規模は14兆3000億円強に達した。
逃避先通貨としての円の地位を高めることは、日本の対外純資産価値の増加につながる。ブルームバーグ・ニュースが財務省統計を基に集計したところによると、国内総生産(GDP)に占める比率は昨年12月末時点で54%と、94年末の13%から上昇している。また、GDPの2倍強もの公的債務を抱えながらも、日本は経常黒字を背景にして、国債消化を海外投資家に依存しないで済んでいる。
債券ファンド世界最大手、米パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)の日本部門、ピムコジャパンのポートフォリオマネジメント責任者、正直知哉氏は、ブルームバーグ・ニュースとのインタビューで、「基本的に円高圧力が強い環境が続く」と指摘。円高基調を反転させる「本当のゲームチェンジャーは、財務省の大規模介入と日銀による大規模な量的緩和策の連携に、円相場を押し下げるような宣言の組み合わせだ」と強調した。
日銀の政策
白川日銀総裁には、今年に入り国債購入を20兆円増額した資産買い入れ等基金をさらに積み増す意向を示す兆候はほとんど見られない。先週公表された4月27日の金融政策決定会合の議事要旨では、「消費者物価の前年比上昇率1%が見通せるまでは、機械的に基金の増額を続けていくという誤解が一部にみられる」との言及があった。
白川総裁は過度の金融緩和は資産価格バブルのリスクを高めると主張しており、先月31日の衆院の特別委員会では、為替相場を規定する大きな要因は、グローバルな投資家がどの程度リスクを取れるのか、取れないのかという評価だとの見解を表明。総裁は今月4日に都内で講演し、円高が日本経済に与える影響について「企業マインドに与える影響を含め日銀として注意深く見ている」と述べた。日銀は次回決定会合を14、15の両日に開く。
安住淳財務相は主要7カ国(G7 )の財務相・中央銀行総裁による5日の電話会議で、欧州危機を背景とした円高が日本経済に「非常に悪い影響を与えており、日本として危機感を持っている」と各国に説明。安住財務相が電話会議後に記者団に語ったところによると、財務相はG7が昨年合意した「為替市場における行動に関して緊密に協議し、適切に協力する」などとした方針の再確認を要請し、異論は出なかったという。
記事に関する記者への問い合わせ先:東京 Chris Ansteycanstey@bloomberg.net;東京 Monami Yuimyui1@bloomberg.net;東京 三浦和美 kmiura1@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:Chris Ansteycanstey@bloomberg.net
更新日時: 2012/06/07 10:47 JST
 

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コメント
 
01. 2012年6月07日 16:17:26 : 4r7GKrN8wU
投稿を熟読したわけではないが、現在の状況は完全な供給過剰と所得の低下によるデフレであろう。 単純な意味での所得低下ではなく、富の偏重によってトータルとしての消費需要が低下した状態とも言える。 幾ら通貨の量的緩和を講じても、それが低所得者に分配されず、いたずらに限定された高所得者の投機資金に変わるだけだから、経済規模は通貨の増発によっても拡大することは無い。 既にドイツの国債の一部はマイナス金利となっているように、このままでは日本国債も遠からずマイナス金利の国債が発生する可能性がある。 この状態を、果たして国債バブルと呼べるかどうか疑問である。 むしろ破綻寸前の、極めて危険な状態に陥っていると見なければならない。 経済活動も人間の集団が造り上げるものだから、無意識の支配する集団心理によって動くと考えなければなるまい。 大多数の貧困階級の人たちの心理が、社会にとって好ましい方向に働くとは思い難い。 何かのきっかけがあれば、それはコントロール出来ないままに衝動的に動き出すだろう。 N.T

02. 2012年6月07日 23:37:57 : cqRnZH2CUM

現在の日本では、マネタイズ(財政ファイナス)不安を煽り、投機的な円売りを意図的に狙うのでなければ、
通常の金利低下による量的緩和効果は、ほとんど効果を失っていると言ってよい
(当然、まともな金融政策ではモラルハザードの財政ファイナスは否定される)

結果として、世界中の投資家からの資産逃避と、政治圧力による日銀の量的緩和が、国債バブルを拡大している

そして、バブルというのは、通貨高と低金利を必然的に伴いため、さらなるバブルを煽ることになる

過去の不動産バブルであれば、銀行への融資圧力であり、

今回であれば、さらなる国債発行と公共事業への圧力と、日銀への量的緩和圧力ということになる

しかし円高・国債バブルが大きくなるほど、国内の生産力は破壊され、その反作用としての急激な円安と金利上昇のリスクも巨大になっていく

これを軟着陸させるためには、増税と緊縮財政によって、円安へと誘導することだが、今の状況で、それをできる政治家は存在しないだろう

日本が、今後、中期的に国債バブル崩壊で、悲惨な状況になることは、ほぼ確実だが、それが、いつになるのかは不明だ
(僅かながら、軟着陸できる可能性もある)

ただし、
バブルの時は、バブルに逆らうと損をするのが現実だから

これに備えている投資家は、世界の中でも、現時点では少数派だろう

FRBや日本の過去を見てもわかるように、量的緩和は、投機による一時的な為替安効果はあっても、持続的な効果はなく、
反作用として、インフレによる実質所得の低下と消費減少、そして雇用の停滞を招き易い


03. 2012年6月08日 00:04:02 : cqRnZH2CUM

あと、日銀メンバーを入れ替えて、意図的に財政ファイナスを行うと明言し

池田信夫が常々批判するような、ひどいキャピタルフライトを早めに起すというのも悪くないが

これも国内外の政治的関係からは、絶対に、ありえないだろう


04. 2012年6月08日 00:18:54 : HkDjpRHO9k
>>国債への需要が強いのは、今後も国債価格が上がる可能性があると考えられているから。つまり、将来、金利はまだ下がると予測されているのである。

この出発点が間違っている。

国債への需要が強いのは、貸し出し需要がないからである。

国債が暴落するというが、国債を売ったお金はどうするのか?
利息の付かない日銀券で持っているのか。(笑)
他への投資をするところがないから国債をもっているだけだ。
国債が売られるとき、民間の資金需要が出てくる時であり、それで民間信用創造が復活すれば税収は伸びる。
税収が伸びれば国債を発行しなくて済む。
借り替えなくても良いように政府の仕事をさらに絞ればよい。

大事なことは、民間の資金需要が出るようにすることである。
すなわち、国債の価格が下がるような状況をつくることである。


05. 2012年6月08日 00:21:53 : eEdDplVwaI
まあ、日本では・・・、永久に経済成長が起こらないと云う事が解った。

日銀さん、しろ川さんが「悪い」と言う事ですね。

以上


06. 2012年6月08日 00:28:05 : 3CNLte9sGM

$global_theme_name>ニュースを斬る
今から「日本の財政破綻」を考える

危機で慌てない6つのポイント

2012年6月8日 金曜日 加藤 秀樹(東京財団理事長)、小林 慶一郎(一橋大学教授、前東京財団上席研究員)、加藤 創太(東京財団上席研究員)

 5月に行われたギリシャとフランスの選挙結果が1つの引き金となり、ユーロ危機の状況が深刻化している。6月17日のギリシャ再選挙を前に、ギリシャのユーロ離脱が現実味を帯びて語られるようになった。ユーロは大幅に値を下げ、世界同時株安も進んでいる。スペインでは大手銀行が公的資金導入を要請し、国債の利回りが高騰している。

 欧州においては、市場の動きが先導する形で、EU(欧州連合)など国際機関や他国政府が中心となり、PIGS諸国(ポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペイン)などの対応が決められてきた。ギリシャとフランスでは、その政治の流れに対する反動が現れたといえよう。

 このことから、民主主義の1つの弱点である、「意思決定に時間がかかる」という問題が浮き彫りになっている。ギリシャもフランスも、事前に国民的な討議と合意が、まったく形成されていなかったと言える。そして、相次ぐ財政危機の下で、民主主義への悲観論が世界的に台頭している。加速していく市場の動きに民主主義の動きがついていけないため、市場動向に引きずられる形で、各国の政策が非民主的に決定されていくことになる。それに対する不満が蓄積し、政治反動の可能性が高まっていく。

 本稿では、日本の財政危機の際の対応策をあらかじめ検討していくべきという点を強調するが、こうした市場と民主主義とのスピード差は、事前の対応策が求められる1つの理由となる。危機時にどのように対応すべきかについて、平常時に時間をかけて政治的な合意を得ておくことは、市場と民主主義との調和という点で有意義であるからだ。同時に、危機が近づいた時に、国民が一体となって断固とした対応の実施を表明することで、危機自体を未然に防ぐという効果も期待されよう。

原発事故の教訓、「想定外は許されない」

 各種の試算によれば、現在の日本が抱える財政債務の対GDP(国内総生産)比率は発散経路に乗っている。つまり、今の状態が続けば、日本の財政債務は膨脹し続ける。デフレ下の現状においては現実感に欠けるかもしれないが、最近のギリシャのような急激な財政危機が数年後〜十数年後に発生する可能性が大きいと多くの専門家は考えている。

 財政危機は、国債価格の暴落、政府の資金調達機能の停止、急激なインフレと円安の進行、失業の急増など多重の危機的現象を引き起こす。その場合、ギリシャのように大きな経済的、政治的、社会的なコストが発生するが、そこで発生する膨大なコストを最終的に負担するのは国民である。

 こうした事態にいかに備えるべきか? 原発事故に際しては、事故が発生した後のことを事前に想定していなかったため、対応が遅れて被害と混乱が拡大した。財政破綻の場合は、原発事故よりさらに対応の法的手続きが複雑であり、各種の意見調整も困難を極めることが予想される。「財政危機の発生は想定外」とすれば、原発事故の教訓を無にすることになる。国民心理を過度に慮り、危機の存在を否定し、危機の可能性についての議論をタブー視すること自体が、大きなリスクとなるのである。

 もちろん、危機発生前に財政改革を進める方が国民にとっての負担ははるかに小さくて済む。財政危機を起こさないように日本の政策当局はまず全力を尽くすべきだが、財政危機が発生した場合の対応をあらかじめ考える政策的意義は大きい。

 また、財政危機には、心理的要因が市場を通じて自己増幅する面がある。あるきっかけを通じて市場関係者にパニック心理が広がれば、国債の投げ売りなどが始まり、経済状況に関係なく、財政破綻が現実のものとなってしまうかもしれない。そういった心理的パニックを防ぐためにも、危機時の対応策について事前に国民的合意を得ておくことが重要となる。

 財政危機は、いったん発生すれば急激に進行することが予想される。ただ、政策的に重要なのは、破滅的な状態に至る前の「危機の初期段階」において、事態の進展をいかに食い止めるかである。その観点からも、「危機の初期段階」と「本格的な危機」に分け、それぞれの段階で異なった危機対応を考えていく必要がある。本稿では、財政危機の対応策を考えていく際に何を明確にすべきか、という点について、危機の各段階に応じて論点整理を行いたい。

危機の初期段階への対応策

 有効な対策案を事前に策定する際に重要なのは、対策発動の前提条件となる「危機の初期段階」の判断基準を、あらかじめ関係者の間で認識を一致させておくことである。事前の合意さえあれば、危機時における関係者間の意見調整や連絡の手間が省けるため、より速やかな対策の発動が可能となる。それによって、市場の動揺を未然に防ぐことも可能となる。

 こうした状況に到達したことを判断する際には、必ずしも単一の機械的な数値基準に依る必要はなく、複数の指標を総合することになろう。そのうち下記のような指標については、「危機の初期段階」として想定される数値につき、政策当局者間で共通認識を醸成しておく必要があるだろう。

長期金利:どの水準(パーセント)の金利が、どの程度の期間継続したら、危機の初期段階と言えるのか?
フローの財政収支の長期的展望:算定基準などを事前に合意した上で、どのレベルに達した時点で危機の初期段階と認定するのか?
ポイント1 初期の危機に対する財政面のpreemptive(先制)対応策

 「危機の初期段階」においては、金融機関への資本増強など応急処置的な対応も必要となるが、市場から政府が究極的に求められるのは、財政の持続可能性に対する市場の信認の回復である。

 財政再建への強いコミットメントを示す政策プログラムの実施を、早急に発表する必要がある。具体的な方向性としては、(1)社会保障費も含めた歳出の大幅な削減、(2)消費税を中心とした大幅な増税、という2つの大きな柱の実施を明確に約束することが求められるだろう。財政バランスが長期的に発散しないレベルで国債を発行する状況を金融市場で回復しなければ、財政に対する市場の信認は最終的には回復せず、危機はいずれ再発する。

 「危機の初期段階」において事態の深刻化を防ぐためには、市場から信認されるような財政再建策を遅滞なく提示しなければならない。よって事前にその内容を十分に研究し、具体的な項目、数字、スケジュールの入った財政再建プログラムの構想を立てておく必要がある。

 特に社会保障で削減すべき分野は年金給付関連である一方、政治的に削減が容易な分野は福祉関連であることなどを考えると、危機に陥ってから歳出削減の項目を洗い出すのでは、社会厚生上、望ましくない歳出削減が実行される恐れがある。事前の入念な準備が求められる。

ポイント2 危機の初期段階における地域経済の悪化への対応策

 危機の初期段階において国債価格が下落する際、最初に深刻な影響を受けるのは、地方銀行、信用金庫、信用組合など地域金融機関であることが想定される。地域金融機関はメガバンクなどに比べ、絶対的な体力が不足しており、また、活動に地理的な制約がある。国債保有比率はメガバンクなどに比べてむしろ低いが、社債などの保有比率が高いため、財政危機時に金利が上昇する際には、メガバンク以上に大きな影響を受けることが予想されている。

 地方金融機関の資産が毀損し、信用収縮が発生することにより、中小企業の資金繰りが逼迫するなど、地域経済にネガティブな影響が顕著に表れる。国債価格の下落が地域経済に与える影響を最小化することが、大きな政治課題としてまず浮上すると考えられ、そのための対応策を準備しておく必要がある。

地域金融機関の資本増強によって信用収縮を防止または緩和する必要がある。地域経済への影響を最小化するとの観点から、資本注入などの意思決定手順などを具体的に事前に想定しておく必要がある。
中小企業の資金繰りへの悪影響を緩和するため、マイクロファイナンス的な手法で中小零細企業に融資を行う公的機関や、エクイティ(株主資本)を供給する公的な地域ファンドの創設などを行い、地域金融機関を補完する信用供与メカニズムをあらかじめ構想しておく必要がある。
本格的な危機への対応策

 本格的な財政危機としては、2011年のギリシャのように、政府の資金繰りが行き詰る状況を想定する。具体的には、国債入札の「札割れ」が続き、政府の資金調達が困窮する状況などが考えられる。

ポイント3 本格的な危機における政府の資金繰り対策

 国債による資金調達が不可能になった局面では、政府の機能を維持するために、政府の資金繰りを円滑にする対策を緊急に実施しなければならない。緊急の法改正や予算削減を含め、政府と日本銀行がどのような政策を実施するべきか、事前に想定しておく必要がある。

日本銀行による政府の資金繰り支援を円滑に進めるためにはどのような手続き(法改正事項、国会議決事項、政策委員会議決など)が必要なのか、事前に洗い出した上、緊急時に迅速な対応を可能とする方策を考案する。
政府の予算執行を緊急に停止する場合、あるいは大規模な予算削減を実施する場合、どの項目から執行を停止できるか、事前の洗い出しを行う。
ポイント4 本格的な危機の拡大防止(金融危機封じ込め)のための検討事項

 金融市場や実体経済の混乱を最小化するために、どのような対策を行うべきかについて事前に整理しておく。その場合、財政危機は、国債を大量に保有する金融機関への影響を通じて金融危機をも引き起こす恐れがあるため、金融危機への対応も考えておく必要がある。

 たとえば、国債の投げ売りを防止するために、既存の金融法制や会計制度に則って実施できる対応策は何か。政府と日本銀行が金融市場への対策として実施すべきことは何か。こうした政策上の論点を事前に詰めて、対応策を準備しておく必要がある。

 現在の日本はネットで250兆円を超える在外資産を保有しているが、これから10数年にわたって公的債務が加速度的に累増すれば、急速に在外資産の取り崩しが進むと思われる。かりに今後、日本が対外純債務国に転落する時期に財政危機が発生すれば、日本の金融機関、企業、政府いずれも外貨の獲得が困難を極め、国際金融市場からの孤立や資源・食糧の枯渇といった事態が発生するかもしれない。こうした状況への対応策についても事前に思考を巡らせておく必要があろう。

ポイント5 財政均衡の実現による市場の信認回復

 市場の信認を回復するためには、財政再建への強いコミットメントを示す政策プログラムを実施する必要がある。これは危機の初期段階における政策プログラム(ポイント1)と同じ内容であるが、これを大幅に圧縮したスケジュールで断固として実施することをコミット(誓約)することが必要となる。歳出削減と増税の迅速な実施により、早急に財政均衡を実現しなければならないため、本格的な危機が発生した場合に、ポイント1の政策プログラムを加速的に実施する「特急スケジュール」を構想しておく。

ポイント6 超長期の経済社会改革

 財政の安定は、経済社会の持続的な発展を実現するための必要条件である。究極の目標である経済社会の持続的な発展のためには、各種の改革を着実に実施することが求められる。特に、今後の長期的な人口動態の変化――騎馬戦型社会から肩車型社会へと言われる超高齢化――を前提にすれば、高齢者ケアに関連する技術革新の実現や、高齢化に対応した財サービスを中心とした産業構造へのシフトが重要な課題であることは確実だろう。また、人口動態を将来的に定常状態に持っていくために、出生率の向上は長期的に取り組むべき課題である。

 これらの方向に技術や産業の変化を促すためには、政策資源を必要分野に重点的に投入するとともに、旧来の社会構造や産業構造を解体・再編するための規制改革や構造改革を進める必要がある。

 こうした改革について危機の初期段階、あるいは本格的な危機が発生した時点で、国民的な合意を取り付け、早急に実施できるよう改革のメニューを事前に準備しておく必要があるだろう。

結語:危機が来たら話し合う余裕などない

 以上のポイントは、財政危機への備えとして今の段階で広く議論しておくべき論点を例示したものである。危機が来た時には、時間に余裕がなくなる。避難訓練と同様、緊急時の関係者間の合意の手間を省き、身体がすぐに動くよう準備しておくことが必要だ。また、財政破綻を未然に防ぐという意味においても、財政危機時の対応を事前に考えておくことは有益である。

 財政破綻につき考えることをタブー視せず、あくまでも制度や政策ツールについての現実的な知識に立脚しつつ、危機対応の手順についての整理を開始することが、政策当局者にとり喫緊の課題だと考える。

 一方、財政危機は国民生活にきわめて広範かつ大きな影響をもたらすものである。そのため、事前に議論する場合にも、財政関係者といった「狭い世界」の人材だけですべてを考察することはできない。危機時には与野党間の緊密な協力も必須となるが、そのためにも、与野党の枠を超えた国民的な合意が必要となる。逆に言えば、危機時に際しては、民主主義的手続きに依ることは、時間的に困難となる。

 政府部内での危機対策の思考実験が必要なことは当然として、それとは別に、財政破綻時の対応について、中立的な立場で民間の有識者などが検討することも有意義ではないか。そういった検討を端緒に、ここで挙げた重要事項については、国民的なコンセンサスをあらかじめ得ておくことが、欧州の財政危機を目の当たりにしている我々にとって、将来的には不可欠であると確信している。

(この記事は、有料会員向けサービス「日経ビジネスDigital」で先行公開していた記事を再掲載したものです)


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