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http://diamond.jp/articles/-/19677
野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
国債バブルが破綻するとき
日本の10年国債の利回りが、ついに0.8%台を割り込んだ。欧州金融危機を逃れた資金がアメリカ、日本、ドイツの国債に流入していると言われる。これらの国の長期金利は、歴史的な低金利水準だ。
日本銀行による国債購入は、札割れの事態に陥った。日銀が国債を買おうとしても、銀行が売らないのだ。このため、マネタリーベースを計画通りに増やせない状況に陥っている。
流動性トラップでなく国債バブル
国債への需要が強いのは、今後も国債価格が上がる可能性があると考えられているから。つまり、将来、金利はまだ下がると予測されているのである。
これは、流動性トラップとは逆の状況である。
流動性トラップとは、貨幣(流動性)に対する需要が無限大になっているため、貨幣供給をいくら増やしてもトラップに吸い込まれてしまい、金利が低下しない状態だ。こうなるのは、金利が非常に低い水準に落ち込んでいるため、将来の予想としては金利の上昇(国債価格の下落)しか考えられないからである。したがって、国債に対する需要が発生しないのである。
ところが、現在の日本では、国債に対する需要がきわめて大きくなっている。これは「日本国債バブル」と呼びうる状況である。
後に述べるように、日本の財政状況はきわめて悪い。それにもかかわらず国債に対する需要がこのように大きいのは、不自然である。これはヨーロッパの金融危機がもたらした異常な事態であるが、日銀による国債購入がバブルをあおっている面も否定できない。
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次のページ>> 日銀が金融政策を発動したくともそれができない
金融緩和政策が効果を発揮するには、つぎの3つの段階を経る必要がある。
1.国債買い入れ等によって、マネタリーベースを拡大する。
2.それが「信用乗数(貨幣乗数)過程」を通じてマネーストックを増大させることを期待する。
3.それによってLM曲線(注1)が右にシフトし、金利が下落することを期待する。
「流動性トラップ」は、1、2が働いても3が働かない状態である。
これまでの量的緩和でわかったのは、「1が働いても2が働かないことがありうる」ということだ。
国債札割れが示唆しているのは、「1が機能しないこともありうる」ということである。つまり、「日銀が金融政策を発動したくともそれができない」ということだ。
こうした状況下においても、より長期の国債を購入したり、買い入れ条件を緩和する、日銀当座預金の利子率を引き上げる、等の方策によって緩和策を強行することはできる。
しかし、それらの措置は、効果がないだけでなく、国債バブルをあおるだろう。そして、以下に述べるような将来のリスクを増大させるだろう。
(注1)LM曲線は、資産市場の均衡を表している。名目貨幣供給量と物価水準を所与としたとき、所得が増加した場合に均衡が達成されるためには、金利が上昇しなければならない。なぜなら、所得が上昇すると貨幣に対する取引需要が増加するため、一定の名目貨幣供給量の下では、金利が上昇して貨幣に対する資産的需要を抑える必要があるからだ。したがって、縦軸に金利、横軸に産出量(所得)をとった図において、LM曲線は右上がりの曲線になる。
金利上昇による
財政破綻はあるか?
現在の日本では、資金が日本に流入することに伴う円高が問題とされている。しかし、真に恐ろしいのは、国債バブルが崩壊した場合の金利上昇がもたらす諸問題である。
民間金融機関が保有する国債の損失については、前々回述べた。
問題は、それにとどまらない。
まず、日銀の資産が劣化する。国債の高値買いをしていることになるからだ。購入国債の残存期間を現在より長期化していけば、前々回述べたデュレーションの計算から、損失額が増加する。
次のページ>> 国の国債費負担が増加する
いま1つの問題は、国の国債費負担が増加することである。これについて以下に述べよう。
(1)長期的効果
2012年度末における普通国債残高は709兆円程度と見込まれている。以下では、この数字を用いよう。金利水準が1%ポイント上昇した場合の国債費の変化はどうなるだろうか?
長期的には、残高のすべてについて、利払い費が
残高×1%=709兆円×1%=7兆円
だけ増加する。
これは、かなり大きい。消費税を増税してこれに対処しようとすれば、どの程度の税率引き上げが必要だろうか?
現在の日本の制度では、消費税の税率を1%引き上げると2.5兆円程度の税収が上がる。しかし、そのうち半分程度は地方に回されることになるので、国が使えるのは1.25兆円程度だ。したがって、7兆円を賄うには、税率を5.6%ポイント引き上げることが必要だ。
現在の日本の諸事情を考えると、これはきわめて困難だ。つまり、金利が1%高まるだけで、日本の財政は長期的には維持できない状態に陥るのである。
(増税で処理できなければ、上記の額を賄うために国債発行が必要になり、それによって国債費がさらに増加し、……といった問題があるので、増加額はさらに膨らむ。これは、「乗数的増加分」と呼びうるものだ。ただし、その効果はそれほど大きくないので、ここでは無視した)。
これまで日本の財政は、金利の低下によるメリットを享受してきた。今後はそれが期待できなくなるだけでなく、以上で検討したように、金利上昇によって財政負担が増加するリスクを負うことになるわけだ。
(2)即時効果
ただし、上の効果はすぐには発生しない。金利上昇によって影響を受けるのは、上昇時点以降の新規発行分と借換え債に限定されるからである。借換え期限が到来しない既発債については、発行時点のクーポンレートを支払い続ければよいので、国の利払い額が増加するわけではない。
いま、毎年度の新規国債発行額は50兆円であるものとしよう(2012年度当初予算における国債発行額は約44兆円であるが、これはいくつかの「粉飾」によるものであり、実態は50兆円を超える)。
すると、新規債についての1%ポイントの金利上昇による利払い増加額は、
50兆円×1%=0.5兆円
である。また、借換え債は残高の60分の1程度なので、これに関する利払い増加額は、
700兆円×(1/60)×1%=11.7兆円×1%=0.117兆円である(ここでも、乗数的増加分は無視した)。
以上を合計すると、利子支払いの増加額は
0.5+0.117=0.617兆円
となる。これは、上で見た長期効果の10分の1以下にすぎない。
次のページ>> 重要なのは単年度収支でなく債務残高
しかし、日本の財政状況を考えると、決して無視できる額ではない。
さらに、利払い費が2年目以降増えていくことが問題だ。
2年目には、1年目の支出に加え、新たに借換えになる分についての利払いが増加する。したがって、金利が変化しなかった場合に比べての利払い増加額は、
0.617+0.117=0.734兆円
となる。そして、これ以降も毎年度0.1兆円強ずつ増えていくわけである。
重要なのは
単年度収支でなく債務残高
上の議論からわかるように、重要なのは債務残高の大きさである。それが大きければ、金利の上昇から受ける影響が大きくなる。イタリアで問題が起きたのは、そのためである。
イタリアの政府債務残高の対GDP比は、他のユーロ加盟国に比べて高い。だから、国債の利回りが高まると利払いが膨らみ、それがさらに国債発行額を増加させるという悪循環に陥ったのである。
日本でもこの問題は無視できない。
現在の状況がバブルであるなら、いずれ金利は上昇する。
「そうした事態がいずれ起こる」という予想が一般化すれば、人々は日本国債を売却し、金利が実際に上がる。そうなれば、上のメカニズムが実現してしまう。つまり、予想が自己実現するわけだ。
イタリアの政府債務残高の対GDP比は日本と同じだ。だから、日本の金利がイタリア並みの6%程度になれば、日本もイタリアと同じことになる。
【図表2】に見るように、イタリア10年国債の利回りは、2010年には4%程度だった。それが2011年に5%となり、さらに6%となり、一時は7%になった。この間、イタリア財政のファンダメンタルズが変化したわけではない。予想が変化したためにこうした変化が生じたのである。
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財政再建の目標として通常言われるのは、単年度の収支である。日本の場合も、長期的な財政再建の指標として言われる「プライマリーバランス(基礎的財政収支)」は、単年度の収支にかかわるものだ。しかし、いかに単年度の収支が改善したところで、債務残高が大きければ、金利上昇によって財政は危機的状況に陥るのである。
それにもかかわらず、円高で株価も下落していることから、金融緩和の圧力が強まるだろう。「為替介入を(財務省だけでなく)日銀がやるべきだ」との意見もある。
今後の金融政策のかじ取りは、きわめて難しい。
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http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M582H36KLVR501.html
超円高に直面する日本、1995年の再来か−リスク回避で円買い圧力
6月7日(ブルームバーグ):円は債務危機の混乱からの逃避先として、選好され、円の対ドル相場が戦後最高値を更新、低迷する日本経済を一段と悪化させた。これは1995年のことである。
17年前、過去最大の為替介入で円高に歯止めを掛けようとした政策当局者にとって、既視感(デジャブ)を覚えることだろう。当時は円相場は5カ月以内で約30%押し下げられた。当時と同様に、現在も円相場は戦後最高値近辺で推移している。欧州債務危機でリスク回避の買いを集めているためで、円高は東日本大震災からの復興の足を引っ張っている。
唯一の違いは、今回は介入の効果がなさそうなことだ。95年当時は米国と欧州が円売り介入に同調してくれた結果、効果を上げたが、今回は米国が反対している。さらに、介入を難しくしているのは、世界最大の純債権国としての日本の地位だ。ギリシャのユーロ圏離脱懸念が浮上する中、円への投資は増している。
HSBCホールディングスのシニア通貨アナリスト、ポール・マケル氏(香港在勤)は、「逃避先通貨の価値を下げるのは、日本の当局者にとって、非常に困難だ」と指摘。「『衝撃と畏怖』をもたらす断続的な動きは、ごく一時的にしか効果がない」と話した。
単独介入
昨年行われた単独介入は、持続的な効果がなかった。6日の東京市場の円相場は1ドル=79円11銭程度で、3月の今年最安値(84円18銭)を上回った。戦後最高値の75円35銭を付けた昨年10月31日、政府・日本銀行は、過去最大の約8兆円規模の円売り介入を実施。昨年1年間では、介入規模は14兆3000億円強に達した。
逃避先通貨としての円の地位を高めることは、日本の対外純資産価値の増加につながる。ブルームバーグ・ニュースが財務省統計を基に集計したところによると、国内総生産(GDP)に占める比率は昨年12月末時点で54%と、94年末の13%から上昇している。また、GDPの2倍強もの公的債務を抱えながらも、日本は経常黒字を背景にして、国債消化を海外投資家に依存しないで済んでいる。
債券ファンド世界最大手、米パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)の日本部門、ピムコジャパンのポートフォリオマネジメント責任者、正直知哉氏は、ブルームバーグ・ニュースとのインタビューで、「基本的に円高圧力が強い環境が続く」と指摘。円高基調を反転させる「本当のゲームチェンジャーは、財務省の大規模介入と日銀による大規模な量的緩和策の連携に、円相場を押し下げるような宣言の組み合わせだ」と強調した。
日銀の政策
白川日銀総裁には、今年に入り国債購入を20兆円増額した資産買い入れ等基金をさらに積み増す意向を示す兆候はほとんど見られない。先週公表された4月27日の金融政策決定会合の議事要旨では、「消費者物価の前年比上昇率1%が見通せるまでは、機械的に基金の増額を続けていくという誤解が一部にみられる」との言及があった。
白川総裁は過度の金融緩和は資産価格バブルのリスクを高めると主張しており、先月31日の衆院の特別委員会では、為替相場を規定する大きな要因は、グローバルな投資家がどの程度リスクを取れるのか、取れないのかという評価だとの見解を表明。総裁は今月4日に都内で講演し、円高が日本経済に与える影響について「企業マインドに与える影響を含め日銀として注意深く見ている」と述べた。日銀は次回決定会合を14、15の両日に開く。
安住淳財務相は主要7カ国(G7 )の財務相・中央銀行総裁による5日の電話会議で、欧州危機を背景とした円高が日本経済に「非常に悪い影響を与えており、日本として危機感を持っている」と各国に説明。安住財務相が電話会議後に記者団に語ったところによると、財務相はG7が昨年合意した「為替市場における行動に関して緊密に協議し、適切に協力する」などとした方針の再確認を要請し、異論は出なかったという。
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更新日時: 2012/06/07 10:47 JST
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