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http://diamond.jp/articles/-/19611
与野党こぞっての消費増税賛成論は
本当に「財務省のマインドコントロール」なのか
3月のロンドン・ケンブリッジでの「消費税」についての講演がdiscussion paperとして公開されることになった。正式に公開されるのは数日後だが、先行して紹介したい。今、旬なテーマであり、世界中からのアクセスを期待している。
野田佳彦首相と小沢一郎民主党元代表が2度にわたって会談した。野田首相は、年金、医療など膨張する社会保障費を賄う安定財源確保のために増税が必要と訴えた。一方、小沢元代表は「反増税」の姿勢を崩さず、会談は平行線に終わった。野田首相は内閣改造で、参院で問責決議案を受けた田中直紀防衛相らを交代させた。党内融和よりも、自民党との連携を模索して法案成立を目指す路線に軸足を置き始めたようだ。
消費税への理解を広めた
財務省主税局の「竹下流」人間関係構築術
野田首相は消費増税の今国会成立に「政治生命」をかけると訴えている。だが、消費増税そのものは、「政治生命」をかけるほど厳しい状況にあるわけではない。民主党と自民党は消費税率を10%とする方向で一致しているからだ(第30回を参照のこと)。国会で、与野党は激しい攻防を繰り広げているように見える。だが、突き詰めると「社会保障政策」のあり方を巡って対立しているのであって、消費増税は未だ無傷のままだ。また、財界、マスコミも消費増税が必要だと主張し続けている。
一方、このような奇妙なまでに消費増税賛成のコンセンサスが出来上がっている状況を、「財務省の陰謀」だとする類の批判が巷に氾濫している。政策通として知られる、みんなの党・江田憲司幹事長氏までもが、著書で「財務省のマインドコントロール」だと論じているのだ。
増税反対派が「陰謀論」を訴えたくなる気持ちも理解はできる。元々財務省と親密な自民党が増税賛成なのはわかるが、かつて財務省と対立関係にあった民主党までもが、増税実現に突き進んでいるからだ。「大蔵省解体論」を訴えた五十嵐文彦財務副大臣さえ、180度転向しているのだから、「マインドコントロール」だと言いたくもなる。
次のページ>> 「陰謀」ではなく竹下内閣時代からの地道な「根回し」
だが、消費増税の政策過程に、財務省の陰謀などありえない。財務省も増税実現のために、さまざまな妥協を強いられてきたからだ。
例えば、財務省は集めた税金の使い道を制限される「目的税化」を嫌ってきた。予算配分を通じて政治家・各省庁・業界に対する強い政治力を失ってしまうからだ。しかし、増税を国民に納得してもらうには、「社会保障費の増大」への対応という理屈が必要だった。財務省はしぶしぶ税の「社会保障目的税化」を受け入れたのだ(第33回を参照のこと)。
財務省は政治家をマインドコントロールし、力づくで「財務省支配」と呼ばれる状況を作り上げたわけではない。特に主税局はこれまで、さまざまな苦労をしながら、政治家との関係を築いてきたのだ。
大平正芳内閣の「一般消費税」、中曽根康弘内閣の「売上税」の導入失敗の後、竹下登内閣が「消費税」導入に取り組んだ。当時、さまざまな反対論が渦巻いていたが、竹下首相(当時)は、自民党税制調査会に300を超える業界の代表を呼んでヒアリングし、様々な要望を法案に反映していった。
また、大蔵省主税局(当時)は、自民党代議士や自民党支持の財界だけではなく、竹下首相の政財界に広がる幅広い人脈、特に社会党・民社党・公明党など野党議員や労働組合への分厚い人脈を生かして、消費税導入の意義を説明して回った。土井たか子社会党委員長(当時)の「ダメなものはダメ!」という政治的パフォーマンスが世論の支持を得たため、野党は最後まで消費税に反対した。だが、その陰で野党幹部の間に消費税への理解が確実に広がったという。
財務省主税局は、竹下内閣での経験以降、野党・反対勢力と粘り強くコミュニケーションし、関係を構築する習慣が確立した。93年に自民党政権が下野し、細川護煕政権が誕生した際には、多くの省庁が連立与党の議員から門前払いを食う中、主税局だけは「野党時代から訪ねてきてくれた」と、訪問を歓迎されたという。
次のページ>> 野党と省庁が事前協議する「ダグラス=ヒューム・ルール」の日本版
五十嵐文彦氏の著書「大蔵省解体論」には、「国民福祉税」構想について、連立与党と主税局が積み重ねた税制改革論議を、小沢一郎氏と主計局が強引にひっくり返したことが記されている。当時、大蔵省批判の急先鋒だった五十嵐氏とさえ、主税局はしっかりと関係を築き、政策論争を行っていたということだ。
こうした努力の積み重ねで、主税局は消費増税に対する理解者を徐々に増やしてきた。これは同じ財務省でも、主計局がしばしば予算編成権を奪おうとする政治家の攻撃(例えば、橋本内閣の「大蔵省改革」、小泉内閣「経済財政諮問会議」での民間委員との攻防、鳩山内閣の「国家戦略局」構想など)に晒されてきたのとは対照的だ(前連載第41回を参照のこと)。
財務省主税局は
ダグラス=ヒューム・ルールを確立した
英国政治には、総選挙前に野党と省庁が事前協議を行う「ダグラス=ヒューム・ルール」と呼ばれるシステムが慣例化している。例えば、英国財務省は野党幹部(陰の財務相)と接触し、新政権が誕生した場合に備えて、野党の経済政策を考慮に入れた行動指針を作るのだという。日本でも、財務省主税局は、与野党双方に築いた政治家との関係を生かして、ダグラス=ヒューム・ルールに類似した政策協議システムを作り上げていると考えられる。
主税局は、民主党政権誕生前から藤井裕久・峰崎直樹氏ら財務省と密接な政治家と非公式に協議していた。だから、民主党政権「政治主導」の混乱を尻目に、政府税制調査会の再編を政権交代直後から速やかに実行に移し、「社会保障と税の一体改革」を着実に進めてこられたのである。そして現在、主税局は自民党と、政権交代の事前政策協議を重ねているのだろう。
繰り返すが、民主党・自民党に広がる消費増税のコンセンサスは、「マインドコントロール」「陰謀」の類ではない。財務省主税局が20年以上かけて、与野党の政治家・財界・労組と粘り強く関係を構築し、それを政策協議の非公式ルールとなるまで練り上げた結果なのである。
次のページ>> 少々調子に乗り過ぎな自民党の長老たち
消費増税は「政治生命」をかける課題ではない
真の課題は将来世代の日本社会のあり方だ
現在、自民党は消費増税法案に賛成する見返りに、民主党の主要政策の撤回や、自民党が提出予定の「対案」の「丸のみ」を野田首相に迫っている。だが、社会保障改革は、安易に自民党案を「丸のみ」すればいいという軽々しいものではない。
「税金や社会保険料を納める自助が基本」とする自民党と、「社会全体で支え合う共助の精神」を基本とする民主党では、政策のベースとなる「思想」がまったく異なっている。社会保障改革とは、将来の日本社会をどちらの思考に基づいて構築するべきか決めるものであるはずだ。
民主党政権の「新年金制度」は、無年金者をなくすため、保険料を払っていない人にも月7万円を払う「最低保障年金」を、収めた保険料に見合う「所得比例年金」と組み合わせる案だ。この新制度を実現するためには、消費税率10%に上げた後に、最大で7.1%の更なる増税が必要との試算が公表されている。これは、自民党から「バラマキ」だと決め付けられている。
しかし、民主党案は「高負担・高福祉」の思想に基づいたスウェーデン型の社会保障制度導入を目指すものだ。一方、自民党は現行の社会保障制度を「100年安心」と訴えるが、これは国民からの信頼を完全に失ってしまっている。「現行制度がいいに決まっているのだから、バラマキを撤回しろ。そうすれば増税を認めてやる」という自民の主張は、いささか乱暴なのである。
このところ、自民党の長老たちは、公共事業に10年間で約200兆円を投じるという「国土強靱化法案」の国会提出を決め、まるで「女は家庭に入って子どもの面倒を見ろ!」と言わんばかりに待機児童問題で「自助」を強調するなど、少々調子に乗り過ぎである。彼らは、財政再建のために、大所高所から与野党の枠を超えて増税に協力しようとしているのではない。ただ、「昔の日本」に戻すことばかりにご執心なのである。
次のページ>> 消費増税は野田首相が政治生命をかけるには「しょぼすぎる」
そもそも消費増税とは、現在の高齢者のための社会保障費を賄うためのものだ。その実現のために、将来世代の社会保障制度をろくに議論もせず、「丸のみ」するだのしないだのと、軽々しく扱っているのが今の与野党の攻防だ。これは、将来世代に対してあまりに無責任な態度ではないだろうか。
繰り返すが、与野党の間で消費増税のコンセンサスは完全に出来上がっている。消費増税法案はいずれ成立するものである。だから、消費増税は、野田首相が政治生命をかけるにはあまりに「しょぼすぎる」政治課題なのだ。
むしろ、政治生命をかけるにふさわしいのは、「社会保障改革」なのだ。野田首相は自民党案「丸のみ」などと安易な方向に流れるべきではない。じっくりと腰を据えて、将来の日本社会のあり方を決める改革に真正面から取り組むことこそ、「政治生命」をかける価値があるのではないだろうか。
質問1 社会保障問題の基本思想として、民主党的共助の精神と自民党的自助の精神、どちらにより共感する?
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