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ユーロは現代の金本位制か
2012年6月6日 水曜日 バリー・アイケングリーン
ユーロは、1930年代の金本位制のように捨てられる運命にあるとの見方がある。しかし当時と現在とでは、金融、社会、政治の状況が異なる。それでも、緊縮策を見直し、協調して適切な対応を取らなければユーロの存続は危うい。
「通貨ユーロが、1930年代の金本位制と同じ道をたどっている」――。
最近、こんな指摘がよく聞かれるようになった。しかも、その理屈は説得力を増しているようだ。だが、ユーロの運命を告げるこの指摘は正しいと言えるだろうか。
金本位制と比較される理由
1929年に株式市場が大暴落した後、大規模なデフレショックが欧州を襲った。生産は落ち込み、大量の失業者が街にあふれた。各国政府はリフレーション政策*1で協調することができず、個別に対応策を取った。欧州諸国は相次いで金本位制を捨て、通貨を切り下げた。こうして信用を緩和し、各国は順次、大恐慌から抜け出していった。
*1=デフレの状態から抜け出すために、金融緩和政策によって意図的に通貨の量を膨らませ、インフレのような状態を創り出すこと
今日、再び大規模なデフレショックが欧州を襲っている。今回、リフレーション政策の足かせとなっているのはユーロだ。各国は切り下げるべき独自の通貨を持たない。金融政策を欧州中央銀行(ECB)に委任しているため、信用を緩和する力もない。よって失業率が上昇して限界を超えた時、各国政府は個々の判断でユーロを離脱するしかなくなると言われている。
私は92年に、欧州と金本位制について考察した著作『金の足かせ』*2を出版した。この中で私は、金本位制というデフレ要因が30年代の世界恐慌の主因であり、金本位制からの脱却が回復への道を開いた、と論じた。
*2=『Golden Fetters:The Gold Standard and the Great Depression』
しかし、今回も事態が同じように展開すると認める気にはなれない。私は、ユーロが存続するかもしれないと考えている。あくまで「かもしれない」なのだが...。その理由は、30年代と現代の間にある4つの違いにある。
第1に、現在は共通の中央銀行がある。そのため、適切な金融対策を講じやすい。金本位制の時代も、各国の中央銀行が協調して対応していたなら、収縮した経済を再膨張させることができただろう。しかし残念なことに、各国中央銀行が協調するのは、口で言うほど容易ではない。話す言葉も、経済に対する見方も異なる。
現代では、ECBが断固とした姿勢で対策を講じたなら、ユーロ圏全体をリフレーションへと導くことができ、各国がそれぞれに対応する必要性はなくなる。
ECBがその能力を持っているのは確かだ。問題はその能力を使う意思があるかどうかだ。
第2の違いは、失業者を巡る扱いだ。このところ社会保障費が削減されているとはいえ、30年代に比べ、失業者は格段に手厚い公的支援を受けている。
その分だけ、ユーロを捨てろというポピュリズム的圧力は弱い。言うまでもなく重要なのは、ポピュリズムが30年代に比べてどの程度弱いかだ。中道政党が持ちこたえられるかどうかがカギとなる。
独仏関係、30年代ほど悪化しない
第3の違いは、今日の方が政治的条件が整っていて、各国間で協調対策を取りやすいということだ。
中欧で金融危機が発生した31年、フランスは支援を拒否した。理由は、ドイツが第1次世界大戦の終戦時に締結したベルサイユ条約に違反して、再軍備を開始していると考えたためだった。
今日の独仏関係は、フランソワ・オランド氏が仏大統領選に勝利したことで、今後数カ月ないし数年の幅で政治的緊張が高まると見られる。しかし、30年代ほど緊迫した状況になるとは考えられない。
しかも今日の欧州諸国は、ユーロが崩壊して単一市場に危険が及ぶことを恐れ、ユーロ存続のために力を尽くそうという姿勢を取っている。一方、31年に各国が金本位制から離脱し始めた時、関税障壁は既に高まっていた。守るべき単一市場はもはや存在しなかったのだ。
各国通貨の再導入は容易でない
第4の点として、金本位制の廃止よりユーロ廃止の方が悪影響が大きいということがある。
英国が31年に金本位制を捨てた時は、週末に市場が閉まっている間に制度の移行ができた。当時はどの国にも独自の通貨があり、兌換を停止するだけで済んだのだ。銀行預金も、大半の公社債も、自国通貨建てだった。
しかし、今日、各国の通貨を改めて導入するとなると、最低でも数週間は必要になる。
現在の資産や負債はすべてユーロ建てだ。よって、通貨の価値を切り下げるために独自通貨を再導入する一方で、金融商品などの価値をユーロのまま維持するとなると、バランスシートが崩れ、金融的な大混乱が生じる。
それを避けようと、金融商品なども独自通貨に変換してしまうと、その国は何年にもわたり法的紛争に巻き込まれることになるだろう。
以上4つの相違は、ユーロが金本位制と同じ道をたどるという予測に疑問を投げかけるものだ。だが、5番目の相違点は逆の方向を示す。
30年代に各国が協調できなかったのは、問題の診断が一致しなかったためだ。各国は、世界大恐慌の原因についてそれぞれ異なる考えを持ち、異なる処方箋を書いた。そして国ごとにそれを実施した。
「緊縮」での一致は間違い
これに対し今日は、欧州のすべての国が同じ診断を下し、共通の対策を取ろうとしている。ただ、残念なことに、このところ明らかになってきた症状からすると、各国が揃って処方した「緊縮」という薬は、患者の命を奪いそうだということだ。目下、投薬量を調整する話し合いが進んでいるが、調整の実施にまでは至っていない。
ユーロは金本位制と異なる道をたどるのだろうか。80年前とは違い、協調の道が開けていることがユーロにとって良い条件であることは間違いない。しかし、ユーロが存続できるかどうかは、欧州諸国が的確な政策で協調できるかどうかにかかっている。
国内独占掲載:Barry Eichengreen © Project Syndicate
Project syndicate
世界の新聞に論評を配信しているProject Syndicationの翻訳記事をお送りする。Project Syndicationは、ジョージ・ソロス、バリー・アイケングリーン、ノリエリ・ルービニ、ブラッドフォード・デロング、ロバート・スキデルスキーなど、著名な研究者、コラムニストによる論評を、加盟社に配信している。日経ビジネス編集部が、これらのコラムの中から価値あるものを厳選し、翻訳する。
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バリー・アイケングリーン
カリフォルニア大学バークレー校教授。1979年にエール大学で経済博士号を取得、86年にカリフォルニア大バークレー校教授に。国際経済学(特に国際通貨体制)、経済史の第一人者の1人。1997〜98年には国際通貨基金(IMF)上級政策顧問も務めた。今年1月には、ドル一極から多極通貨制への移行を予測する『Exorbitant Privilege(法外な特権)』を出版した。
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