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企業・経営>記者の眼
野田、小沢では救えない10年後の日本
「悪い円安」時代の危機が見えぬ政治
2012年6月6日 水曜日 田村 賢司
今年前半の政局、最大のヤマ場、野田佳彦・首相と小沢一郎・民主党元代表の会談は結局、何を議論したかったのか。相変わらずよく分からない。
(写真:時事通信)
首相が「国民は社会保障の将来に不安を持っている。安定財源を整えないといけない。財政も厳しく、待ったなしだ」と消費税増税への賛同を求めれば、元代表は(1)行政改革とムダの排除が不十分、(2)最低保障年金の創設など社会保障改革が遅れている、(3)欧州債務危機や東日本大震災の影響が大きい――ことを理由に「賛成できない。これは国民の思いだ」と突っぱねた。
だが、これは昨年6月に一体改革成案、今年1月に同素案を決定する際に侃々諤々、散々やった議論のはず。なぜ、また同じ話を繰り返すのか。それが政局だと分かってはいても、1年という時間を、この人達はどう考えているのだろうか。
円高は10年続き、止められない
あえて遠い話からしてみよう。
トヨタ自動車、日産自動車、ホンダなど自動車メーカー大手7社は、2009年3月期から2012年3月期までの4年間に、計3兆5907億円の営業利益を挙げたが、それを上回る3兆8271億円を円高で“失っている”。1ドル=110円前後から昨年11月には同75円まで約32%も急伸したせいだ、というのは容易いが、日本の将来を考えて税制と政策を議論すべきポイントはこの裏にある。
10年先の日本経済の姿を想定してみると、円高は、(1)円高→徹底した空洞化の進行→貿易赤字定着→経常赤字→金利急騰・財政悪化→景気低迷と転化するし、(2)円高→空洞化→国内雇用減・投資減→消費低迷・財政悪化→景気低迷ともなりえる。
無論、負の連鎖は、円高だけが入り口ではない。原油など資源高は貿易赤字を拡大するし、電力不足の長期化が加われば空洞化の加速要因にもなる。何より、欧州債務危機や米国経済の低成長が長引けば、輸出低迷→国内景気の長期低迷も起こりえる。
(3)資源高・電力不足→空洞化→国内雇用減・投資減→消費低迷→財政悪化・景気低迷であり、(4)欧州債務危機・米景気低迷長期化→輸出低迷→財政悪化・景気低迷ともなりえるわけだ。
さらに言えば、こうした出来事の裏側には、人口減と少子高齢化という重い課題もある。総人口に占める生産年齢人口(15〜64歳)比率が2010年にG7で最低になり、今年から2014年にかけて約660万人に上る団塊の世代(1647〜49年)が65歳の前期高齢者に達するといった人口動態の変化が、日本経済の重しとなることは避けがたい。
これもまた、(5)人口減・少子高齢化→消費低迷→投資減→財政悪化・景気低迷の経路が考えられるだろう。
言うまでもなく、どの経路にも財政問題があり、景気低迷が最後にくる。今、首相と元代表が議論すべき重要なポイントは、この負のスパイラルをどう断ち切るかであり、乏しい財源を優先順位付けして、どう課題を解決していくかだろう。
円高は恐らく止めようもない。原因の1つは、欧米の「日本化」である。例えば、米国とドイツの2003年以降の10年物国債利回りの動きは、日本が1989年のバブル崩壊後、山一証券破綻など金融危機の大嵐に見舞われた97年までのそれとほぼ重なっている。財政政策が次第に限界を迎え、デフレに陥ろうとしていた時期の日本に欧米が近づきつつある現実だろう。
とすれば、今後起きるのは日米欧の低金利継続であり、日本との金利差が開かないことによる円高圧力の持続である。
31年ぶりの貿易赤字に潜む「危機」
為替レートを円高に動かす、もう1つ重要な要素は貿易収支・経常収支にもある。前述の景気低迷経路の(1)に挙げたが、実際にはどれにも関わっている。昨年、31年ぶりの赤字になったことが話題になった貿易収支は、2009年初からの資源価格の高騰の上に、昨年3月の東京電力・福島第1原子力発電所の事故以降、火力発電の拡大のために始まった液化天然ガスや原油などの輸入の増加だった。
一見、一過性の問題のようだが、原発再稼働が進まなければ、資源価格が大幅下落しない限り、これが継続する恐れは否定のしようもない。
日本は企業の海外への進出やM&A(合併・買収)など、外への直接投資と、外国債券・株式など証券投資から上がる所得収支が年間10数兆円の規模に拡大し、貿易赤字を補える構造になっていることからすぐに経済に“混乱”は起きることはない。
主に貿易収支と所得収支で決まる経常収支が黒字なら、世界経済の変化で金利急騰や円の急降下などは想定しにくいからだ。
短期的な下落はあるにせよ、ここまでの要因が、大きく変化しなければ、今後10年は円高基調が続くと見られる。とすれば、政権の座にある立場が議論すべき事は、円高を前提にしながら空洞化を最小限に防ぎ、化石燃料の輸入を抑えるための電力システム改革、さらには国内投資を拡大することで人口減の中でも消費拡大を図る方策など様々にある。
元代表の言う「行革の徹底」は議論する時ではなく、実行する時期だし、コストばかりかかる最低保障年金は国民の信を問い直す必要がある。財政再建の重要さは当然にしても、首相の側も空洞化対策を初めとした10年後の危機への備えはほとんどない。
10年後マイナス成長の最悪シナリオ
深刻な問題は、だが、その10年後からでもある。貿易赤字は、一過性ではなく、当然ながら「原油価格高騰や空洞化進行が継続し続ければ、拡大しかねない」(みずほコーポレート銀行のマーケット・エコノミスト、唐鎌大輔氏)。それに平行して欧米の金利低下によって、海外証券からの収益が減れば、所得収支も伸び悩む。さらに、欧米の景気低迷長期化と、成長する新興国での競争激化で輸出は容易に伸ばせず、進出した工場・販売拠点の業績も伸びが鈍化するようなことになれば、所得収支の縮小に拍車もかかる。
国内の人口減による生産年齢人口の縮小を、高齢者や女性の労働参加率引き上げなどでカバーする政策も取られず、生産性の向上も小さければ、産業の競争力は弱まり、さらに輸出力が低下する可能性もある。
行き着く先は経常赤字の時代である。エコノミストの中にはこれを2020年代前半と見る向きが少なくない。経常赤字の時代は、国内の家計、企業の貯蓄で財政赤字を賄う国債を買い続ける時代の終幕とほぼ同義である。
海外で稼ぐ力も弱体化し、国内は財政赤字(国債増発)を賄う資金不足、そして外資を含めた投資資金の流出となれば、その後起きるのは「悪い円安」だろう。ここに至れば立て直しは容易ではなくなる。
リスクシナリオを重ねていけば、2020年代初めにはリーマンショックのような経済危機なしで、日本経済はマイナス成長に陥る可能性があると指摘するエコノミストもいる。
財政再建も、社会保障も重要である。だが、経済の再建も同様に重要である。社会保障の一部を削る必要が出てくることもあるだろう。財政再建を長期に延ばす必要が出てくる可能性もあるかもしれない。今、必要なのは長期に渡る視点を持った政策の取捨選択である。1年前の議論を蒸し返している場合ではない。
記者の眼
日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。
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田村 賢司(たむら・けんじ)
日経ビジネス編集委員。
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