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http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20120604/311177/
大前研一の「産業突然死」時代の人生論
2012年06月04日
日本の対外純資産が21年連続で世界最大となった。「円高で海外投資が活発化した」という楽観的な報道が目立つが、日本の異常な「鎖国状況」が対外純資産に反映されているだけというのが実態だ。
日本の対外純資産は253兆円で断トツ
日本企業や日本政府が海外に持つ資産から、海外勢が日本国内に持つ資産の額を引いた対外純資産が、2011年末時点で1年前に比べて0.6%増加の253兆100億円となったことがわかった。21年連続で世界一となっている。
「主要国の対外純資産」を下のグラフにまとめてみた。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20120604/311177/chart1_t.jpg
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この「主要国の対外純資産」(ロシア、フランス、米国は2010年末、他は2011年末)を見てみても、日本の対外純資産は突出しているのがわかる。2位の中国は137兆9000億円である。
他の主要国は、ドイツが93兆9000億円、スイスが73兆2000億円、香港が54兆6000億円、ロシアが1兆3000億円となっている。
対外純資産がマイナス(対外純負債)になっている主要国も多く、カナダは対外純負債が16兆2000億円、フランスは22兆2000億円、イギリスは24兆3000億円、イタリアは34兆6000億円だ。米国に至っては、201兆3000億円にも上る対外純負債となっている。
Next:直接投資の占める割合が圧倒的に少ない日本
直接投資の占める割合が圧倒的に少ない日本
報道では、日本の対外純資産が大きくなっていることについて、「円高を背景に、海外企業を買収する動きが増えたため」と好意的に解説している。確かに、対外純資産が大きいということは、日本の信用を担保することになる。しかも、対外純資産の額が国内総生産(GDP)の半分くらいに達しているので、日本の信用度に大きく貢献していると言える。
しかし、数字をよく見ていくと、海外企業をたくさん買収できてよかった、という楽観的な話ではないことがわかる。まず、「日本の対外資産・負債残高の内訳」(2011年度末)を見ていこう(下のグラフ)。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20120604/311177/chart2.jpg
対外資産(日本が海外に持つ資産)の総額は約582兆円。内訳は、直接投資(企業買収、経営参加を目的とした株式取得など。一般的には株式の10%以上を取得した場合)が約75兆円、証券投資が約262兆円、金融派生商品が約4兆円、その他投資が約140兆円、外貨準備が約101兆円である。総額に対して直接投資の割合が非常に少ない。報道されているように円高で海外での買収が増えたというよりも、運用として海外での証券投資をしている部分が大きいことがわかる。
一方、対外負債(海外勢が日本国内に持つ資産)の総額は約329兆円。内訳は、直接投資が約18兆円、証券投資が約157兆円、金融派生商品が約6兆円、その他投資が約148兆円である。こちらも総額に対して直接投資の割合が非常に少なくなっている。
このように、海外からの直接投資が圧倒的に少ないというのが、日本の悲しい現実だ。
Next:日本の対内直接投資は主要国の中で最下位
日本の対内直接投資は主要国の中で最下位
「主要国の対外・対内直接投資額」(ストック、2010年)を見てみると、日本の現状がさらによく見えてくる。
[画像のクリックで拡大表示]
前述したように米国は200兆円以上の対外純負債を抱えるが、実は、対内直接投資(海外から自国内への直接投資)、対外直接投資(自国から海外への直接投資)ともに巨大なのである。対内直接投資は3兆4514億ドル、対外直接投資は4兆8433億ドルであり、他の国々を圧倒している。
米国ほどではないが、他の主要国も直接投資を活発に行っている。対内直接投資と対外直接投資はそれぞれドイツが6742億ドル、1兆4213億ドル。香港は1兆976億ドル、9485億ドル。フランスは1兆84億ドル、1兆5230億ドル。そしてイギリスは1兆861億ドル、1兆6893億ドルとなっている。
いずれも、積極的に海外に投資を行い、また海外からの投資も盛んに行われている。今回、「世界一」と報道されている純資産というのが両者の差であることを考えると、出入りの絶対量が大きい米国、イギリス、フランス、ドイツなどに比べて、日本や中国はまだまだ世界との投資の流れが小さいことがわかる。その中で日本は出ていく方が、中国は入ってくる方がそれぞれ「大きい」という特徴がある。
直接投資を活発に行っている主要国に比べれば、日本はほとんど海外と関わりを持たない「鎖国に近い状態」だ。日本の対内直接投資は2149億ドルに過ぎず、主要国に大きく引き離されて最下位。対外直接投資も8311億ドルにとどまっている。日本と同じような産業構造を持つと言われているドイツでさえも、入りも出も日本の3倍近くあって国境をまたいだ直接投資が盛んであることがうかがえる。
Next:世界からヒト・カネ・モノを呼び込み経済を活性化すべき
対外純資産(対外純負債)というのは、直接投資を含む相互投資の差額というだけであって、単に差額のプラスが大きいから威張れるような話ではない。日本は、国内から海外へも、海外から国内へも、どちらもお金があまり流れておらず、たまたまその差額が大きかったというに過ぎない。
ここまで国際比較をしてみればわかるように、日本は対外直接投資が大きいのではなく、対内直接投資が極端に小さすぎるのである。対内直接投資がきわめて少ないので、対外直接投資との差額が結果的に多くなり、対外純資産がたまたま「世界一」となっているのだ。
対外純資産が世界一と喜ぶよりも、日本は直接投資の停滞、とりわけ対内直接投資の少なさを深刻に受け止めるべきである。対内直接投資が少ないということは、海外勢が「日本回避」をしているということに他ならない。海外から見て、日本は魅力が少ないということだ。
日本には対内直接投資がもっと必要である。税金を使わないで経済を活性化するには世界からヒト・カネ・モノを呼び込まないといけない。対内直接投資は、統計上は負債になるけれども、経済の活性化、雇用の創出につながる重要なものだ。
Next:市場開放など「待ったなし」で実行していくしか... ない
かつて金融ビッグバンを推し進めたイギリスのサッチャー首相は、金融街シティの「ウィンブルドン化」(自由競争で海外勢が国内勢を圧倒してしまう現象)が起きたことを批判されて、「外国人はイギリスの土地までは持っていけない。ウィンブルドン化はイギリス国民にとって利益になる」と反論した。実際、イギリス経済はウィンブルドン化することで大きく好転した。
対外純資産の見かけ上の大きさに一喜一憂することなく、市場開放など日本経済の活性化に必要なことを「待ったなし」で実行していかなくてはならない。
イギリスや米国のように、海外へも積極的に打って出るが、同時に海外からも「投資したい」と思われる国になることが国家債務を増やさずに経済を好転させるカギだからだ。
報告書「福島第一原子力発電所事故から何を学ぶか」
米MITで原子力工学博士号を取得し、日立製作所で高速増殖炉の炉心設計を行っていた大前研一氏を総括責任者とするプロジェクト・チームは、「民間の中立的な立場からのセカンド・オピニオン」としての報告書「福島第一原子力発電所事故から何を学ぶか」をまとめ、細野豪志環境相兼原発事故担当相に10月28日に提出しました。
報告書のPDF資料および映像へのリンクは、こちらです。最終報告、補足資料はこちらをご覧ください。
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大前研一の「「産業突然死」時代の人生論」は、09年4月7日まで「SAFETY JAPAN」サイトにて公開してきました。そのバックナンバーはこちらをご覧ください。
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大前 研一(おおまえ・けんいち)
1943年、福岡県に生まれる。早稲田大学理工学部卒業後、東京工業大学大学院原子核工学科で修士号を、マサチューセッツ工科大学大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社。以来ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を務める。
2005年4月に本邦初の遠隔教育法によるMBAプログラム(ビジネスブレークスルー大学院大学)が開講、学長に就任。経営コンサルタントとしても各国で活躍しながら、日本の疲弊した政治システムの改革と真の生活者主権の国家実現のために、新しい提案・コンセプトを提供し続けている。
著作に『さらばアメリカ』(小学館)、『新版「知の衰退」からいかに脱出するか?』(光文社知恵の森文庫)、『ロシア・ショック』(講談社)など多数がある。
大前研一のホームページ:http://www.kohmae.com
ビジネスブレークスルー:http://www.bbt757.com
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