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出口治明 [ライフネット生命保険椛纒\取締役社長]
「大きな政府、小さな政府」と
国の競争力は関係があるか
スイスの著名なビジネススクール、国際経営開発研究所(IMD)が5月30日に発表した2012年の世界競争力ランキングによると、わが国の総合順位は昨年より1つ下がり、59ヵ国(地域を含む)中27位となった。いわば経済規模(GDP)が世界で4位(購買力平価ベース、IMF)の経済大国であるわが国の競争力が、27位とは由々しきことである。
もっとも、少し頑張ればいくらでも上昇余地があるので、チャレンジングではあるが。ところで、国の競争力は、巷間伝えるところによる「大きな政府、小さな政府」と何らかの因果関係があるのだろうか。要するに、大きな政府は、民間経済の活力を削ぐのだろうか。
わが国の競争力は
アジアで7位と低迷
まず、公表されたIMDの国際競争力世界ランキングを眺めてみよう。香港、米国、スイス、シンガポール、スウェーデンがトップ5を占める。この他、アジア(中近東を除く)の国々では、台湾が7位、マレーシアが14位、韓国が22位、中国が23位と続き、わが国はアジアでも7位と相当に劣後していることが分かる。
ところで、巷間、「大きい政府は競争力(≒民間経済の活力)を削ぐので、わが国は小さい政府を目指さなければいけない」といった俗論をよく耳にする。大きな政府の代表としては、福祉国家である北欧諸国が俎上に載らせられるが、北欧の国際競争力はどうなっているのだろうか。答えはスウェーデンが5位、ノルウェイが8位、デンマークが13位、フィンランドが17位、アイスランドが26位と、何れもわが国を上回っているではないか。
この事実1つを取ってみても、国際競争力の強弱と政府の大小との間には、ほとんど因果関係がないことが窺えよう。こうした俗論は、恐らく、戦後のわが国の高度成長期のモデルとなったアメリカが小さな政府の代表であり、それとは好対照をなした老大国ヨーロッパが大きな政府の代表とみなされた、ある種の思い込みに根ざしているのだろう。
「大きな政府、小さな政府」の
定義はいったい何か
次に、大きな政府、小さな政府とは、いったい何だろう。最初に私たちの頭に浮かぶのは、公務員の多さではないか。
ところが、総務省の調査によると(2009年。但し、ヨーロッパ諸国は2008年)、人口千人当たりの公的部門(中央政府、政府企業、地方政府、軍人国防)における職員数は、わが国の31.6人に対して、ドイツが54.3人、英国が77.2人、アメリカが77.5人、フランスが86.6人となっており、わが国は公務員の数では、既に世界に冠たる小さな政府になっていることが窺える。
因みに、公務員人件費の対GDP比率でみても、わが国は約6%で、OECD23ヵ国中、最低レベルであることは、良く知られている通りである(OECD23ヵ国の平均は約10%)。もっとも、規制の多寡によって政府の大小を論じる場合もあるので、一概には言えないが。
このように、数字をこまめに拾っていくと、わが国をこれ以上小さな政府にしたところで、国際競争力が簡単に上昇する訳ではないことが、良く分かる。
逆説的に述べれば、わが国にとって本当に必要なことは、単に大きな政府か、小さな政府かを争うことではなく、大きな政府と小さな政府のどちらが、わが国の競争力を増やすために、より有効かを競うことではないだろうか。極論すれば、例え大きな政府になったとしても、わが国の国際競争力が世界1位を回復すれば、何も問題は生じないのだ。
IMDランキングは
産業の空洞化に対する警鐘
ところで、IMDの国際競争力ランキングは1989年から始まったが、その年は日本が世界1位だった(1992年まで日本は1位を守り続けた)。約20年で27位まで後退した訳である。この意味でも、失われた20年、という言葉が重くのしかかる。
このランキングは、経済のパフォーマンス、政府の効率性、民間ビジネスの効率性、インフラ、の4分野に大別された329の項目から算出されているが、わが国はインフラが昨年の11位から17位に、民間ビジネスの効率性が27位から33位に、それぞれ順位を下げたことが響いた。
インフラについては、昨年の東日本大震災の影響により、電力事情が不安定になるなど一過性の要素がない訳ではないが、本来的に国際競争力の源泉となるべき民間ビジネスの効率性の低下は、大変気になるところではある。しかも、2009年の18位から、2010年は23位、2011年は27位と、いわばつるべ落としの状況になっているのだ。
たとえばグローバリゼーションに対するポジティブな態度では37位であり、これは、アジアでは、マレーシア、香港、台湾、シンガポール、韓国、インド、タイ、インドネシア、中国、フィリピン、カザフスタンに次いで、12位(アジアでは最低)という体たらくである。
IMDの調査では、企業はどの国で活動すれば最も競争力が発揮できるのかという視点が重要視されているように見受けられるが、もしそうだとすれば、官民あげてIMD国際競争力の強化を図らなければ、企業はどんどん日本から逃げ出してしまう結果となろう。即ち、IMDの世界ランキングは、産業の空洞化に対する警鐘でもあるのではないか。産業の空洞化は、一時の為替の高低等に依るのではなく、その国の構造改革に依るのだ。
何もIMDの国際競争力ランキングを鵜呑みにするつもりはないが、2011年の通商白書に次のようなショッキングな図表があった。
これは2007年と2009年に、各事業活動拠点ごとにアジア地域で最も魅力を感じる国・地域を調べたものであるが、わずか2年の間にわが国の魅力が著しく低減していることが読み取れよう。
また、この4月に新著を出版したばかりの知日家、IMDのテュルパン経営大学院学長はIMDの世界競争力ランキングに触れて、「このランキングには、各国のビジネスリーダーの意識調査(自己採点)の結果が反映されているのですが、日本のビジネスリーダーの自己採点は、起業家精神が圧倒的に不足していて、海外のアイディアを受け入れようとせず、柔軟性や順応性に欠け、国際経験も不十分、経営層の有能さについても自信がない、という、かなり低いものです。自分たちが世界で勝てない理由を一番よく知っているのは、日本人自身かもしれません。」と述べている(日経ビジネスオンライン)。わが国が、事業活動拠点としての魅力に欠け、経済を実際して牽引するビジネスリーダーが自信喪失の状況では、一体、この国の未来はどうなのだろうか。
国内外の企業がこぞって、わが国に拠点を置きたくなるような仕組みや制度を、官民の知恵を絞って必死に考え、また、マネジメントを一新して、高度な経営能力を持つ多様な人材を世界中から呼び寄せる経営風土を作り上げる。これが、わが国の産業の空洞化を防ぎ、国際競争力を高める、やはり唯一の王道であろう。
考えてみれば、ごくごく当たり前の事ではあるが、国際競争力を高めることなくして、わが国の繁栄も、証券市場の活性化も、豊かな市民生活も、何一つ実現することはないのである。
(文中、意見に係る部分は、すべて筆者の個人的見解である)
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