01. 2012年6月05日 11:04:30
: 3CNLte9sGM
コラム:金融政策での円安誘導には限界がある=佐々木融氏 2012年 06月 4日 14:09 為替フォーラム コラム:負のフィードバックループからの脱却=ローレンス・サマーズ氏 焦点:米中経済減速で「6月危機」現実味、調整のツケ円高に集中 アングル:EU首脳会議で焦点の独主導「財政同盟」、政治的に強い抵抗 為替についてはノーコメント、月末にかけ重要局面=安住財務相 佐々木融 JPモルガン・チェース銀行 債券為替調査部長 [東京 4日 ロイター] 2月14日のバレンタインデーに、日銀が資産買入等の基金による長期国債買入れを10兆円増額すると発表したことで円安が加速度的に進んだことを背景に、その後も日銀の追加金融緩和による円高阻止、ないしは円安方向への誘導を期待する声が強い。 最近は、「日銀が外債を購入したら円安になるのではないか」という提案もよく耳にする。これには少し解説が必要である。 日銀は二つの行為で為替相場に影響を与えることができる。一つめは外国為替市場での売買、二つめは政策金利の変更である。もっとも、一つめの外国為替市場での売買で為替相場に影響を与えるという政策は、日銀の政策ではなく、財務省が管轄する政策である。日銀は外貨の売買を行うことはできるが、為替相場に影響を与えるような売買(つまり、現在行われている介入)は国の事務の取り扱いをする者として行うことが日銀法第40条2項で定められている。 現行の法律下で行われる円売り介入の方法は、まず財務省が短期国債を発行して円資金を調達し、その調達した円を日銀を通じて外為市場で売却するかたちで行う。一方、最近耳にする「日銀による外債購入」は、日銀が円を刷って(発行して)直接外貨を購入するという方法を意味している。スイスの中央銀行は大量にスイス・フランを刷って(発行して)、それを対ユーロで売却し、フランの対ユーロ相場の上昇を抑制している。これと同じことを日銀もやってはどうか、ということである。 どちらも中央銀行が自国通貨を売って外貨を購入するという点では変わりがないが、売却する自国通貨を国債を発行して調達するか(日本のケース)、中央銀行が発行するか(スイスのケース)の違いがある。一見すると財政赤字が増えない分、スイスの方式のほうが良さそうに見える。実は、スイス中銀は、今どこまでユーロを買い続ければ良いのかジレンマに陥っていると考えられ、早晩、無制限のスイス・フラン売り介入を停止せざるを得ないのではないかとみられていることから、この方式も必ずしも良い面ばかりとは言えそうにない。 それでも「スイスのように日銀が円を発行して円売り介入を行え」と言うなら、まずは法律を変更する必要がある。ただし、この日銀法改正は日銀にはできない。まずは政治家が動いて法律改正を行わなければならない。 <なんでも日銀頼みという幻想> 日銀が為替相場に影響を与えることができる二つめの行為は、政策金利の変更である。 しかし、政策金利はすでにゼロになっているので、最近では「資産買入等の基金」を通じて国債やその他の資産を購入することが金融緩和と受け止められている。しかし、日銀が国債を大量に購入したり、その他の方法で民間銀行の当座預金に対して資金を大量に投入しても、金利の変化が限定的な世界では為替相場に与える影響はほとんどない。 この点に関しては、実務に近いところにいる人ほど実感があるだろうが、日銀がいくら民間銀行の当座預金に資金を積み上げても、その資金は当座預金に積み上がっているだけである。そして、金利がゼロか限りなくゼロに近く、それ以上下がらなければ、為替相場に対するインパクトはまったくない。「民間銀行の当座預金に資金を積み上げれば、銀行が外債投資を行うから円安になる」といった議論も時折聞かれるが、銀行は日銀から供給された資金で外債投資をするような行動はとらないし、ましてやそれに付随して為替リスクをとるような行動に出ることもない。 また、「2月14日は金融政策発表後に円安に振れたではないか」との声が聞こえてきそうだが、それは短期筋のポジションが円ロングに傾いていたからで、ポジションが大きく円ショートに傾いていた4月27日の金融政策発表後には逆に円高になっている。これは、4月27日の金融政策が2月14日のものに比べて弱かったからではない。単に市場のポジションが逆方向に向いていたからである。金融政策そのものが実質的な効果を持って為替相場に影響を与えている訳ではない。 つまり、日銀が為替相場に影響を与えることができる行為のうち、一つめは法律で実行を制限され、二つめは金利がゼロになっていることによってすでに影響力はなくなっているのである。日銀の動きによって円相場が動いたり、動かなかったりするのは、すでにある市場のポジションと、思惑に基づいた投機的な売買が行われるからだ。 時折「日銀が国債を購入し大量に資金を放出すれば、円安になるとの期待が醸成され、円を売る参加者が増え円安になるのではないか」との議論も聞かれる。もっとも、こうして期待に基づいて売買する行為は投機と呼ばれ、結局はどこかでポジションを閉じて利益(ないしは損失)を確定しなければならない。つまり、中期的な相場へのインパクトは中立的なのである。 *佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に、「弱い日本の強い円」など。 *本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here) *本稿は、個人的見解に基づいています。 *このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。 © Thomson Reuters 2012 All rights reserved. 関連ニュース 日銀の外債購入に財務省は否定的、「法解釈上難しい」 2012年5月25日 金融政策は不十分、外債購入に前向きな検討促す=民主・大塚氏 2012年5月22日 デフレ脱却を問う:日銀景気見通しは甘すぎ=水野・元審議委員 2012年5月9日 〔ロイター為替コラム〕米国の家賃上昇や日本のエネルギー需要がドル高円安要因に 2012年4月18日 円安急進に横やりなし、注目される欧米通貨安政策の帰趨 2012年3月15日 |